Side:シグナム


……此処は何処だ?
私が知っている場所ではないようだが……と言うかそもそもにして、私は一体何者なんだ?……シグナムと言うのが己の名である
のは分かっているが、それ以外の事は全く分からん。
考えても仕方ないと思って、外に出てみたのだが……参ったな、此れは本当に私の知らない世界みたいだ。

だが、そうなると、何故この世界に私が居るのかが疑問だ……取り敢えず、此処に居る人達に話を聞いてみるか。

「スマナイ、少し良いか?」

「おや、貴方様は?……失礼、あまりお見掛けしない御方でしたので――本日は、何方から?」



其れは答えに困るな……私自身、何処から来たのか覚えていないんだ――というか、此処は一体何処なんだ?



「この地が何処か、お分かりでないと?
 ……此処はマホロバの里。『中つ国』の西の果て……我知らず、長くつらい旅をして来たとお見受けします。
 見ての通り、此処は茶屋。旅の疲れを癒して行かれると良いでしょう。
 私は久遠、この地でミタマの巫女を務めています。どうぞお見知りおきください、モノノフ様。」

「モノノフ……」

懐かしい響きだな。
モノノフ……そうだ、私はモノノフだった――鬼を討つ鬼であり、軍師九葉直属の部下だった。
そして、確か横浜で『鬼』と戦っていた筈だ……其れだけは、思い出す事が出来たが……それ以上の事を思い出す事は出来ない
みたいだ。
此れは、少しずつ思い出して行く事を期待するほか無さそうだな。










討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務125
『烈火の将、マホロバに降り立つ』










此処がマホロバの里と言う場所であり、私がモノノフだと言う事も分かったのだが……だからと言って、此処から如何しろと言うの
かと言うのが正直な感想だ。
取り敢えず、里を見て――



「よう、目ぇ覚めたのか?身体の調子は如何だ?」



と思った矢先に、私の膝下くらいの大きさの人形が話しかけて来た――アナタは何者だ?



「……しがない研究助手ってところだ
 森に倒れてたのを、俺様が運んでやったんだ、感謝しろよ――お前、名前は?」

「シグナムだ。」

「シグナム……か。俺は時継だ、宜しくな。
 博士がお前に会いたがっていたから後で行ってみな――丘の上のヘンテコな建物に住んでる奴だ。
 アレでも、医者でな、お前を介抱した……取って食われねぇように気をつけろよ。」



下手すると喰われると言う事か……何者なんだ、博士とやらは?



「そいつは自分で会って確かめな。
 そういや、なんか置手紙みたいなもんをしてったみたいだが――オイ、家の中に其れらしきモノは無かったか?あれば、分かると
 思うんだが。」

「置手紙?少し待ってくれ……此れか。
 ふむ……『道でぶっ倒れていたから、とりあえずここまで運んでおいた。そのまま去るなら其れも良し、話を聞きたければ研究所
 に来い。選択はお前に任せる。』……だそうだ。」

「なんだそりゃ?
 相変わらず何考えてるのか分からねぇ奴だな……んで、お前さんは如何すんだシグナム?」

「如何するもこうするも、行ってみるしかあるまい。」

自分の名前がシグナムで、モノノフであったこと以外は何が何だかサッパリ分からないんだ……ならば、博士とやらの話を聞いて、
少しでも情報を得ておいた方が良いだろうからな。
丘の上の建物だったな……其処に行ってみる事にしよう。



「そうかい。
 ま、気をつけろよ……博士は間違い無く天才だろうが、同時にマホロバの里一の変人と言えるかも知れねぇからな。」

「天才で変人か……」

何故だろう、ホンの一瞬だけ、紫の髪で金の瞳の色々ぶっ飛んでいる男が頭の中に浮かんだが……私の失われた記憶と関係し
ているのだろうか?
しているのだとしたら、何だかとても嫌な気分だな。

取り敢えず丘の上の建物に来たのだが……何だ此処は?
様々な書物が散乱し、此の球体は地球儀と言ったかな?確か、外国から入って来たこの世界を正確に表した立体地図だった筈。
そして此れは一体何だ?パッと見、何かを精錬する釜にも見えるが……



「誰だ、私の研究所に勝手に入るな。……お前は。」

「貴女が博士か?」

「時継に聞いて来たか。
 また、余計な事を言っていないと良いが……」



余計な事か……確実に言っていたと思うが、其れを言ったら絶対に面倒な事になるだろうから、此処は言わないのが良いだろう。
言わなくても良い事を言って、余計な面倒を被ると言うのはよくある事だからな。



「動き回れるようなら心配はないな。
 私の名は博士。お前の名は?」

「シグナムだ。」

「シグナム……知らん名だな。矢張り里の者ではないな。
 お前は里の近くの森に倒れていた。何か覚えているか?」



覚えている事と言えば、自分の名前と、自分がモノノフであった事、そして横浜で『鬼』と戦っていたと言う事だけ――それ以外の
事はサッパリ覚えていないんだ。



「横浜……?一体何の話だ。
 何か事情がありそうだな……詳しく話してみろ。」



詳しくと言われても、覚えている事が殆どないからドレだけ話せるか分からないが、私はモノノフとして横浜で『鬼』と戦っていた。
そうだ、人の世に『鬼』が蔓延り、さながら地獄絵図の様だった……其処で、強大な『鬼』と戦っていたんだが……スマン、其処から
先の記憶はない。



「ふむ……そして気付いたら此処に居たと言う訳か。
 不可思議な話だな……他に覚えている事は?」

「ない。」

「本当に記憶を失っていると言う訳か……厄介だな。
 ……此処はマホロバの里。
 横浜から遥か西、出雲国近くにある――直線距離で150里近い……易々と移動できる距離じゃない。
 それ以前に……横浜は10年前に放棄された。もう、あそこに人など住まない。」

「!!」

なん、だと?
私が戦っていたあの場所が放棄されただと?……そんな、馬鹿な……!!



「10年前のオオマガドキの戦だ。
 『鬼』に食い破られ、異界に沈んだ。
 もしお前が横浜で戦っていたとすれば、それは……」

「其れは?」

「……」

「……」

「「……」」


揃って沈黙……要するに分からないんだな?



「……そいつの身元は分かったか?」



この声は……時継か。



「よう、また会ったな。
 どうした?2人ともシケた面してんな?」

「どこぞの馬鹿と違って、悩みごとが多くてな。」

「何だよ、随分機嫌悪いじゃねぇか。」

「いや、むしろ逆だ。
 興味深い話を聞いていた所だ、研究に値するかもしれん。」



私の話の事、だよな?
どういう事だ博士?



――カンカン!カンカン!!



っと、この鐘の音は……『鬼』が現れたか!!



「その様だな。
 里の周辺は『鬼』の住む異界だからな。――心配するな、結界がある以上、簡単に侵入は出来ない。
 って、待て何処へ行く心算だ?」

「愚問だな。」

記憶の大部分を失っているとは言え、私はモノノフだ。
ならば、『鬼』が現れた以上、其れを討つのが私の使命でもある……何よりも、モノノフとしての私の血が騒ぐのだ――『人の世に
仇なす『鬼』を滅ぼせ。』とな。



「……そうか、お前はモノノフだったな。
 『鬼』と戦う心算か?……心意気は買うが、丸腰で行くのは止せ。――お前の武器だ、ボロボロだったので処分しようとも思った
 んだが、見た事も無い武器だったので処分するのは勿体ないと思い直しておいた。
 持って行け、私が開発した『鬼の手』と共にな。」

「『鬼の手』……?なんだそりゃ?」

「さっき完成した新型絡繰だ。
 2人とも手を出せ、装着してやる。」



『鬼の手』……どんなモノかは分からないが、此処まで自信満々に言うと言う事は、『鬼』との戦いで大きな力を発揮してくれる代物
なのだろう。
分かった、装着してくれ博士。



「まだ実験段階ではあるが、何、天才である私が作ったのだから問題はない。」

「オイオイ、嫌な予感しかしねぇぞ?」

「そう言うな時継、此れだけ自信をもって言うのならば大丈夫だと思うぞ?」

「あまり動くな、手元が狂う。」



っと、手元が来るって不具合が出ては大事だ、大人しくしておくか。



「……本当に戦う気か、シグナム。
 さっきまでぶっ倒れてたんだ、無茶はするなよ。」

「心遣い痛み入るが、『鬼』が攻めてきた以上、モノノフとして其れを見過ごす事は出来ん……序に言うなら、眠ったおかげで体力
 は回復した。
 現れた『鬼』が指揮官クラスの大型でない限りは大丈夫だ。」

っと、『鬼の手』とやらの装着が終わったみたいだな?



「よし、良く似合っているな。
 使い方は実地で教える。私の指示に従って使いこなせ。――と言っても、初の実証実験だ。
 どうなるかは分からんから、其処は臨機応変にな。」

「お前……どさくさに紛れて、俺達を実験台にする心算だな?」

「わははは……面白い冗談だな時継。」

「ふざけんな!こんなもん無理矢理外して……」

「言っておくが、無理に外そうとするなよ?……爆発するぞ。」

「「そんな物を人の手に付けるな!」付けんじゃねぇ!!!」


だが、如何やらこれはとんでもないモノみたいだな……時継とシンクロしてしまったが、其れもまた仕方ない――無理に外そうとす
れば爆発するなど、左手に爆弾を装着されたようなモノだからな。

しかし、私には分かる……此れは、確かに途轍もない力を秘めていると言う事が。
ドレだけの力を秘めているのかはまだ分からないが、この『鬼の手』が有れば、『鬼』との戦いも確実に変わるのは間違いないだろ
うな――ふ、悪くないな。

博士、貴女は此処に居ろ……危ないからな。



「む?……そう言えば言ってなかったな。
 私達もモノノフ――『鬼』を討つ鬼だ。」



お前と時継もモノノフだったのか!!
人は見かけで判断しては駄目だと言うが、正にその通りだな……だが、お前達がモノノフだと言うのならば好都合だ――私に力を
貸してくれ。
記憶の大部分を失くした私だが、モノノフとしてのすべき事は覚えているのでな……人の世に仇なす『鬼』は、一匹残らず狩り尽く
すだけだ。――行くぞ、『十束』!!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場