Side:シグナム


行方知れずになった近衛の捜索を行う事になったのだが、この面子ならばしくじる事は無いだろう――自分で言ったら手前味噌
になってしまうが、私達に負けは無い。其れこそ、矢でも鉄砲でも何でも来いと言った感じだからな。
其れで、如何かしたか刀也?博士を見ているようだが?



「……大したモノ好きだな?お前を魔女と呼ぶ相手を何故助ける?」

「私の目的は『鬼』に勝つ事だ。人間相手に争っている暇などない。」

「……お前は正しい。
 だが、全ての者がそう考えるとは限らない。……戻るぞ。」



如何やら、刀也は刀也で思う所があったらしいな?
まぁ、確かに自分を『魔女』と称す相手を助けると言うのは理解出来ない事なのかも知れないが、博士の言うように我等モノノフ
の目的は『鬼』を打ち倒し、人の世を取り戻す事にある。
人間同士で下らぬ争いをしている場合ではない――なぁ、八雲?



「当てつけの心算か?
 しかし、我等近衛に手を貸すと言っても、信用できんな東のモノノフよ――貴様は、未だ里のモノノフですらない。」

「いいえ八雲、既に『証の儀』は終えました。
 この者は、もう立派に里のモノノフです。信じて託してください、八雲。」

「……良いだろう。貴様を信じるぞカラクリ使い。
 決して魔女を頼る訳では無い。その事を銘記しておけ!」



ヤレヤレ、そんなのは何方でも構わんだろう?目的が達成できればな。
確か昨日一泊した監視小屋から異界に行く事が出来た筈だ、其処から『安』の領域に向かうのが良いだろう――後は、博士が通
信で指示をくれるだろうからね。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務134
『近衛探索で異界に向かえ』










「そうだ、一つだけ忘れてた。」

「忘れてたとは、何だ博士?」

「シグナム、一つお前に伝えておく事がある。
 鬼の手の新しい力を開発した。その名も、アラタマフリだ。」



アラタマフリ?其れは一体何だろうか博士?
名前から察するに、ニギタマフリのように、ミタマの力を本来のタマフリとは異なる方法で使用するモノではないかと思うのだが?



「中々に勘が鋭いな?その通りだ。
 鬼の手にハクを蓄積して、装着したミタマの力を極限まで引き出す――この先何が待ち構えているか分からん。
 もしもの時はこの技を使え。
 『鬼』に対する強力な対抗手段となる筈だ。」

「了解した。」

ニギタマフリが特定状況下で自動発動する防御型のタマフリだとするならば、アラタマフリは私の意思で発動させる攻撃型のタマ
フリと言った所か。
武器に装着したミタマは『藤原秀郷』だが、果たしてどんな効果を発揮してくれるのか……ぶっつけ本番で試すしかないのが少し
不安ではあるな。



「じゃ、確りなシグナム。」

「あぁ、任せておけ。」

先ずは監視小屋に、其処から異界にだな。



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道中、共同戦線を熟しつつ監視小屋に到着したんだが……まさか、また翡翠と共同戦線を行う事になるとはな。と言うか、アイツ
はドレだけ戦いに赴いているんだか……サムライ部隊は人手不足なのかも知れんな。
其れは兎も角、西側の門……アレが異界への入り口か。
では、行くとするか!!



――ギィ……



門を開けて中に張ると、世界が一変したな?
不気味な色の空に濃密な『鬼』の気配……此れが異界か。



「瘴気が濃い……注意してください。」

「ヒュー……急に空気が冷えて来やがったな?」

「気を引き締めて下さい焔。死にますよ。」

「へいへい、わーってるよ。」

「異変を感じますかシグナム?」

「あぁ、ありありと感じているぞ紅月。」

此れが異界、『鬼』の瘴気に満ち溢れた場所……訓練を受けたモノノフでなければ、物の数分で死に至るだろう――そして、モノ
ノフと言えども、此れだけの瘴気の中で長時間行動するのは不可能だ。
刀也が言っていた行動限界、其れを超えた瘴気を取り込んでしまったら、モノノフと言えど命はないだろうからな。

と、誰かいるようだな?
異界に人が居るとは思えんが……何者だ?



「ふむ、知らぬ顔じゃな?ぬしはマホロバのモノノフか?」

「如何にも。本日付でマホロバのモノノフとなったシグナムだ。」

「ふむ、新参か。
 我は朧月、『異界送り』の一族じゃ。……と言うても、新参では分からぬか。
 『異界送り』とは、特別優れた瘴気耐性をもつモノノフの事よ――異界を渡れ歩き、他のモノノフの為、足場を築く事を生業として
 いる。
 ……ぬしは異界になれておらぬようじゃの?ならば、異界で生き抜く術を伝授してしんぜよう。」



『異界送り』……10年前には存在しなかったモノノフだな。
だが、確かに私は異界には慣れていないから、異界で生き抜く術と言うモノを学んでおいた方が良いかも知れん――先を急ぐ身
ではあるが、ご教示願おう。



「うむ、何でも聞くがよい。」

「では先ず、どうやって異界を進めばいい?」

「漫然と進むだけでは直ぐに行動限界を迎えよう。先ずは、結界跳石を探すがよい。
 結界跳石は、瘴気を跳ね除ける簡易結界を張る石碑でな、我等異界送りの者が各地に設置したのじゃ――その周囲は、瘴気
 の混じらぬ清浄な空気に満ちておる。
 加えて、跳界石のある場所に瞬時に移動する事も出来る優れモノじゃ。」



其れはまた何とも至れり尽くせりな優れモノだな?
清浄な空気が満ちている場所ならば、瘴気を浄化する事も出来るからな……結界跳石を探すのは確かに大事かもしれん。



「しかし……最近は『鬼』の活動が活発でな。苦労して設置した結界跳石も『鬼』に蝕まれ、力を失っておる。
 結界跳石の力を取り戻すには、蝕む『鬼』を討たねばなるまい――本来それは我等の任だが、凶暴化した『鬼』に仲間を殺され
 今は其れもままならぬ。
 ぬしら自身の手で、結界跳石を解放して貰うより他はない――じゃが、解放したあかつきには、必ずやぬしらの助けとなろう。
 さて、他に聞きたい事は有るか?」

「異界にて、訪れてはならぬ場所はあるのだろうか?」

「異界には、瘴気だまりと呼ばれる危険な場所がある。
 瘴気がよどみ、溜まった場所じゃ――足を踏み入れればそれと分かろう……蓄積する瘴気の量が尋常ではないからな。
 結界跳石の力をもってしても、その瘴気を祓う事は出来ん。内部を探索する等不可応な事じゃが……結界跳石を凌ぐ、何らか
 の浄化効果があれば、或いは……」



瘴気だまりか……其れは注意した方が良さそうだ。
近衛の部隊を探索すると同時に、異界送りが設置した結界跳石を解放する事も並行して行った方が良さそうだ――だが、お前に
話を聞いてよかったよ異界送りの者よ。
お陰で、異界を進む事が出来そうだ。



「そうか。
 我はこの場所を離れられぬ――聞きたい事があればいつでも訪れるがよい。
 ぬしに、英雄の導きがあらん事を。」

「ふ、有り難い言葉だな。」

ともあれ、異界送りのおかげで異界をどう進めばいいかが分かったと言うのは大きいな――結界跳石を解放しながら、近衛の部
隊を追うか……中々にやる事が盛り沢山だが、ゴウエンマを1人で倒して来いと言われた時に比べれば、この程度の事は苦労も
何も感じん。
異界の『鬼』は、里周辺に現れる『鬼』よりも強いようだが、小型の雑魚では相手にならん……殲滅しながら先に進むぞ!!



「えぇ、行きましょうシグナム!」

「殲滅上等、往生しやがれだ。」

「カラクリ人形の大冒険、ってな。」



道を開けろ『鬼』共!!
我等の進軍を阻むと言うのならば、我が十束の錆にしてくれる……斬り殺されたい奴からかかって来るが良い!――記憶を失く
したモノノフの力、其の身をもって味わうが良いさ。

九葉から貰ったあだ名だが、其れを名乗らせて貰おう――我は烈火の将シグナム!!いざ参る!!覚悟は良いな、『鬼』共!!












 
To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場