「助かりましたよトサカさん、クレイグさん…ありがとうございます。」

 「へっ、曲がりなりにもテメェはウチの拳闘団の拳闘士だからよ。」

 「ったく素直じゃねぇなアンタも、誰だよ騒ぎ聞きつけて飛び出してったのは?」

 「んな!テメェが人の事言えるか!!」

 「俺はのどか嬢ちゃんとカヅトに色々と借りが有るからなぁ?」

 オープンカフェで逃走用の煙幕を使ったのは、拳闘団のトサカとトレジャーハンターのクレイグだった。
 如何にも街での騒ぎを聞きつけて来てくれたらしい――感謝である。

 「てか、テメェがまさかあの賞金首のガキだったとはな…驚きだぜ。
  ま、お偉いさんに突き出すような真似はしねぇから安心しな。仲間売るほど腐っちゃいねぇ。

 「はい、ありがとうございます。」

 何時の間にやらネギ達はトサカに仲間と認識されていたらしい。
 尤も、そのおかげで今こうして安宿に身を隠せるわけなのだが…

 「しかし…あのカヅトにアレだけの傷を負わせるとは、総督ってのはそんなに強いのか?」

 クレイグの視線の先にはベッドに眠る稼津斗。
 傷そのものは、殺意の波動が治まった直後にオリハルコンの力で塞がっている。
 だが、身体に残った無数の刀傷痕はなんとも痛々しい。

 ホントに最後の最後しか見ていないのでクレイグもトサカも稼津斗が一方的にやられたとしか思えない傷なのだ。

 「いえ……そうじゃないんです、この傷は…」

 無論、のどかがソレを否定するのだが…











 ネギま Story Of XX 91時間目
 『招待状は仕込罠?』











 「そうじゃないって…嬢ちゃん、この傷は総督ってのがやったんじゃないのか?そっちの嬢ちゃんみたいに。」

 クレイグが言うのはアスナの事。
 宿で待っていた木乃香のアーティファクトで既に治療は済んでいるが、中々に大きな怪我だった。

 「傷自体はそうです…けど、稼津斗さんはクルトさんを終始圧倒していたんです……恐るべき力で…!
  切られても切られても、そんなこと関係ないって言わんばかりに戦ってたんです……まるで鬼の様に…」

 のどかの説明を聞いて絶句。
 この話を信じるなら、稼津斗は傷を負うのも当然と――否、切られる事を厭わずに戦っていた事になる。


 幾らなんでも其れは信じられなかった。
 トサカは此れまでの稼津斗の試合から、クレイグは自分達を助けてくれた時の稼津斗の戦い方から違和感を感じたのだ。

 稼津斗は戦いの中で傷を負うのは当然と考えているが、だが少なくとも不必要に攻撃を受けることはなかった。
 圧倒的な実力で相手の攻撃を防ぐか避けるかして無用なダメージは極力控えていたはずなのだ。

 ソレなのに、そうはせずに戦っていたとは……


 「そりゃマジか?ちと信じられねぇな…」

 「けど本当なんです……何て言うか、アレは稼津斗さんじゃないような感じでした…」

 「何だそりゃ?……!?お、オイ嬢ちゃん!」

 そんな中でクレイグが突然叫ぶ。
 見れば稼津斗に黒い瘴気が纏わり付いている………殺意の波動だ。


 ――止マル事許サヌ、死ヌ事許サヌ、只只管ニ強サヲ求メヨ、只只管ニ戦イヲ求メヨ…


 「う…ぐ……黙れ……!大人しく…していろぉぉ!!」


 ――バァァン!!


 恐らくは稼津斗が気を失っている隙に身体を奪おうとしたのだろう。
 だが、それも稼津斗が目を覚ました事で未遂に終る。

 裂帛の気合に吹き飛ばされる形で黒い瘴気は霧散。
 尤も此れで殺意の波動が消えたわけでは無いが…

 「稼津斗さん!!」

 「はぁ、はぁ……スマナイ、心配を掛けたなのどか…」

 それでも稼津斗のダメージは結構大きい。
 クルトに切られた事がではなく、殺意の波動に目覚めた事の反動がだ。

 だが、のどかにとっては稼津斗が目を覚ましただけで嬉しい。
 思わず飛びついてしまったのは仕方ないだろう。

 更に、


 「稼津君!」
 「稼津兄!!」
 「稼津斗!」
 「稼津さん!」
 「稼津斗殿ぉ!!」


 現在合流中の稼津斗の従者全員集合。
 この安宿に到着した直後に、のどかが連絡していたのだ。

 「お前達も来てくれたのか……相当に心配を掛けてしまったな。」

 稼津斗もベッドから起きて手近にあったシャツを羽織る。
 勿論、あの場から離脱するための煙幕を張ってくれたトサカとクレイグに礼を言うのも忘れてはいない。

 尤もトサカは相変わらずの憎まれ口を叩いてはいたが。



 兎に角此れでやっとこ一息だ。
 買出しに出て、ユエを見つけて、クルトに絡まれてそして殺意の波動に目覚めて大乱闘。
 短時間に色んな事が起こりすぎた。

 「さてと、俺の方の傷は良いが――アスナと綾瀬は如何なんだ?」

 簡単に状況を聞いて気になるのは矢張りユエ、そして切られたというアスナの事。
 稼津斗自身は切られた程度では死なないし、そもそも平常状態ならオリハルコンで即時治癒があるので無問題。

 が、ユエとアスナはそうは行かない。
 まぁ、この2人もとっくに治療は終わっている。

 極めて薄く傷痕は残るかもしれないが、ソレもよ〜〜く見なければ分らない程度のものだろう。


 「私は大丈夫よカヅト、木乃香が治療してくれたしね。」

 「私も大丈夫です。ノドカがすぐに治してくれましたから。」

 だから2人とも健在この上ない。
 結構派手に血を流したから激しい運動は無理だろうが、それでも普通に動けるだけ大したものだ。

 「はぁ、取り合えず血染めの服の処理は終りましたが、アレはもう使えそうにないですわね。」

 「ユエは後で新しい制服貰わないとね〜。」

 更にタイミングよくエミリィとコレットが。
 稼津斗とアスナ、それにユエの服の処理をしていてくれたらしい。

 「済まないわね2人とも。」

 「どうもです、コレット、委員長。」

 「お前達にも世話を掛けたな。」

 彼女達にもクルトへの牽制といい何かとお世話になってしまったようだ。
 尤もエミリィ達からすればそんな事も当然だったのだろうが…


 「大した事ではありませんわ、取り合えず目が覚めて何よりです。
  ……ですが、稼津斗様――アレは一体なんなのですか?アノ『死』を具現化したような凶暴な力は…」

 そして当然の疑問。
 あのオープンカフェでの一件を全て見ていた者は全員が抱くであろう疑問。

 言わずもがな稼津斗の力――殺意の波動に関しての疑問。
 誰1人として今まで見た事もないほどの力と、感じた事のない殺意は矢張り『何事か?』と思うだろう。

 のどかから話を聞いた亜子達も同様だ。

 「本当は話す心算はなかったし、オリハルコンの力も使えば抑えられると思ったんだが…そうも行かないらしい。」

 全員の視線を受けて観念したように、稼津斗もソレについて話し始める。
 話したくない気持ちは、まぁ分らなくもないだろう。


 「恐らく俺には元々備わっていた力だったんだろうな。
  そう考えれば、俺が武道の道を選んだ時に親父が少しばかり渋い顔をしたのも納得が行く。
  きっと親父には分ってたんだろうな……俺がこの身に『殺意の波動』を宿していることに…」

 「殺意の波動でござるとぉ!?」

 話し始めた稼津斗に真っ先に反応したのは楓だ。
 如何にも『殺意の波動』にピンと来るものがあったらしい。

 「知っているのか楓?」

 「知っているもなにも…拙者何分忍者ゆえ、里の長から聞かされたことがあるのでござるよ。
  最強とも言える力を得ながら人でなくなり鬼となってしまう力の事を…
  戦いに身を置くものは時として鬼と化す――其れは即ち『殺意の波動』に魅入られたか目覚めたかだと。
  『鬼』と称された古の武将や英傑も、或いは殺意の波動に目覚めていたのかもしれないと言っていたでござるよ…」

 生まれと育ちの特異さから、楓は少々浮世離れした知識も持ち合わせている。
 その中に『殺意の波動』に関することもあったようだ。

 「鬼になるって…マジで?」

 「そんなものが稼津兄の中に…」

 衝撃は相当だろう。
 稼津斗の従者達は特にだ――自分達の愛する者が鬼になるなど信じたくもないだろう。

 「何で今更ソレが覚醒したのかは分らないが――恐らく活性化が始まったのは大会の準決勝の時だと思う。
  その時は力の疼きも俺自身の力が少しばかり上がったせいでソレにオリハルコンが反応してるんだと思った。
  だが、決勝戦でネギと小太郎と戦った後でソレは間違いだと気付かされたよ……」

 「稼津さん…」

 「大会が終って、その時に気付いた……俺はネギと小太郎と『死合いたい』と思っていたことにな。
  で、その日の夜に明確に感じ取ったよ、俺の中の『殺意の波動』を――

 ベッドに腰掛、額に手を当てるようにして更に話を続けて行く。

 「抑え込められるかとも思ったが、存外簡単じゃないらしい。
  綾瀬を切られた事に激昂し、更に其処に感じた『死の気配』に呼応して暴走するとは――笑えないな。
  だが…難しくとも制御する術はある筈だ。」

 それでも制御を諦めてはいない。
 術は有ると言うのだが…

 「制御って……」

 「簡単じゃないだろうが、過去の武将や英傑が殺意の波動に喰われたとは考えにくい。
  例えば『鬼の副長』と恐れ慕われた、新撰組の土方歳三なんかは己の中の鬼を飼いならしてんじゃないかと思う。
  鬼の渾名を持つ者全てが殺意の波動に目覚めていたとは言わないが、少なくとも制御してた者は居る筈だ。」

 稼津斗の顔には迷いはもうない。
 否、今回の暴走が逆に制御の決意を固めたと言う所だろう。

 不敵な笑みを浮かべた、一種獰猛とも言える表情は頼もしさすら感じる。

 「とは言っても、マダマダ制御には至らない――暴走した場合にはお前達に止めて貰う事になるだろうが…頼んでも良いか?」

 「愚問だよ稼津君?」

 「ウチ等は稼津さんの従者や、ソレくらい出来なくてドナイするんや♪」

 「亜子の言う通りだ……お前の暴走くらいは私達で抑えて見せるさ。」

 問えば答えは当然『是』だ。
 稼津斗と共に歩む事を決めた彼女達の意思はダイヤよりも堅く強いのだ。

 そして、それだけで充分。
 稼津斗も薄く笑みを浮かべると『話しは此れでお終い』とばかりにベッドから立ち上がる。

 「お、オイ!テメェ何処に行こうってんだ?」

 「ん?いや、綾瀬もアスナも、自業自得とは言え俺も血を流しすぎた……正直血が足りない――だから飯でも食おうかと。」

 そしてすっかり何時もの稼津斗だった。
 まぁ、派手に血を流したのは事実だし、実際動くには少々血が足りないも又事実。
 で、造血にはタンパク質と水分の摂取が最も効果的なのだ――食事は道理だろう。


 「あの、お嬢様…稼津斗様の上着にこんなものg「よう、兄ちゃんとネギィ!詠春の弟子に絡まれたってぇ!?」…が…」

 いざ食事に!と言う所でビー…と共にラカン参上!
 その手にはなにやら沢山の食べ物が…

 「のどか嬢ちゃんから、兄ちゃんと姫子ちゃんとユエ嬢ちゃんが大怪我したって聞いたんでなあ…色々持ってきたぜ?
  ドラゴンのレバ刺しにニラとホウレンソウのニンニク炒め、そして極め付けがヤマタノハブ焼酎だ!
  こんだけありゃ体力も血も速攻で回復すんだろ!!」

 本当に色々持ってきてくれたようだ……ありがたいが何だかなぁである。
 と言うか人の話に被っての登場はどうかと思うのだが…


 「な、本物のラカンさん!?」

 「ら、ラカン様…!」

 この有名人の登場に、トサカとエミリィは舞い上がったようだが…

 だが其処は流石のエミリィ。
 舞い上がりつつも、最初に入ってきたビーが何かを伝えようとした事は分っているのでそちらに意識を向ける。

 「ラカン様の登場に驚いたのは仕方ないとして…ビー、稼津斗様の上着に何か?」

 「はい…この様なものが――舞踏会の招待状のようですが…」

 ビーが差し出した物には確かに『舞踏会招待状』の文字が。
 恐らくは乱闘に乗じてクルトが稼津斗の上着にねじ込んだのだろう。

 なお、この超有名人にトサカとクレイグがサインを求めたのは致し方ない。
 序でにエミリィの分のサインも書いてる辺り、ラカンは空気が読める男である。

 「さてと…なにやら面倒な事が起きちまったみてぇだが、取り敢えずはその招待状とやらを開けてみちゃ如何だ?」

 「あぁ…そうだな。」

 無論無視する心算などは無い。
 クルトの思惑が如何であれ、この招待状もまた貴重な情報源である事は間違いないのだから。



 『やぁ、ネギ・スプリングフィールド君、そして氷薙稼津斗君。
  君たちが此れを読んでいると言う事は、どうやら初邂逅における交渉は決裂したと言うことですね?』


 招待状を開けて再生ボタンを押せば、演技バリバリな笑顔を浮かべたクルトの姿が。
 少なくとも最初からこの招待状は此方に届ける心算だったのだろう――そうでなければこんな言い回しなしない。

 『ですが…少なくとも私の事は君達の中に印象づいたことでしょう?良し悪しは別として。
  そして、私個人も君達には是非会いたいと思っている――そこで今宵。
  オスティアで開かれる舞踏会に君達を招待しましょう、此れは名誉なことですよ?
  勿論、君達のお仲間である可憐なお嬢さん達もご招待します。
  ドレスも用意しましょう、サイズと受け渡し方法を連絡してください。』

 「オイオイ、こりゃ如何見ても…」

 「しっ、黙って聞いてろ。」

 あまりにも露骨な――罠としか思えない舞踏会への招待。
 トサカが突っ込むのも無理は無い。

 稼津斗もネギもソレは分るだろうが、今は只黙ってソレを聞いている。


 『来る気にはなれませんか?…まぁそうでしょうね、君達には護るべき仲間がいる――では特典をつけましょう。
  お仲間の女学生諸君には決して手を出さないと誓いましょう。
  更に大会中の総督権限として恩赦を出し、君達の指名手配を正式に取り消すしましょう、此れで晴れて自由の身です。』


 「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」

 提示されたのは破格の条件と言っていいだろう。
 指名手配の取り消しなどは、これから動く上でありがたい事この上ない。
 その提案に裏がなければだが…


 『神々と、我が名の名誉に懸けて此れに誓い実行しますよ?
  …ふむ、未だ不満ですか?やれやれ、ならば此れで如何でしょう?
  下に降りるのでしたらお仲間達には護衛をつけて差し上げましょう。
  私の指揮下にある、オスティア駐留警備艦船隊18隻――此れなら安心ですね。
  尤も、招待を受けないのでしたら、この全てが手配犯を追う追っ手となる事をお忘れなく。』


 もはや招待なのか脅しなのか良く分らない。
 良く分らないが…

 『さて……つまらない駆け引きは此処までとしておきましょう。』

 突如映像の中のクルトの表情が変わった。
 今までのような貼り付けた様な嫌味な笑顔では無く真剣そのものの表情に。

 『ネギ君、稼津斗君――君達の意思は如何であれ、君達の力は間違いなく世界を救う為の一手となりえる。
  仮に君達にその意志がなくとも、滅び行く世界を目の当たりにして、それでも世界を無視できる程君達は薄情では無い。
  …私は略全てを知る人物です――舞踏会に来ていただけるのでしたら君達の疑問、質問に全て答えましょう。
  ソレこそこの世界の真実から、アーウェルンクスの目的――そして6年前にネギ君の村を襲う手引きをしたのは誰なのかまでね。』


 「!!!」

 放たれたのは衝撃の一言。
 クルトはネギの村襲撃の真実まで知っているらしい――ますます怪しいが、逆に言えばこれほど情報を持っている人間も居ないかも知れない。


 『あ、そうそう――もし来ていただけるのでしたら、ネギ君は『拳闘士ナギ』の姿で来てください。
  そちらの方が場の雰囲気には合いますし、何よりご婦人方が喜ばれますので。』



 此処で招待状の中身は終り。

 「オイオイオイ!こんなの罠に決まってるじゃねぇか!」

 「艦隊って…又ヒデェ脅しだなオイ。つってもカヅトに艦隊が通じるとも思えない俺がいるんだが…

 最後の数十秒は兎も角、招待状の内容は如何考えても罠でしかない。
 トサカもクレイグもあまりの内容に引き気味である。


 だが…


 「カヅト…」

 「あぁ――確かに罠だろうが、此れは逆に情報を得るには持って来いだな。」

 ネギも稼津斗も罠だろうと乗り込む気満々だった。
 勿論、その罠をブチ砕くだけの自信があればこそ言える事だが…

 「折角招待してくれたんだ、なら乗ってやろうじゃないか――その罠とやらにな…!」

 だから行かないと言う選択肢などない。

 乗り込んで、その上で罠は壊して必要な情報は引き出す心算。


 如何やら日が暮れたら、又一騒動有りそうである。














  To Be Continued…