Side:シグナム


時継に案内されて、本部までやってきた訳だが……即座に紅月を見つける事が出来た。
少し癖のある長い黒髪に、特徴的な赤い目と蒼を基調とした服は見間違えようもないからな――すまないが、少し良いだろうか?



「貴女は……また会いましたね、シグナム。
 時継も、私に何か御用ですか?」

「あぁ、実はな……」

「時継、私が話そう。
 私自身の事なのだから、私が話すのが道理だろう?」

「そうか?別に俺が話しても良いと思うが、お前さんは変な所で真面目な部分があるんだな?ま、いいけどよ。」



筋を通すのは大事だと思っているだけだ。
でだ、実はこの里のモノノフになろうと思って岩屋戸に行ったんだが、其処で八雲とやらが私の事は紅月に預けると言ってな?
私が使えるかどうかは、お前の判断に委ねるんだそうだ。



「そうですか、八雲が私に任せると……」

「ちょいと事情があってな。
 こいつは里のモノノフになる必要がある。」

「……分かりました。僭越ですが、私がお預かりしましょう。」



……思ったよりも簡単に事が済んだな?
多くを聞かずに、こちらの事情を汲み取って判断してくれたのだろうが、其れだけで紅月の人柄と言うモノが分かるな……紅月に
預けると言う八雲の判断には、感謝をしておくか。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務130
『先ずは試験だ『証の儀』を果たせ』










「何だ、新入りか?
 面白そうな奴じゃねぇか……ちょっと俺と遊んでけよ。」



で、紅月と一緒居る、このガラの悪そうな男は何者だ?
逆立てた髪に赤い鉢巻き、目付きも悪いし、どう見ても堅気には見えん……盗賊や喧嘩屋と言った感じがするんだが、もしかして
紅月に更生されてる最中なのだろうか?



「……焔、少し大人しくしていてください。」

「あぁ?つまんねぇな。」

「こちらは焔。
 貴女の同僚になります。」

「と言う事は彼もモノノフか……ふむ、マホロバのモノノフとしては私の先輩と言う事になる訳か。」

「少し馬鹿ですが、根は善人です。仲良くしてやって下さい。」

「ヤロ、誰が馬鹿だ。」



『お前だ』とは言わない方が良いだろうな……だが、紅月よ、人を紹介する際に其れは如何かと思う。
そう言う意味では焔の反応は当然と言えば当然だな……まぁ、少し馬鹿っぽいのもまた否めない感じはするのだがな。

「しかし、八雲は紅月の事をハグレ者を纏めていると言っていた……となると、焔もハグレ者と言う事か?」

「モノノフにハグレもヘチマもあるかよ。」

「こいつ等は近衛でもサムライでもねぇ。独立部隊みてぇなもんだ。
 俺達の協力者でな、たまに発明品の実権を手伝ってもらってる。」

「博士には大恩がありますから、少しでも恩返しになればと思っています。」



博士に恩か……それは私も同じだな。
博士の協力者達で構成された、近衛でもサムライでもない独立部隊……さしずめ『カラクリ部隊』と言った所かな我々は。



「カラクリ部隊……良いかも知れませんね。
 それはさておき、私と焔は此れから任務に向かうところです。
 昨日襲撃があったばかりですから、周辺の哨戒をすることになっています――よければ、2人も任務に協力してくれませんか?」

「是非もない。……と言いたい所だが、良いのか?私は、まだ里のモノノフではないぞ?」

「構いません。腕前は昨日見せて貰いました。
 それに、この任務をもって『証の儀』とすれば良いと思っています。」



『証の儀』……想像するに、其れを行う事で里のモノノフになれると言う事か?
フム、この時代のモノノフは色々と面倒な手続きがあるようだな?……日常的に『鬼』が現れるようになり、モノノフが前線に出て
戦うようになったからこその事かも知れんな。
私が覚えている限りでは、モノノフは影の存在だったから、霊山以外に属する事など無かったからね。



「……シグナム。貴女が里のモノノフになるためには『証の儀』を行う必要があります。
 マホロバの里の伝統で、新参者の力を試す儀式の様なものです。
 簡単な任務を与え、その結果によって里のモノノフに相応しいか判断します。――八雲が私に任せると言ったのであれば、私が
 試験官に選ばれたと言う事でしょう。
 であれば、この任務をもって、貴女の『証の儀』としたいと思います。
 任務にはいくつかの目標があります。それを全て達成した上で、異界近くの監視小屋まで来てください。
 ……無論、貴女1人の力で。……やれますか?」

「愚問だな。当然だ。」

戦い方は身体が覚えているから、恐らくだが試験用の課題であれば楽に達成できる筈だ……ま、その目標とやらが『1人でゴウ
エンマ10体倒して来い』とか無茶な物でなければだがな。



「迷いのない、良い目です。」

「……何かあったら迷わず里に戻れ。良いな、シグナム?」

「勝手にくたばんじゃねぇぞ?」

「……大丈夫です。
 己を見失わなければ、勝機は常にあります。――では、監視小屋で会いましょう。汝に英雄の導きがあらんことを。」



……そのセリフは随分久しぶりに聞いた気がするな。
さて、私が成し遂げるべき事だが……鉄鉱石を2個入手する事と、ガキ10体の討伐か――鉄鉱石2個は最悪の場合は発掘しな
ければならないから面倒だが、ガキ10体ならば楽だな。
ガキの集団に突撃して神風を使えばぞれで事足りるしな。

なのでまずは鉄鉱石2個からだな?
家にあった地図によれば、里のすぐ近くに鉱山の跡地があった筈だから、其処ならば鉄鉱石が落ちているかも知れん。確か、里
を出て右手側だった筈だが……あった。
しかも『鬼』の瘴気も感じる――此れは、此処だけで目的は達成できるかもしれんな。



『クソ、このポンコツめ!』

「!?」

今の声は、博士か?一体どこから……



『あー、こちら博士。聞こえるか、シグナム?』

「あぁ、聞こえているが……何所に居るんだ博士?」

『お、つながったか。よしよし、やっと動いたな。
 フン、驚いてるな?』


「其れは驚く、何所から私に話しかけているんだ?」

『研究所からだ。鬼の手に付けた通信機能を使っている。
 これまで巫女に頼るしかなかった念話を、万人に開く天才的発明だ。
 だから言っただろう?『後で合流する』と。』




あの時の発言はこう言う事か……成程、確かに此れは天才的発明かも知れん。
此れが里に普及すれば、任務に出たモノノフと里との意思疎通が容易になり、任務で不測の事態が起きた際に伝令を出さずとも
里に援軍を頼む事が出来るようになる訳だからな。



『確か『証の儀』の最中だったな。
 ガキの討伐に素材の採取……簡単な任務だ、さっさと片付けてしまえ。
 終点の監視小屋は、西の端にあるはずだ。地図を見て確認するんだな。』




言われるまでもない。
先ずは鉄鉱石2個だが、予想通り鉱山跡と言う事も有ってそれほど苦労せずに手に入れる事が出来た――が、鉱山跡に居たの
はオニビだったから此処で目標の達成とはならなかったな。
里に来られたら面倒だから全滅させたが。

だが、鉱山跡にはいなくとも、里の周辺には探さなくとも普通にうろついているようだな?……里にとっては迷惑極まりないが、今
の私にとっては好都合だ。



――タン!



『『『『『『『『『『ぎゃ?』』』』』』』』』』



ガキの集団の中に飛び込んでやったら、一様にこちらを見ているな……当然か。
ガキ共からしたら、襲う対象である人間が、わざわざ自分からやってきたと同じなのだからな……なので、当然襲い掛かって来る
訳なんだが……相手が悪かったな?
普通の人間ならば、貴様らに囲まれたら絶体絶命だが、モノノフならばそうは行かん――寧ろ、狩られるのは貴様らの方だ。

「舞え十束!空を割く兇刃に散れガキ共……吹き荒れろ、神風!!



――バババババババババババ!!!



吹き荒れる刃の嵐から逃れる術など無い……私に襲い掛かってきた十数体のガキは、全て切り刻まれて躯となったか。
取り敢えずガキの躯は鬼祓いをして、此れで目標は達成だ。こう言っては何だが、至極簡単な任務だったな。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



と言う訳で監視小屋に到着だ。
此処までの道中で随分と『鬼』を狩ってきたが、巨大なクモの巣を破壊したら、まさかミフチが出てくるとは思わなかったぞ?無論
撃退したけれどね。



「待っていました、シグナム。
 守備は如何ですか?」

「鉄鉱石2個の入手と、ガキ10体の討伐を達成した。
 これがその証拠、鉄鉱石2個と、ガキから得られる素材10個だ。」

「確かに、目標を達成していますね。
 お見事です。貴女には簡単すぎたようですね。」

「よし、此れでお前も、晴れてマホロバのモノノフだな。」

「……ちょいと気が早いぜ、小せぇの。」

「誰が『小せぇの』だヒヨッコ!」

「気付いてんだろ?……囲まれてるぜ。」



……如何やら、そのようだな。
ヒダルにガキの集団か……正直、『証の儀』とやらがあまりにも簡単すぎたので、少し暴れ足りないと思っていた所だから丁度良
かったよ。



「シグナム、最後の試練です。
 私と共に、目の前の全ての『鬼』を討って下さい。」

「言われずともその心算だ。」

『証の儀』の最後の試練……達成させて貰う。
ヒダルよ、ガキと生命力の貯蔵は充分か?――遠慮せずに全力で来るが良い。寧ろ、全力で来なければ、私達を倒す事など絶
対に不可能だからな。

我が十束の錆になりたい奴からかかって来るがいい。望みどおりにしてやろうではないか。
記憶を失いしモノノフの力を、目に焼き付けて死ぬがいい。








――――――








Side:かぐや


今日、私の前に現れた見知らぬモノノフ……シグナムと言ったか?何とも不思議な感じのする奴であったな?
記憶を失っているとの事だったが、東の果てから来たと言う事だったので、其処がどんな場所かと聞けば『空に大きな穴が開いて
いた』と来たからな。
もっとシグナムの話を聞きたかったのだが、八雲に時間だと言われたのが悔やまれる……が、そうであるのならば此方から聞き
に行けばいいだけの事だ。

シグナムよ、私はお前の事が気に入ったぞ?だから、今度岩屋戸を抜け出したその時は、お前に会いに行くからその心算で居る
ようにな♪










 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場