総督府の宮殿での舞踏会はその熱が留まる事を知らない。

 次々と新たな舞踏曲が奏でられ、ある者は踊りに興じ、又ある者は雑談を楽しんでいる。


 「そう言えば此処が火星なら――あの有名な人面岩は一体何処にあるんだ?」

 「む…言われてみれば確かに――折角だから生で見たいでござるな。」

 「確かに。」

 稼津斗やネギもあくまで仲間内とは言え、ダンスや雑談を楽しんでいる。

 だが、得てして楽しい時間は早々長くは続かない。
 まぁ、もとより目的は舞踏会を楽しむことでは無いが…


 「ネギ様、稼津斗様――総督が特別室でお待ちです。
  同行者をお連れになる場合は、夫々3名まで許可されています。」

 其処に現れたのは、稼津斗が殺意の波動に目覚めた際にアノ現場に居た側近の少年。
 いよいよクルトとの謁見。

 この舞踏会に参加した、真の目的が果たされる時だ。











 ネギま Story Of XX 96時間目
 『開かれる真実の扉』











 「分りました。」

 「だが、同行者3名までというのは?」

 「慣習です、従わない場合はお会いになりません。」

 同行者3名と言うのは破る事は出来なさそうだ。
 下手に破って会えないのでは元も子もない――だが、そうなると3人誰を連れて行くかが問題になるが、此れは迷う事はなかった。

 「それじゃあ僕は…先ず千雨さん。」

 「…しゃーねぇな…どうせ役割は情報処理その他だろ?任せとけ。」

 「ありがとうございます。それから超さん。貴女も知る権利がありますから。

 「うむ、了解だネギ坊主。確かに知らねばならないからね…真実を。」

 「はい。そして最後に…ハルナさん、お願いします。」

 「お?私をご指名?OK、総督とやらの鼻を開かしてやろうじゃない!」

 ネギは千雨、超、ハルナの3人を選択。
 あすなや刹那は非戦闘員の護衛として残すようだ。

 「3人だと…和美とのどかは確定だ、良いな?」

 「任せてよ稼津兄、パパラッチの真髄見せてやるって。」

 「総督がドレだけ言葉を飾ろうと、本心は丸分りですからね。」

 「頼もしいな。…3人目は――亜子、一緒に来てくれ。
  いざと言う時は、お前の魔法薬と精霊融合魔法で一暴れしてもらうことがあるかもしれない。」

 「ん、了解や。任せてや♪」

 稼津斗の方は和美、のどか、亜子の3人。
 残りは矢張り護衛&いざと言う時の戦闘要員だろう。


 「出来るだけ戦闘は回避したいが…ソレが無理な場合の方が確率が高い。
  もし此処の兵隊達が仕掛けてきたらその時は――俺が許可する、潰せ。」

 「御意に…!」

 有事の際に何を如何するかも言っておく事を忘れない。
 ネギも小太郎と古菲に頼んでいるようだ。


 「こっちは俺に任せろやネギ!
  やからお前は安心して総督とやらに会ってくればえぇ!
  やけど、相手はあのデコチビを切りつけたような奴や……用心していけよ?場合によったら一発ブッ飛ばしたれ。」

 「うん、最悪はそうする心算――出来るだけ戦闘は避けたいけどね。…じゃあ、行って来る!」

 「うむ、頑張るアルよネギ坊主!」


 仲間に見送られ、一行は側近の少年に案内されて特別室へ。





 「此れは又…シンプルながらも大仰な扉だな…」

 「特別室は基本設計も可也頑丈に作ってありますので。」

 案内されて到着したのは舞踏会会場から少しばかり離れた部屋の前。
 部屋の扉は装飾こそ無いがその大きさたるや稼津斗の身長の倍以上。

 この扉の向こうに全ての真実がある――そう思うと少しばかり緊張もするが、だが止まらない。


 「…楽しいお仲間ですね。」

 「え?」

 「いえ、あの村の悲劇から出発した貴方が、この様な友人に囲まれている事を少し羨ましく思いまして。
  …世界は未だ悲劇に満ち溢れていますからね、旧世界、新世界を問わずに…」

 謎めいた言葉と共に、少年が扉を開け――そして其処には悲劇の光景があった。

 降り止まない雪と燃え盛る町、石になった町の人々。
 それは間違いなくネギのトラウマとなっている『6年前のあの光景』その物だった。

 「な…これってネギ君の!!」

 「んだこりゃ…如何言うこった!?」

 何故室内にこんな光景があるのか…いや、そもそも本当に室内なのかと思うほどの光景だ。
 ソレほどまでに目の前の光景は生々しく、ともすれば雪の冷たさや炎の暑さをも感じると錯覚してしまう。


 「驚く事はありませんよお嬢様方…此れは全てただの映像です。
  ――ようこそ私の特別室へ、ネギ・スプリングフィールド君。」

 「漸くお出ましね?…中々良い趣味でのおもてなしじゃないの総督さん…」

 そして現れたクルトに、皆を代表する形で和美が冷ややかな視線と共に皮肉めいた一言を発する。



 はっきり言って不愉快だ。
 この光景はネギの心に深く刻み込まれているトラウマである事は間違いない。
 クルトのしている事はそのトラウマを抉り出し、そして踏みにじっている事に等しいのだから。

 「どうやって…何処からこんな、映像を…?」

 ネギとて胸中穏やかでは無い。
 よもやこの魔法世界で、再びこの光景を目にしようとは思いもしなかっただろう。

 「何処からだと思いますか?……いやいや、なに――この映像は只の余興、そして本題をハッキリさせるための物。
  さて…君は全ての答えを求めて此処に来た――ですがその『答え』とはなんです?」

 「え?」
 「は?」

 相変わらずクルトの言う事は何処か意味が取れない。
 一体何を言わんとしているのだろうか?

 「分りやすく言いましょうか?君が知りたいのは『何』に対する『答え』です?何を知りたいのでしょう?
  A:魔法世界の秘密?それともB:悪の秘密組織の目的?
  それとも、C:母の生き様?いやいや、それともD:父の行方?成程確かに何れもが君の知りたい事でしょう。
  ですが否!君が本当に知りたいのはそんな事では無い!
  君が本当に知りたいこと、そして知らねばならぬ事は君にとっての『真の敵』!
  即ち6年前の、君の人生を根本から変えてしまったこの事件!村を焼き払ったのは誰なのか!?
  ソレだけが、君が真に知りたい唯一絶対の答えの筈だ!!」

 放たれたのはネギ本人ですら恐らくは認識していなかったであろう深層心理。
 闇の魔法の習得時にすら心象風景として現れなかった心の最深部に封印されていた感情…ソレを的確に言い当ててきたのだ。

 「確かに君の未来を目指す目的意識は本物でしょう――ですが闇の魔法を会得した君は気付いているはずだ。
  君の本質はそう――真の敵への完全なる復讐だ!!」

 「おい先生、戯言だ!聞くんじゃねぇ!!」

 「千雨さんの言う通りだぞネギ坊主!!耳を貸すナ!」

 あまりにも酷いクルトの精神攻撃とも言うべき物言いに、思わず千雨と超が声を荒げるが…しかしクルトは止まらない。



 いや、止まらず喋り続けるつもりだった。

 「…悪いが総督、俺達は下らない演説を長々と聴きに来たわけじゃない――物事はシンプルに行くのが一番と思うが?」

 稼津斗が居なければ。
 この状況において、だが稼津斗の静かな一言はクルトの『演説』を止めるには充分すぎる迫力があった。

 クルトも対戦を生き抜いた猛者だが、稼津斗はそもそも潜った修羅場の数とレベルが違う。
 如何に総督と言えど『絶対強者』が醸し出すオーラには黙るより他無かったようだ。

 同時に、ネギは胸の奥のザワツキを覚えながらも中々如何して冷静さを保っていた。辛うじてだが。


 「貴方は…知っているんですね?」

 「えぇ勿論…君は誰だと思いますか?」

 演説は終ったのだろう。
 ネギの問いに、逆に問う形だがソレは暗に自分が犯人を知っていると示唆しているのだ。

 「君の事です、様々な可能性を――それこそ今現在の状況も踏まえて色々考えた事でしょう。
  A:フェイトを筆頭にしたアーウェルンクスとその仲間。
  B:魔族。そしてC:始まりの魔法使い……成程どれも君の真の敵としては文句の付けようが無い位相応しい。
  彼等が真なる敵であったならば、君の物語も随分とシンプルな物になった事でしょうが…」

 だが、何かとても嫌な予感を感じた。
 クルトは間違いなく6年前ネギの村を襲った真犯人を知っているだろう。
 しかし、それ以上にソレを知るのは……とても恐ろしいような物に感じてしまうのだ。

 「しかし、現実と言うのは往々にして、些か複雑で…そしてみすぼらしい物です。
  お教えしましょうネギ君、幼き日の君をあんな目にあわせた真犯人は――











  我々です。
  我々――即ちメガロメセンブリア元老院が全ての黒幕です。」

 「嘘やろ!?」

 「そんな!メガロメセンブリアって…なんで…!!」


 予感的中。
 ソレは衝撃以外の何者でもない。

 のどかがアーティファクトで考えを読んでも、嘘は言っていないらしい。


 「まぁ…聡い君の事だ此れくらいの可能性は既に――


 ――メキィ!!


 だが、クルトはそれ以上の言葉を紡ぐ事が許されなかった。

 何故ならネギがクルトに急接近して殴り飛ばしたから。
 殴られたクルトは勿論の事、同行メンバーも何が起きたのかサッパリだ。

 其れほどまでにネギの動きは速かった。
 稼津斗ですら感知出来なかったほどに!


 「………………!!」

 殴られて宙を舞うクルトの足を掴んで吹き飛びを強制中断し、更に拳を叩きつける。
 その両の腕には闇の魔法特有の紋様が現れている。





 暴走したのだ。


 如何にネギが同年代と比べれば精神年齢が高いとは言え、其処は未だ10歳の子供。
 己のトラウマを抉られた挙句、更には幼き日の惨劇の真犯人が自ら名乗り出たとあれば冷静さを保ってなど居られない。
 寧ろ逆上するなと言うのが無理難題というものだ。


 「あのバカ、怒りで我を忘れて!!」

 「無理も無いよ!6年前の事はネギ君のトラウマなんだから。
  その犯人を告げられて、それでも冷静だったらそっちの方がオカシイってもんだよ…!」


 ネギの猛攻は止まらない。
 首を掴んで吊るし上げ、殴る!

 更に間髪入れずに蹴り飛ばす!
 間違いなくネギは怒りの感情に支配されていた。


 「!!ね、ネギ先生の思考をトレースしていたページが怒りと憎しみで真っ黒く!!
  此れは…闇の魔法の侵食!?そんな、此れじゃあネギ先生は…!」

 其れを示すように、ネギの思考をトレースしていたのどかのアーティファクトのページが黒く染まって行く。
 底知れぬ怒りと憎しみを示すように、黒く、黒く………


 周囲の映像では魔族が増えて居るがそれどころでは無い。

 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!」

 追撃とばかりに魔法の矢を放ち、そしてその直後、ネギを黒い霧が覆いつくした。

 まるで闇そのものの漆黒の闇黒の霧。



 其れが晴れたとき、ネギの姿はスッカリ変わってしまっていた。


 先鋭的な翼とも棘とも言える物が肩から突き出し、腰からは長い尾が生え、手首や足首はまるで悪魔の如き鋭い爪を有した物に…

 闇の魔法の侵食が、一時的にネギの身体を魔族化させているのだ。


 その影響は凄まじく、発せられる力は先程までの比ではない。
 其れに比例するように、のどかのアーティファクトのページも遂に真っ黒く…

 「うぐ…あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「良いでしょう、その復讐は君の正当な権利だ!
  君の憎しみと怒りは全て私がこの身に受けましょう!!」

 ネギの突進は止まらない。

 散々ぱら攻撃を喰らったクルトにこの一撃を決めれば、其処でクルトの人生にはピリオドが打たれてしまうだろう。



 だが、そうはならなかった。

 「其処までだ、少し落ち着けネギ。」

 XXに変身した稼津斗がネギを羽交い絞めにして止めたから。

 「騙されるなネギ坊主、此れは罠ダ!」

 「負けちゃダメだよネギ君!」


 更に超とハルナが夫々腕を取って抑える。
 加えて、風の精霊と融合した亜子が『風の鎖』とも言える拘束魔法でネギを抑える。

 次いで…

 「確りせんか……この馬鹿チンが〜〜〜〜!!!!!!」

 千雨の渾身のビンタ一発!
 此れは痛い!

 が、その効果は大きく、ネギの目に正気の光が戻って来る。

 「この馬鹿!未熟者!!」

 「千雨…さん?」

 「そりゃ私等には、この日アンタが味わった辛さは分らねぇさ!
  アンタがこの日からドンだけ孤独と懊悩の夜を送ったかも知らねぇ!
  でも…だけど、違うだろ!?この日アンタに芽生えたのはくだらねえ復讐心だけだったのか!?違うだろ先生!!!」


 千雨の必至の訴えに呼応するように、周囲の映像はナギが魔族を蹴散らし、ネギに杖を託す場面に。
 その中でのナギは、ネギの記憶を再生したときには見られなかった涙をその目に浮かべていた…

 『こんな事言えた義理じゃねぇが…元気に育てよ?
  そんで、お前が一人前になって、其れで俺と会う事が出来たらその時は……気が済むまで殴ってくれて構わないぜ…』



 ネギの記憶には残っていないナギの一言。
 彼もまた父親だったのだ……まぁソレを差し引いても色々問題は有るが…

 だが此れがネギの心を落ち着かせるには充分だった。

 「長谷川の言う通りだぞネギ、この日お前に芽生えたのは復讐心なんかじゃない。
  石になった人達を助け出し、そして真の意味での『偉大なる魔法使い』になるって言う決意だったんじゃないのか?」

 「カヅト…」

 闇は霧散し、ネギの見た目も元に戻る。

 そして黒く染まったのどかのアーティファクトににも…


 『村の皆は何時か僕が…』


 白抜きでこんな言葉が…

 稼津斗達の協力もあって、ネギは暴走から解放されたのだ。



 尤も暴走の反動はあるようだが…



 ――パチパチパチ


 だが、其処に響く拍手の音。

 出所は言うまでも無い、クルトだ。
 完膚なきまでにフルボッコにされてなお、こんなことをする余力はあるようだ。


 「いやはや実に見事!
  流石は氷薙稼津斗君!そしてそのパートナーとネギ君のお仲間だ。
  闇の魔法で不安定になっているネギ君なら容易く落とせると思ったのですが…成程矢張り君は凄まじいですね稼津斗君。
  ですが、残念です――どうせなら私を殺すくらいまで行ってくれた方が都合が良かったのですが…」

 此れだけ殴られて尚、クルトには余裕が見て取れる。
 この暴走も、或いは計算のうちだったのか、其れは分らないが…

 「ちょっと総督さん、アンタ言ってる事とやってる事が回りくどくて意味分んないやね。
  結局――何が目的なのアンタは?」

 少なくとも蒼き翼のメンバーの怒りに触れたのは間違いない。

 中でも和美の怒りは特にデカイ。

 パパラッチを自称する彼女だが、ジャーナリストとして確固たる信念を持っている。

 ソレは即ち『人を傷付ける記事は書くべからず』『人の心は踏みにじるべからず』と言う信念だ。

 其れを貫いている彼女にとって、今のクルトの行いは業腹モノの外道、悪行に他ならない。
 ネギが暴走しなかったら、或いは和美がXX状態になってクルトを殴り飛ばして居たかもしれないのだ。

 「総督…さっきも言ったが回りくどいのは止めないか?
  俺達は、別にお前と戦いに来たわけじゃない――無論戦闘が不可避と判断した場合にはやるが。
  俺達の目的はお前が持っている『答え』とやらを聞くことだ……いい加減本題に入らないか?」

 「…確かに、些か悪ふざけと演出が過ぎましたか…良いでしょう、では語りましょう。
  私の真の目的と…そして、君達が求める答えを!」

 稼津斗の一言を受け、クルトも折れる。
 どうやら、漸く本題に入るようだ…








 ――――――








 その頃、麻帆良学園の図書館島の地下でも、アルからエヴァンジェリン達に『真実』が告げられていた。


 「成程…ネギの村を襲撃したのはメガロメセンブリア元老院の一部勢力か…下らん。馬鹿共が、私が直々に滅ぼしてやろうか?

 が、エヴァンジェリンは其れを一蹴。
 アルも苦笑いだ。

 「しかし、何故元老院は嘗ての英雄、ナギの子供であるネギ様が住む村を?」

 「ん〜〜ソレはだね茶々丸’君…」

 エヴァンジェリンの側近として付いてきていた茶々丸の妹に当たるガイノイドの疑問は尤も。
 ナギの息子――引いては英雄の息子であるネギを襲撃するなど整合性が無いにも程がある。


 だが、エヴァンジェリンにはその理由も確りと分っていた。

 「つまりだ…かの国の一部の阿呆共にとってネギは『英雄の息子』などではなかったのだ。
  奴等にとっては英雄の息子ではなく『厄災の女王アリカの息子』であったのが問題だったいうことだ。…だよな?

 「ピンポン。おまけして正解です♪


 如何やらこの問題も、中々根が深く、そして面倒な案件である事は――先ず間違いないようだ。














  To Be Continued…