やっとこ本題に入るとは言え、警戒心は減らない。
 相変わらず稼津斗とネギのパートナー達はクルトの事を警戒心全開で見ている。

 「真実って…結局アンタは何が目的なのさ?」

 「目的ですか?ソレは当然ネギ君を我々の仲間に引き入れることですよ。」

 侮蔑と怒りの篭った和美の視線を受けても怯まないのは流石に総督といった所だろう。


 とは言えクルトも、余裕かましてばかりも居られない。
 何にせよ前面衝突となったら敗北は必至――こと、稼津斗が殺意の波動に目覚めたら今度こそ殺されるだろう。

 「では――分りやすく説明しましょう。
  此れが魔法世界。嘗て地上を追われた者たちの楽園――になるはずだった場所です。」

 指を鳴らすと突如景色が変わり、宇宙空間に浮かぶ1つの惑星を映し出す。
 幻想空間を利用した映写装置だろう。

 「ふふ、ネギ君は闇の魔法の影響で不安定になっている。
  稼津斗君もまた殺意の波動の影響で安定しきっているとは言い難い。
  可能ならば2人とも暴走してもらって、こちら側に踏み出させてしまえば引き込めるとも思ったのですが…
  奇策は所詮奇策、正攻法に切り替えましょう。」

 「そんな事のために、こんな茶番を…!」

 和美の――否、亜子とのどかの怒りも更に膨れ上がる。
 いや、この3人だけでなく千雨と超とハルナもだ。
 余りにもふざけた、ふざけすぎた所業なのだから無理もない。

 「まぁ、目的のためには手段は選びません。」

 されど其れも何処吹く風でクルトは指を鳴らし、更に映像が切り替わる。
 果たして、この総督殿は何を稼津斗達に告げるのか…











 ネギま Story Of XX 97時間目
 『真実の先に有る物』











 「では、最大限簡潔にぶっちゃけて言いましょう。
  純血の魔法使い市民5000万人と魔法世界最大の軍事力を擁する巨大魔法都市国家メガロメセンブリア。
  その最高機関であるメガロメセンブリア元老院、此れは我々の敵です。」

 説明が始まり、先ずは『敵』を明確にしていくようだ。
 此れまでのネギに対する行いも、あながち茶番ではなく『敵』を浮き彫りにする演出であったのだろう。

 「滅んだとされる『始まりの魔法使い』、これもまた我々人間の敵。
  その意志を継ぐ『アーウェルンクス一味』も同様…いや、目下最大の敵でしょう。
  また、亜人達の帝国『ヘラス』――残念ながら彼等も障害の1つでしかない。」

 次々と上げられる敵と障害。
 だが逆に分りやすい。

 同時にクルトの目的もまたぼんやりとだが見えてくるようだ。

 「如何です、シンプルでしょう?
  私の目的はつまり――これらの敵を尽く撃ち砕く!その為にネギ君と稼津斗君には力を貸して欲しいのですよ。
  そして、滅び行くこの世界から全ての人間――6700万人の全同胞を救い出す、其れが我々の目的です。」

 確かにシンプルだ。
 だが、同時に稼津斗、ネギ、超の3名は何かに合点していた。

 まるで足りない最後の1ピースを見つけたかのように…


 「待てコラ変態メガネ!それじゃあ世界丸ごとがマンマ敵ってのと同じじゃねぇか、正気か!?
  誇大妄想も其処まで行くと国宝級だぜ!どんな電波受信してやがる!」

 「其れにメガロメセンブリアも敵って…さっき我々はって…」

 マッタク持って千雨の言う事は正しい。
 世界丸ごとが殆ど敵など考えたくもない。

 更に元老院議員であるクルトが、その元老院を『敵』と称するのも些か不自然だ。

 が、此処で光るが和美の観察眼。

 「……アンタ、ネギ君の事件には関与してないんだね?」

 「さて、如何でしょう?まぁ、私は己の罪から逃げるつもりはありませんよ。
  故に、事が済んだ暁にはネギ君が己の仇として私を殴り殺したとて一向に構いません。」

 極少ない情報からでもクルト=ネギの村を襲撃した犯人では無いと言うことに辿り着く。
 尤もクルトは相変わらずしらばっくれているのだが。


 「てめぇ…いい加減に!」

 その人を喰った様な態度に、千雨の堪忍袋の緒も限界のようだが、ソレはのどかが制して止める。
 気持ちは分からなく無いが此処で飛び掛ったら、或いは相手の思う壺だ。

 だが、口頭でべらべらと言うには相手が悪すぎた。

 「『クルト・ゲーデル総督、今この場で言った言葉に嘘・偽りはありませんね?』」

 のどかが居るからだ。
 相手の名前から考えまでをも見通す読心の少女に嘘・偽りは通用しない。

 極簡単な質問ではあるが、クルトの考えをハッキリさせるには充分だ。

 「のどか…如何だ?」

 「はい…全て真実です。
  そしてこの人は、ネギ先生の村の事件には一切関係していません。」

 「だろうな……クルト・ゲーデル、お前は一体全体本当に何がしたい?
  お前の目的が本当に、この世界の『人間』を救うことにあるとして――何故これ見よがしにネギの前に『敵』をちらつかせる?
  ネギを勧誘するにしても、暴走させるなどリスクの方が大きい。お前の言うことに嘘・偽りがないとして、矢張り解せん。」

 稼津斗も稼津斗である程度の予想はしていた。
 少なくともクルトがネギの事件とは無関係で有るという事は。

 だからこそ解せない。
 自ら敵役を演じることが、引き込みやすくする為とは言え自らを危険にさらしてまでネギを暴走させたことが。

 目的の為には手段を選ばないとは言え、些か限度があるだろう。

 「マッタクだぜ?お前マジで何が………」


 ――ズゥン…



 「な、何だ!?」

 更に千雨が追求しようとした所で、唐突に室内の様子が変わった。
 さっきまでの静かな風景とは打って変って、突然の爆音と打撃音、そして迸る魔法の光。

 そしてそれらの発生源では…


 「父さん!?」


 ナギ・スプリングフィールドが今正に『始まりの魔法使い』を殴り飛ばしている最中だった。

 「まぁ、君達の事です、私が幾ら言葉で言ったとて簡単に首を縦に振らないでしょう。
  ですので、百聞は一見にしかず――こんな物を用意しました。
  私が知りうる限りの大戦期の真実、そしてネギ君、君の『父と母の物語』です。」

 これもまたクルトが用意したものというなら、怪しい部分があるが、のどかの読心の限りでは『誇張はあるが嘘は無い』との事。

 稼津斗達の前で、真の事実が曝されようとしていた。
 ただし、この映像の事を告げたクルトには、ゾッとする様な『冷笑の無表情』が浮かんでいたのだが…








 ――――――








 「クルト・ゲーデル?…ふん、中々愉快な奴では無いかそいつも。」

 一方で、エヴァンジェリンもまた地下の茶会で話を進めていた。
 ナギとアリカの話――其れを聞いて見つけた暁にはナギを殴る理由がまた増えたのは秘密だ。

 「まぁ、その手の奴なら考えそうだが……果たしてそう巧く行くかな?」

 「ほほう?ネギ君が懐柔される事は無いと?」

 「ふん、まぁ麻帆良に赴任してきたばかりの甘っちょろくて弱っちい『ぼーや』なら容易く仲間に出来たかもしれん。
  だが、一人前の男としての信念と、己が正義を貫かんとし、かつ成長著しい『ネギ』では如何だろうな?
  案外、有利に事を進めていた――と思った土壇場で切り返されてしまうのではないか?
  ましてや稼津斗の奴も居るのだ、その総督とやらの目論みは、先ず成功する事は無いだろうよ。」

 アルから『ネギがクルトに勧誘されるかもしれない』と聞いてもエヴァンジェリンは全く憂慮は無い。


 当然だ。
 ネギは彼女の最強の弟子であり、マスターであり、そして愛する男なのだから。

 その男が、精々大戦期を生き延びた程度の小利口な総督程度に如何こうされる筈も無い。
 エヴァンジェリンにあるのはネギへの信頼だけであった。

 「しかしまぁ、ネギも稼津斗も目の前に『何か』があり、かつ仲間の事が有るとなれば黙っては居まい?
  ククク……総督とやらは痛い目を見ただけで、存外美味しい所は全てあいつ等に持っていかれてしまうかもしれんな。」

 そして、真祖の姫は心底愉快そうであった。








 ――――――








 其処には確かに全てがあった。

 恐らくは映画のようなものだろうが、其処には大戦期の正しく全てが記されていた。

 ナギが英雄となった理由。

 アリカとナギの関係。

 紅き翼が挑んだ敵。

 そしてアリカが『厄災の女王』と揶揄される事になった所以までもが其処にあった。

 ハッキリ言うなら『厄災の女王』などは言い掛かりも良い所だ。
 アリカは魔法世界を救うために、己の国を滅ぼす選択をする以外に道は無かったのだ。

 正に断腸の思いだっただろう。
 そんな彼女を『厄災の女王』等と言うのは無礼極まりない。

 とは言え、国を滅ぼしたのもまた事実。
 映像の中では、今正にアリカが魔物の住む千尋の谷へと突き落とされる…処刑の場面であった。


 谷へ突き落とされるアリカ…だが、その身体が谷底に落ち魔物の糧となる事はなかった。
 寸での所でナギがアリカを救いにきたのだ。

 魔法の使えない場所でありながら、チートボディに物を言わせてアリカを守るナギ。
 谷の上でもラカンをはじめとした紅き翼の面子が処刑を執り行おうとしたメガロメセンブリア元老院の連中を撃滅!

 ……其の中でラカンが素手で戦艦を撃沈してるのは最早突っ込んではいけないのだろう。


 ともあれアリカは救出され元老院は全滅。
 尤も元老院自体は層が厚いため彼等のような末端が処理されようとも痛手では無いだろうが…

 『結婚すっか?
  アンタも罪も、民への責任て奴も、俺が全部一緒に背負ってやるよ……な?』

 『む…………はい。』


 そして遂にナギとアリカは結ばれ、抱擁を交わし唇を重ねる。
 無事ネギの両親が誕生した所で映像は終りとなった。


 「ん〜〜…まぁアカデミー賞でノンフィクション部門を取れるかも知れないレベルではあったな。」

 「取り合えずナギさんとアリカ様が無事でよかったで〜〜。まぁ、無事や無かったらネギ君生まれてへんけど。

 映像終って、取り合えずは分った。
 まぁ、これが誇張は有るにせよ真実ならば信ずるに値するだろう。

 だが、問題はそこでは無い。

 「いやぁ…何度見てもこの件は良いですねぇ…」

 クルト・ゲーデル、自ら作成の映像で感動して涙である。
 一体この男はなんのだろう?

 が、其れを見逃さないのがのどかだ。

 「クルトさん、貴方はまさか…アリカ様の事が好きだったんですか!?」

 「は?」

 「……あ、やっぱり。」

 「余計なお世話です。」

 要らん事が暴かれた。
 まぁ、ソレは不可抗力であり今はどうでもいいことだ。

 「流石はお嬢さん方、中々良い着眼点ですが本題からそれるのでスルーしましょう。
  さて、ネギ君、稼津斗君…お分かり頂けたでしょう元老院の悪逆非道が。
  そして、嘗ての英雄が女王と共にどれだけ世界に尽力したかが。」

 そして本題。
 この映像を見せたという事は、真にネギに伝えるべき事を伝えたかったのだろう。
 また稼津斗には如何にどす黒く、外道な考えを持った元老院メンバーがいることを示す事にあった。

 「けど、それで何がしたいのさ?
  アンタ、稼津兄とネギ君を如何する心算さね?」

 だが、それでも真意が今一つ見えないのも事実。
 今の映像が嘘ではなくとも、底が見えないのだ。

 「なに…状況を理解した上で力を貸して欲しいのですよ。
  君達が自分の力は自分の意志で使うとは言っても、目の前での滅びを『関係ない』と切り捨てる事は出来ない筈だ。
  まして、其処に己の障害となる存在がいるとなれば尚の事でしょう?
  全ての敵を打ち倒し、そしてこの世界を滅びの運命から救う……それ以外の結論は最早ありえないでしょう!」

 更にクルトは畳掛ける。
 確かに稼津斗もネギも、目の前での滅びを無視する薄情な男では無い。
 まして、既にこの魔法世界には親しくなった人達も居る。

 其れを見捨てるなど到底出来ない事だ。

 「特にネギ君、君にとってメガロメセンブリア元老院は無視できない敵でしょう?
  彼等は君の姉である『黄昏の姫巫女』を手中に収めるために君の母を陥れ殺そうとした!
  そして姫巫女が手に入らないと見るや今度は幼き君を亡き者にしようとした!
  此れだけで君が戦う理由は充分でしょう?…何も迷う事は無いと思いますがね…」

 「………!」

 「確かに、無視できる案件でも無さそうだな…」

 決断が迫っていた。







 ――――――








 同刻、切り離された結界空間では…


 「羅漢萬烈拳!!」


 ――バキィィィ!!!


 「螺旋掌!&…」


 ――グワン!!


 「羅漢大暴投!!!!」

 フェイトとセクスドゥムを相手取りながらもラカンがチートバグ全開の無双を展開していた。
 2vs1でもなんのその、無傷では無いが2人のアーウェルンクスを完全に圧倒!

 この場に千雨が居たら全力で突っ込みを入れていたであろう。


 「おう、見事だったぜ…予想以上だ。
  可也楽しめたが…けどまぁ、こりゃやっぱ俺の勝ちじゃねぇか?
  悪いが、ケリ付けさせてもらうぜ?」

 この2人を相手にして目に見える負傷が額からの出血のみと言うのは驚愕に値する。
 対してフェイトとセクスドゥムは被弾後も多く、出血箇所も遥かに多い。

 どちらが優位だったかは言うまでもない。

 だが、其れで居て余裕は薄れていない。

 「矢張り貴方は何も分ってないね…」

 「私たちを倒した所で何も終らないしケリも付かない…私等は所詮コマだからね。」

 恐らくはそうなのだろう。
 あくまでアーウェルンクスはコマに過ぎないという事を2人とも自覚している。

 それ故に此処で倒されても別働隊が動くという事だろう。

 「とても残念だよジャック・ラカン、こんなにも楽しいのに僕達は貴方を倒さねばならない。」

 「あん?」

 フェイトとセクスドゥムの額から流れ出る血は目を通って顔に筋を作りまるで血涙を流しているようだ。
 無表情な顔にソレは余りにも不気味に映る……あくまで偶然の産物だが。


 だがそれ以上に、ラカンを倒すという一言には、ラカン本人は勿論反応する。
 実力差は明確でありながら、其れでも勝てないといわれた事に眉をひそめるがフェイトもセクスドゥムもそんな事はお構いなし。


 そして告げられたのは決定的な一言だった。

 「勝負には関係なく貴方は僕達には『絶対に』勝てない――残念だよ。」














  To Be Continued…