Side:シグナム
巨大な鉤爪に、複数の足を持った『鬼』か……その姿はまるで巨大な蟲だが、コイツが近衛の部隊を壊滅させた犯人だと言うのな
らば、半端な力の持ち主ではあるまい。
が、コイツは一体……10年前には見た事のない『鬼』だが?
「うおおっ!何だコイツ!こんな近くに居やがったのか!」
「ざっけんな。
こちとら疲れてんだ。やるならそこのオッサン相手にとやれよ。」
「ふざけんなヒヨッコ!お前だけ楽できると思うなよ!」
……取り敢えず、時継と焔はまだ余裕がありそうだな。
で、この『鬼』は?
「この『鬼』はオヌホウコ……あまり見ない『鬼』ですが、其れが現れるとは。
何れにしても、近衛の者を連れ帰らねばなりません。邪魔する者は、一匹残らず排除します!」
「成程、相当に珍しい『鬼』と言う訳か。」
或いは、オオマガドキとやらの後で現れた『鬼』なのか――何れにしても、近衛の者を連れ帰る為には、コイツを倒さねばならない
らしいな?
一刻を争う事態ゆえ、排除させて貰うぞ。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務136
『近衛部隊を喰らいし鬼~オヌホウコ~』
10年前には存在しなかった大型の『鬼』か……矢張り初見の相手と言うのはやり辛いものだ。
外見が蟲に酷似している事から、ミフチのように関節を狙えば楽に部位を斬り飛ばせると思ったのだが、如何やらそう簡単には行
かないらしいな?
――ガキィィィィン!!
如何やらコイツは、ミフチとは違い、関節部も可能な限り強固な外殻で覆われているようだな?妙に動きが角ばっているのはその
影響と言った所か。
だが其れなら其れで、やりようはあるな。
「焔、仕込鞭の攻撃が届くギリギリの間合いから攻撃して、仕込鞭の先端を当てるように部位を狙え。」
「あぁん?そんな事して何になるんだよ?」
「ふ、百聞は一見如かずだ、先ずはどうなるかを見て貰った方が早いか。」
十束の連結刃状態の先端がギリギリ届くくらいまで間合いを離し……喰らえ、火竜一閃!!
――ズバァァァァァァァァ!!……ゴトリ。
「何だこりゃぁ?一撃で部位破壊だと?」
「此れは、成程。
鞭のようにしなるモノは、横に振った場合、運動領域が最も大きくなる先端に凄まじい破壊力が発生します――大型の『鬼』の長
い尾が、一振りで異界の建造物を破壊してしまうのも同じ原理です。」
「なーるほどな。良く分かったぜ。
つー事は、俺とシグナムで連続攻撃してきゃ、コイツは丸裸って事か?――なんだよ、楽勝じゃねぇか。」
「調子に乗るなよヒヨッコ。
今のは10年前のオオマガドキを戦ったシグナムだから出来た事だ。似たような武器を使ってるからって、お前に同じ事が出来る
かよ。」
「んな、舐めんなよオッサン?
こちとら独学で仕込鞭の扱い方覚えてんだ、此れ位楽勝だっての。」
「時継、焔……戦闘に集中してくださいね?」
「「あ、はい。」」
私の一撃部位破壊から、焔と時継がお約束的なやり取りを始めてしまったが、其れを一言で止めさせるとは、流石紅月だな?
……まぁ、光の消えた目で冷笑を浮かべられたら誰だって従ってしまうだろうさ――と言うか、あの顔で八雲と刀也を従わせてしま
えば、マホロバの不安材料は……なくならないか。八雲と刀也は破滅的に仲が悪いみたいだからな。
「取り敢えず、大人しくしやがれ!」
――バリバリバリバリバリ!!!
っと、ここで不動金縛りか焔!良い判断だ。
この好機を逃す手はない――時継、『鬼』の角を吹き飛ばせるか?
「誰に物を言ってんだ?
俺様は勇者だ、其れ位の事は朝飯前だぜ!!喰らいな!!!」
――バガァァァァァァン!!
鬼の手を使って近付いてからの、至近距離からの散弾の一撃は強烈無比。
散弾は広範囲に細かい弾をばら撒く故、距離が離れるほどに破壊力が低くなるが、其れを略ゼロ距離で当てた場合は最大の破
壊力を発揮してくれる――その破壊力を持ってすれば『鬼』の角であっても一撃で壊せるモノだ。
尤も、其れが出来たのは焔が不動金縛りでオヌホウコを拘束してくれたからだが……角を破壊された『鬼』は、一種の気絶状態に
陥り、暫くの間行動する事が出来なくなる。
今の内に、一気に攻勢をかけるぞ!
「一気に畳み掛けます!」
「往生しやがれ、クソ野郎。」
「其のまま逝っちまいな!」
紅月が繚乱で、焔が神楽で、時継が魂のタマフリでオヌホウコを徹底的に攻撃する。
無論私も、攻のタマフリを全開にして、十束と鞘を使った疑似二刀流でオヌホウコを徹底的に叩き伏せる――気絶状態であるのな
らば、連結刃状態よりも此方の方が手数が増す分だけ威力が増す。
部位破壊によってマガツヒ状態になった『鬼』ならば、手数の多さで生命力を削り取った方が良いからね。
『ふむ、そろそろ頃合いだな。
全員、私の言う事をよく聞け。』
博士?
『鬼の手の真価は、大型の『鬼』に対してこそ発揮される。
通常、部位破壊は外殻にしか通じず、奴等の本体を破壊する事は出来ない。
だが、鬼の手を使えば、本体その物を直接破壊できる――完全破壊だ。』
「完全破壊、だと?」
『強大な敵に打ち勝ちたいのなら、此れを使いこなして見せろ。鬼の目で弱点を見抜き、その部位を引き千切れ!』
『鬼』の本体その物を破壊できる完全破壊とは、博士は素晴らしい物を開発してくれたな?――此の鬼の手が10年前に存在して
居たら、世界は変わっていただろうね。
まぁ、ならばまずはやってみるか。
鬼の目を発動し……見えた、オヌホウコの弱点が!!
其処に鬼の手を伸ばし……掴んで、倒して、そして鬼の手を巨大な剣に変化させてぶった切る!!!
――ドバガァァァァァァァァァン!!!
此れはまた、何とも派手に部位が吹っ飛んだな?
いや派手に吹っ飛んだだけでなく、浄化せずとも吹っ飛んだ部位が消えた――成程、二度と再生できないと言う意味での完全破
壊と言う訳か。
『グガァァァァァァァァァ!!!』
完全破壊と同時にタマハミ状態になったようだが、タマハミ状態は凶暴性が増すモノの、内部生命力が剥き出しになる両刃の剣と
言える状況だ。
攻撃力は極限まで上がるが、防御力は低下するからね。
だから、此れで逝け!!!
――ガキィィィン!!
先ずは私と焔でオヌホウコを武器で拘束し、其処に時継がゼロ距離での散弾を叩き込むと同時に破敵の法を発動してオヌホウコ
の生命力を削り、最後は鬼の手で樹木の枝を掴んだ紅月が、高所からの落下速度と己の体重を全て乗せた奈落で、オヌホウコを
文字通り一刀両断して試合終了だ。
――ヒィィィン……バシュン!
『柳生の剣、お貸しする。』
――ミタマ『柳生十兵衛』を入手した。
そして新たなミタマを獲得か。
江戸時代に名を馳せた隻眼の剣豪『柳生十兵衛』――頼りにさせて貰うぞ。
「……ったくやっと終わりかよ……危ねぇところだったぜ。」
「邪魔者は排除しました。
急ぎ、近衛を連れて脱出しましょう。」
「ちょっと待て、『鬼』の死骸から何かが……コイツは一体?」
此れは……近衛の鎧のようだな。
他の3人は、残念ながら涅槃に旅立ってしまったようだ……どんなに頑張っても救えぬ命と言うモノはあるモノだ――だが、まだ救
える命がある。そうだろう時継?
「……そう言う事だ。俺達には、まだ仕事が残ってる。――行くぞ、近衛の生き残りを里に連れて帰る。」
「……えぇ、マホロバに帰りましょう。」
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「戻ったか、カラクリ使い。」
「あぁ、戻ったぞ八雲。」
「……行方不明の者達は如何した?」
「感謝しろ八雲……シグナムのお手柄だ。」
博士、お手柄と言う程のモノでもないだろう?
運が良かったな、生存者だ。
「おぉ、生きていたか!」
「隊長……ただいま戻りました。」
「愚か者め!深追いするなと厳命していた筈だぞ!」
「はっ……申し訳ありません。」
「ふん……今回だけは許そう。生きて帰った事に免じてな。……他の者は如何した?」
……非常に言い辛い事だが、彼女が唯一の生き残りだ八雲。
彼女以外の3人は、オヌホウコにやられ、骸諸共その魂まで喰われてしまったようだ……手遅れだった。せめて、遺品を家族に返
してやってくれ。
「…………」
「……申し訳ありません隊長。私が、先走らなければ……」
「……そうか、あ奴等が逝ったか……本当に、愚か者どもめ。
貴様はよく生きて戻った……此れからは、一層里の為に励め――其れが、生き残った者の務めだ。」
「はっ……ありがとうございます!」
「……一人でも救えたのは、貴様達の協力があってこそ。不本意だが……今は感謝しよう、カラクリ使い。」
だが、救えなかった三人は残念だった……私達が、もう少しだけ早く到着していれば救えたのかも知れないのだからな。
「……貴様の責任でない事は分かっている。
カラクリを信用した訳では無い――だが、我等は誇り高き近衛。受けた恩には報いる。便宜を図って欲しい事があれば、私に言
うがいい……其れで良いな、博士?」
「ふむ……そうか。
では、研究所の予算を増やしてくれないか?取り敢えず100倍ほど。」
――ドガシャァァァァァァァン!!!
だが、八雲の提案に対して其れは如何なんだ博士?
私だけでなく、この場にいた全員がずっこけたぞ!!と言うか、予算の増額を頼むとしても、100倍ってなんだ、100倍って!!
幾ら何でも法外すぎる……言葉巧みに八雲を丸め込んだようだが、八雲の『地獄に落ちるぞ』と言うのには同意だ。
お前、絶対に碌な死に方せんぞ?
「魔女め……行くぞ!
魔女と同じ空気を吸っていては肺が汚れる!……資金は後で届けさせる。精々大事に使え。」
「資金提供はするんだな。」
只の嫌な奴と思っていたが、八雲は義理は果たす性分らしい……少しばかり、評価を上方修正しておこう。
で、八雲に続く形で近衛の部隊は退いて行ったが……まだ何かあるか、異界から帰還した近衛の者よ?
「……救援、感謝します。」
「……人の感謝されんの、何年ぶりだっけかな?」
「……日頃の行いが悪過ぎます。」
焔よ……お前はもう少し、普段の生活態度と言うモノを見直す必要があるのかも知れん――と言うか見直すべきだな。
他の誰かから感謝されるのが何年ぶりかと思う時点で、碌でもない日常を送っていると言っても過言では無いのだからね。
――――――
Side:アインス
武器の鍛錬をしに来たんだが、精が出るなソフィー?
「うん!一生懸命頑張らないと、おじいちゃんの後は継げないから!」
「マッタク、良い奴を連れて来てくれたもんだぜアインス。
ソフィーなら、ワシの鍛冶屋としての能力を継いでくれるだろうから、ウタカタの鍛冶屋は安泰ってもんだ……おら、其処はもうち
っと強く叩かねぇとダメだ。
そうじゃなきゃ、刃の鋭さは出せねぇ。」
「そっか……分かったよお爺ちゃん!」
ふふ、ソフィーとたたらは良い関係を築いているみたいだね?
否、あの世界から此方に来た元姫とアーナスも、今やウタカタにとっては無くてはならない存在になっているからな――じゃあ、今
日も元気に鬼退治に行くとしようか!!
『鬼』から人の世を取り戻す、其れが我等モノノフの使命だからね――その使命を果たす為に、お前もこの世界のどこかで戦って
居るのだろう将?
機会があれば、会いたいものだな……
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
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