Side:シグナム
オヌホウコを撃破し、近衛の生き残りを救出した訳だが、他に何かあるか博士?
「全員、ご苦労だった。
お陰で、資金繰りには当分困らんな。」
「大人しく感謝されてりゃいいモンを……恨まれても知らねぇぞ?」
「ふっ……そう褒めるな。」
「褒めてねぇよ!」
博士と時継のやり取りを見ていると、先程まで戦っていたのが嘘のように感じられてしまうな。。
だがまぁ、今回の事で、鬼の手の効果は確認できたし、その成果は上々であったと言えるだろう――だが、3人救えなかったのは
事実だ。
もっと効果的な運用を考えるべきかもしれないな。
「だな。
明日朝一番で研究所に来てくれ。鬼の手の調整をしたい。」
「承知しました、博士。」
「其れとシグナム、お前には少し話がある。後で家に寄らせて貰うぞ。」
「あぁ、了解した。」
話か……一体何の話なのだろうか?
私個人とと言う事だから、鬼の手関連ではなく、私自身に関する事ではあるのだろうけれどな……
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務137
『任務終了~帰還後の彼是+α』
取り敢えずすべき事は成した……博士もすぐには家には来ないだろうが、何をすると言う感じでもないな?
ん?私に何かついているか紅月?
「シグナム、今回の一件、私からも感謝します。
貴女の勇気に敬意を……また、皆で討伐隊を組みたいものですね。」
「楽しみだな。その時は宜しく頼む紅月。」
「はい、宜しく頼みます。」
「んじゃーな、シグナム。」
この面子での討伐隊は戦力面で見ても、近接型の紅月、近~中距離型の私と焔、遠距離支援型の時継と揃っているので、非常
に隙が無いと言えるからな。
近衛とサムライの対立を考えると、私達がどちらにも属さない第3の部隊として動く事も、本格的に視野に入れておくべきだろう。
紅月達は帰った様だし、私も帰る――
「さってと、禊場でも行くか。
そういやシグナム、テメェ行った事ねんじゃねぇの?」
「禊場?其れは何だ、焔?」
「瘴気の毒に効くぜ。付いて来いよ、場所教えてやる。」
「???」
微妙に会話が噛み合ってない気がするが、異界で受けた瘴気の毒を浄化する作用がある場所らしいな?――ならば、知っておく
べきだろう。
如何にモノノフとは言え、瘴気の毒を身体に溜め込み過ぎたら危険だからな。
で、案内されたのは本部から出てすぐ右手にある坂を下りた場所……立派な入口に赤い暖簾の様なモノが垂れ下がっている。
ふむ、暖簾は取り外し可能になっているようだが、取り外し可能と言う事は付け替える必要があると言う訳で、若しかして暖簾の
色で男女の時間を示しているのかも知れんな――となると、赤の今は女性の時間と言う訳か。
「此処が禊場だ、俺は入って来るぜ。
テメェも入りたきゃついて来な。」
「いや、それ以前に今は女性の時間ではないのか?」
「あぁ?女の時間?
構うこたねぇよ。どうせ誰もいねぇだろ。邪魔するぜっと!」
「あ、オイ。」(汗)
焔、其れは盛大な死亡フラグだぞ?そうやって行った野郎と言うのは、大抵の場合ラッキースケベを発動して、その場にいた女性
から手痛い一発を喰らうと相場が決まっているんだ。
転んだ先で相手の胸を掴んでたとか、ノックせずに扉を開けたら着替えてる最中だったとかな――って、何の話だそれは?
此れも私の記憶の一部の知識なのか?良く分からない単語がある上に、要らん知識な気がするが……記憶を失う前の私は、果
たしてどんな奴だったのか心配になって来たぞ……
っと、其れよりも焔を追わねばだ。絶対に碌な事にならんからな。
取り敢えず脱衣所で、禊の時に使うのであろう白装束に着替えて中に――此れは、何とも言えない神秘的な場所だ。
一片の濁りもない清らかな水を湛えた湖に、清らかな水が流れ落ちる滝……此れが禊場か。――此処の水からは神聖な力を感
じる……此の清らかな水ならば、確かに瘴気の毒を浄化できるかも知れないな。
しかし、予想とは裏腹に、本当に私達以外の姿が見えないな?
「ほらな、貸し切りだろ?使ってる奴、少ねぇんだよ。」
「……誰か、いるのですか?」
いや、如何やら見えなかっただけのようだな?
この声は紅月か?……覚悟を決めろ焔、今この瞬間に、お前はぶっ飛ばされる事が確定した。諦めて、盛大にブッ飛ばされて星
になるが良い。
「……」
「あ……」(汗)
「……し~らない。」
「……はてさて、今は女性の時間だったと思いますが?此処で何をしているのですか?」
「コイツを案内してやっただけ……」
「問答無用!」
――ゴスゥ!!
「ヘブゥ!!」
うん、矢張りこうなったか。……目にも留まらぬ速さの踏み込みから放たれた腹への一撃は相当に効いただろうな……股間でな
かった辺り、未だ手加減したのかもしれないが。
おーい焔、生きてるか?
「か、川の向こうに綺麗な花畑が見えるぜ……」
「取り敢えず、こんな戯言が言えるなら大丈夫そうだな……運ぶのも面倒だし、このまま放置しておくか。
そのうち目を覚ますだろうし、こうして浸かっているだけでも禊場の効果はあるのだろう?顔が水面より上に出ていれば死ぬ事
もないだろうからね。」
「そのまま放置で構いません。
ですがシグナム、今後このような馬鹿に出会ったその時は容赦は必要ありません。」
「あぁ、今回の事で良く分かったよ。」
馬鹿は殴れと、紅月に教わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
禊場で瘴気を浄化し、自宅に戻って来たのだが……もう来ていたのか博士?待たせてしまったか?
「お、帰ったか。
少し話がある。飯でも食いながらゆっくりするぞ。」
「其れは構わないが、食事の準備は今からだ――とは言っても、雑炊と焼き魚と言う簡単なモノだがな。」
「構わんさ。」
何時でも食事が出来るように準備しておいたのが幸いしたな。
魚は串にさして囲炉裏の周りに刺してあるし、鍋には出し入りの味噌汁と飯と具材が入っているから、後は火を点ければ良いだけ
になっているんだ。
囲炉裏に火を点ければ、後は自動で調理完了と言う訳だな。
「其れで博士、話と言うのは?」
「いやなに、身体の調子は如何だ?」
「其れならば問題ない。スッキリ健康体だ。」
「其れはよかった……って、そんな事は如何でも良い。
其れよりも、聞きたいのは身体が光る件の方だ。あれ以来、同じ現象が起きる事はないか?」
あぁ、アレか。
あの時以降は同じ事は起きてはいないな?……アレが何であったのかは全く持って分からないんだけれどな。
「ふむ、そうか……上手く行っているのかもしれないな。」
「上手く行っている、とは?」
「人に存在を知られる事で、お前はこの世界にいわば具現化される。ミタマや鬼の手のようにな。
派手に動いて注目が集まったのだろう――尤も、其れが好意ばかりとは限らんが。」
其れは、その様だな。
里に現れた新参者が近衛の者を助け出したと言うのは里の皆に知れ渡ったかも知れないが、近衛の者を助けた成果は、近衛か
らは賞賛されても、サムライからは疎まれるだろうからね……まぁ、サムライの刀也はそんな小さな事には彼是言わないだろうけ
れどな。
だが、そんな事以上に私が博士と一緒に居る事の方が大きいのか?
「お前も既に気付いていると思うが、私の里での立場はあまり良くない。
カラクリなどと言う、訳の分からない力を使っているんでな――医者だから辛うじて信頼があるが、八雲のように魔女と呼ぶ者も
居る……天才は孤独だ、悲しいな。」
「貴方が魔女であるのならば、時を超えてこの場にいる私は何だ?宇宙人か何かか?」
「宇宙人か、其れは良いな。」
「此の髪の色がこの世界の人間ではない証か?
まぁ、其れは冗談としても、貴女は孤独ではないぞ博士――貴女の周りには時継が、紅月が、焔が、そして私が居る。貴女は1
人ではない。」
「そうだったな。嘆く必要はないな。
カラクリは、必ず『鬼』との戦いに役立つ――里の人間全員にカラクリを使わせる。其れが私の目標の一つだ。
だが、其れには信用が居る。お前には、その信用を集めて欲しい。」
……信用?
「人と人との繋がり。
『結び』と言い換えても良い。見た所、お前には其れを紡ぐ才能がありそうだ。
『鬼』やミタマが存在する世界でも、カラクリは不気味に映るらしいからな――無理もない、10年前まで誰もその存在を知らなか
ったのだから……私とて、遺跡の発掘で偶然見つけたモノを適当に使っているだけだ。」
「待て、そんなモノを適当に使わせないで欲しいのだがな?」
「誰もカラクリの内奥について知る者は居ない。」
「無視された、私の突っ込み26文字。」
「いつ、誰が何のために作ったのか……其れさえ分からない謎の遺物だ。」
突っ込みを無視した上で己の話を進めるとは、恐るべき突っ込み抹殺者だな。
だが、カラクリの内奥は不明と言うのは気になるな?……カラクリ遺跡に関しても、何時誰が何のために作ったのか分からないと
は、まるでオーパーツだ。
「オーパーツ?何だ其れは?」
「確か、『存在しえない遺物』だったかな?……唐突に思い出した記憶だから、確証は持てないが――」
――キィィィィィン……
!!此れは!!!この、身体の発光現象は!!
「……大丈夫と思った傍から此れか!」
――ヒィィィン……
「此れは……!」
んな、私だけではなく、博士もだと!?――く……うわぁぁぁぁぁ!!!
――バシュン!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
暗い……此処は何処だ?――いや、私は此処を知っている。此処は私が宿したミタマと出会う場所――
『……瞼に焼き付いている。あの時代の風景が、柳生庄の美しさが。
……貴殿に見せよう、この瞼に焼き付いている時代の風景を。』
現れたのは隻眼の剣豪然とした者か。
何者かは知らんが、相当な腕前と見た。其れ程のミタマを宿す事が出来たのは光栄極まりない――私もまた、剣士なのでね。
『俺は柳生十兵衛。剣に己を託して生きた者――貴殿に宿ったミタマが一人……『鬼』から解放してくれた恩に報いる。
柳生の剣は、この世に仇なすために非ず……ただ、人の世を切りひらく為にあり。』
……頼もしいな?その力、頼りにさせて貰うぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「おい、起きろシグナム。」
「む……此処は?」
「大丈夫か?如何やら我々は飛ばされたらしい。――恐らく異界の中だな……凄まじい瘴気だ。」
飛ばされただと?其れは兎も角異界に飛ばされるとは、中々の不幸体質だ。
だが、それ以上に此処は同じ時間軸なのか?時間軸がずれていれば、帰還は絶望的だと言わざるを得ない……私が10年前に
戻る事が出来ないようにな。
「その通りだが、コイツを見ろ。」
「!!何だこれは?」
異界の中空に現れた漆黒の塊……此れは一体?――始めてみるものだ、博士は見覚えがあるのか?
「私も見た事がない。何だこれは……
瘴気を噴き出しているな?一定量を間断なく……まさか、此れは……」
「何か分かったのか博士?」
「誰だ!!」
「「!!?」」
博士に何か聞こうと思った所で聞こえて来た鋭い声。
その声の方を向いてみれば、現れたのは赤を基調とした服に、簡易的な白銀の鎧を纏った金髪碧眼の女性……この雰囲気、モ
ノノフか?
だとしてもたった1人で異界に居るとは一体何者なんだ?……私と博士が飛ばされただけでなく、厄介事が舞い込んできた可能
性がバリバリな感じだな此れは。
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
|