Side:シグナム


――パシュン!!


此処は、私の家か?――如何やら元の場所に戻ってきたようだが、一体如何なっているというんだ?……安の領域から一瞬で戻って
来る事が出来たという事に関しては有り難いんんだが、
何が起きたんだ博士?



「私に聞くな、見当もつかん。
 ……兎に角、一旦研究所に戻る――そいつを連れて行くぞ、この現象に関係があるかも知れんからな。」

「了解だ。」









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務139
『帰還と報告と奇妙な現象』










という訳で研究所に来た訳なんだが、彼女の容態は如何だ博士?



「アイツなら奥で寝ている。
 幸いにも急所は外れていた――その内動けるようになるだろう。」

「そうか、其れはよかった――目の前で誰かが死ぬというのは、慣れない事だからな――絶対に慣れてはいけない事なのだがな。」

「しかし……金髪碧眼のあの容姿。
 古いモノノフの家計か、はたまた遠い異国の人間か……あの『鬼』と言い、色々と確かめる事が多そうだ。
 あぁ、そうだ……スマンが八雲に事情を話して来てくれないか?」



八雲に?何故だ。



「正体の分からぬ者を置いておくと、何かと煩いからな。」

「成程、納得した。」

「詳しく話す必要はない。適当に嘘をついて誤魔化しておけ。多分近衛の陣所に居る筈だ。頼んだぞ。」

「了解した。」

正直嘘を吐くのは騎士として如何かと思うが、嘘もまた方便と言うからな……彼女が、グウェンがマホロバに居られる様にする為には
仕方のない必要悪か。
……ふむ、何故私は今『騎士』と思ったんだ?……如何やら、失われた記憶と関係がありそうだな。
取り敢えず八雲への報告と行くか……正直、あまり話したい相手では無いのだが、まぁ仕事と思って割り切るしかあるまい。



で、岩戸の階段の下まで来たのだが……其処で何をしている紅月?



「シグナム、良い所に……実は、少し困って居る事があるのです。良ければ相談に乗って頂けますか?」

「あぁ、構わんが、如何した?」

「近頃、里で奇妙な現象が起きているそうです。
 子供達が、夜な夜な起き上がると、何かに誘われるように外に出ようとするとか……本人達は無意識で、覚えていないそうです。」



其れは、確かに奇妙だな?
似たような行動を起こす『夢遊病』と言う病があるが、子供達だけに、しかも1人だけでなく同じ行動を起こしている事を考えると、夢遊
病とは考え辛い。
だが、現時点では原因不明と言う所か。



「はい、その通りです。
 ですが、一つだけ手掛かりがあります――子供達が一様に証言しているのです、『里の外から不思議な声が聞こえた』と……
 この声の正体を、一緒に確かめて貰えませんか?
 夜になれば門の外から聞こえるそうです……如何か宜しくお願いしますシグナム。」

「分かった。日が暮れたら協力させて貰おう。」

「ありがとうございます。」



礼は要らん、マホロバのモノノフとして、その怪奇現象を捨ておく事は出来んからな――取り敢えず、八雲の所に行かねばだ。
近衛の陣所と言うのは岩戸とは違う、近衛の居住区にあるとの事だが……あそこか?八雲が入り口の所に建っているから、多分そう
なのだろうな。
八雲、少し良いか?



「貴様は……何の用だ?」

「少し厄介な案件でな……身元不明のモノノフが博士の所に居る。」

「何、身元不明のモノノフだと……?」

「あぁ、異界で拾ってな。」

「人が早々異界に落ちていて堪るか!
 怪しいぞ、何か誤魔化しているのではないだろうな?」



落ちていた訳では無く、彼女には何か目的があった様なのだが、其れは兎も角として負傷をしているんだ……幸い致命傷ではなかっ
たが、深手で有る事に変わりはない。
同じモノノフとして捨ておく事も出来ん……彼女を里に置いても構わないか?



「……怪我をしている、か。……貴様はお人好しだな。
 怪しいとは思わんのか。その女は異界の深部で一体何をしていた?
 フン……まぁ良い。後日私の元に挨拶に来させろ――其れで暫くは滞在を認めてやっても良い。
 ……き、貴様には恩義があるのでな。だが、此れで貸し借りはなしだ。私の寛大さに感謝するのだな。フハハハハハハ!!」



自尊心過大、尊大、ツンデレ、属性テンコ盛りだな八雲は。
まぁ、グウェンが目を覚ましたら連れてくるとしよう。

さてと良い具合に日が暮れて来た……紅月と共に謎の怪奇現象の調査、だな。



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で、調査に出た訳なのだが……門の外から聞こえた声と言うのは何とも不気味なモノだったとは思わないか紅月?呻き声の様にも聞
こえたが、聞きようによっては『此方に来い』と言っているようにも聞こえた。
此れが子供達が聞いた声と言う事か……



「恐らくはそうなのでしょう。
 ですが、この禍々しさは、只の超常現象とは思えません……此れは恐らく――」

「あぁ、間違いなく『鬼』が関係しているだろうさ。」

そして、如何やらその考えは大当たりだったようだぞ紅月?



『グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』


「此れは、オヌホウコ!!
 成程、一連の怪奇現象は此の『鬼』が引き起こしていたという訳ですね?声に誘われてやって来た子供の魂を喰らうために!!」

「十中八九そうみて間違いないだろう。」

親達が子供を止めた事で被害は出ていないが、最悪の場合は里の子供達はコイツに食い殺されていたという訳か……マッタク持って
狡猾な事をしてくれたが、今此処で私と紅月に会ってしまった事が貴様の運の尽きだ。
私も紅月も貴様を見逃す心算は無いし、貴様の弱点は既に割れているからな……即刻滅させて貰うぞ!!

コイツの最大の武器は鎌の様な両腕……先ずはそいつを鬼の手を使って完全破壊して再生させないようにする。――完全破壊してし
まえば、その部位の深層生命力も根こそぎ奪えるから、深層生命力で構成された部位からの攻撃もなくなるから有り難い事だ。
そして、主力武器を失った『鬼』など、私と紅月の前では赤子に等しい!

「舞い散れ……神風!!」

「此処で消えて下さい!」



私の神風と紅月の繚乱で、オヌホウコを斬って斬って斬りまくる――その過程で、足を全て斬り落としてしまったがな。
だが、此の程度で『鬼』がくたばるのならば、人と『鬼』の戦いは10年前に決着が付いている……『鬼』は追い詰められてからが本番と
言えるからな。



『グゴガァァァァァァァァァァァァァ!!!!』



来たかタマハミ!!
並のモノノフか新人ならば委縮してしまうのだろうが、私と紅月に限ってはその限りではない――むしろ、凶暴化によって深層生命力
が剥き出しになったのは却って好機だと知れ。

「合わせろ紅月!!」

「一気に決めましょうシグナム!!」



タマハミ状態になったオヌホウコに対し、私は全力の唐竹割を、紅月は奈落を叩き込んで、オヌホウコの身体を一刀両断して終いだ。
如何に『鬼』と言えども、身体を真っ二つにされては生きている事は出来ないだろうからね……とは言え、これ程容易に撃破出来たの
は運が良かったとしか言えまい……もしも、一歩間違っていたらやられていたのは私達だったかもしれないからな。



「確かにそうかも知れませんが、此れで里の子供達を護る事が出来ました……ありがとうございますシグナム。」

「礼を言われる程の事でもない。里のモノノフとして当然の事をしたまでだ。」

子供達が『鬼』に食われたなどと言う事になったら、取り返しのつかない事態になりかねない上に、最悪の場合はオヌホウコウが里の
人々を惑わせてその魂を喰らって、マホロバ壊滅と言う事態になり兼ねなかったからな。
其れを考えれば、此処でコイツを討てたのは大きいさ……何にせよ里に戻ろう――そろそろ、グウェンも目を覚ましてるだろうしな。











 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



とは言え、『鬼』との戦いを行った以上、里に戻ってきたら禊なのだが……男女の時間を確認してなかった様だな此れは?
奇遇だな時継?



「こんな見た目だから分からねぇだろうがな、此れでも結構動揺してんだぜ俺は!!」

「スマン、そうは見えん。」

「カラクリの身体だからな、こん畜生!!
 俺だから良かったが、他の野郎が居た時には注意しろよシグナム?……お前さんは特上の上玉だから、襲って来る野郎が居ないと
 は言いきれねぇからな?」

「ふ、そんな不埒な輩は、この拳で黙らせる、其れだけだ。」

「鉄拳制裁かよ!教えたのは紅月だな?……アンにゃろう、結構容赦ねぇからな――まぁ、間違いでもねぇけどよ。」



なら大丈夫だろう?
八雲や刀也と出くわした時に鉄拳制裁を発動したら大問題になるかも知れないから抑えなければだがな。