Side:シグナム
あれから100年か……随分と時が経ったモノだ――私以外の守護騎士は役目を終えて天界に旅立ち、主はやてやテスタロッサも
また、鬼籍に入ったからな。
今や、旧六課の隊長陣で、生きているのは私とお前だけだな高町――と言うか、100歳を超えても生きているとは予想外だったぞ
流石に……よもや、娘の方が先に逝くとは思っても居なかったぞ?
「其れは私も予想して居なかったけど、如何やら私は皆を見送った後じゃないと、安心して逝けないみたいでねぇ……気が付いたら
こんなお婆ちゃんになっていたよ。
でも、フェイトちゃんもはやてちゃんも、ヴィヴィオですら天国に行ったから、私もそろそろかな?」
「あぁ、そろそろだろうな……と言うか、如何やら私にも終わりが来たようだからな。」
――シュゥゥゥン……
「シグナムさん?」
「此処でお別れだ、高町。」
私達守護騎士は、書から切り離されたとは言え、完全に自由な存在と言う訳では無い……書から切り離された事で、人並ではある
が、寿命と言うモノを得たからな。
私は大分長く生きたが、其れも此処までだ――だが、お前の同期も私で最後だから、私が逝けばお前も逝ける……逝ったら、真っ
先にテスタロッサと趙雲に会いに行ってやれ……きっと、寂しがっているだろうからな。
「そうですねぇ……趙雲さんもフェイトちゃんも随分と待たせちゃったから、そろそろ逝ってあげないと……ふふ、またあの世で会いま
しょう、シグナムさん。」
「ふ、私とお前が同じあの世に行けるとは思わないがな。」
幾度となく世界を救ったお前は天国に、夜天が闇となっていた時代に許されざる罪を背負った私は地獄行きだろうからな。――だが
私は天国よりも地獄の方が合っている。
『鬼』が跋扈する地獄の方がな。
討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務124
『新たなる物語~討鬼伝2~』
――アインスがウタカタに現れるより8年前
……何やら、懐かしい夢を見ていた気がするな――アレは、私の失われた記憶の一部なのだろうか?……分からない――恐らくは
九葉に聞いても明確な答えは得られまい……九葉と会ったその時に、私は記憶の大半を失っていた訳だからね。
何も分からずにこの場所に来て、九葉に進められるがままにモノノフになった訳なのだが――時折見る失われた記憶と思われるモ
ノは気になるな。
あれは本当に私の記憶なのか、それともただの夢なのか……考えても、答えは出ないのだがな。
「考え事かシグナムよ?」
「九葉か。」
考え事かと聞かれればそうなんだろうな……私が一体何者なのかを考えていた――名前以外のありとあらゆる事を忘れている等と
言うのは、普通ならば有り得ん事だからな。
ガラではないが、自分が何者であるのか少し考えてしまってね。
「そんな事か……お前はお前であり、それ以上でもそれ以下でもない。
記憶を失ってはいるが、幸いにして名前だけは残っているのだ……ならば、今はその名をもってモノノフの任に当たれ。
そして、その中で新たな自分自身を確立して行けばいいだけの事だ。」
「記憶が無いのならば、新たな自分を、か。」
確かに其の通りだな九葉。
私は自分が何者であるかも分かってはいないが、今、私はこうしてモノノフとして、お前の直属の部下として働いているんだ……其
れこそが、今の私其の物だったな。
記憶がない所をお前に拾われて数年経つが、今ではモノノフとして様々な事を体験して来たから、それ等の思い出が私の新たな記
憶となっているからね。
記憶を取り戻す術が分からないのならば、新たな記憶で己を確立する……至言だな。
――カンカン!カンカン!!
っと、此れは『鬼』が現れた事を告げる鐘の音……九葉!!
「みなまで言うな、直ぐに出撃しろシグナム。
『鬼』が現れたのは、横浜との事……其れも、かつてない程の規模で現れた様だ。――行け、シグナム!『鬼』を討ってこい!!
「あぁ、言われるまでもない!!」
「全特務隊に通達、これより『横浜防衛作戦』を発動する。」
此れまでとは比べものにならない規模で『鬼』が現れたと言うのは気になるが、『鬼』が現れた以上、モノノフとして捨ておく事は出来
まい……人の世界を脅かす『鬼』は、一匹たりとも生かしてはおけないからな。
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此れは……酷いな?
私達が到着した時には、既に横浜の街は、鬼が跋扈する『地獄』と化していた……しかも、ガキやササガニの様な小型の『鬼』だけ
でなく、カゼキリの様な大型の『鬼』まで出てくるとは!!
人の世と、鬼の世界は大雑把な網の様なモノで仕切られている故に、その網の目を通る事の出来ない大型の『鬼』は、余程の好条
件が揃わない限り人の世に出てくる事は無いと言うのに、カゼキリにミフチにクエヤマ……大型の『鬼』が此処まで出てくるとは!!
『キシャァァァァァァァ!!!』
『ガァァァァァァァァァァァ!!!』
『ゴォォォォォォォォォ!!!』
大型の『鬼』3体と言うのは些か厳しい物が有るが、九葉直属の特務隊は、モノノフの中でも選び抜かれた精鋭の集まりだから、苦
戦はしても負ける事は無いだろう。
私とて、仲間内では『特務隊最強』と言われているから、やられてやるつもりはないしな。
それにしても酷い、酷過ぎる――!!
何の罪もない人達を、殺戮本能の赴くままに好き勝手に殺して……絶対に許さんぞ、貴様等!!
「市街の鬼を排除し、防衛線を押し上げろ。
人の世は、滅びの縁にある――救えるのは、お前達モノノフだけだ。
無駄死には許さん。一匹でも多く『鬼』を討て!」
『本部より特務隊、千里眼による索敵を開始。
街路に多数の餓鬼を確認。殲滅し、退路を確保せよ。』
言われずともやっている!
ガキか……手練れのモノノフとしては、刃を振るうのも面倒になるくらいの雑魚だが、キッチリ仕留めておかねば後々に面倒なので
な、此処で散れ!
「火竜一閃!!」
――バババババババババ!!!
一瞬極滅だ。
『鬼』の骸は、瘴気の発生源になるから、確りと鬼祓いで祓っておかねばな。
この程度ならば、大した事はない――ミフチとカゼキリとクエヤマも、特務隊ならば撃破出来る『鬼』だからな……だが、何故か此れ
で終わるとは思えない。
今まで出て来た『鬼』は言うなれば、前座のような気がしてならないのだが……
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
『ゴワァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
「予感的中か!!」
「全隊員に通達。『象の鼻』付近に強大な『鬼』が出現した。
対象をシンラゴウと呼称する。総力を挙げて、此れを撃破しろ。」
シンラゴウ……其れがこの『鬼』の名前か。
この体躯からして、ミフチやカゼキリとは格が違う……最低でも指揮官クラス、数える程しか戦った事は無いが、ゴウエンマに匹敵す
るか、それ以上の力を持っているのは間違いないだろう。
上等だ、貴様を討って横浜の街を取り戻す!!
既に十分な闘気は貯蔵出来ているのでな……喰らえ、鬼千切り!!
――バガァァァァァァァァン!!
『部位破壊を確認。一気に集中攻撃をかけよ。』
「了解だ!舞え、陣風!!」
――ドドドドドドドドドドド!!!
――バシュン
って、陣風が当たる直前に、シンラゴウが消えただと?……逃げた、のか?
「如何した、何があった?」
「九葉?何時の間に……」
「……何の不思議がある?戦場で兵を指揮をするのが私の役目だ。シグナムよ、シンラゴウは如何した?」
分からない。
鬼千切りで足を破壊してやったが、直後にこの場から居なくなってしまった……理由は分からない。
「この場から消えた……という事か。
解せんな……足を破壊されたとは言え、圧倒的に優位な状況で何故……警戒を怠るな……また何処から現れるか分からん。
いずれにしろ港は抑えた。全員、よくやった――ここを拠点に、鬼を迎え撃つ!」
「其れは良いが、敵の数は?」
「数限りない……地平線を埋め尽くす程にな。
北の地は既に落ちた、此処で奴等の南下を食い止める。たとえどんな犠牲を払っても。」
く……北の地は滅びてしまったのか……だが、なればこそこれ以上の侵攻を許してはならない!此処を死守せねばだ!!!
って、何だあれは?
雲の中から現れたあれは、龍?
いや、其れよりも、あれが現れた途端に空に穴が開き、私の事を吸い込もうとしている?……く……ダメだ、耐えられん!!
――キュゴォォォォォォォォ!!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「シグナム!!」
九葉!!
あ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
――――――
Side:???
ん、何だコイツ?
おい博士、妙な奴が倒れてるぜ?
「ん?……帰るぞ、そいつはお前がおぶってやれ。」
「って、俺かよ!!」
まったく、面倒事ばかり押し付けやがって。
しかしコイツ、若しかしてモノノフか?勇者の勘が、只者じゃねぇって告げてやがる――コイツは、少しばかり面白い事になりそうだ。
――――――
Side:アインス
「?」
「ん、如何したアインス?」
「いや……」
なんだろう、懐かしい気配を感じた気がするぞ、ウタカタからずっと離れた場所で……この気配は、若しかして将か?――まさか、お
前も私と同様にこの世界に来たと言うのか?
イズチカナタを討って2年、ソコソコ平和な時間が続いたが、お前がこの世界に来たと言うのならば、束の間の平和は終わりか。
烈火の将たるお前がこの世界に来たのならば、其れは即ち、この世界での戦いが激化した事の証だと言えるからね。
如何やら、新たな物語が幕を開けた様だな。
To Be Continued… 
おまけ:本日の禊場
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