Side:シグナム


「急げぇ!閉めるぞ!!」



『鬼』の襲来を告げる喚鐘の音と共に、里の門は閉じられたか――神垣ノ巫女の結界がある以上、『鬼』が里に入るのは容易では
無いが、だからと言って里に攻め入る『鬼』を無視する事は出来まい。
何よりも、私はモノノフ、『鬼』を討つのが使命だからな……纏めて狩らせて貰う――行くぞ、『鬼』を討つ!!



――轟!!



「おわぁ!闘気が具現化して金色の炎に見えるって、お前ドンだけだシグナム!!危うく燃やされるかと思ったぜ!!」

「あぁ、スマナイな時継。」

ふむ、如何やら私は、具現化する程の濃密な闘気を練る事が出来る様だ――記憶を失った私にとって、此れは有益な情報だ。
自分の持つ力の一端を目に出来たのだからな。

となると、私は連結刃である十束と、具現化するまでに高めた闘気をもって戦っていたと言う事か……あぁ、記憶はなくとも身体が
覚えていると言うのか、如何戦えば良いかが分かる。
攻め入って来た『鬼』は最下級の『ガキ』だが、リハビリの相手としては申し分がない……狩りつくさせて貰う――『鬼』は、一匹たり
とも生かしてはおけないのでな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務126
『先ずは、マホロバの防衛戦!』










おぉぉぉぉぉぉ……地に伏せるが良い!火竜一閃!!



―ズバァァァァァァァァ!!!



「へっ、やるじゃねえかシグナム!今の居合は、中々見事だったぜ?
 正直なところ、一瞬見惚れちまったくらいだからな……あんだけ綺麗な居合を見たのは初めてだが、それ以上にお前さんの使う
 武器――刀かと思ったら、仕込鞭だったのか!」

「正確には、刀と仕込鞭の両方の特性を併せ持った『連結刃』と言う、私の為だけに作り出された武器だ。
 刀状態と、連結刃状態を瞬時に切り替えるのが中々に難しい代物でな、私以外の誰にも使いこなす事は出来ん――九葉も、よく
 もまぁこんな武器を考えたモノだと思うよ。」

太刀では大きすぎるし、仕込鞭では切れ味に劣ると言ったら、『ならば刀位の大きさで、刀と仕込鞭の両方を合わせた武器を作れ
ば良い』と来たからな……開発を任された職人には、本気で同情してしまうがな。

さてと、火竜一閃で薙ぎ払ってやっても、まだまだガキはいるようだ……如何に結界で守られているとは言え、里の周辺をうろつか
かせておくわけにもいくまい。



「二人とも準備は良いな。鬼の手の実証実験を始める。
 左手に意識を集中しろ……人の思念に呼応して、想像を具現化する――其れがカラクリ、鬼の手の力だ。」

「行き成り実証実験と来たか……想像を具現化するとは、また面白い話だが、具体的に何を如何すれば良い?」

「巨大な手を頭に思い浮かべろ。
 其れを、現実の世界に実体化させるんだ。」

「無茶言うな!!」



いや、無茶でもないかも知れないぞ時継?
大切なのは想像力だ……巨大な手、巨大な手……人間の手ではないな、もっとこう攻撃的と言うか、猛禽類の足のような感じを。
いや、其れでも弱い……そうだ、イメージすべきは大型の『鬼』のような手だ!!



――ギュオン!!!



「……出来た。」

「ほう……良いぞ、シグナム。
 アッサリと具現化の壁を越えたな――その手を使って『鬼』を倒せ。手始めにガキを平らげるぞ。」

「信じられねぇ……どうなってんだ。」



さてな、其れは知らんが、成程これはなかなか便利な装備だな?
私の想像次第で無限の力を発揮する鬼の手か……面白い、其の力を存分に発揮させて貰うとしようか!――先ずはこの手をガキ
に向かって伸ばす感覚!
そして、伸ばした手でガキを掴む!其のままガキに向かって自分を引き寄せる!!よし、出来た!!
此れならば、間合いを無視した攻撃も可能になる……私の十束との相性も抜群に良さそうだ――『鬼』を掴んで移動している最中
に陣風を発動すれば、進路上の全ての敵に攻撃する事が可能だしな。
何よりも、近付くと同時に火竜一閃を発動すれば、普通に火竜一閃を使うよりも多くの『鬼』を倒す事が出来そうだしね。

「纏めて消えろ……舞え、陣風!!



――バババババババババババババ!!!



「……良い動きだシグナム。私と時継の出番は殆どなかったな。
 横浜で戦っていたと言うのは本当らしい。」

「俺様に言わせりゃ、まだまだヒヨッコ――と言いてぇところだが、成程、中々やるじゃねぇかシグナム。」

「伊達に、軍師九葉の直属の部下をやっていた訳では無かったらしい……身体が、戦い方を覚えているよ。」

其れは兎も角、ガキは片付けたが、此れで終いと言う訳では無いだろう?……此れだけのガキの集団が現れた事を考えると、コ
イツ等を指揮していた親玉が居ると考えるのが然りだからな。



『ギャオォォォォォォォォォォォォォ!!!!』



……おいでなすったか。
永き時を経て、力を溜めて巨大化したガキ――ヒダルが!!
大型の『鬼』には劣るとは言え、此れは少々厄介な奴が現れてくれたな……ヒダル自体は其処まで強い『鬼』ではないが、ガキを
呼び出す力を持っているからね――如何にガキと言えども、圧倒的物量を召喚されたら、流石に厳しいからな。



「博士、助太刀します。」



っと、此処で援軍か?
紺碧の衣を纏い、薙刀を手にした黒髪赤目の妖艶な雰囲気の女性……只者ではない感じだが?



「紅月か、最高の助っ人だ。」

「すまんな紅月。
 だが、要らん世話かも知れんぞ。」



紅月……それが彼女の名か。
一見すると柔和な感じだが、私のモノノフとしての本能が告げている――彼女は、マホロバの里のモノノフの中では、間違いなく最
強の存在であるとな。
しかし博士、要らぬ世話とはどういう事だ?



「鬼の手の力は証明された。
 彼我の戦力差は圧倒的だ――特に、シグナムの存在によってな。」

「鬼の手?其れに、彼女は……?」

「その目で確かめろ。」



随分と乱暴な事を言ってくれるな博士?
其れは鬼の手の力だけでなく、私の力も紅月に見せつけろと言う事だと理解しているのか?……まぁ、私とてヒダル如きに後れを
取る心算は無いから全力で行くがな。



「お前ほどの実力が有れば問題ない。
 ヒダルは腹が弱点だ。攻撃を集中して、部位を破壊しろ。」

「了解だ。」

ならば鬼の手を使って強引に近づいて――否、待てよ?
『鬼』に向かって飛びかかる事が出来るのなら、私の想像次第では『鬼』を引き寄せる事だって出来る筈だよな?……鬼の手を伸
ばして掴むまでは同じ……此処から、強烈に自分の方に引き寄せる感覚で!!!



――ギュオン!!!



出来た!!
飛びかかりと引き寄せの両方が使えるのならば、戦いの幅はさらに広がるから、此れが出来たと言うのは僥倖だ――そして、引き
寄せられた貴様の腹は破壊させて貰うぞヒダル!!
喰らえ、鬼千切りぃ!!



――ズバァァァァァァァァァァァァァ!!!



鬼千切りを使えば、一撃で部位を破壊する事が出来る――そして、部位を破壊された『鬼』はマガツヒ状態となり、内部生命力が
表面化して此方の攻撃が通るようになる!!



「……良い動きです。……貴女は一体?」

「私は、記憶を失ったモノノフだ。」

「記憶を……いえ、今は戦いに集中しなくては。」



ふ、その通りだな紅月。
部位破壊をした事でヒダルはマガツヒ……否、其れを通り越してタマハミ状態になったからな。――だが、こうなってしまえば攻撃
力は上がるが、防御力は0になるに等しい――一気に畳み掛けて倒すだけだ!!



「だな!コイツで終いだ、破敵ノ法!!!」

「これでもう、遊びは終わりだ!咲き誇った桜花の如く舞い散れ……乱舞!!」

時継の破敵ノ法と、私の乱舞でヒダルは撃破だ――私と戦うには、些か実力不足だったようだな……って、ヒダルの身体から何か
が出て来たが……



――キィィィン……バシュン!!



『悪鬼妖魅は、俺が討つ!』



――ミタマ:『藤原秀郷』を獲得



此れは、ミタマか?
私は既に源義経のミタマを宿しているのに、それにも拘らず新たなミタマを己の身に宿す事になるとは思っても居なかったから、少
しばかり驚いている……まぁ、今は考えても詮無い事だろうがな。



「……皆様、お見事です。」

「実証実験終了。二人ともご苦労。実験成功だ。
 ふふふふふ、素晴らしい成果だ、やはり私は天才だな――如何だ二人とも、鬼の手は優れモノだろう?」

「……ビックリ人間にでもなった気分だぜ。
 どうなってんだ、この装置は?」

「原理はお前の身体と同じだ。
 人の魂……思念を具現化して力に変える――尤も、其の力の根源が何なのかは、私にもまだ解明できていないがな。」

「良くは分かりませんが、博士の研究の成果と言う事ですね?」



まぁ、そう言う事になるんだと思うよ紅月。
しかし、其れは其れとして、この身に新たなミタマを宿す事になろうとはな……ミタマは、普通一人一個しか宿す事が出来ない筈な
んだが、如何やら私はその限りでは無いらしい。



「ふむ、興味深いな?
 後でお前の身体を調べさせろ――あぁ、心配しなくてもバラバラにしたりはせんさ。」

「博士、恐ろしい事をサラッと口にしないでくれ。」

取り敢えず、里に迫りくる『鬼』は滅した訳だが……



「……漸く、近衛のお出ましか。」

「博士、御協力感謝します。」

「実験の序にやった事だ。
 如何やら、本格的な襲撃ではなかったらしい。
 ガキが数匹逃げるのを見た――念のため、辺りを哨戒しておくと良いだろう。」

「承知しています、後は我々にお任せ下さい。
 時に、其方の方は?あまりお見掛けしませんが……」



近衛とやらが事後処理をしてくれるようだな。
で、私の事が気になるみたいだが……何と言えば良いのか、私はこの世界の外から来たらしい。



「外?……まさか、外様では……」

「……私の助手だ。東の里から手伝いに来た。」

「……そうでしたか、其れは遠路ご苦労様です――では、我々は任務がありますので。
 ……紅月様も、お体にお気をつけて。」

「……ありがとう。」

「周囲を調べろ!
 まだ『鬼』が残っているかもしれんぞ!」



外様とは一体なんだ?何やら只ならぬ雰囲気だったが……マホロバの里に於いて、外様と言うのは一種の鬼門であるみたいだ。
記憶のない私には、外様が何であるのかは分からないけれどね。
同時に、近衛と呼ばれた者の、紅月への態度で、紅月がマホロバでドレだけの地位に居るのかが分かるな。



「……では、私は此れで。
 博士、私の協力が必要であれば、何時でも呼んでください。」

「あぁ、何時もスマンな。」

「最後に、貴女の名を伺っても宜しいですか?」



其れは、私の名か――否、其れ以外にはないか。
私の名は、シグナムだ。



「シグナム……覚えておきます。」

「其れは光栄だ――お前は紅月だったな……悪くない名前だ。」

「フフ、其れは貴女もでしょう?
 ならば、改めて名乗る必要もないでしょうが、私はこの里でモノノフをしています。
 困った事が有ったら、声を掛けて下さい。」

「その気遣い、痛み入る。」

「では、また会いましょう。」



で、すべき事をしたら颯爽と去って行ったか……アレは、男女問わずにモテるんじゃないかと思う――と言うか、私が男だったら間
違いなく心を奪われていたとこだと思うからね。



「……流石は紅月だ。誰かさんと違って優しいぜ。」

「……煩いぞ。……『鬼』は討った。研究所に戻るぞ。」



そうだな、『鬼』は討った――とは言え、私は此れから如何した物かと思うんだが……



「……如何したシグナム、早く来い。さっきの話の続きも聞きたいからな。」

「!……了解した。」

如何やら、私は暫く此処に、マホロバの里に居る事になりそうだ――少なくとも、博士は私の事を放す気は全く無いみたいだから
な……マッタク持って奇特なモノだが、今は其れに感謝しなくてはな。
貴女のおかげで、私はこの世界での居場所を、手に入れる事が出来るかも知れないのだからね。













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場