Side:シグナム
さてと、岩屋戸とやらで神垣ノ巫女に謁見する為にやってきたのだが……改めて見ると、岩屋戸の大きさが良く分かるな?此処に
神垣ノ巫女が居るのか。
「次の者、入れ。」
呼ばれて中に入ったが、何とも異様な空気に包まれて居るな?
私から見て右手側には白い装備を纏った者達が並び、左手側には紺の装備を纏った者達が並んでいる……どちらがどちらかは
分からないが、此れが時継の言っていた近衛とサムライなのだろうな。
「見慣れん輩だな……かぐや様の御前だ、名を名乗れ。」
「そうだな、名も分からぬのではどうしようもない。
私の名はシグナムだ。」
「シグナム……?貴様が魔女の言っていたモノノフか。」
魔女?……博士の事か?
確かに彼女は掴みどころのない性格をしてはいるが、其れを魔女呼ばわりすると言うのはあまりいい気分ではない――何より、博
士は、私にとっては命の恩人に他ならないのでな。
其れを魔女呼ばわりとは……いい度胸じゃないか。なぁ?
「やめよ八雲、博士に失礼だぞ。」
だが、私の苛立ちは、目の前の少女によって押し留められた――白髪に色の薄い肌、そして鮮やかな赤色の瞳を持つ少女の言
葉によって。
だが、それ以上に私はこの少女の外見から目が離せなかった……白髪――銀髪と赤い目の組み合わせ、其れを私は知っている
気がしたからな……
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務129
『鬼内?外様?それは重要か?』
「はっ、申し訳ありません。」
博士を魔女と言ったこの男――少女が彼を八雲と呼んだことを考えれば、八雲と言う名なのだろうが、如何やら八雲はこの少女に
逆らう事は出来ないみたいだな?……少女であるにも係わらず、大の大人を従わせる――成程、彼女こそがマホロバの里の神
垣ノ巫女と言う事か。
「東から来た者よ、聞けば里のモノノフになりたいそうだな。
それには我ら隊長2人の許可が居る――先ずは名乗っておこう。私は八雲!近衛部隊の隊長にして、里の次期お頭だ。
……貴様も名乗ったら如何だ、サムライよ。」
「……刀也だ。サムライを率いている。」
「覚えておくのだな、我らの名を。」
「あぁ、よろしく頼む。」
八雲と刀也……この2人が時継の言っていたマホロバで対立している2つのモノノフ部隊『近衛』と『サムライ』の其々を率いている
隊長か。
実力の程は……この間の戦闘で助太刀に来てくれた紅月と言う女性の方が高そうだな。あくまでも、感じた雰囲気ではだが。
「フン……態度のでかい新入りだな。」
「……生まれつき、こんな性格でな。
良く言えば武人然、悪く言えば堅物な性格故にどうしても言葉遣いがな……分かってはいるのだが、齢19ともなると今更直す
事も出来ん――気に障ったのならば謝罪しよう。」
「性格か……まぁ良い。此処は『中つ国』の西の最前線。戦力が増えるに越した事は無い。
貴様がモノノフになりたいのなら、許可を与えてやらんでもない。――だが、1つ重要な事がある。
貴様は鬼内と外様、何方だ?」
時継から話を聞いて、その手の質問が来るとは思ってはいたが、さて如何答えたものだろうな?此処で、答えを間違えれば近衛
かサムライの何方と対立する事になり兼ねんからな?
「鬼内か外様か……さて、困ったな。正直な事を言うのならば『分からない』と言った所か?」
「……?」
「分からない、だと?それは一体如何言う事だ?」
「何だ、博士から聞いてないのか?
私は記憶の大部分を失っている――それこそ自分の名前と、自分がモノノフであったこと、霊山軍師九葉の直属の部下だったこ
と等を除いた全ての記憶をな。
九葉の部下であったことを考えると、霊山に身を置いていたモノノフなのだろうが……この里の出なのか、それとも全く別の場所
で育ったのかすら覚えていないのだ。
――だが、鬼内か外様か……其れは、そんなに重要な事か?重要なのは、『鬼』の脅威から、里を守れるだけの力が有るか如
何かだと思うのだが?」
「東の果てから来たとは聞いていたが、記憶喪失、だと?そんな事を言って誤魔化すとは、矢張り貴様は外様か。」
「……本当に記憶を失っているのかも知れん。好きにさせてやれ。」
「フン……それならそれで構わん。近衛でもサムライでもないだけの事だ。貴様は、紅月に預ける。
ハグレ者を束ねているモノノフだ。貴様が使えるか否かは、奴に判断させる。……それで良いな、サムライよ。」
「異論はない。」
紅月にか……あの薙刀を持っていた女性に任せてもらえるのならば安心出来そうだ。
彼女の実力は私と同等と見ていいだろう――最低でもな。それほどのモノノフに預けてもらえるのならば私とて安堵すると言うモノ
だ……少なくとも、近衛やサムライと言った派閥に組み込まれるよりもな。
其れと、僅か数分の事で分かった事だが、私個人としては八雲より刀也の方に好感を抱いたぞ?……口やかましい八雲より、必
要な事だけを言う刀也の方が印象が良い。
まぁ、八雲の偉そうな物言いが癇に障るだけかもしれないがな。
「かぐや様、御決裁を。」
「……許す。お主の好きにせよ。」
「ありがとうございます。
……紅月はモノノフ本部に居る筈だ。繋ぎは付けておくから会いに行け。」
「……1つ良いか、シグナム?」
何でしょう、我が主よ?
「あ、主?」
「……スマナイ、失われた記憶の中から断片的に記憶を拾い上げる事があるらしくてな。
どうやら私は、貴女の様な幼い少女を『主』と呼んで使える立場にあった人間のようだ。」
「……記憶を失うとは難儀なモノだな。
それよりも、お主は東の果てから来たそうだな……覚えている範囲でいいから教えてくれ、其処はどんな場所だろうか?
良ければ話を聞かせてくれないか?」
どんな場所、か――そうだな、あの場所は……
・空に穴が開いていた。
・戦艦が燃えていた
……説明するにも、選択肢が此れしかないとはどうしたモノだろうか?
だが、目の前に居るのはまだ年端もいかない子供だ……ならば、より子供が興味をもちそうな方を話してやった方が良いと言うモ
ノだ――となるとだ……
「私が覚えている限りでは、空に大きな穴が開いていたな?」
「な、何?そんな事が有り得るのか?」
「断片的な記憶だからハッキリとは言えないが、空に大きな穴が開いていた気がする――若しかしたら、私はその穴を通ってこの
地にやってきたのかも知れん。
そして、その穴を通る際に記憶を失くしてしまったのかもな。」
「おぉ!それは、何とも不思議な事だ!シグナムよ、お主の話をもっと聞きたいぞ!!」
「……かぐや様、そろそろ次の謁見者が……」
「……そうか、ならば仕方ないな。
博士は元気か?よろしく伝えておいてくれ。」
分かった、伝えておこう。
「……そう言えば名乗っていなかったな。
私はかぐや。里を守護する神垣ノ巫女だ。また来てくれ、シグナム。」
「神垣ノ巫女に頼まれたとあっては、断る事も出来ん。
出来るだけこちらに来るようにしよう……謁見の時以外に会えるかどうかは分からないけれどな――そもそもにして、下手したら
八雲に門前払いされそうだがな。」
「八雲、シグナムを無下に追い返す事は許さぬぞ?」
「……承知いたしました。
謁見は以上だ。紅月の元へ行くがいい、東のモノノフよ。」
了解だ。
此れにて謁見終了か……かぐやは純真な少女、刀也は多くを語らない寡黙な青年と言う感じで悪い感じはしなかったが、八雲の
印象は最悪だな。
私には高圧的な態度をとるくせに、かぐやには低姿勢……かぐやが里を守護する神垣ノ巫女だと言う事を考えれば、仕方のない
事なのかもしれないが、あそこまで露骨だと流石に少々腹も立つと言うモノだ。
穿った見方をすれば、神垣ノ巫女にこびへつらっている様にも見える……近衛と対立するサムライの中には、そうみている連中が
居るだろうしな。
だが、何にしてもまずは紅月に会わねばだな。
「お、戻ってきたな?話はついたか?」
「時継か。――私の身柄は、紅月に預けられるらしい。」
「紅月に?そいつは願ったりだ。
あいつは俺達に好意的だ。変な嫌がらせをされずに済む。」
其れは確かに助かるな。
そう言えば、八雲が言っていた事なんだが、博士が魔女とは、一体如何言う事だ?
「気にすんな、あのヘンテコ頭は俺達が恐えのさ。
『カラクリ』は、まだ未知の力だ。気味悪がる連中は多い。――だが、連中に如何思われようと、目的を達成できりゃそれでいい。
勇者なら、誇りは胸の内に秘めておけ。」
「ふ、勇者が言うとその言葉にも重みがあるな。」
「分かってるじゃねぇかシグナム。そして俺様はその中でもとびきりの勇者だ、そこんとこ宜しく頼むぜ。」
とびきりの勇者か……了解した。
「って、突っ込めよ!むず痒くなっちまう。
さてと、紅月に話を付けに行くぜ?――昨日会った奴だ、覚えてるだろ?」
「勿論だ。黒髪赤目の女性だろう?忘れようもない。
昨日はその力を見る事は叶わなかったが、彼女の実力は相当なものと見受ける……そうだな、マホロバでも1,2を争う腕前で
はないか?」
「へっ、そいつに気付くとは、中々に慧眼だぜシグナム。
イツクサの英雄、里で最強の使い手、其れが紅月だからな。本部に居る筈だぜ。」
ならば、早速行ってみるとしよう。
イツクサの英雄が何を示す二つ名なのかは知らないが、二つ名を関している以上、紅月の実力が相当な物であるのは間違いなさ
そうだ。
自らを勇者と称する時継をして、里最強の使い手と言うモノノフか……この前は碌に話す事も出来なかったから、改めて会うのが
楽しみだな。
――――――
Side:アインス
あれから2年の月日が流れた訳だが……
「お別れです!ハハハハハハハハハハハハ!!」
「ヨルドの力、格の違いを思い知るがいい。」
「私と遊びたいの?なら、此れで終わりね。」
「魂を込める!華と散れ……橘花繚乱!!」
今日も今日とてウタカタは平和です。
と言うか、私とナイトメアのアーナスと元姫と桜花が一緒に出撃した時点で『鬼』に勝ち目なんてないからね……そもそも、破壊神
と夜の王が組んだ時点で敵など無いけどね。
しかし2年か……そろそろ時継や紅月に会いたくなって来たな?
「奇遇だなアインス、私もそう思っていた所だ。」
「お前もそう思っていたか桜花。」
『鬼』と戦うモノノフ同士であるから、もう一度会っておきたいからね……マホロバの里と言うところで暮らしていると言っていたが、
息災である事を願うだけだな。
だが、まさかマホロバを訪れる機会がやってくるとは思わなかったよ――そして、その先で予想もしてなかった再会が待っている
なんて事は、な。
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
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