Side:紅月


マホロバの里に突如現れたモノノフのシグナムですが、何者であるのかは分かりませんが、その実力は疑いようもありませんね。
証ノ儀の最中でしたが、その最中『最後の試練』とばかりに現れた、ヒダルとガキを相手に見事な立ち回りを演じています――彼
女の実力はウタカタの桜花にも引けを取らないか、或いはそれ以上かも知れません。

身のこなしに、武器の使い方にタマフリを発動する機会……ドレをとっても一流のモノノフであるとしか思えない戦いぶりを見る限
り、記憶がないとは言え、戦い方を身体が覚えていると言った所でしょうか。



「へぇ、中々やるじゃねぇか新入り?
 って、何だその手は?」

「フン……目ん玉ひん剥いてよく見とけよ?
 此れが俺達の新しい力、『鬼の手』だ。」

「どうせ、あのイカレ博士の発明品だろ?……何で、テメェが偉そうなんだよ!」

「ゴチャゴチャうるせぇ、黙って仕事しろ。」



そして今し方、ヒダルを博士の研究成果――『鬼の手』で掴んで、昨日とは違い、今度は自分から飛びかかってそのまま頭に蹴り
を入れて昏倒させると、鬼千切りで弱点の腹を破壊してタマハミ状態にしましたか。
そして、こうなってしまえば『鬼』と言えども剥き出しの生命力その物を攻撃出来るようになるので倒す事が困難ではなくなります。

「此れで終わりにしましょう。」

「終いだな。」



最後は私の奈落と、シグナムの飛び上がりながらの斬り上げ攻撃でヒダルを撃破――残りのガキは時継と焔が全滅させた様で
です。
……掃討完了。皆、よく戦ってくれました。



――カッ!!


『はい、頑張りますね!』


――シグナムが、ミタマ『初』を獲得。




此れは……シグナムがまた新たなミタマを宿した様ですね?
ウタカタのアインスも、数多のミタマを宿す存在であり、『今世のムスヒの君』との事でしたが、まさかシグナムも?……流石にその
様な事はないでしょう。
もしもそうだったら、ムスヒの君の大安売りになってしまいますからね。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務131
『烈火の将、マホロバのモノノフとなる』










Side:シグナム


ふぅ……ガキの集団とヒダルをこれで撃破完了だな。
マホロバのモノノフに成る資格を得たし、新たなミタマも獲得出来たし、何よりも紅月と焔の実力を確認出来たのは大きい――紅
月は迅のミタマと薙刀の組み合わせで堅実かつ強力な攻めが持ち味で、焔の方は仕込鞭の中距離攻撃と穏のミタマを使った搦
め手が得意なみたいだな。
……だが、何よりも驚いたのはヒダルの攻撃を全て流転で受け流した紅月だ。一体どんな反射神経をしてるのやら。



――薙刀使いはオンジュボウの毒散らし、コガネムジナの宝石ばら撒き、オラビの回転羽根攻撃を全て流転してナンボだぜ。



……何か聞こえたが無視しよう。



「皆、怪我はありませんか?」

「この程度である訳ねぇだろ。」

「……ケツに噛みつかれそうになってたくせによく言うぜ。」

「勝てばいいだろ、勝てば。」

「焔もまだまだですね。
 貴女は大丈夫ですかシグナム?」

「あの程度の相手ならばマッタク持って問題ない。
 今戦ったのよりも、もっとヤバい相手と戦っていたような気がするから、この程度ならばマダマダ余裕と言った所だな。」

「余程、強力な『鬼』と戦った経験があるようですね?」



何となくだが、記憶の片鱗にある白い服を着た女性は、『鬼』と言うよりも『悪魔』と呼ばれていたような……と言うか、本来後方支
援の遠距離型でありながら、如何してバリバリ近接型の私と互角に戦えたのか疑問だ。
そして、なんで私にこんな記憶があるのかも疑問だ。

「其れよりも、紅月は大丈夫か?」

「ありがとう、問題はありません。」

「だろうな。」

空蝉を発動していた上に、あの完璧な流転を使っていて、怪我をしていたら、寧ろそっちの方が大問題だ――『鬼』には絶対防御
をすり抜ける攻撃が有ると考えるしかないからな。



「シグナム、貴女は見事に任務を果たしました。
 この結果を報告すれば、里のモノノフになるのに誰も否とは言わないでしょう。
 私が試験官として認めます。貴女は『証ノ儀』に合格しました。
 只今をもって、貴女を里の正式なモノノフとして迎えます――ようこそ、マホロバの里に。」

「よし、やったなシグナム。
 初めの一歩ってやつだ。此れから宜しく頼むぜ。」

「一々まどろっこしいんだよ。
 腕が立つなら、最初っからモノノフで良いだろ。」



如何やら、無事にモノノフになれたようだが……焔よ、世の中はそう簡単に行く物ではない。
万人を納得させるには、相応の手続きが必要になる事も有るからな――本当に、面倒な事は出来るだけなくしたいのが本音では
あるがな。



「本部には、私から報告しておきます。
 今後は自由に任務を受けられるでしょう。
 さて……『鬼』の流入が気になります。今日は念のため、此処で警戒に当たりましょう。」

「了解だ。」

大型ではないとは言え、里の近くに『鬼』が居ると言うのは楽観出来る事はないからな……里の安全を確保する為にも、周囲を警
戒するのもまた、モノノフの務めだ。
布団で寝れないのは残念だが、今日は我慢するしかないな。



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そして夜になった訳だが……本日の成果。

・ガキ:50体
・オンモラキ:15体
・オニビ:20体
・ヌエ:5体
・ササガニ:10体
・ヒダル:1体
・ミフチ:1体

計102体。内、私が一人で倒した数がミフチを入れて60体って明らかにオカシイ気がする……ミフチとヒダル以外は全て小型の
『鬼』だったが、これ程の数が現れるとは、警戒をして正解だった。
しかし、夜になると流石に冷えるな。



「此処は異界が近いからな。
 あそこは、どんな季節だろうが底冷えする。」

「その身体で寒さが分かんのか?」

「舐めんなよ、此れでも特注品だ。
 其れなりに五感は機能してる。」

「其れなりにねぇ……」



その身体で、其れなりに五感が機能してるのならば大したモノだと言わざるを得ないな?……無機物であるカラクリ人形の身体に
五感を持たせるなど、並大抵な事ではない。
博士は相当に苦労したのだろうな。



「……シグナム、貴女は記憶がないとの事でしたが、博士の遠縁とも言っていましたね?
 東の果ての里からやって来たと。
 ですが、中つ国全体が滅びに瀕している状況です――貴女の様な戦力を、里が事情もなく手放すとは思えません。
 良ければ聞かせて貰えませんか、貴女がマホロバに来た理由を。」

「紅月……」

流石に、彼女ほどのモノノフならば私の異常性に気が付くか……この世界の情勢を見る限り、モノノフとは『鬼』と戦うための貴重
な戦力だから、何処かの里に属していたモノノフが他の里に移籍する等と言う事は考え辛いからな。
属していた里が滅びたのならばまだしもね。
何時までも隠しているのも良くないから、いっそ言ってしまうか――私が博士の遠縁と言うのは嘘だ。博士が近衛とやらを納得さ
せる為に、咄嗟にかましたハッタリだ。
信じられないかも知れないが、横浜からやって来たんだ。



「横浜から……?」

「……俺もコイツも、本当の所はよく分かってねぇのさ。
 分かってるのは、コイツがこの間まで横浜で戦ってた事だけだ。
 博士は其れを10年前のオオマガドキ、横浜防衛戦だと言っていた――つまりコイツは、10年の時間を飛び越えて此処に来ちま
 ったのさ。」

「はぁ?……冗談だろ?」



冗談ならばどれ程よかった事か。
横浜で空の穴に吸い込まれて気絶したと思ったら、目が覚めれば記憶の大半を失ってマホロバだ――断片的な記憶はあるが、
横浜以前の事は殆ど覚えていなくてな。



「……申し訳ありません。そんな事情だとは思いませんでした。――何か、身元の手掛かりになる事は?」

「部隊の指揮をしていたのが、霊山の軍師である九葉だと言うのは覚えているんだが……直ぐに会える相手でもない。
 今の所は、後回しだ。」

「……そうですか……
 では、オオマガドキ以降、世界がどうなったかは知っていますか?」



……いや、知らないな。
横浜での、あの戦い以来、世界はどうなってしまったんだ?……取り敢えず、『鬼』が跋扈する異常な世界になってしまったと言う
のは分かるのだが――詳細は存じてないな。



「……せめて、其れだけでも教えましょう。
 10年前のオオマガドキで、世界がガラリと変わってしまったと言う事を。」

「矢張り、あの戦いの後で世界は変わったのか……」

何となく、あの戦いに臨む前から、あの戦いが只の『鬼』の討伐で終わる物ではないと予感していたが、その予感は的中してしま
ったと言う訳か。
だが、そうだと言うのならば、私が10年の時を超えてマホロバにやって来たと言うのは決して偶然では無いように思えるな?
記憶の大半を失ってはいるが、言うなれば私はオオマガドキで生き残った数少ないモノノフとも言える――その私が、時を超えて
マホロバに降り立ったのにはきっと意味がある筈だ。

その意味を探る意味でも、紅月の話を先ずは聞かねばだな。










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場