Side:梓


という訳でやって来ました『戦』の領域。
大量発生という事である程度の覚悟はしていたが、此れは大量発生どころの騒ぎじゃないだろう?完全にササガニが地面を覆いつくしている
じゃないか……何とも、見た目が気持ち悪い事この上ないな此れは。

「あまりにも気持ち悪いので、集束砲ぶっ放して全滅させても良いか富嶽?」

「やめとけや……テメェのアレは確かに強力だが、鬼以外のモンもぶっ壊しちまって要らない被害出しそうだからな?
 てか、アレを使わずとも、テメェの実力ならこんな雑魚の集団なんざ楽勝だろ梓?
 こう見えて、俺はテメェを買ってんだぜぇ?――失望させくれんじゃねぇぞオイ?」

「富嶽……ならば、応えねばな。」

確かに、生理的嫌悪感を度外視して考えれば、コイツ等は態々集束砲を使うまでもない雑魚だ――其れこそ、オヤッさんの業物の錆にもなら
ない程度のな。

なれば、コイツ等は私達の進行の妨げにすらならないな……一匹残らず狩り倒して、そして目標のミフチ目指して一直線だ!!
今回は、何秒でミフチを葬る事が出来るのか――最短記録も樹立したいからな。



「何秒!?何分じゃなくて!?」

「秒だな。あの程度の鬼ならば、即秒殺だ。」

「嘘でしょ……因みに、此れまでの最短記録は?」

「18秒。」

「「マジか!?」」



マジだ――多少薄らデカくて糞力はあるようだが、ミフチ程度は私の敵ではないさ。其れこそ、おやっさの業物の試し斬りの相手でしかないの
でね……徹底的に叩き潰すだけだ。













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務12
『新たなモノノフ:参上、忍者速鳥!』











とは言え、こうも進路上に小型の鬼が居ると言うのはウザったい事この上ないな?如何に負ける事は無いとは言え、倒した端から現れると言
うのは、ハッキリ言って面倒な事この上ない……大人く地獄で寝てろ雑魚が!!


――ガスゥ!!


「見事な踵落としだなオイ……テメェ、剣術だけじゃなく、体術も一流みてぇだな?マッタク持って大したモンじゃねぇか?
 其れ位の腕前なら、背中を任せるに足りるってモンだ――後は任せたぜ梓!!」

「了解だ!」

どれだけの鬼が来ようとも、お前の背中は任されたよ富嶽。――互いに背中を任せられる仲間が居ると言うのは、実に頼もしい事だからな♪
しかし、それにしても数が多いな?苦戦する相手ではないのだけれどね――しかしだ、ササガニと言う名前なのに、見た目は異常に成長し過
ぎた蜘蛛って言うのは如何なんだ?
少なくとも私には、何処をどう見ても此れが蟹には見えない!何よりも、クリームコロッケにしたところで物凄く不味そうだからな……此れは、
蟹ではなく蜘蛛だ!ササガニから、ササグモへの改名を求める!!



「そう言われても……其れは流石にどうにもならないでしょ?
 鬼の名前って、霊山が決めるらしいから、此処でアタシ達が彼是言ったって始まらないわ――とにかく今は、目の前の敵を倒さないと!!」

「其れは……そうだな、初穂。」

ササガニはマダマダ沢山いるから、これら全てを駆除せねばならないからね。……面倒くさいから、この区域は一気に終わらせるか。
彼方より来たれヤドリギの枝、銀月の槍となりて撃ち貫け――石化の槍、ミストルティン!!


――ドドドドドドドドドドドド!!!

――カッチーン!



「うおぉぉ、何だこりゃぁ!?……梓、テメェ何しやがった?」

「ササガニが、カチコチの石になっちゃってる……此れも魔法って言うやつなの?」

「左様、此れも魔法だ。
 貫いた相手を強制的に石にして動きを封じる石化魔法と言う物だ……あまりにも凄まじい再生能力をもって居る相手でもない限りは、必殺
 の一撃だろう。尤も、大型鬼に限って言えば、表層生命力を石化させて剥がす事しか出来ないだろうけれど…」

「いや、其れでも充分だろこりゃ。」



集束砲の様な派手さは無いが、此れは此れで中々使える魔法ではあるからね?……バリエーションで貫いた相手を氷結させたり燃やしたり
するのを作ってもいいかもな?或は、毒を食らわせたり、腐食させたり……いっそ風化させて一撃必殺と言うのもアリかも知れない。

取り敢えず、この区域は制圧したから次行こう次。ハッキリ言って、巨大蜘蛛などあまり見て居たくはないんだ……さっさと終わらせて帰ろう。



「賛成ーー!って、此れはまたウジャウジャ出て来たわねぇ?覚悟なさい!」

「ったく、態々狩られる為にご苦労なこった!!」

「富嶽の言う通りだな。大人しくして居れば長生きできたモノを、態々自らの天敵を呼び寄せるような事をしてしまったのでは笑えないぞ。
 所詮は蜘蛛故に、脳味噌のレベルも蜘蛛と大差ないのかもしれんから、そんな事は考えられないのだろうがな。」


――斬!!×沢山

――バラバラ……×一杯



ササガニの切り落としの出来上がりだ……此処まで細切れにすると、元が何だったのか分からないから、普通に細切れ肉として売れそうだ。
原材料はタダだから、グラム100円で売ってもぼろ儲けだな――消費者から、食べたらお腹を下したと苦情が入るかも知れないが……取り
敢えず、バカな事言ってないで祓っておくか。


「他愛ねぇなぁ?マッタク準備運動にもならないぜぇ?
 俺や梓は兎も角として、このお子様に良いようにやられてるようじゃ、高が知れてるなオイ!」

「ムキー!誰がお子様よ、この筋肉バカ!!」

「あぁん?誰が馬鹿だ誰が!!」

「ふん、アンタ以外に誰が居る訳?」

「よっしゃ上等だ、買ったぜその喧嘩!里に戻ったら、覚悟しとけや!!」



あ~~~……仲が良いのは結構だが、此処は戦場だからな一応。相手が雑魚でも戦場だという事を忘れないでくれよ?
其れに、此処を制圧したら、次はいよいよミフチが居るとされていた区画だろう?……気を抜かずに行こう。其れから初穂、富嶽は別にお前を
馬鹿にした訳じゃないと思うぞ?
どうしても、私達3人の中では、君が一番年下で実力が下に見られるのは仕方がない事だろうが……そう思って居た相手に対して、君が一
発食らわしたら面食らうモノだ。
詰まる所、さっきの富嶽のセリフは要約すると『舐めてた相手に簡単にやられてるようじゃ、雑魚にも失礼だなこのクズ野郎』って言う所だ。



「そうなの?」

「知るか、テメェで考えな。――でもまぁ、気に障ったってんなら悪かったな。」

「え?……ま、まぁ分かったなら良いわ。私はお姉さんだから、許してあげるわよ。
 私の方こそ、筋肉バカって言って悪かったわよ。――君の場合は、筋肉バカじゃなくて、馬鹿力だったわね。」

「ハッ、そっちなら褒め言葉だぜ。」



何と言うか……富嶽も初穂も、中々サバサバした性格をしているね。
さてと、仲直り出来たところでミフチを――って、何だと?


――ズゥゥゥン……


既に、倒されている……だと?
ミフチの亡骸の上の忍者――此れは、君がやったのか?……だとしたら大した物だ――少なくとも、並のモノノフではないのだろうな彼は。


「速鳥、テメェ俺の獲物とりやがったな?」

「信じられない……此れ1人で倒したの?……梓がやったって言うのなら、納得しちゃうんだけど……」

「……モノノフたる者の任務を果たしたまで。」


――ザッザッザ……


行ってしまったか……彼もウタカタのモノノフなのか富嶽?



「あぁ、そうだ。名前は速鳥っつーんだが、正直良く分からねぇ奴でな?
 大和の命令を受けて俺達とは別行動をしてる事が多いから、多分里の最古参である桜花でも、一緒の任務に就いたのは片手で足りる程な
 んじゃねぇか?……マッタク訳の分からんやつだってな。
 しかしまぁ、コイツはとんだ骨折り損だぜ、なぁ?」

「くたびれ儲けでは無いだけマシだよ。
 其れにミフチは狩りそびれたが、異常発生したササガニは全て駆逐したんだ、其れだけでも良しとしておこう。
 何よりも、大型鬼は倒されたんだ――ならば、それを成したのが誰であるかなどは些細な問題じゃないか?取り敢えずは、里の安全を守れ
 たのだからね。」

「言われてみれば、そう言う考え方も出来るわよね?」

「ま、そう言う事で手打ちにしとくか。」



そうしよう。――さて、里に戻ろうか。








――――――








Side:大和


「お頭、戻りました。」



速鳥か。首尾は如何だ?



「はっ。敵の『頭』を抑えるまでには、まだ……ですが、指揮系統が存在するのは確か。
 下位の『鬼』から上位の『鬼』に繋がる糸――今は、其れを辿っています。」

「分かった。引き続き、『鬼』の行動を監視しろ。」

「御意。」

「苦労を掛けるな。」

オオマガドキから、もう八年か……間違いなく何かが起きているのは確実だな。
鬼の行動の活発化に、それに合わせるかのように現れた、規格外のモノノフである梓――何か途轍もない事が起きると言うのか?オオマガ
ドキを超えるような何かが……まさか、な。








――――――








Side:梓


ふぅ、任務を終えて一段落――矢張り家は落ち着くな……と、そう思ったんだが、何故いる、さっきの忍者?



「御免、少し宜しいか?」

「今更良いも悪いもないんだが……何か用か?あ、此処は忍者特有の挨拶をすべきなのか?」

「……忍者特有の挨拶?其れは一体……」


確か、こう手を胸の前でパンと合わせて、そしてお辞儀をして……ドーモ、ハジメマシテ!ハヤトリ=サン!リインフォースアズサデス!!
とこんな感じだ。



「面妖な……拙者はそのような挨拶は知らぬ。」

「だろうな。所詮は主が読んでいた漫画の世界の事だからな。」

「?」


いや、気にしないでくれ。――其れで、私に何か用か?


「いや、先だっての任務では、無駄足を踏ませた……許されよ。」

「なんだ、其の事ならば気にするな。
 確かにミフチは討ちとられてしまったが、異常発生したササガニは全て駆逐できたんだから、無駄足でもない――私もお前も、モノノフの任
 を果たしただけなのだから。」

「ならば安堵した。――序と思って片付けたが、間が悪かったようだ。
 既に名は知られたようだが、自分は速鳥。お頭から、貴殿に挨拶するように言いつかった。」



其れはご丁寧にどうも……リインフォース梓だ。梓と呼んでくれ。
キミも里のモノノフならば、此れからは仲間だな――一緒に任務に就く事もあるだろうから、その時は宜しく頼むよ速鳥。



「無論。――忍び、いや、モノノフたる者の任を果たす……其れが自分の存在理由。以後、宜しくお願いする。」



あぁ、此方こそな。
っとそうだ、なはと、おみやげに団子を買って来たぞ?好きだろう、団子?


『キュイ~~♪』

「む?此れは……天狐!くっ……なんと愛らしい……」

「…如何かしたか速鳥?」

「………!!いや、なんでもない。――自分は自分の任を果たす。貴殿も己の任を果たせ……では、御免。」



……若しかして、速鳥は動物が好きなのかな?
ふむ、そうであるのならば、なはとよ、私の留守中に速鳥が来た場合には、存分に持て成してやってくれ――そうすれば、きっと喜んでくれる
と思うからね。頼めるか?


『きゅい~~~ん♪』



よしよし、いい子だな。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



其れから数日……任務は幾らか熟したが、大型鬼の襲撃が無いと言うのが気掛かりだな?嵐の前の静けさでなければいいのだが。
とりあえず今日も任務をこなして戻って来たばかりなのだが……そうだと言うのに、何用なんだ大和?



「戻ってきて早々すまないが、近々節分なのは知っているか?」

「其れはまぁ知っているが、其れがなにか?」

「季節の節には『鬼』が現れると言われていてな……その厄払いをする習わしになっている。
 当日は任務を受けないのが決まりでな、皆で集まり、無病息災を祈る――先憂後楽だ。今の内に周囲の『鬼』を掃除しておけ。」

「あぁ、其れならば問題ない。さっきクエヤマを倒して来たし、今し方ガキを100体ほど葬って来たからな。」

「そうか……任務は順調のようだな。」

「ふっふ~ん。私達にかかればこんなものね。」

「フ……だが、まだまだだ。」

「ムカ。大和のくせに偉そうに。『初姉』『初姉』って言いながらついて来たのは誰だったかしら?」



いや、里のお頭なんだから実際偉いだろうに――というか、一体何の話だ?



「あ……な、何でもないの!気にしないで!」

「そう言われると余計に気になるんだが……詮索されたくないのならば深入りはしない――時に、節分が如何とか言ってなかったか?」

「そ、そうそう!アレ結構楽しいのよね。『鬼は内、福は外』って。」



ん?『鬼は外、福は内』じゃなかったか?
主はそう言って豆撒きをしていたおもうのだが……鬼は内と言うのは、一体如何言う事だ?



「え?」

「確かに、『鬼は内』と言うのは、あまり聞いた事がありませんが……。」

「だ、だって私達はモノノフでしょ?厄災を引き受けるから『鬼は内』。幸せを他の人にあげるから『福は外』……違うの?」



ふむ……あながち間違いではないように思えるが――その辺は如何なんだ大和?



「……確かに、初穂が正しいが、だが其れは昔の話だ。
 この40年で、モノノフは外界から多くの人々を受け入れた――その時に、外の習わしに合わせた事にしたモノが幾つかある。
 だから今は『鬼は外、福は内』が正しい。」

「そ、そんなのオカシイ。だって私が居た頃は……私が居た頃は……」



初穂、如何した?……気分でも悪いのか?



「……ゴメン、変な事言っちゃったみたい――そうよね、40年も経てば変わるわよね。私……先に帰るね。」



あ、オイ……行ってしまったか。
大和、初穂は一体如何したんだ?何か、物凄いショックを受けたようだったが……アレは、ただ事ではないという事位は分かるぞ私にだって。



「……梓、お前は初穂と親しいな?――スマンが初穂を頼む。俺では役に立てん。」

「如何言う事だ?」

「……話は初穂に聞いてくれ――頼んだぞ。」



了解だ。お頭直々の命とあっては、断る事も出来ないからな。
初穂が一体何を抱えているかは知らないが、それでも誰かに話をする事で、其れが少し楽になるという事はあるからね……私にそれが出来
たら、其れはとても嬉しい事だよ。
壊す事しか出来なかった私が、誰かの心を軽く出来たという事なのだから。



だが、この時は想像もしていなかったよ――まさか初穂が、ともすれば私よりも重い運命を背負っていたなどという事はな……













 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



任務が終わったら禊だ。そして任務の前にも禊だ――そして、最近は誰かと禊場でエンカウントするのはお約束だ。



「奇遇でございますね、梓様。」

「あぁ、そうだな。」

今日は那木が居た。
そして、うっかり那木に『禊の効用』に付いて聞いたのが運の尽きだった――と言うか、己の迂闊さを本気で呪いたかったよ此れは流石に。



「其れでは説明いたしましょう~~……」



まさか、男女の時間交代の時まで延々と説明される羽目になるとは思っていなかったからね……マッタク、身体がふやけてしまう所だったよ。
因みに、この事を富嶽に話したら、『根性あんなテメェ』と褒められた。

それ程のレベルなんだな、那木の長説明と言う物は――何と言うか、精神力が鍛えられた気分だったよ。