Side:シグナム


博士と共に異界に飛ばされてしまったが、其処で金髪碧眼の騎士と出会うとは思っていなかったな?見たところモノノフのようだ
が、お前は?



「貴女達は一体?」

「私達か?私達はモノノフだ。」

「モノノフ……?
 こんな異界の深部に……いや、今はそれどころじゃない!早く逃げるんだ!!」



いや、出会って早々、逃げろと言われて『はい、分かりました』とは行くまい――記憶こそないが、私は其れなりに腕の立つモノノフ
だ……其れに逃げろとは、相当にヤバい『鬼』が来るのか?



「そうだ、『鬼』が来る!!」

「矢張りか!」

だが、『鬼』が来ると聞いて逃げる事は出来ん――『鬼』を討つ事が我等の使命!!……『鬼は全て食らい尽くす』、其れだけだ!









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務138
『銀鎧の女性と白銀の龍鬼と謎の転移と』










で、現れた『鬼』なんだが……



『ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』



「此れ、『鬼』か?龍の間違いじゃないのか?」

「いや、間違いなく『鬼』だ。マッタク、次から次にどうなってる!
 其処の銀鎧!コイツはお前の知り合いか!」

「説明している暇はない!私が相手している間に逃げてくれ!」



よもや、飛ばされた先でこれ程の『鬼』と戦う事になるとは思っていなかったぞ?――恐らく強さは最低でもゴウエンマと同等だろ
うが、空を飛べるだけコイツの方が厄介か。
だが、其れだけに逃げるなどと言う事は出来んな?此れだけの『鬼』をお前1人で相手できるとは思えんのでな。



「初めて見る『鬼』だ。バラして調べるぞシグナム。」

「ダメだ、止めろ!
 時間が過ぎれば奴は消える!相手にしちゃダメだ!!」

「時間が過ぎれば消える、だと?如何言う事だ?」

そんな『鬼』聞いた事がない――そもそも消えてしまうのでは倒しようがないぞ?……一撃で鬼の深層生命力を削り切る攻撃でも
ない限りはな。
とは言え、こうして襲ってきた以上は戦わねば此方がやられてしまうだけだ。――上空を飛んでいる相手と言うのは厄介だが、そ
んな時には、この鬼の手で掴んで……飛びかかるのではなく、思い切り此方に引っ張り込んでやる!
鬼の手の力は、想像を具現化するモノと博士は言っていたから、ならば『大型の『鬼』を引っ張る事が出来る力』を思い描けば、其
れを現実にする事が出来ると言う訳だな。



――ズドォォォォォォォォォォン!!!



只、相手が巨大だったせいで地面に叩きつけた際の土埃が凄いな?……アレだけの質量を叩きつけたのだから、大層な大穴が
出来てるかもしれん――尤も、異界化した世界に現実世界の物理法則が通じるかは知らないが。



「え?あ…?」

「うむ、見事だシグナム。想像以上に鬼の手を使いこなしているな?」

「これ程の力を使いこなさずにいる理由はないだろう?――何よりも『鬼』との戦いでその機能を十全に発揮してやれば、鬼の手
 の有効性を周知させる事が出来るからな。」

……流石に、此れだけのモノを掴んで叩きつけたという事態に、銀鎧の女性は呆気に取られてしまったがな。
だが、此れで終わりではない!如何に大型の『鬼』と言えども、あの高さから力任せに叩きつけられたら堪るまい?此のまま一気
に斬り捨てる!!



――ガキィィィィン!!



「!!!」

と思ったのだが、此れは想像以上に堅いな?
十束の刃は、ゴウエンマの腕すら一撃で切り落とす事が出来るのだが、その刃が通らないとは……白銀の鱗で覆われた身体の
頑丈さは見た目以上か。



「強い……貴女達もモノノフか!」

「最初にモノノフだと言ったと思うが、その通りだ。
 私と博士はマホロバのモノノフだ――尤も私は新参者だがな。……お前は何処の所属だ?」

「……所属はない。流れ者だ!」



にしては、良い腕だ。
両刃の長剣と、巨大な盾を使った戦闘技術……盾で攻撃を防いで、剣で切り裂くと言う攻防の両方に長けた戦い方だが、実に様
になっている。
恐らくは焔同様に正規のモノノフでは無いのだろうが、その戦闘能力は侮れないと言った所か?――正規のモノノフの訓練を受
けてなくとも、ミタマを宿した非正規のモノノフと言うのは少なくないのかも知れんな。

さてと、大層な鎧を纏っているようだが、関節までは鎧で覆う事は出来ないだろう龍鬼よ?――貰うぞ、その翼!!
喰らえ、紫電一閃!!



――ズバァァァァァァァァ!!!!



『グガァァァァァァァ!!!』



良し、翼を破壊した事でマガツヒ状態になったな?此処から一気に――



『グガオォァァァァァァァァァァァァァァ!!!』



――ドガン!ドガン!!ドガァァァァァァァァン!!!




と思ったら、マガツヒ状態になったと同時に、飛び上がって火球を三連続で放った後に飛び去ってしまった……序に、飛び去った
事で切り落とした翼も消えてしまったか。
此れが時が過ぎれば消えると言う事か。



「逃げただと?……どうなってる?」

「危なかった……まさか人が居るとは。
 スマナイ、貴女達を巻き込んでしまった――事情は後で説明する。今は急いでここを出よう。
 凄い瘴気だ。直ぐに行動限界を超えてしまう。」

「待て、その前に確認しておきたい。」



銀鎧の彼女が言うように、ここの瘴気は濃いから一刻も早くここから離れた方が良いのだが、如何やらそれよりも優先すべき事が
博士にはあるようだな?
一体なんだ?



「今は何時だ?鬼神暦で年月日を答えろ。」

「……?
 確か、鬼神暦1010。七ノ月十日だったと思うが……」



成程、そう言う事か。
鬼神暦1010年の7月10日ならば、時は超えていない――時間転移ではなく単純に場所を移動しただけと言う訳か……だが、だ
としたら原因は何なのだろうか?



「……じかん……てんい?何やら難しい言葉だな……」

「……すまんな、此方の話だ。
 では、急いでここを出るぞ銀鎧。」

「博士、その呼び方は如何かと思う。」

「……グウェンドリンだ。グウェンで構わない。」



グウェンか、良い名だな。
私はシグナム、マホロバのモノノフだ。そして、此方は博士――マホロバのモノノフなんだが、少しばかり思考のネジが外れている
少し困った奴で、一部から『魔女』と呼ばれている奴なんだが、悪人じゃないので宜しく頼む。



「オイコラシグナム、お前の紹介に少しばかりの悪意を感じたぞ?」

「心外だな?私は事実を的確に言葉にしたに過ぎんぞ博士?」

「思考のネジが外れているは余計だ。私は天才だぞ?」

「其れは失礼をした。天才とは凡人の理解が及ばない存在だった――故に私が、お前の思考のネジが外れていると思っても仕方
 なかったな。」

「お前、絶対に失礼だと思ってないだろ?」

「だが、お前だって其処まで不快に思ってはいないだろ博士?……お互い様だ。」

「まぁな。確かにお互い様だ。」

「貴女達は仲が良いんだな……シグナムと博士か、うん覚えた。
 私が道案内する。付いて来てくれ。」



今のやり取りを見て、私と博士の仲が良いと言うとは中々に肝が据わっているなグウェン?――まぁ、アレだけの『鬼』に単身で挑
もうとしていたのだから、肝っ玉が大きいのは間違い無いがな。



「南側は瘴気の地獄だ。北側から異界を抜ける!」

「了解だグウェン。
 そうなると、雑魚には構わずに一直線に抜けるのが良いだろうな。」

大型の『鬼』が出たのならば兎も角、この際小型の『鬼』は無視して進むのが最上策だ――ガキ程度に構っていた事で行動限界
を迎えてお陀仏になったなど、流石に笑えないからね。



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で、グウェンの案内で、橋が幾つも存在する場所にやって来たのだが、其処にある結界跳石には、矢張り潜んでいたかヒダル!
だが、今更貴様如き中型の『鬼』など、相手ではない!!

「散り逝くは叢雲…咲き乱れるは桜花…今宵、散華する武士が為、せめてもの手向けをさせてもらおう!
 はぁぁっ…!せいやっ!秘技!火竜一閃!!」

連続斬撃からの火竜一閃……せめて、華と散るが良い。



『グガァァァァァァァァァァァ!!』

「聞くに堪えん断末魔だ……そのまま死ね。」

ヒダルを撃破し、此れで結界跳石は全て解放したか――その影響か、少しばかり瘴気が薄くなった様だな?……だからと言って
長居は無用。
此のまま一気に里まで帰るぞ。

で、そのまま異界を走って来たんだが……此れは、一体なんだ博士?



「……遺跡か。
 此処は、『安』の領域だったらしい。」

「良かった。この辺りはまだ瘴気が薄いな。――シグナム、博士、身体は大丈夫か?」

「ふ、この程度は余裕だな。」

「流石はマホロバのモノノフだ。」

「お褒めに預かり光栄だが、あまり強がるなよ?膝が笑っているぞ。」

しかしだ、こんな事が何度も続いたら身が持たないな?――如何にかして原因を究明しなくてはなるまいな。



「そう言えば、2人は如何してあんな場所に?」

「話せば長い。まぁ事故の様なモノだ。」



間違ってはいないが、其れは幾ら何でもザックリ行き過ぎだろう博士?



「……良く分からないが、災難だったな。」

「って、其れで納得するのかグウェン!!」

此れで通じて意思疎通が出来るとは、正直考えられん……此れもまた、10年の時の変化だと言われたら其れまでだけれどな。
と、如何したグウェン?



「安心したら、何だか気が抜けてしまったな……」



――グラリ……



「「!!!」」



――ガッ!!



行き成り倒れるとは!!
咄嗟に身体を抱える事が出来たから地面に叩きつけられるのは回避できたが、此れは深手を負っているな?……こんな状態で
戦っていたとは自殺行為だぞ!
だが、自殺行為に等しいとは言え、此れだけの事が出来る奴を死なせるのは惜しい――里まで連れ帰る!良いか博士!



「そうだな、そいつは死なせるには惜しい逸材だ。お前が里まで背負っていけシグナム。」

「無論だ。」

「あの瘴気の穴、アレが私の推測の通りであれば、逆転の一手になるかも知れん。
 転んでも只では起きんのが私の主義だ――今回の件も、精々利用させて貰うさ。」



あの瘴気の穴が逆転の一手になるとは一体……?



――キィィィン!!



って、此れは!この発光現象は!!――く、またか!!



――バシュン!!












 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場