Side:梓


いよいよ橘花の出番か……巫女の千里眼とは、如何程の物か見せて貰うとしようか?



「神垣の巫女の御登場か……この機会に、是非お近づきになりたいね。」

「キミ、ホントに見境ないわね。」

「安心しろ、お子様には興味ない。」

「誰がお子様よ、此のスカタン!!」



やれやれ……その辺にしておけよ息吹も初穂も。
息吹の言う事も大概だが、初穂は一々反応し過ぎだ。『お姉さん』を自称するなら、この程度の事は黙って聞き流せ――何よりも、息吹の軽口
に一々反応していたら、大凡身が持たないからな?
あぁ言う軽薄男の言う事は、話半分に聞いて適当に流すのが上策だ。



「……アンタ、サラッと毒吐くよな?」

「言葉の毒で済んでるんだから可愛いものだろ息吹?
 私の知り合いにはなぁ、如何言う訳か説明書通りに料理をしたにもかかわらず、この世の物とは思えない毒物・劇物を精製する奴がいたか
 らな……アレに比べれば、言葉の毒などな……」

「……アンタ、個性的な仲間が居たんだな。」



それはもうな。――尤も、ウタカタで得た仲間も、大分個性的であるとは思うけれどね。
それはさておき、橘花は私達が持ち帰った鬼の欠片から一体何を読み取るのか……先ずは其れに注目しないとだな。













討鬼伝×リリカルなのは~鬼討つ夜天~ 任務11
『囮任務の成果・指揮官の存在』











「態々すまんな、お前に読んでもらいたいものがある――ここしばらく、俺達を襲撃している『鬼』の一部だ。
 『鬼』の残留思念……読めるか?」

「やってみましょう。
 …………科戸の風の、天の八重雲を吹き放つの如く 朝の御霧、木綿の御霧を朝風、夕風の吹き払ふ事の如く、祓い給ひ、清め給へ……」


――キィィィン…


此れは……橘花が祝詞を上げた途端に凄まじい力が働いたな?
私達が持ち帰った鬼の破片から、其処に残った残留思念を読み取っているのだろうが、それだけでこれほどまでの力を発揮するとは……橘
花の力は、魔導師ランクAAA+は堅いだろうな。



「……微かな、思念の残り香を感じます――命令、束縛、強制……その思念の先に、力強い存在を感じます。
 此処より東に九里、いえ十里……其処に、何かが……うっ……くっ……!すみません、これ以上は……」



お、オイ、大丈夫か橘花!大分消耗しているみたいだが……それ程までに、鬼の残留思念を読み取ると言うのは、大変な事だという事か。
少し私の魔力を分けてやる。此れで少しは、楽になる筈だ。



「梓さん…ありがとうございます。――お頭、今の私では、此れが限界です。」

「いや、充分だ。寧ろ、負担をかけてすまなかったな。」

「いいえ……お気になさらずに。」

「何度見ても、大した力だ。」

「矢張り、頭が居るか……」



橘花の負担は相当だったのは間違いないが、それに見合う情報を得る事は出来たんじゃないか?
正体ははっきりしないが、橘花が読み取った思念の中に『命令』と『強制』と言うのが有った事を考えると、鬼を指揮する『頭』……指揮官の様
な『鬼』が存在しているかもしれない訳だからね――そうだろう、大和?



「あぁ、何処かに『鬼』の指揮官が居る。そいつを見つけ出して討つ――今の状況を終わらせるには其れしかない。
 だが……今は休め。次なる戦いに、勝つ為にな。俺からは以上だ。」


確かに休息は大事だから、次の戦いに備えて確りと英気を養うとしよう。――疲れ果てて、鬼にやられましたなどと言うのは笑えないからね。
そして、其れは君もだぞ橘花?
私の魔力を分けてやったとは言え、可成り消耗している筈だから、ゆっくり休むと良い。



「梓さん…はい、そうします。」

「なんだ、2人とも既に知り合いだったのか?」



桜花か。
まぁ、ちょっとした縁でね――そうだ、良い機会だから聞いておきたいのだが、橘花は君の妹なのか桜花?何処となく似ているから、そうでは
ないのかと思うんだが…



「ん?言って居なかったか?橘花は私の妹だ。」

「矢張りそうだったのか――髪と目の色は違うが、よく似ているよ。一目で姉妹と分かる位にはね。」

「そうか?そう言われると嬉しいな。
 神垣の巫女は、『鬼』の影響を排除する結界を作り出せる唯一の存在だ――人の世を守る要、神聖不可侵の存在。
 本来ならば岩屋戸に閉じ込められ、自由に外出も許されん身だ――もっとも、此処では関係ない事だがな。」



其れはまた何とも不自由な事だな?
だがウタカタではその限りではないという事は、大和が上手く取り計らって、神垣の巫女の不自由さを取り払ったという事か……マッタク持って
大和は里を纏めるお頭の鏡のような人だな?
心の底から、尊敬に値すると思えるよ。



「……俺は、堅苦しいのが苦手でな――其れだけの事だ。
 それに……理解者にも恵まれて居る様だ。……橘花、引き続き、里の守りを頼む。」

「お任せ下さい、お頭。」

「お前達もな、桜花、梓。この先の戦いに備えておけ――容易ならざる相手かも知れんからな……里を死守する覚悟で頼むぞ。」

「「了解。」」


鬼の指揮官と言うのは、恐らく途轍もない力を秘めた大型鬼だろう――それこそ、ミフチ、カゼキリ、クエヤマなどは足元にも及ばない位の力を
有した存在であるのは間違いない。
だが、逆に言うのならば、その指揮官を倒してさえしまえば、鬼の侵攻をある程度抑える事が出来る筈だからな……必ずや見つけ出して、ソイ
ツを討たねばだな。



「あぁ、気を引き締めて行こう。
 ……そう言えば、君に聞きたい事があったんだ梓。先程の戦いで、クエヤマを葬ったあの技は一体何なんだ?最も近いのは魂のタマフリな
 んだが、少なくとも息吹があんな技を使ったのは見た事がない。
 若しかして、君が独自に編み出した技なのか?」

「桜花には、まだ説明していなかったな――アレは『魔法』と言う物でね、日本で言う所の『陰陽道』や『妖術』の様な物だと思ってくれ。
 元々使えていたモノだったんだが、モノノフとなった時に一時的に力が封印されていたみたいだったんだが、安倍晴明のミタマが再び魔法を
 使えるようにしてくれたみたいなんだ。」

実際、此方に来た時に使えなくなっていたのだから、嘘は言って居ないな嘘は。

其れから先の技に関しては、私が編み出した物ではなくて、知り合いの魔法を使える9歳の少女が編み出したもので、私は其れを模倣したに
過ぎないよ――あの子は私の半分の時間で倍の威力の一撃を放つことが出来るからね。



「……君も大概人間離れしていると思ったが、僅か9歳であれ以上の技を使えるとは、その女の子も大概人間離れしているな……?」

「私の古い友は、そのあまりの強さに彼女の事を『悪魔』と称したからね……」

9歳でアレだとすると、大人になったら如何程なのか……若しかしたら、ベルカの覇王や聖王、冥王をも凌駕する存在になるのかもな。

さてと……鬼の指揮官とやらが見つかるまでは此れと言った御役目は無いみたいだから、少しゆっくりしておくか。
囮作戦で、何度も出撃した上に、先程のクエヤマ戦は少々悪乗りしてやり過ぎてしまったからね……集束砲は兎も角として、格闘ゲームの技
は、調子に乗り過ぎたなウン。
取り敢えず、戦の領域で手に入れた素材と、ギリギリ残ってたクエヤマの骸を払って手に入れた素材でオヤッさんに新たな武器を作って貰うと
するか。迅嵐の使い勝手の良さも報告しておきたいからな。


と言う訳で、ただいまオヤッさん。任務を終えて戻って来たぞ。



「おぉ、無事戻って来たか梓。どうでぇ、新しく作ってやった打ち刀の使い心地は?」

「実に素晴らしいものだった――まるで、長年使って来た得物のように手に馴染んだよ。
 加えて、今回の相手は地属性のクエヤマだったから、風属性の迅嵐が抜群の効果を発揮してくれた――オヤッさんの作ってくれた刀は、私
 にとって最高の武器だよ。」

「そいつぁ良かった。そう言ってもらえりゃ職人冥利に尽きるってモンだ――で、また何か作ってほしいんだろうお前さんは?」



はは、お見通しか。
さっきの任務で手に入れたクエヤマの鬼素材とその他戦の領域の素材なんだが、此れで地属性の打ち刀を作る事は出来ないかオヤッさん?



「ドレ……ふむ、コイツは中々上等な素材だな?
 此れなら、良い刀が出来そうだ――ちょいと待ってろ。」



――カン!カン!!





――オヤッさん作業中に付きちょっと待っててくれ。……うん、刀が出来る工程は見て居るだけでも楽しいものだな。








「ほれ、出来たぞ。地属性の打ち刀『地裂斬』だ。」



出来たか……此れもまた見事な業物だな?
赤銅の如き輝きの赤茶の刀身は勿論だが、其れを納める鞘もまたかなり凝った作りだ――思えば無属性の闇払いの鞘が白で、水属性の霞
斬りの鞘は蒼、迅嵐は翠で、この地裂斬の鞘は黒……一目で属性が分かるようになっているからね。
その心遣いにも感謝だオヤッさん。今度、上等の酒を差し入れさせて貰うよ。――好きだろう、酒は?



「おぉよ、ソイツは嬉しい事言ってくれるじゃねぇか――この時期は星と月を肴に飲むのが最高だからな?期待してるぜ、梓よぉ。」

「まあ、差し入れられるかはよろず屋さん次第だけれどな。」

取り敢えず、此の打ち刀は有り難く頂戴するよオヤッさん。……此れで私も四刀流、後は炎と天の属性武器を手に入れれば、六刀流達成だ。
魔法も解禁されたから、全く持って負ける気がしないな。

さてとよろず屋でなはとの御飯でも買って行くか。
やぁ、何か新しいものは入荷したか?



「毎度どうも。
 新しい商品を入荷しましたよモノノフさん――此処だけの話、上物の酒と、舶来の酒を手に入れたんですけどどうですモノノフさん?」

「上物の酒はオヤッさんに差し入れるから買うとして、舶来の……輸入品の酒と言うのは興味があるから、両方を貰うとしようか?
 それと、『絢爛天狐膳』を1つ貰うとしようか。」

「まいどあり~~~!」



上物の酒は、即時オヤッさんに差し入れて……輸入品の酒は――此れは、最高級の英国スコッチじゃないか!
古代ベルカの時代から、嗜む程度に酒は知って居たが、まさか前の世界で知った最高級の逸品と此処で出会えるとはな……有り難く頂くとし
よう此れは。

「ただいまなはと、帰って来たぞ。」

『キュイ~~~♪』

「おっと……よしよし、お留守番ご苦労様だったな。ご褒美の『絢爛天狐膳』だ、遠慮なく食べてくれ。」

『キュ~~。』



ふふ、和むな天狐は。――で、お前は一体何をしてるんだ桜花?と言うか、何で此処に居る?鍵とかは無いから誰でも入る事は出来るが…



「勝手に入った事は侘びよう……てっきり帰っているモノだと思ったからね。
 まぁ、特に用があると言う訳じゃないんだが、君とは一度ゆっくりと過ごしてみたいと思っていたんだ――だから勝手ながら待たせて貰った。」

「其れは、ある意味で以心伝心だな桜花。
 私も、お前とは一度ゆっくり過ごしてみたいと思っていたんだ――基本的には戦場でしか一緒になる事は無かったからね。
 加えて、質に良いタイミングでよろず屋で舶来の最高級品の酒を手に入れたからな――折角だから、少し飲まないか?下戸じゃないだろ?」

「その誘いは受けねばだな。
 あまり飲む方ではないが、酒は嫌いじゃないからね――ふふ、一度友と酒を酌み交わしたいと思っていたのだが、其れが叶ったよ。」



なれば良かったよ。
酒の肴は……自家製の魚の燻製で良いか――保存食の心算で作ったんだが、結構塩っ毛があるから、酒の肴にはもってこいだ。

其れじゃあ、鬼を撃滅する事を願って――



「鬼を滅さんことを誓って――」


「「乾杯。」」


――コチン


うん、美味いな。改めて戦いの後の酒は最高だ――正に勝利の美酒と言うやつだからな。



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で、翌日。
鬼の指揮官は見つかってないが、里にと近付いて来る鬼達を処理する為に御役目を果たさねばま……ワイラ5体に、ミフチにカゼキリと、何れ
も中々に強力な鬼だったが、全く持って喰い足りない。

出来る事ならば、早い所鬼の司令官とやらとやり合いたい所だ――ガラにもなく血が滾っているのでね。

尤も、指揮官クラスの鬼を見つけるのは簡単ではないのだろうがな……橘花にかかる負担を考えれば尚の事だ。
この間橘花から聞いた話だと、千里眼だけでも相当の力を使うようだからね……橘花の負担を軽減する為にも、出来るだけ早く鬼の指揮官を
討たないとだな。

次の御役目まで、一先ず待機だ――って、如何した富嶽?



「テメェか……」

「如何した?何か元気がない様だが……らしくないな?」

「いや……ちっと昔の事を思い出しただけだ――そういやテメェ、巫女とは仲が良いのか?神垣の巫女だよ。
 他に誰が……って、樒が居たか。まぁ何でもいい――気を付けるこった……巫女は命を燃やして結界を張る。
 結界の負荷が増えれば、寿命も縮まる……下手すりゃあの世行きだ――守りたきゃ、『鬼』を絶対に里に近づけさせるな。
 ……どっかの間抜けの二の舞にはなるなよ。」



富嶽、其れは……いや、下手な詮索は野暮だったな――分かった、心に留めておくよ。
橘花に何かあったら私も悲しいし、何よりも桜花が誰よりも悲しむだろうからね……橘花は絶対に死なせない。彼女の負担を少しでも減らす為
にも、里に近付く鬼は1匹残らず駆逐してやる。



「その意気だ新入り……そんじゃまぁ、次の任務も頼むぜ?」

「任された――私の方も、お前の剛力を頼りにしているよ富嶽。」

さて、何時御役目が入るとも分からないから、取り敢えず本部で待機――って、アレは秋水?一体何をしているんだ?



「此れは梓さん……僕に気配を感じさせないとは、困った方です。
 其れだけ貴女が手練れなのだろうという事ですか……昨今の『鬼』の襲撃の増加、貴女は如何思いますか?」

「確かに増えているが、この程度ならば大した事はない――如何とでも対処出来る。」

「確かに、此の程度の襲撃なら防ぐことが出来るでしょう――ですが、今後もそうだと言いきれますか?」



其れは言い切れんが……そんなときの為に、我等モノノフは存在してるんじゃないか秋水?
我等モノノフは、里を守り、人を守るために鬼を討つ――その使命を全うする為に存在しているんだ。鬼がドレだけ存在するかは想像もつかな
いが、現れた端から片付けて行けば、何れは総元締めに大当たりだ。
その大元締めを討てば、それで全てにカタが付くだろうからね。



「その通りですが、里を確実に守るには、もっといい方法があると、僕は考えています――ですが具体的な事は秘密です。他言無用で。」



他言無用ね……果たして何を考えているのやら。
さてと、何か御役目は無いかな?



「よぉ、梓。」

「富嶽か……さっきぶりだな、如何した?」

「暇してそうじゃねぇか?ちょっと任務に付き合えよ。――ミフチ狩りだ、そろそろ慣れたもんだろ?」

「ササガニも一緒に大量発生してるらしいの。大和が今のうちに対処しとけって。」

「ま、そう言う事なんだが、流石にお子様と二人ってのはきつくてな――テメェと俺、どっちが強いか勝負と行こうぜ!」

「よし、その勝負乗った!」

「ハッ!そう来なくちゃな!――負けねぇぞ梓?」



私も負ける心算は無いよ富嶽。
ミフチ如きは今更相手でもないが、現れたと言うのならば撃滅せねばだからな――鬼の指揮官との前哨戦だ……精々足掻くと良いさミフチ!











 To Be Continued… 



おまけ:本日の禊場



で、出撃前に禊に来たんだが……



「あれ、アンタ……コイツは参ったね。」



異性の時間に来てた馬鹿が居た――さて息吹、何か言い残す事はあるか?ウタカタの戦力を下げる事は出来ないから殺しはしないが、取り
敢えず思い切りブッ飛ばしてやる。



「あんた、脱いでも凄いんだな?」

よく言った。ならば朽ち果てろ。


――バキィ!!!


「ぐはぁ!!」


取り敢えず、其のまま大人しくして居ろ……思った以上に、節操なしだな息吹は――此れが素なのか、或は演じているのかは分からながな。
なんにせよ、禊で力を得たから、ミフチ如きは瞬殺で間違いないな!!