Side:シグナム


此処は何所だ?……これは、私の夢の中なのか?



『記憶をなくしたか、我が使い手よ。』

「お前は……私のミタマ――源義経か?夢の中で会うとは思わなかったが、随分と男前だったのだな。」

『私の事は覚えていても、他の記憶は大部分をなくしたか。
 哀れな……其れがお前の背負った宿命か――ならばせめて、私が記憶しよう、お前がこの先どう生きるか。
 願わくば、今度は忘れるな――私は源義経……お前が身に宿す英雄の一人。
 『鬼』討つモノノフと、ともに歩むモノなり。』




まさか、源義経が此処まで男前な武将だとは思わなかったが――これほどの英雄のミタマを宿しているというのなら、そのミタマに
恥じない力を身につけなくてはだ。
いや、源義経だけでなく、ヒダルを倒した際にも新たなミタマをこの身に宿したからな……私自身、英雄のミタマを宿すに相応しい
モノノフであらねばなるまい。



『その思いが在れば、記憶がなくともお前がお前である証ともなるだろう……戦いは此れからも続く、気を抜くな我が使い手よ。』

「あぁ、勿論だ。」

周囲の景色が白けて来たな……夢が終わる時か――フフ、英雄のミタマよ、また夢の中で会おう。









討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務128
『先ずはマホロバの里を見て回ろう』










「おい、消えてねぇだろうなシグナム?」

「……邪魔するぞ。」



この声は時継と博士か……と言うか時継、昨日の事があるからそう言いたくなる気持ちは分かるが、朝一番でそう聞くのもどうか
と思うぞ?
朝の挨拶は、もっと気持ちよく行うものだろう。



「無事みてぇだな。よく眠れたか?」

「おかげさまでな。
 取り立てて上等と言うものでもなかったが、枕が身体に合っていたおかげでぐっすりと熟睡出来たよ――10年もの時を越えた疲
 労も吹き飛んでしまったようだ。」

「其れは結構な事だ。早速だが、今日から働いて貰う。
 ――お前の身体を考えると、あまり悠長にしていられん。先ずは、里の正式なモノノフになれ。
 呪いを解くには、人と交わって、この世界との結びつきを持つ事が必要だ。」



意味が分かるような分からないような……何れにしても、私が此処で生きていくためには正式にマホロバのモノノフになる必要が
あると言うのは理解出来る。
恐らくだが、この時代では、モノノフは霊山に常駐して、世界に現れた『鬼』を討つのではなく、マホロバの里の様な場所に所属し
て活動しているのだろう――そして、里のモノノフになるにはその里のお偉いさんからの許可が居ると言ったところか?



「ま、大体その認識で間違っちゃいねぇな。そう言う訳だから、里のお偉いさんに会いに行くぞ。
 普通はお頭に挨拶するが、この里のお頭は2年前に死んで以来空席だ……代わりに神垣ノ巫女が里を仕切ってる。
 つっても、まだガキだ。実権は2人の討伐隊長が握ってる。
 近衛部隊とサムライ部隊……対立してる2つの討伐隊の隊長だ。」

「2つの討伐隊が対立しているとは穏やかではないな……『鬼』の討伐に不具合が出たりはしていないのか?」

「其れが、『鬼』の討伐に関しちゃ、互いに負けじと張り合ってる事が幸いして、共闘こそしねぇがどっちの部隊もそれなりに成果を
 挙げてんのさ……ま、其れが更に対立を煽る結果になってる堂々巡りなんだがな。
 兎に角、此れからちょうど謁見式だ。神垣ノ巫女のいる、岩屋戸に行くぜ。」

「……人込みは好かん。ここから先は、時継と2人で行動しろ。私は鬼の手で後から合流する。」

「後から合流……?」

「ふっふ……まぁ、見ていろ。
 あぁ、それと……岩屋戸に行く前に、時継に里を案内してもらえ。
 此れからモノノフになるんだ、使う施設くらい知っておけ。
 特にミタマの扱いは入念に聞いておけ……記憶がない以上、一からやり直しだ。
 じゃあ、しっかりなシグナム。」



……言うだけ言って行ってしまったか。
何と言うか自由奔放と言うか、自分本位と言うか……或いはこれが、天才故の一般人とは異なる感覚と言うものなのか……取り
敢えず、博士が物凄く自分の都合で動くんだと言う事は良く分かった。



「ったく、相変わらずの俺様野郎だぜ。
 ま、そう言う訳だ。里の探検と行こうぜ。」

「そうだな、案内を頼むぞ時継。」

と言う訳で、岩屋戸とやらに行く前に、里を一通り回ってみる事になったが、これから此処、で暮らしていく以上、何所に何がある
か位は、正確に把握しておかねばだからキッチリ覚えねばだ。
で、最初にやってきたのは……



「此処は、鍛冶屋だぜ。
 『鬼』から取れた素材を使って、モノノフの武器や防具を作ってる。
 『鬼』から作った武器でしか、『鬼』は倒せねぇからな――お前も『鬼』を倒したら、武器を鍛えてみな。」

「その時は世話になるだろうが、私の武器は私専用に作られた特別なモノだ……果たして、鍛える事が出来るかどうか……」

「基本は仕込み鞭みてぇな感じだから何とかなんだろ。
 ちなみに、ここを仕切ってるのは俺だ。この身体になる前は、モノノフ鍛冶屋だったんでな。
 里の職人がヒヨッコばっかりで、俺が指導してやってんのさ……心根が優しいと、苦労するぜ。」

「ご用の際は、何なりと。」

「あぁ、その時はよろしく頼む。」

しかし、時継が鍛冶屋だったとは……と言うか、人間だった時ならばいざ知らず、その身体でも鍛冶仕事が出来ると言うのか?
だとしたら、そのカラクリの身体は凄まじい高性能だと言わざるを得ないな――まぁ、その躯体で長大な銃を扱える時点で相当な
高性能ではあるのだが。

で、次にやってきたのは……



「貴女様は……」

「よう久遠。ちょいと新入りを紹介してぇんだが……」

「……存じ上げております、時継様、シグナム様。
 本日は、どのようなご用件でしょうか?」

「話が早くて助かるぜ。
 コイツにミタマの事を教えてやってくれねぇか?」

「ミタマでございますか?
 成程……私はミタマの巫女――浅学の身ですが、知っている事をお話ししましょう。よろしいですか、シグナム様?」



この里にやって最初に言葉を交わした茶屋……そう言えばミタマの巫女と言っていたな――だが、私はあの時に名を名乗っただ
ろうか?
時継が事前に教えていたと言う訳でもなさそうだし……巫女と言うのならば不思議な力を持っているだろうから、その力を使って
私の名を知ったのかも知れないな。あくまでも予想だが。

あぁ、スマナイ。早速話してもらえるだろうか?



「ミタマはモノノフの力の根源……『鬼』に喰われた英雄の魂です。
 その魂を『鬼』より取り戻し、力となすのが古くからのモノノフの習わし。」



そうだったな。
そう言えば九葉も、『鬼』に捕らわれた英雄の魂を取り戻せと、討伐の任があるたびに言っていたような気がするからね。



「貴女の身体にも、力強きミタマが宿っております――それが何方のミタマかお分かりですか?」

「私のミタマ……源義経だな。」

「源義経……平安時代を生きた、若き英雄ですね。
 おや?別のミタマの存在も感じます……貴女は複数のミタマを宿すのですね。」

「どうにもそうらしい。
 1人のモノノフが宿す事の出来るミタマは1つだけだった筈だと記憶しているが、どうやら私はその限りではないらしい……矢張り
 此れは特別な事なのか?」

「かなり特殊な事ではないかと。――風の噂では、ここから遥か東にあるウタカタの里には、数多のミタマをその身に宿す今世の
 ムスヒの君とも言うべきモノノフが居るそうですが。
 何故貴女に、そのような素質があるのか、私には分かり兼ねますが、その素質を奇貨とし、様々なミタマを集めるとよいでしょう。
 ミタマは戦いの経験を重ねる事で、少しずつその真なる力を開放していきます。
 積むべき経験は様々です。ミタマの声に、耳を傾けるとよろしいでしょう。」



ミタマの声に耳を傾ける、か――確かに、其れは必要な事かも知れん。
ミタマはモノノフにとっての大切な相棒……その相棒の声に耳を傾ければ、ミタマとの絆はより強くなるだろうからな。



「因みにですが、私はミタマの成長を促す技を心得ています。
 早くミタマを成長させたいときは、私の祭祀堂にお立ち寄りください。
 また、趣味で小料理屋も営んでおります。そちらもどうぞご贔屓に。」



家を出た目と鼻の先に鍛冶屋と小料理屋があるとは、まるで家の前にホームセンターとファミリーレストランがあるかの如き利便
性の良さだ――って、ホームセンターとファミリーレストランとは一体?
唐突に頭に浮かんできたが、此れも失われた記憶の残滓なのか……分からんな。



「ミタマは貴女の友であり、力の源……ゆめゆめ、疎かにされる事のなきよう……」

「うむ、其れは分かっている。」

「左様でございますか。
 それでは、行ってらっしゃいませ、お客様。」

「あぁ、行ってきます。だな。」

ミタマの成長を促す力を持ったミタマの巫女、久遠か……しかし何だろうな?久遠と言う名に何か懐かしさを覚えるのは?
失われた記憶に、同じ名を持った誰かが居たのだろうか?……いや、なんとなく朧気ではあるが、栗毛の髪を頭の左側で纏めた
女性が『久遠』と言う名の狐を飼っていたような気がする。
まぁ、断片的なモノだから、分からない事の方が多いがな。

で、次にやって来たのはよろず屋。
時継の説明によれば、素材に食材、武器に防具に至るまで、扱ってる商品は千差万別らしい……世話になる事も多いだろうから
知っておくべき場所だね。


そして次にやってきたのは一際大きな建物だが、ここは一体?



「此処は御役目所だな。モノノフの任務、仕事が受けられるぜ。
 取り敢えず、任務受けたきゃ此処に来な。」

「任務はモノノフの生業とも言えるモノだからな――して、此処が御役目所となると、隣の受付は指南受付か?」

「その通り。
 そっちでは武器と戦い方の指南を受けられる――つっても、記憶を失ってるにもかかわらず、アンだけの強さを身に宿してるお前
 さんには、必要ないかもだがな。」



身体が戦い方を覚えているみたいだからね。
まぁ、其れだけ私は戦い続けていたという事なのだろうな――さて、此れでマホロバの大体の施設は回ったかな?



「だな、里の紹介はこんなもんだ。
 そろそろ謁見式が始まる頃合いだ――岩屋戸に行ってきな。そこに隊長達が居るはずだ。
 目の前にデケェ建物が見えるだろ?それが岩屋戸だ。里を守る結界を張る巫女、神垣ノ巫女が住んでるぜ。
 悪いが、俺はこっから先は行けねぇ……生憎、このナリなんでな――得体の知れねぇモノは通せねぇってよ。」

「其れはまた、何ともだな……」

「そんな顔すんなよ。俺は大丈夫だ。お前は挨拶を済ませてきな。
 取り敢えず、此処で待っててやるぜ。早く戻って来いよ。」

「了解だ。」

神垣ノ巫女と、2つの討伐部隊の隊長との謁見か……いささか緊張するのは否めないが、マホロバのモノノフに為る為には必要
な事なのだろうから、やり遂げねばだな。













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場