舞踏会の会場(の屋根)に突如現れたフェイトとセクスドゥム。
 其れに感付いて、その場に来たラカン。

 普通に考えれば強敵となる2人を前に、だがジャック・ラカンは何時も通り余裕綽々。

 「テメェは確か『土のアーウェルンクス』だったか?
  20年前に1人目、10年前に2人目をナギのヤローにブッ飛ばされて…テメェで3人目って訳だ。」

 「3人目など無粋な呼び方は止めて欲しいね、ジャック・ラカン。」

 「あぁ、フェイトだったか?自分で考えたにしちゃ良い名前だ。
  で、そっちの嬢ちゃんが『6番目』――つー事は少なくとも後2人はテメェ等みたいのが居る訳だ。メンドクセーったらありゃしねぇ。

 適当な会話で、フェイト方の戦力まで分析。
 ラカンは脳筋馬鹿な部分があるが、其れを補って有り余る『究極的直感力』がある。
 全てが理論無しの直感と思い付きとその場の空気で行動するが故に馬鹿に見える――否、実際馬鹿だが。

 「…テメェ等2人はどうにも前の奴等とは違うな?
  前の2人は如何にも悪の組織の幹部って感じだったが、テメェ等はニヒルつーかシニカルつーか、ぶっちゃけ超暗ぇ
  けど前の2人にはなかった人間味を感じるぜ?…どうした、世界と人生に飽いたか?」

 「…別に、私達は何も変わらないわ。」

 「そう、只自らの使命を果たす…それだけさ。」

 「そうかぁ?…で、相変わらず目的は『世界の滅亡』ってか?……止めようぜつまんねぇ。
  例え人形でも、もういねぇ親玉に義理立てするこたぁねえだろ?」

 「…いや、ことの是非と意義は理解しているよ――例え人形であってもね。」

 「私達の方法こそが最も多くの、弱き者、神に祝福されぬものの魂を救済する…疑いは無い。
  私達は『彼』の意思を継いでいるのだから。」

 話は交わらない。
 ラカンとしては出来るだけ面倒な戦闘はしたく無いが、相手が退かないのなら仕方ないだろう。

 「フン、信念持ってる奴ぁ厄介だねぇ……てこたぁ戦るしかねえか?」

 「そうだね…」

 「しかし良いのかよ?テメェ等は最強クラスだ…けど、見たトコ…如何かな?
  テメェ等――――――――負けるぜ?」

 舞踏会会場の一角は『武闘会』の会場へと、今この瞬間変貌してしまったようだ。











 ネギま Story Of XX 94時間目
 『この男バグなので…』











 が、いざ戦闘開始!という所で…

 「フェイト様ーーーー!!!」

 栞を除いたフェイトの従者、通称『フェイトガールズ』登場。
 フェイトの前に降り立ち、護衛するかのようにラカンと対峙する。

 「此処は一先ず私達にお任せを。」

 「この様な脳筋ゴリラ、相手にするだけ時間の無駄です!!」

 そして、実際ラカンと戦う心算らしい。
 フェイトに時間を取らせまいとする彼女達の思いだろうが……如何せん相手が悪い。

 「部下の人望も厚いじゃねぇの?
  ま、どっちでも良いぜぇ?どうせヤルなら、カワイ子ちゃんは大歓迎だしよ♪」

 世界広しといえど、ラカンと互角の勝負が出来るのは現状ではネギとエヴァ、そして稼津斗の従者くらいのもの。
 更にラカンに勝てるとのは稼津斗とリインフォース程度のものだろう。

 つまり如何言うことかと言うと……彼女達が相手になるはずが無いのである。

 「く…又馬鹿にしてぇ!!今回は我々も本気です!
  本気の我々を4人同時に相手にするなど、幾らアナタでも!!」

 その証拠に、暦がアーティファクトを使おうとした瞬間…


 ――ペロンッ、スッポ〜〜ン


 「「「「へ?」」」」

 「秘儀、無音めくり&脱がし術!」

 全員のスカートがめくられ、更に下着を剥ぎ取られていた。
 ハッキリ言って犯罪そのもの、わいせつ罪適応の一発だが、誰にも気付かれずにやると言うのは実際凄い――真似してはダメだが。

 「く…この!」

 更に焔が反撃を試みるも…

 「るわっか〜〜ん…そよッ風〜〜〜♪爆風拳!!!」

 「「「「!?」」」」

 無茶苦茶なスピードで拳が放たれフェイトガールズを強襲!
 その拳の振りの凄まじさたるや、烈風暴風が吹き荒れるほど!

 で、そんな風圧を受けらたどうなるかといえば?


 ――ペロン


 当然めくれてしまうわけだ。

 「ぬわ〜〜っはっは!周囲は風速100kmだが、対象者周辺はあくまでそよ風ソフトタッチの安全使用!
  まさに『男の子の夢を叶える風系究極奥義』!!
  ワハハハハ、ほ〜れほれ、見えるぜ?見えちゃうぜぇ?

 「あうぅぅぅ…!」

 「いや〜〜!!」

 言動だけ聞けば完全に変態。
 やってる事はしょうも無い犯罪行為だが、実際使ってる技の難易度は凄まじい。

 「く…この変態!時の…」

 「そよ風烈風拳!」

 反撃しようとすれば狙い撃ち!
 馬鹿げた技でも、この男が使うと途轍もないモノになるから性質が悪い。

 「…なんかダメそうね?」

 「暦君のアーティファクトって使えないの?」

 「フェイトさまぁぁぁ!?」

 更にダメ押しはフェイトからだった。
 この状況でこの一言はトドメである。



 「さぁてと…悪ふざけは此処までにしとくか…。
  おう、嬢ちゃん達――来るなら来な……見せてみろや、『本気』って奴をよ。」

 とは言え、此処まではあくまで前座の悪ふざけ。
 もっと言うならラカン的挑発に他ならない。

 事実フェイトガールズは肉体的ダメージは0である――精神ダメージはレッドゲージ突入だが…

 だが、そんな事も彼女達の頭からは綺麗サッパリ吹っ飛んでいた。
 当然だ、やられた側からしてみれば『馬鹿にされた』としか思えないのだから。


 「この…!アーティファクト『無限の抱擁(エンコンバンデンティア・インフィニータ)』!」

 本気開始の狼煙とでも言うのか、環がアーティファクトを展開し結界発生。
 これで、ラカンとフェイトガールズ、2人のアーウェルンクスは隔離。
 アーウェルンクス2人はとりあえず静観する心算のようだ。

 「おっと、又コイツか?周りに気兼ねなく戦えるから、逆にありがてぇが。」

 「この間、結界を破った女はいない…破る隙も与えないし助けも来ない……お覚悟…」

 周囲に影響が無いと言う事はどんな全力を出しても問題は無いと言うこと。
 ラカンは勿論だが、ソレはフェイトガールズにも言える事――隔離空間内ならば彼女達もまた本気を出しても問題ないのだから。

 「ぐぅぅ……豹族獣化(チェンジ・ビースト)!」

 炎精霊化(チェンジ・ファイアスピリット)!!」

 同時に、暦と焔が夫々獣化と精霊化。
 強化状態で能力を底上げし、速度と火力で圧す心算だろう。

 「成程、本気ねぇ…アーティファクトだけじゃねぇってか?……ぬお!?」

 更に其処に急激に加わる重力。
 立っては居るが、その地面は見えない何かに押し潰されたように抉れて居る。


 ――と、やべぇ…コイツは『音』か!?


 「アーティファクトもお忘れなく。」

 其れをやったのは調。
 自慢のアーティファクトによる防御不能の音波攻撃で、疑似重力攻撃というところだ。

 「狂気の提琴(フィディクラ・ルナーティカ)救憐唱(キリエ)!」

 更に重低音を加え粉砕!
 攻撃の手は休めず、飛び散った粉塵に焔が炎を放って粉塵爆発で追撃!

 「馬鹿め、甘く見たな!暦、トドメだ!」

 「うん!!」

 効果ありと見たのだろう、暦と焔でトドメを刺そうと急接近。
 確かに粉塵爆発の威力は凄まじく、今の一撃でも戦闘不能は間違いないだろう。




 ――但し、相手がラカンであると言うことを除けば。


 ――グワシィィ!!


 「「!?」」

 そう、ジャック・ラカンは無敵で不死身。
 爆発の中から伸びた強靭な腕が、暦と焔の足を掴んで行動封じ。

 恐るべきジャック・ラカン。
 粉塵の汚れこそ付いているモノの、その身どころか着衣も無傷。

 『剣が刺さらない』という話も、あながち眉唾の噂では無いらしい。


 ――無傷だと!?…しかも炎化した私を素手で――あ、そういえば試合では雷化したネギと普通に殴り合っていたか…


 何処までもバグである。
 チート無限のバグキャラと称した千雨を見事と言うより他は無いだろう。

 「しかしお前等よ…戦闘能力は確かにスゲェが、やっぱ如何見たって普通の女の子じゃねぇか。
  何でフェイトなんぞに従う?」

 「な!?」

 「だってよ『世界滅亡』だぜぇ?
  普通の女の子が目指すにはあまりにもダセェ上にバイオレンス過ぎんだろ流石によ。」

 「く…貴様のような男に――何が分る!!」

 如何有っても話は聞かないし話す気も無いのだろう。
 ラカンの問いを無視して、超近距離からの火炎爆破。

 その衝撃で暦共々脱出するも、矢張りラカンは全く無傷。

 其処に突如降り注いだ無数の樹木の枝も難なく捌いて行く。

 「今度は木精の上級使役か?やるねぇ、お嬢ちゃん達。時間に空間、音に火精に木精とたいしたもんだ。

 正直な所、フェイトガールズは決して弱くない。
 やろうと思えば彼女達の本気で魔法騎士団の上級騎士1ダース位は楽に相手できるだろう。

 だが、再三言うように相手はラカン。
 ラカンならば上級騎士1ダースどころか100ダースは1人で相手できる上に其れで勝ってしまう様な男なのだ。

 「『時の回廊』自陣加速!」

 「うく…はぁぁ…木精憑依最大顕現、樹龍招来!!」

 「はぁぁぁぁ!!火力最大!!」

 「竜族竜化!」

 戦力差は圧倒的だが、彼女達は退く気は無い。
 夫々が最大戦力を以ってして挑まんとするが…矢張りラカンは余裕の表情を崩さない。

 「成程…コリャ俺も少し真面目にやらんとヤバイか?
  まぁ、レディ達の本気モードだ、其れくらいの価値はあるか……いいぜ、来な!!」

 此れをゴングに、一斉に飛び出し――






 ――
5分後


 フェイトガールズは全員が地に服していた。
 焔を除いて全員失神。

 唯一意識を繋ぎとめていた焔も、立ち上がろうとするが――力が抜けて再び倒れてしまう。

 正に圧倒的。
 僅か5分で全員を戦闘不能にし、其れで居ながら無傷なのだから。

 「でよ――なんでこんな事に手ぇ貸してんだお嬢ちゃんよ?」

 再度問う。
 何故世界の滅亡なんかに手を貸すのは、如何有っても理解不能だ。

 「き…貴様のような者に…!!!」

 だが、焔は変わらず睨みつけるのみ。
 まるで親の仇でも見るかのように……


 その脳裏に浮かぶは、両親を失い、そしてフェイトと出会ったときの事。
 あの時フェイトに拾われなければ、付いていく事を選ばなければ死んでいた……そんな過去が有ったのだ。

 「ナルホド戦災孤児か。大方そうじゃねーかと思ったが。

 「心を読むなぁぁぁぁあ!!?」

 「俺に不可能はねぇ。」

 ジャック・ラカンに(以下略)
 まぁ、心を読んだ云々は別として、此れは熟練の勘というやつだろう。
 孤独で辛い思いをした戦災孤児ならば、手を差し伸べてくれた相手に義を感じ尽くす事はよくあることだ。

 「シルチス亜大陸のパルティア辺りの出か…あそこは大戦後も内紛やらなにやら抱えてたからなぁ…
  随分苦労したクチみてぇだ――他の嬢ちゃんも同じ感じか?」

 「黙れ!貴様のような…天に祝福された英雄が!成功者が!強者が…知った風な口を利くなぁ!!
  貴様の様な奴に我々のような人間の痛みが分ってt「…気は済んだかい焔?」…!!」

 尚も噛み付く焔を止めたのは、以外にもフェイトだった。
 既に勝敗は決した…これ以上やる事は無いと言うところだろう。

 「此処からは僕と彼女でやるから下がってて。」

 「それと、その男も奴隷拳闘士から此処まで成り上がった人だから、貴女達の事はよく分っているわよ…」

 「フェイト様…セクスドゥム様…」

 言われては退くしかない。
 彼女達にとってフェイトは絶対の主であり、セクスドゥムもまた従うに値する者なのだから…

 「…おう、一つ聞きてぇんだが――この子達を戦士に仕立て上げたのはテメェ等か?」

 「いや…彼女達の意思だよ?他に拾った57人は学校へ送ったけどね…まぁ、趣味みたいなもの?

 「は、マジで?てめぇ良い奴みたいだな〜〜…やりにきぃな。意外♪

 そしてラカンの問いには意外な答え。
 確かに其れだけを聞けば、戦災孤児を救済した慈善活動に聞こえる。

 「まさか…私達は悪者よ?
  私達は悪の親玉の狂った夢想を叶えるための……『道具』に過ぎないから。」

 「やれやれ…まいったねこりゃ――おい嬢ちゃん、他の子連れて離れてな…死ぬぜ?」

 「な?」

 だが、矢張り悪者は変わらないらしい。
 なればラカンとてやる事はただ1つ――この場で叩き潰すだけだ。

 「テメェ等、やっぱ前の2人と比べると相当に人間くさいぜ!!
  マッタク……やり難いったらありゃしねぇ♪」

 「そう?その割に嬉しそうだけど…」

 「ハッ!ったりめーだボケ。『人形』よりも『人間』と戦った方が面白いに決まってんだろが。」

 「そう…ソレは奇遇ね――私もフェイトも、『楽しい戦い』をしてみたかったのよ。」

 フェイトが石柱を、セクスドゥムが水塊を作り出し、ラカンからは気が溢れ地を割る。

 前座試合は終りだ。


 此処からが本日のメインイベント。
 1vs2の変則マッチ、時間無制限1本勝負!



 いざ、ゴングだ。








 ――――――








 一方、会場では華やかな舞踏会の真っ最中。

 その中で、稼津斗、ネギ、小太郎の3人はセレブ達に囲まれていた。
 此度の拳闘大会のトップ3選手ともなればある意味で当然かもしれないが…


 ――ネギ、こいつ等を何とかしてくれ〜〜俺には相手出来へん〜〜!!

 ――何を言ってるのかサッパリ分らんな…

 ――え〜と…ゴメン無理。


 正直対応に困っていた。
 適当に相槌を打っては居るが鬱陶しい事この上ないが偽らざる気持ちだろう。

 クルトがまだ出てこない事は気になるが、この面子なら如何とでも対応が出来るから其処は心配していない。
 セレブ連中も適当に相手してやれば自然と居なくなっていく……だが、そうなると新たな問題発生。


 会場に響くクラシックの舞踏曲。
 舞踏会ならば踊って何ぼだが、このベクトルの違うイケメン3人は其れが問題なのだ。

 「ホラ、こう言うのは男の方から誘うもんだぜ?」

 「「「う゛…」」」

 千雨にそう言われても困る。
 周囲のセレブレディが『自分をダンスのパートナーに!』と期待を込めて見ているのだから。

 「此れだけ注目されてると、最初に選ぶ相手は超重要だぜ?」

 「だな…」

 選ばないという選択肢は社交界的にありえない。

 だが、この場には夫々に最適な相手が居るのだ。


 「あ……一緒に踊っていただけますかアスナさん?」

 「良いわよ?キティのコピーもいないし…順当な選択――弟の頼みを断るのも悪いしね。」

 ネギはあすなを選び、

 「あ〜〜、良かった…夏美姉ちゃん助けてや。」

 「なっ!?」

 小太郎は夏美を選んだ。
 当然この2人も一気に注目の的だ。

 そして稼津斗だが…

 「稼津兄は私等以外から選んでみようか?」

 「…本気か…?」

 己のパートナー達の中から選ぼうと思ったがソレは和美がダメ出し。
 まぁ、何時も一緒に居られると言うのもあるだろうが、稼津斗が自分達以外だと誰を選ぶのかにも興味があったのだろう。


 困ったのは稼津斗だ。
 よりにもよって誘おうと思った和美からそう言われては、無理に選ぶのも我侭な気がして如何にも進まない。

 ならば誰を選ぶか……と、見渡した所で1人の少女が目に留まった。
 女の子にしては高めの身長だが、物静かな少女――

 「俺と踊ってくれるか、大河内?」

 「え!?あ…稼津斗先生///!?」

 アキラだ。


 別に意識したわけでは無いが、己のパートナー達以外と考えて探したら、自然とアキラを見つけていた。

 「マッタク…パートナー以外から選べとは和美も言ってくれる。
  其れを止めない亜子や裕奈も相当だがな…」

 「え、あ…わ、私で良いのかな?」

 「お前が良いから選んだんだが?」

 「〜〜〜///!!」

 無自覚恐るべし。
 近距離でそんな事を言われたアキラは熟れたトマトのように真っ赤である。


 「さっすがは稼津君…」

 「相変わらず見事なNPBっぷりや。」

 マッタクである。
 まぁ、アキラはテレながらも嬉しそうなので良しとすべきだろう。







 だが、この舞踏会は普通では無い。

 華やかな裏には陰謀か、或いは策略が張り巡らされているのは否定できない――

 「ふふふ…役者が揃いましたね…」

 其れの担い手である、目下最大の黒幕であり障害であるクルト・ゲーデルは貴賓席から会場を見ろしていた。

 眼鏡の奥の瞳に――見通すことの出来ない暗い光を宿しながら…














  To Be Continued…