交渉決裂、その結果は舞踏会会場のメンバーにも確り伝わっていた。
 同行者が3人だろうが、特別室内部の様子は和美のアーティファクトでとっくに筒抜けである。

 「交渉決裂!よっしゃ、ズラかるわよ皆!!」

 そして何故かこの場に居るハルナ。
 実は此れもトラップ。

 ネギに付いて行ったハルナは、ハルナ自身がアーティファクトで作り出した『簡易ゴーレム』。
 可也綿密に書き込み、設定まで作っているので本物と見分けが使いないほどの出来だったのだ。

 とは言え、内部の様子を見ていた面子の中には衝撃を受けている者も居る。
 アリアドネー乙女騎士団の面子などは正にその典型――ネギの両親の事を知れば当然とも思うが…

 「いや、此れはしかし…」

 「詮索はあとでござるよ、ユエ殿。今は脱出が先決にござる。」

 だが、詮索をしている暇は無い。
 こうなった以上は脱出最優先!指揮を執るのは楓と刹那の2人だ。

 「小太郎君と古は先生達を!」

 事前の打ち合わせ通りに事を進めて行く。
 流石はこの魔法世界でのサバイバルを経験したともなると成長具合も半端では無い。

 「待ちなさい、ソレには僕も同行しよう――かの総督とは旧知の間柄でね…」

 「む…貴方は…!」

 更に期せずして、頼れる助っ人が登場してくれたようだ。











 ネギま Story Of XX 99時間目
 『乱闘乱闘大乱闘!』











 特別室内部では即刻戦闘状態に陥っていた。
 元より交渉決裂はそのまま戦闘を意味する訳で、此れは当然の帰結だろう。

 「神鳴流奥義…斬魔剣・弐の太刀!!

 「下がれネギ!はぁぁぁ…同調・絶空!!」

 放たれた退魔の剣に対し、術式破壊技で対抗。
 ソレは見事に、弐の太刀を相殺!

 完璧なまでの迎撃だった。

 「おぉぉぉ…雷華崩拳!」

 その隙を突いてネギが必殺の拳打を一閃!
 ギリギリで避けられるも、そんな物も気にならない。

 現状『最強のタッグ』が結成されているのだから。


 避けたクルトに今度は稼津斗の鋭いとび蹴りが襲い来る。
 クルトにとってはなんとも旗色の悪い戦いだ。

 「小賢しい!!斬魔剣・弐之太刀…連斬!!」

 稼津斗とネギを同時に相手するのはキツイと悟ったのか、クルトは弐之太刀で乱舞攻撃。
 『見えない物を切る剣』の乱れ撃ちは流石に脅威だろう。

 如何に稼津斗がソレを相殺できるとは言え、稼津斗の同調は性質上『溜め』が短時間とは言え必要になる。
 故に引切り無しに乱舞されたのでは、幾らなんでも相殺限界が出てしまうのだ。

 それでも断空と絶空を使い分けて9割を相殺しているのは見事というべきだろう。

 が、クルトも流石に大戦期の勇士と言うべきだろうか?
 すぐさま稼津斗の技の『弱点』を見抜き、乱舞速度を上昇!

 兎に角常に攻撃の主導権を握っておこうと考えたのだろう。


 勿論ソレは間違いでは無い。
 常に攻勢に出ていれば、少なくともネギはガス欠に追い込めるだろう。

 だが、あくまでもソレは1vs1と言う限定状況においての話だ。

 現状は1vs2…しかもその2人は大会のトップ2。
 この魔法世界において最強のコンビであるのだ……だからこそガス欠は望めない。


 「成程な…略ノーチャージで撃てるのは厄介だが…ソレも此処までだ!同調・天空!!」

 稼津斗もまたクルトの狙いを察し、究極の術式破壊技を展開!
 ピンポイントでの狙いを捨てた、広域術式破壊。

 無論ネギは標的から外し、クルトの弐之太刀のみを消す広域攻撃だ。

 「!!馬鹿な!!」

 その効果は覿面!
 クルトの無数の不可視の刃が一瞬にして消え去ったのだ。

 同時に此れは絶好のチャンス。

 「千躰雷囮結界!…千磐破雷!!」

 生まれもっての絶対的な魔力量にモノを言わせた無数の魔力分身を使っての千磐破雷。
 ネギの攻撃も防御もクルトの神鳴流との相性は最悪に悪いが、魔力量だけならば遥かに上回る。

 ソレを利用して物量で押し切ろうという開き直った思い切りの良い攻撃だ。

 「小賢しい…斬魔剣・弐の太刀、百花繚ら……んん!?」

 ソレを迎撃しようとしたクルトの動きが止まった。
 見れば手足になにやら巻きついている。

 その正体は…

 「くけけけけ…つ〜かま〜えた〜〜〜。」

 ハルナ、基ハルナ型の簡易ゴーレムの『腕』と言うか殆ど『触手』。
 伸びに伸びたソレがクルトを完全拘束。

 更に!


 ――びにょ〜〜ん


 頭以外全部が伸びてクルトを簀巻き状態に。
 ハルナの頭部分だけ残して巻きついている様は殆どホラーであるが効果は抜群。

 早い話、戦闘になった際の武器としてハルナは簡易ゴーレムを同行させたのだ、見事である。


 「く、この…!!」

 如何にクルトと言えど全身拘束されては堪らない。
 おまけに外そうとすればするほど更に絞まると言うお約束の性能だから性質が悪い。

 「…チェックメイト。」

 「!!」

 「自分の愚かさを呪え…天地覇王拳!!」

 其処に稼津斗が必殺の正拳突き一閃!
 強烈な一撃でハルナゴーレム毎吹っ飛んだところに、無数のネギ突撃!


 一瞬の後に閃光と爆音!
 ソレはさながら1tのTNT火薬が爆発したが如く。


 「終りだ。」

 「…見事です2人とも…」

 「帰らせていただきます……母の話には感謝しますが――貴方の仲間にはなりません!」

 閃光が晴れると、ネギはクルトに馬乗りになって雷の槍を突きつけ、稼津斗もまた気で作った剣を突きつけている。
 ソレをギリギリとは言え野太刀で防いでいるクルトも矢張り侮れないが…

 「お前が何を知り、何故そんな考えに至ったかは知らないし知ろうとも思わない。
  が、抗う事もせずに最大公約数的な手段を選んだお前と組む事は出来ん。」

 「言ってくれますね……ですが本当にソレで良いのですか?
  稼津斗君は兎も角、ネギ君――君は私と組まなければ復讐の刃を振り下ろす事は出来ないのですよ?」

 戦況は決したが、それでもクルトはネギを誘う。
 いや、或いは試しているのだろうか?

 「僕は…復讐なんて考えてませんよ…」

 「果たしてそうでしょうか?…自分を偽るのは良くありません。」


 ――ズル…


 略同時だった。
 クルトの言葉に反応したように、ネギの腕の紋様が肥大化し、同時に闇の瘴気に包まれる。

 膨大な魔力行使が再び闇の魔法の暴走を引き起こしたのだ。
 尤も今回はネギも抗い暴走に喰われない様にしているが。

 「闇の魔法は不用意でしたねネギ君…幾ら言葉で飾ろうとも『ソレ』が君の本質だ!
  あの日君の心に巣食った復讐心は決して消える事などありはしない!!
  そして稼津斗君…君もまた自分を抑えきれないのではないですか?」

 更に矛先は稼津斗にも向かう。
 一見すれば稼津斗は平然としているように見えるが…

 「此れだけの戦いの空気を感じて、殺意の波動も暴走寸前でしょう?
  強固な意志のみで抑えているのには感服しますが……ソレでもギリギリだ。
  一度暴走すれば君は殺戮マシーンに成り果てる…そうなれば大切な人達を護るどころではない!!」

 「…だったら如何した?
  本よりこの力を俺1人で抑えきれるとは思っていない……ソレを抑えてくれるのが俺のパートナーでな。」

 「ふ…成程。だが、ネギ君は絶望的でしょう!
  さてネギ君、君は己の両親ならば諦めないと言いましたが、ならば何故かの英雄と王女は居ないのです!?
  何故君は1人で残され、今も1人で此処に居るのです!?」

 再び矛先はネギに。
 もう何もあったものでは無い、容赦なくネギの心を抉りかねない言葉を浴びせてくる。

 が、ネギは屈しない。
 闇の魔法の暴走に抗いながら、強い意思の篭った目でクルトを見据えている。

 「僕は1人じゃない…!カヅトが、コタロー君が……仲間が居ます!!
  それに、僕は……その他色々は放って置いて、両親の事は信じてる!」

 「ならば何故、世界の危機はそのままなのだ?彼等は失敗した、違いますか!?」

 「父さんと母さんが失敗したって言うなら…僕がその意志を継いで成功させるだけです。」

 不敵。
 ネギの意志は折れない、闇の力を身に宿してもその意志は折れ曲がらない。

 此れにはクルトも業を煮やす。
 反対に稼津斗は思わず笑いを漏らしてしまう。

 余に強いネギの意志と頑固さに感心したという所だろう。
 殺意の波動の暴走もすっかり押さえ込んだらしい。

 「お前の完全敗北だクルト・ゲーデル。
  ネギの意志は最早100tハンマーを持ってしても砕く事はできない。」

 「だからなんです?そうだとしても君達はこの空間から出る事は叶わない!
  この空間は君達の戦闘力を徹底的に分析して作っています、君達の攻撃では壊せません!
  そもそも闇に飲まれたネギ君では仲間どころか自分自身すら護れない、それで一体何ができると…」


 ――ピキ…


 言葉を遮るように異変が起きた。


 ――ピキピキピキ…バリィィィン!!


 「な!?」

 突然、幻想空間が崩壊したのだ。
 マッタクの予想外、少なくともクルトにとっては。

 稼津斗やネギが攻撃した様子は無い…ならば誰が?

 「誰が1人だってヘンタイ総督さんよ?
  1人じゃねぇから仲間ってんだ!そんで、1人じゃ出来ねぇ事成すために仲間が居る、そうだよな先生?」

 ソレを行ったのは千雨。
 己のアーティファクトで幻想空間を文字通り『解除』したらしい。
 見れば7体の電子精霊が意気揚々と任務達成を千雨に報告している。

 「馬鹿な!!そんな簡単に…!」

 「あ?電気か魔法かの違いだけで、基本的な構造はそこらの電子機器と大差ねぇだろ此れも。
  ソレだったら掌握するくらいは私には朝飯前なんだよ!No1ネットアイドル兼カリスマハッカーのちう様を舐めんなよ?

 完全に伏兵だった。
 寧ろ歯牙にもかけて居なかった少女によってこの空間が破られたのは予想外。

 「平和ボケの旧世界の女子中学生に総督府のセキュリティが!?…まさか…!!」

 「アンタの経験からすりゃ平和ボケかも知んないけど、生憎と麻帆良女子中等部3−Aは常時はっちゃけた日常送ってんのさ!
  序でに、最初から此処の状況は外に居る私等の仲間に筒抜けでね…くーちゃん、私の前方15m!」

 『らじゃアル!!』

 次いで和美が指を鳴らすと同時に、天上に亀裂が入って…


 ――バッガァァァン!!


 巨大な何かがクルトを粉滅!
 その巨大な何かは棍棒――かの如意禁錮棒のレプリカといわれるアーティファクト『神珍鉄自在棍』。

 「来たアルよ、ネギ坊主!!」

 クルトを吹き飛ばしたのはネギの体術の師である古菲。
 予想外の場所からの予想外の一撃は実に見事だ。

 更に…!


 ――ドガァァァアン!!


 「グヘェ!!」
 ――な…此れはまさか…!


 古菲に攻撃しようとしたクルトをバズーカの如き一発が!


 「「タカミチ!?」」

 「やぁ、久しぶりだね稼津斗君にネギ君。」

 最も予想外の高畑・T・タカミチ推参!
 古菲達に同行を申し出たのは彼だったのだ。

 「お前なら……此処は任せて良いかタカミチ?」

 「あぁ、彼とは旧友だからね…君達は早く脱出を。」

 今更状況を確認するまでもない。
 言葉は少ないが其処は歴戦の戦士である稼津斗とタカミチだ、態々言うまでもない。

 ましてタカミチならばこの場を預ける事になんら不安は無いのだ。

 だが、だからと言って『はいそうですか』と行かないのがこの面子。

 「のどか。」

 「はい!クルト・ゲーデルさん、さっきクルトさんが言った『理由』、『全ての人を助けられない理由』…
  この世界の秘密、最後の1ピースを教えてください!!」

 のどかがアーティファクトでクルトが語らなかった『真実の裏』を炙り出す。

 「OKです!!」

 此れにて全ての情報は得た。
 瞬間、一行は稼津斗の瞬間移動で離脱!

 奇しくも麻帆良でエヴァンジェリンが予想したとおりの結果と相成ってしまった。



 面白くないのはクルトだ。
 最後の最後で覆され、挙句には旧知の人間にまでブッ飛ばされる始末。

 「如何したクルト?若いの相手にボコボコじゃないか?」

 「黙れタカミチ…!!」

 十数年ぶりの再会は、どうやら激しいバトルとなるようである。








 ――――――








 会場に居た面子もハルナと千草の先導で宮殿のテラスへと来ていた。
 無論脱出のためだが、はっきり言ってこんな場所は宜しくない。

 ぶっちゃけ逃げ場がないのだ。
 尤も、追っ手が来たとてこの面子ならば問題なく返り討ちにできるが、非戦闘員的には即刻逃げたいが心理。

 「早く逃げようよ〜〜!!」

 「捕まっちゃうって〜〜!!」


 「心配なさんな、準備は出来てるから!」

 あくまでハルナは余裕綽々。
 逃げおおせる手段があるのだろうが…


 「動くな女ども!お前たちを拘束する、全員武器とカードを捨てろ!!」

 あっという間に総督府の騎士団に囲まれてしまった。
 その数100は下らないが、ハルナの余裕は消えはしない。

 「フッフッフ…飛んで火に入る夏の虫とはこの事ね…出番よ!」

 テラスの外に突如現れたのは飛空挺『グレートパル様号』。
 此れを使って逃げおおせようと言うのだ。

 「さよちゃん…やっておしまい。」

 「は〜〜い♪」

 更に更に、甲板に出たさよが、なにやら自動小銃の様な武器を構えたと同時に、大乱射!!
 魔法の射手の巻物をふんだんに使った絢爛豪華かつ破壊力抜群のマシンガンだ。

 引切り無しに攻撃されては騎士団とて堪らない。
 だが、彼等にも総督府を護る騎士としてのプライドがある。

 「捕獲術式弾用意!紫炎の捕らえ手、一斉掃射!!」

 捕獲用術式を凄まじい数で打ち出すが…相手が悪い。

 「無駄だ……遠き地にて深き闇に沈め、デアボリックエミッション!!」

 此方には最強の広域魔法使い、リインフォース・イクサが居る。
 彼女の前では大量の捕獲用術式魔法とてまるで意味を成さない。

 一撃の下全てが無効化されてしまう。

 そしてソレのみならず、楓の翡翠の高速投擲と裕奈の正確無比な射撃、更に刹那の神鳴流剣技と千草の式神が騎士団を圧倒。
 一切合切敵はなかった。


 だが、物事は如何してかスムーズには進んでくれない。
 容易に逃げおおせると思った瞬間――異変が起きた。

 「ちょ、何アレ!?」

 恐らくは増援であろうと思われる、新たな戦艦が現れたのだが、ソレに黒い触手が絡みつき動きを止めてしまったのだ。
 詳細は不明、ましてやハルナが召喚した簡易ゴーレムでもない。

 「此れは…!…って、ヤバイ!全速回避!!」

 「了解しました。」

 同じく今度はグレートパル様号に巨大な手が迫り、だがソレはギリギリで回避。
 変わりに巨大な手は今まで居たテラスを粉砕!

 テラスに残っていたメンバーはソレに巻き込まれて落下するが…ソレは楓と裕奈とリインフォースで見事に救出。
 だが、ソレとは別に――明らかになった手の持ち主に誰もが驚愕を禁じえなかった。



 ソレは普通なら考えられない大きさ。
 以前に京都に現れた『リョウメンスクナ』をも凌駕する巨体。
 グレートパル様号の20倍は下らないであろう、巨躯の魔物であった。

 幸いメンバーは全員無事だが、今の一撃でバラバラに分断されたのも事実。
 正直ありがたくない状況になってしまったのだ。

 「バラバラは不味いでござるな…しかし此れは……む!?」

 その時、楓が宮殿の一画に何かを見つけた。


 「!!あやつは…!」

 ソレは黒いローブを纏った人物。
 ゲートポート襲撃時に現れたフェイトの一味だった人物だ。

 そうなると自ずと答えは出る。
 この巨躯の魔物は、つまりフェイトの一味が召喚したと言うことになるのだ。


 「これ…ちっとやばそうだね?」

 「あぁ、招かれざる客が大量に現れてきたな…」

 おまけに地上戦型と思われる人間大の魔物がうじゃうじゃと大量に出現。
 此れだけの数となると、舞踏会会場の方に居る招待客にも被害が及びかねない。

 「何でこうなるかな〜〜!完全に想定外のイレギュラーよ!!
  しょうがない、プランBに変更!バラバラに逃げながら第二集合地点に向かって!そこで拾うわ!!」

 最早最初の予定通りに脱出する事は不可能。
 即座に二次プランに移行し、ハルナはソレを仲間に伝える。


 その間にもドンドン敵は沸いてくる。



 華やかな舞踏会の会場は、一転魔物が犇くパンデモニウムへと変貌。
 修羅場の戦場へとその姿を変えてしまったのだった。













  To Be Continued…