「俺がテメェ等に勝てねぇだと?」

 対峙するフェイトとセクスドゥムに、ラカンは訝しげな視線を送られずにはいられなかった。

 凄まじい力を誇る2人を相手にして尚ラカンの無敵・最強は揺るぐ事は無く、実際圧倒していた。
 其れこそ誰が如何見ても『ラカン優勢』と言う位に。


 だが、ソレでいても2人のアーウェルンクスに焦りも何も無い。
 只淡々と、『勝てない』という事を告げるのみ。

 「ジャック・ラカン、貴方は確かに強い…其れこそアノ『サウザントマスター』に匹敵するだろう。
  其の『強さ』を本物といって良いのかそれとも只のバグなのかは僕も彼女も分らない。」

 「だけどね…」


 ――ヒィィン…


 「む?」

 「私達は貴方の力に敬意を表するわ――ソレが幻であってもね。」

 そして、何時の間にか2人の手には巨大な『鍵』のような物が握られていた。











 ネギま Story Of XX 98時間目
 『FINAL ANSWER』











 果たしてソレはなんなのか?
 杖?それとも鍵?……正体はまるで分らない。

 ラカンもまたそれ故に攻め込みは…

 「らぁ!!」

 した。
 フェイトとセクスドゥムが僅かに動いた其の瞬間に一気に距離を詰めての右ストレート!

 無論ラカンとて何も考えないわけでは無い。
 だが、詮索する暇があるなら殴って倒した方が早いと思ったのだろう。

 何より此処で自分がやられたら、無関係な舞踏会の参加者にまでフェイト一味の魔の手が伸びる事は確実。
 それだけは何としても避けねばならなかった。

 「ちぃ、動き辛いぜ流石によ!!」

 邪魔とばかりに、タキシードを破り捨て上半身裸の状態に。
 同時にアーティファクトを展開し、両の手に剣を持って二刀流状態で切りかかる。

 だが、フェイトとセクスドゥムも流石に只ではやられない。
 石の槍と水の剣を展開してラカンに放つ。

 されどジャック・ラカン余裕綽々。
 手にした剣で尽く其れを撃墜!余りに強い。

 が、物量ではアーウェルンクス絶対有利。
 放つ量を倍にして、ラカンを攻める!攻める!!攻める!!!

 如何にラカンといえど千を越す攻撃を全て捌くは至難の業。
 故に迎撃は止め、被弾覚悟で突撃特攻!恐るべきジャック・ラカンの傭兵スピリッツ。

 其の物量に腕を貫かれるがなんの其の。
 2人纏めて痛烈ボディブロー一閃!!


 「!?」
 ――なんだ?此れは…


 が、何か感じる違和感。
 今までには無かった……となれば原因は明白。

 言うまでも無く新たに現れた『鍵』だ。

 即座に其れを看破し、腕に刺さった石槍を逆に利用して2つの鍵を粉砕!

 此れにて小細工一切無し。


 「ぬぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 そして幾百幾千の拳を連続で放つ。
 さながらソレは『拳の豪雨』

 殴る!殴る!!殴る!!!殴る!!!!殴る!!!!!

 一発でもクレーターを造るラカンの拳の雨霰など想像したくない。
 息つく暇さえ与えずに、兎に角、只只管に拳を振るって殴りまくる!!
 普通なら此処で終るが、相手は『アノ』アーウェルンクス故に油断は大敵。

 寧ろ徹頭徹尾叩くべきだろう。

 「シメだオラァァ!!!」

 拳で縫い付け状態にした2人に対して拳を突き刺し…

 「零距離全開!!ラカン・インパクトォォォォォォォォォ!!!」

 込めた力を全解放!
 同時に巻き起こる爆音、閃光、爆風!!

 結界内はさながら核弾頭が爆発したが如きの衝撃が!
 フェイトガールズもたまらずガードした位だ。

 「フェイト様ぁぁぁ!?」

 「そんな…フェイト様…セクスドゥム様…」

 「なんと言う力…噂に聞いた旧世界の化学兵器のような…

 「フェイト様…」

 其の彼女達もフェイト達の事が心配に成ってしまう。
 無論やられたとは思っていないが、相手がジャック・ラカンだ……其れを踏まえると不安は拭えない。


 「ふぅ…」

 そしてそんな彼女達の目に入ってきたのはラカン1人のみ。
 略確定だった。

 「まぁ、ネギの相手奪ったのはアレだが…なに、拭き残しとやりあうことも無いだ…」


 ――サァァァァァァァ


 いや、確定のはずだった。
 だが、突然世界は其の表情を変えた。

 今までは結界で隔離された無骨な場所だったはずだ。
 それが、今は風が流れる草原となっている。

 「此処は…」

 さっきまでの喧騒が嘘のような静かな場所。
 蝶が舞い、小鳥がさえずる正に『楽園』の様な場所。

 「ようこそジャック・ラカン、コーヒーでもどうだい?」

 「それとも紅茶の方がお好みかしら?」

 その中にある池の湖畔で、今し方ぶっ飛ばしたはずのフェイトとセクスドゥムが優雅にコーヒータイムと来た。
 しかもおまけにフェイトガールズが何時の間にか『メイド服』に着替えている始末。

 「てめぇ…」

 何があったのか?何をされたのか?一切分らない。
 だが、此れが幻想空間の様に幻で構築された場所で無い事はラカンには感覚で分っていた。

 「貴方には分るだろう?…そう、これは幻じゃない。
  さっきまでの勝負も現実、この景色も『ホンモノ』だよ。」

 「より正確に言うなら『そもそもこの世界全てが幻なのだ』と言えるかも知れないけれど…」


 途轍もなく嫌な予感がした。


 ――知らない間に何か喰らったか?……いや、そうじゃねぇ。
    この違和感、さっきのもそうだ…此れはもっと別の…昔何処かで…?
 「ちぃ…コイツは如何にもうまくねぇな…」


 言い知れぬ不気味な感覚にラカンでも冷や汗を禁じえない。
 腹の其処から湧き出る『過去に感じた異様な感覚』が警鐘を鳴らしてくる…其の正体は分らないが。

 「美しい場所だね…けどこの場所が戦火によって既に存在しないと言うのは残念だよ。
  この景色がなくなったのは、そう40年前――貴方が奴隷拳闘士としてデビューした年…」

 「…マダ勝負の途中だ、人の過去を覗くのは良い趣味たぁ言えねぇな…」

 だが何にせよ、くたばってないならやるだけだ。
 そう思ってフェイトの肩に手を掛け、振り向かせようとした瞬間…


 ――カチャ…


 ラカンは白のタキシードを着込んで、フェイト達と向かい合うように席に座りコーヒーを手にしていた。

 「!!?」


 「あ、何?コレは…!!」

 「暦…貴女は『時の回廊』を使いましたか?」

 「つ、使ってないよ!?」


 嫌な汗が噴き出した。
 心臓が早鐘を打ち、嫌な感覚が大きくなるのを止められない。


 ――なんだ…此れは?俺は確かに奴の肩を掴んだ。
    だが…何時服を来た?何時席に着いた?何時このカップを手に取った?
    時間操作?記憶操作?……いや、其の程度なら俺には分るが、そうじゃねぇ…!
    此れは…この感覚は矢張り…
 「テメェ等…何しやがった?」

 ラカンの顔には既に何時もの『無敵で最強の拳闘士』の余裕は無い。
 ギリギリの戦場に立たされた戦士の如く険しい顔で2人のアーウェルンクスを睨みつけるが、2人とも涼しい顔だ。

 「勝負は楽しかったわ…けど私達には使命がある。
  だから貴方が対抗できない唯一絶対の力を使わせてもらったわ。
  ……世界の終わりと始まりの魔法『リライト』。」

 「!!」
 ――世界の…そいつぁ…!!


 「貴方は僕達を人形と呼んだけれど実の所―――貴方も人形なんだ、『悲しい』けれどね。
  でも、だから分るだろう?この世界の唯一絶対の法則『人形は人形師に逆らえない』。
  其れがこの世界の真実…造物主の掟(コード・オブ・サ・゙ライフメイカー)。」

 同時にさっき砕いたはずの鍵が黒いローブを纏った何かと共に現れる。

 そして、ラカンの記憶が完全に蘇った。
 今目の前に居る『モノ』は嘗ての大戦で自分の両腕を吹き飛ばした相手。
 後にも先にも唯一『勝てない』と直感的に『分ってしまった』相手。
 ナギがぶっ飛ばしたはずの『ソレ』が目の前に存在していた。


 ――其の力はもう!!…!!!姫子ちゃんか!!!
 「てんめぇ…!!!」


 其の真実に至り、椅子を蹴り飛ばして殴りかかろうとした刹那――ラカンの四肢は文字通り『消えた』。
 そう、切断や爆散ではなく、正に『消滅』したのだった。








 ――――――








 総督府内部の特別室でもいよいよ事は大詰めだ。

 『仲間になるか否か?』其の選択を稼津斗とネギは迫られていた。
 パートナー達も事の成り行きを固唾を呑んで見守っている。

 「さて、答えを聞かせていただけますか?」

 「…良いだろう、お前に力を貸そうじゃないか総督殿。」

 意外にも、答えたのは稼津斗だった。
 だが、誰も驚かない。


 何か考えがある――そう思ったからだ。
 逆に少し意外な顔をしているのはクルト――スンナリ承諾とは思わなかったのだろう。

 「僕も貴方に力を貸しますよ…仲間になります。
  けど、其の最低条件として僕とカヅトの仲間には手を出さないと約束してください。
  そして全員を安全に麻帆良に送り届けるという事も。」

 「勿論です。強制証文で契約しましょう――ソレで君達の力が得られるなら安いものだ。」

 更にネギが追従し事を進める。
 無論此処で終わりえではない。

 「そうなると、俺とネギは暫くこっちに滞在する事になる。
  最悪数年は麻帆良に帰れない事も予想される訳だから…一度は麻帆良に帰らざるを得ないが良いな?」

 「無論、別れの時間は大切ですし、君達の後任の教師の事もあるでしょうからね。
  ふふふ…賢明な判断です――流石はネギ君と稼津斗君だ…状況を分ってらっしゃる。」

 状況はクルトの思惑通りに進んでいる――様に見える。
 だが、ソレを見守るパートナー計6人は『此れは土壇場でひっくり返る』と確信していた。

 いや、確信しているだけではない。
 彼女達も既に事の準備は終えている。

 後は開始の合図を待つだけ。
 別段打ち合わせをしたわけでは無いが、稼津斗とネギが何をするのか大凡の見当は付いていた。




 程なく机が用意され、稼津斗とネギの前には契約書が。
 後はコレにサインするのみという所だ。

 「では此方にサインを。コレで晴れて我々は仲間です。
  いや、君達が賢い人物で助かった…本当はもっと手こずるかと思ったのですよ。まぁ少々荒事にはなりましたが…
  コレなら最初から正攻法で攻めればよかったですねぇ?」

 其の横でクルトはベラベラと良く喋る。
 流石は政治家ともなると弁が立つものだ……至極不愉快だが。

 「このあと早速君達を『千の呪文の男』『無敵の武闘家』として階下の会場に居並ぶ各国の有力者に紹介しましょう。
  なに、この世界の支配階層への社交界デビューと考えてください。
  そしてネギ君の素性はタイミングを見計らって明かし……」

 既に勝った気なのだろう。
 その『演説』は止まる気配が無い。

 「さぁ、サインを!」

 「………スマン、根本的なことを忘れていた。」

 「…はい?」

 だが、サインするギリギリで稼津斗がなにやら…
 それにパートナー達が薄く笑みを浮かべたのはクルトには気付かれなかった。

 「いや…基本的な質問だ――仲間になるんだから良いだろう?」

 「ほう…いいでしょう、なんです?」

 「貴方の目的ですよ。」

 質問を引き継いだのはネギ。
 単刀直入に切り込んできたが…ソレくらいでは流石に慌てない。

 「ソレは君達を仲間に…」

 「いや、違う…お前の本当の目的だ。…世界を救う、そう言ったな?」

 「!!…成程其の件ですか。」

 質問の本質…ソレを聞いてもマダ表情は崩さない。
 それどころか此れは好機と思ったのだろう、一気に話し始める。

 「良いでしょう、お話しましょう!
  20年前にはナギもアリカ様も、そして私でも知りえなかった『この世界の真実』!ソレが…」

 「ソレが――『魔法世界』即ち『火星に築かれた人造異界』の『崩壊の危機』…と言うことですね?」

 「な!?」

 が、確信を先に言われクルトの顔が驚愕に染まる。
 当然だろう、自分を含め一部の人間しか知らない『真実』に目の前の2人は辿り着いていたのだから。

 「何故ソレを!?…まさかアルビレオ・イマが!?」

 「いや、俺達の独自の情報源と…ソレと推測だ。」

 其の情報源は言うまでも無く超、そしてこの世界が火星かもしれないと示唆した夏美の事だ。
 あの夏美の一言でピンと来た稼津斗、ネギ、超は夫々の考えを出し合い、話し合いそしてこの真実に辿り着いていた。


 ソレとは逆に、一転して立場が苦しくなったのはクルトだ。
 土壇場で切り札を切られた…言うならばそんなところなのだから。

 ネギを――あわよくば稼津斗をも暴走させようとした理由が正にこの『真実』にあった。
 コレを知られるのは正直あまり宜しくない。

 故に暴走させて冷静な思考を奪い、流れるままに引き込もうと考えたのだ……失敗に終ったが。
 それでも正攻法で何とか引き入れる事ができたと思った矢先の究極のジョーカー。
 正直予想外にも程があった。

 「ふ…くははははは!!素晴らしい!素晴らしい洞察力と観察眼です!
  ですが、其処まで分かっているなら話は早い!
  そう、この世界は崩壊の危機に瀕している、ソレを救うためにも君達の力は必要不可欠!
  迷う事は無いでしょう!共に世界を…!」

 「…何勘違いしてるんだ?俺達の質問は、マダ終っていないぜ?」

 「なに!?」

 それでもマダ自分のペースと思っていたクルトに決定的な一言。
 要するに今の質問は真の質問の前提に過ぎないのだ。

 「お前はさっきこの危機について6700万人の同胞を救うと、そう言ったな?
  …何故『全員』ではない?俺とネギの力を使いながらも全員を救うと言わなかったのは何故だ?」

 「この世界に住む人々は人間種、亜人種合わせれば其の総数は凡そ12億人。
  6700万人は貴方の国に住む人間のみ……6700万/12億…何故です?」

 コレこそが真なる質問。
 クルトが言った6700万人という限定した人数、ソレが引っかかっていた。

 クルトの言う人数は、言うなれば1/18。
 18人に1人しか助けないと言っているのだ――納得できるはずが無い。

 己の仲間が最優先だが、稼津斗もネギも目の前の滅びを只眺めている心算は無い。
 そして一度救うと決めたら救える全てを救うとも決めている……故に限定的に救うのは受け入れられない。

 「ナギやジャックなら笑って『全員救う』って言うだろう……連中の仲間であったお前が何故諦める?
  まして、俺とネギの力を使って尚、何故全てを救うことを断念するんだ?」

 「く…理由がある、理解しがたいかもしれないが…いや、賢明な君達ならば分るでしょうきっと!」

 「分りません!!貴方は18人に1人しか助けないと言っているんですよ!?
  どんな理由が有っても僕の両親なら絶対に諦める事はしない!!」

 最早交渉決裂は明らかだった。
 稼津斗とネギは事の真相の先の真相を知りたいが、クルトに話す気は無い。
 もとより話しても理解しがたいと言う思いがクルトにあるからなのだが…


 だが、クルトの胸中は穏やかでは無い。
 何せ自分ではどうしようもない真実にコレほど深く切り込んできた者がいたのだ。

 ソレも真の事情は分らないのにだ。

 「何も知らないガキが…!!」

 遂にクルトの『冷静な総督』の仮面が崩れ憤怒の表情が現れる。
 謁見の真が『戦場』に変わるのは最早避けようが無かった。








 ――――――








 幻想空間内の戦いも決着が付こうとしていた。

 如何にラカンと言えど四肢を失えば身体を支えられない。
 其の巨躯も崩れ落ちようとしている。

 「どれだけの力を持っていてもコレで終りだ…悲しいね――人形は…」

 だが!

 「アデアット!!」


 ――ガシャン!!


 ラカンの足が地面を踏みしめた。
 無論己の足では無い……甲冑の脚部だ。

 「左腕動甲冑!右腕動甲冑!!!」

 「まさか…」

 「そんな馬鹿な…」

 次いで両椀にも甲冑を展開し、疑似的な四肢を取り戻したラカンにフェイトとセクスドゥムも驚きを隠せない。
 いや、それ以上にこの状況においてもマダ戦う意志が無くなっていないことのほうに驚いていた。

 「へ…幻に人形?…ソレが如何したよ……心底クソくだらねぇ!!!」

 己のアーティファクトを展開し、ラカンはあくまでも徹底抗戦の姿勢を崩してはいなかった。










 同時に総督府特別室でも決着の時が近づいていた。

 「賢明な君達の前で、些か喋りすぎたようだ…」

 クルトは最早交渉不可能と見て、刀を抜き稼津斗とネギに対峙する。

 「ですが、言葉でならなんとでも言える…君達には現実を知っていただきましょう…!」

 剣呑な雰囲気と、濃密な気をまとい戦いの状態に。



 対する稼津斗とネギに焦りも慌ても無い。
 元より仲間になる心算など微塵も無かったし、欲しかったのは情報だ。


 とは言え出来れば穏便に済ませたかったのも又事実。

 「スマンな皆……」

 「どうやら安全なルートはダメっぽいです。」

 パートナー達に詫びを入れながら、稼津斗はXXに変身しネギも闇の魔法を発動。
 戦闘は必至だ。

 だが、それでも6人のパートナー達は『寧ろソレで良い』と言った感じ。

 「まぁ良いんじゃねぇか?ソレがアンタ等の出した答えなんだろ?
  なら迷う事はねぇだろ……やっちまえよ先生!」

 「私等もアノ総督さんは――なんか気に喰わないさね……やっちゃえ稼津兄!!」

 「「応!!!」」

 ソレが、戦闘開始のゴングだった。













  To Be Continued…