誰が如何考えても罠バリバリの舞踏会招待状。
 が、罠でも何でも乗り込む気らしい――少なくとも稼津斗とネギは。

 まぁ当然の選択だ。
 どんな罠が待っていようとも、ソレに如何にかされる気がマッタクしないのだから。

 そしてソレはこの2人のみならず、2人のパートナー達も同様。
 彼女達もまた乗り込む気満々である。

 クレイグはこの面子なら大丈夫と思ってるのか『ま、そう来るよな』といった感じ。


 「罠に自分から?いや、こいつ等なら大丈夫かも知れねぇが、万が一ってことも…?いやいやいや万に一つもねぇのか?

 トサカはトサカで色々思うところが有るようである。
 常識外の強さと罠の強さを天秤にかけているといったところだろうか?

 「…まぁ、テメェ等なら大丈夫か、罠なんざ壊しちまえ。」

 結果、常識外の強さが勝ったらしい。
 此れで乗り込む事は略決定だが、ネギには懸念もあった。




 言うまでもない。
 『黄昏の姫巫女』――アスナである。











 ネギま Story Of XX 92時間目
 『Operation Standby』











 黄昏の姫巫女ともなれば、クルトだってその力を欲するかもしれないのだ。
 無論、アスナの実力を持ってすれば罠も弾き返すのは難しくない。
 咸卦法に、天魔の剣を使った武器戦闘も超一流クラスなのだから。


 但し、完全魔法無効化体質が完全に使いこなせていればだが。


 記憶の封印時間が長かったせいか、アスナのこの力は少々安定しない時があるのだ。
 その最たるのが(最近では滅多になくなったが)ネギのくしゃみによる武装解除。
 此れがレジスト出来たり出来なかったりと、本当に不安定。

 さっきの騒ぎでクルトに斬られたのもその辺が影響しているのだろうとネギは考えていた。

 だから少し不安なのだ。

 「アスナさんは…出来れば残って欲しいんですが――残りませんよね?」

 「当然よ。残るはずないでしょう?」

 だが、不安だからといって無理に残れと言うかといえばそうでは無い。
 アスナに言っても無駄だと言う事は分りきっているのだから。

 「まぁ、そうですよね。
  僕だって無理やり残らせる心算はありませんが――不安はあるんです。
  だから、会場では僕が全力で貴女を護りますよアスナさん――否、お姉さん。」

 「な!!///

 カウンターである。
 見事なまでのカウンターである。
 油断しきっていたアスナにハートブレイクショットが炸裂である。

 幾ら弟とは言え、近距離でしかも行き成り真顔で言われたら、クールなアスナだってそりゃ照れる。
 あくまで家族愛とは言え、アスナだってネギの事は好きなのだから。

 と言うか不意打ちで『お姉さん』は反則だろう。


 「お〜〜…クールアスナが照れるとはレアだね?」

 「流石はネギ坊主、稼津斗殿に負けず劣らずのNPBでござるな。」

 外野の言う事はご尤もである。

 「アレ?顔が紅いですよ、大丈夫ですか?」

 ネギとしては『弟として姉を護る』と言っただけで他意は無い。
 無いのだが、其処に『英国紳士』の『レディには優しくすべし』だのなんだのがナチュラルに入るから性質が悪いのだ。


 因みに姉のアスナに対して此れである。
 エヴァンジェリンと2人きりのときは押して知るべし、英国紳士恐るべし。


 「〜〜……アンタのせいよ。」

 此れが明日菜であったら即座に沸騰し、照れ隠しの為にツンデレ全開であっただろう。
 だが、アスナだから顔は紅くても暴発はしないのだ。

 「…ちょと顔が熱いから水で洗ってくるわ。」

 「あ、はい…」

 だが暴発しないだけで顔面が灼熱したのに変わりは無い。
 クールダウンの為に洗面所に。

 此れは此れで良い姉弟なのかもしれない――知らない人間が見たら砂を吐くだろうが…








 ――――――








 そのアスナだが、冷水で顔を洗っても中々火照りが冷めないでいた。
 それだけ衝撃だったと言うことだろうか?

 「…マッタクとんでもない弟を持ったものだわ。キティが落ちたのも納得よね――中々引かないものね火照りって…」

 『でも良かったですわ、少々休憩がほしかったところです。

 「まぁ確かに、少し休憩したかった………って誰か居るの?え、今の私?…何を言って。」

 突然聞こえてきた声に周囲を見渡せど誰も居ない。
 それどころか今のは自分自身の声の様にも思える。

 「……」

 ――キュゥゥゥゥ


 次の瞬間、アスナの身体が僅かに発光し、そして全く別の少女へとその姿を変えていた。



 以前に街中で襲撃をかけてきたフェイトの配下の少女、その1人である栞だ。
 今の今までアスナに化けていたが、流石に少々疲れたというところか。

 「あ、危ないところでしたわ。
  …フェイト様が10年をかけて編み出したアーティファクト『シグヌム・ピオゲレンス』――
  級友の皆にも、あの氷薙稼津斗とジャック・ラカンにすら気付かれないとは、矢張り替え玉術としては最高ですわね。
  使用中は私自身本人だと思い込んでいるのですから…気配も同じになりますし。ソレが長所であり弱点でもあるのですが…

 だが、顔は紅いままだ。

 「し、しかし…この女のネギ少年への友愛、そしてあのネギ少年の……か、家族愛にしても純粋で深すぎますわ///
  ――この純粋な『愛』はマッタク他人の私には、影響が大きすぎ…術者自身の感情が揺らぐようではダメですのに…!
  まして、この感情に影響されてネギ少年に『恋』でもしようものなら、たちまち術は解けてしまいますわ…
  あと1日――あと1日気を確かに持たねば……」

 もしもこの場にネギを知る人物が居たら間違いなくこう言うだろう『既に手遅れだ』と。
 恐らく今は未だ『対象人物のコピー感情に同調しているだけ』程度の認識だろうが、間違いなく栞は『落ち』かけている。

 今は捕らわれの身である本物のアスナが焔に言った事は、どうにも現実になりそうな雰囲気だ。








 ――――――








 場所は移って宿屋の中庭。
 あすな(以降、栞変身体は平仮名表記)も洗面所から戻ってきたら話の流れでこんな場所に。

 刹那が、あすなと夕映、そして稼津斗の身体に刻まれた刀傷を見て『神鳴流の技』と言ったのがそもそもの始まり。
 其処からラカンがクルトの事を『詠春の弟子』と呼んだ事に繋がり、稼津斗を斬りまくった『斬魔剣・二の太刀』の詳細と言う話しに。

 斬れない物を斬る剣とは如何なるものか?
 神鳴流である刹那にお願いしようとしたのだが…

 「弐の太刀は、元々狐憑きや悪魔憑きの悪霊のみを切り伏せる技として編み出された神鳴流の奥義です。
  正に退魔の技の真骨頂ですが、それゆえに宗家青山のゆかりのもの程度しか伝承は許されていないんです。
  私のような外弟子では、先ず触れる機会すらない技なので…申し訳ありません使う事は…」

 刹那は二の太刀を使う事が出来ないらしい。
 通常の『斬魔剣』は使えるのだが、其処は流石に奥義と言うか、奥義たる特性が有るのだろう。


 だがしかし!

 「いよ〜し刹那ぁ、その剣俺に貸してみろ!俺が実演してやるぜ!」

 ジャック・ラカンが此処に居る。
 常識など委細通用しないこの男が居れば或いはと思ってしまうのは仕方のないことだろう。

 「じじじ実演て…不可能ですよ!?」

 「なに、詠春の技見てたから見よう見まねでいいだろ?」

 「見よう見まねってそんな軽く…!」

 刹那が驚くのは当然の事。
 見よう見まねで奥義を放つなど――ラカンならアリかもしれない。


 驚く刹那から夕凪を借り受け、準備万端。
 ネギに障壁を張るように言い、夕凪を振り回して準備運動といった所だ。

 「な、馴れない刀をあんなに軽々と……しかし、できれば免許皆伝の域…そんな事が。」

 「あ。」(サクッ)

 だが矢張り馴れていないのか、手が滑って夕凪が脳天にサックリ。
 ソレで生きてるんだからバグどころでは無い。

 「あの…ラカンさん!?」

 「おう、平気だ!
  つか刹那、お前だってやろうと思えば此れくらいできんだろ?
  技の名前に気圧されるってんなら、俺が新しい技名つけてやろうか?」

 「はい?」

 「例えばよぉ『今日はお嬢様と仮契約記念日の太刀』とかどうだ!?」

 「見てたんですかぁぁ!?」

 何時の間にやら刹那は木乃香とも仮契約していたらしい。
 仲の良い事である。


 そしてラカンはしばし沈黙。
 技のイメージを膨らませているのだろう。

 「よし……行くぜオラァァ!!!」

 出来上がったらしい。

 「ざんっ!ま゛っ!けぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」

 練り上げれた気が夕凪を満ち、稲妻が落ちたかのような錯覚を覚える。
 それだけの力が練り込められたのだろう。

 「弐の太刀ぇぁ!!今日はお嬢様と仮契約記念スペシャルゥゥゥ!!!」

 なんか余計な事も叫んでいたようだが、兎に角技は成功。
 ネギの張った多重障壁を抜け、宿屋の屋根を…


 同調・断空!

 する前に稼津斗が同調・断空で相殺。
 器物破損は未遂に終った。

 そう、器物破損は。

 「す、スゴイですラカンさん!けど今のは危うく死ぬかとおもぽぺっ!?」


 ――パシュゥゥ


 ネギ出血!
 確りネギも斬ってしまったらしい。

 まぁ、亜子と木乃香がいるから大丈夫だろう。
 ラカンはあすなに殴られていたが。

 「まぁ、良い参考になったろ?」

 「いえ、凄すぎて何がなんだか…」

 「かすり傷で済んで何よりだ。」

 「今迄で一番死ぬかと思いました。

 まぁ、死んでないから大丈夫だろう。
 ラカンだって、最上級の治癒師が居ればこそ実演に踏み切ったのだから。


 「さてとだ…クルト・ゲーデルか…奴は俺達『紅き翼』の身内だったこともある。」

 話しを戻して、ラカンは一転真面目な顔になりクルトについて話し始める。
 矢張り知っていたのだ。

 「クルトはタカミチと同じく、大戦期に保護した戦災孤児の1人だった。
  詠唱が出来ねぇタカミチと違って、クルトは何でもできる器用な奴でな、詠春は嫌がったがクルトは神鳴流を学びたがった。
  突き放しても見よう見真似で技を盗んでいく…まぁ天才って奴だな。
  そのうちに詠春も情が移ったみたいで、渋々教え始めたみてぇだ。」

 クルトが神鳴流を使える理由も此れで納得。
 まして青山の出である詠春が教えたのなら弐の太刀も使えて道理だろう。

 「奴は大戦後俺達と袂を分った、『アナタ達のやり方では世界を救えない』って言い出してな。
  メガロメセンブリアに渡り、後援者を得て政治の道を目指したらしいが、まさかオスティアの総督になってるたぁな…
  …もう10年以上も顔を合わせていねぇ――奴が何を考えてるのかは分らねぇな。」

 「ジャックも分らないか…」

 クルトの考えは奥底が見えない不気味さがある。
 それでも止まる面子では無いのだが。

 「まぁ、実際会うのも悪くねぇんじゃねぇか?奴は色々知ってるだろうしなぁ?
  俺もその舞踏会には同行するから、ま何とかなんだろ。」

 ラカンの同行もあれば更に手強い。
 ともあれ今宵は舞踏会で決まりだろう。








 ――――――








 さて、舞踏会に行くなら矢張りドレスは欠かせない。
 グレートパル様号に残った面子もこの宿に呼び集めて、ドレスの試着会開催中!

 例え裏があろうとも、お城での舞踏会など女の子が夢見る舞台を蹴ることが出来るだろうか?




 ありえない!!
 大体にして裏が有ろうともソレを超えられる戦力はあるのだ、ならば楽しまなきゃ損損だ。

 皆お気に入りのものを見つけては次々試着。
 本より華揃いの3−A、誰もがドレス姿の似合うこと。

 この面子だけでファッション誌の表紙だって飾れそうだ。


 「ほう、此れだけ華がそろうと流石に壮観だな?」

 其処に別室で着替えていた稼津斗、ネギ、小太郎参上。
 ネギと小太郎は大人モードのナギと小次郎の姿。

 因みに、ネギと小太郎は黒の燕尾服に蝶ネクタイという王道の正装。
 稼津斗は黒のインナーとスラックスを合わせ、真紅のトレンチコートを羽織ったクールダンディーな装いだ。

 3人ともこれまた良く似合っている。
 ネギは英国紳士の見本のようなジェントルマン。
 小太郎はちょっとワイルドなイケメン日本男児。
 そして稼津斗は裏社会で生きているようなダークな部分を併せ持ったクールガイ。

 「「「「「「///」」」」」」(ぽ〜〜〜)

 で、その姿の稼津斗に、稼津斗の従者達が顔を紅くして呆けたのは仕方ないだろう。
 その彼女達も可也気合入れて選んだのか、ドレスが良く似合っている。

 「こと、己が愛でるべき華はより映えるな。」

 「「「「「「はうぅぅ///」」」」」」

 そしてトドメの一言。
 氷薙稼津斗恐るべし。


 なお、この間も他の女子の間でドレス争奪戦は行われいる。
 いるのだがソレに参加していない者が1人――夏美だ。

 残り物で良いと考えているのか、無理に入り込もうとはしていない――ある意味賢い選択だ。


 争奪戦の終息を待ちながら、その視線は宿の壁に吊るされた巨大な世界地図に向けられていた。
 魔法世界全土の地図にだ。

 「なんや、夏美姉ちゃんは選ばへんのか?」

 「あの中に入る勇気は無いってば…それにしても大きな地図だよねこれ――

 「ん?あぁ、確かにでっかいな?」

 畳3畳分はあるだろう地図の大きさに先ずは驚く。
 しかも此れが紙ではなく石版地図なのだから驚きも大きいだろう。

 「前から思ってたんだけど、この地図って火星の地図っぽいんだよね〜。」

 「は?何言ってんねん…」

 だが、何気なく発したこの一言が約2名の琴線に触れた。


 ネギと超だ。


 「夏美さん、今なんて!?」

 「火星に似ている言うたカ!?」


 「へ!?如何したの2人とも!?」

 「い、いえ何か記憶の片隅に引っかかるものが…!」

 「続けてくれるカ夏美さん!」

 2人の迫力に気圧されるも、実は天文は夏美が得意とする領域だ。
 ソレが必要ならば続けない理由もない。

 「いやホラ、ちづ姉が天文部でしょ?部屋に地球儀の他に『火星儀』ってのもあって、私も良く見てるんだけど――
  この辺とか特に、火星にあるのは『マリネリス渓谷』って言うんだけど、超似てるな〜って…」

 「「!!!」」

 「火星、魔法世界……やって出来ないことは無いか…」

 稼津斗も何かに気付いたらしい。
 何気ない一言は時に事態を大きく動かすこともある。

 「超さん…」

 「うむ…ネギ坊主…」

 今回の夏美の一言は正にソレだったようだ。


 「火星…魔法世界…」

 「まさか、私の居た世界は本当は……」














  To Be Continued…