「夕映…無事だったんだ…!」

 「無事だったか綾瀬…」

 思いがけない再会は街中で突然に。

 行方知れずの仲間との再会は嬉しいものだろう。

 「心配したんだよ夕映〜〜〜!オスティアに居るならなんで連絡くれなかったの!?」

 だが稼津斗達は知らない。
 この夕映が自分達の知る『綾瀬夕映』では無いと言う事に。

 彼女が記憶を失って『ユエ・ファランドール』として暮らしていると言う事に。


 「?…あの、失礼ですがどちら様でしょうか?」

 「え?」

 其れはあまりにも衝撃的なこと。
 特に親友として、此れまで一緒に居たのどかには相当だろう。

 だが、忘れてはいけない。


 「キャ〜〜!本物のナギ様〜〜♪!!」

 夕映と一緒に居たメンバーの中の一人が…極度の『拳闘士ナギ』のファンであると言う事を。


 「…面倒な事になっているようだが、落ち着いて話せる場所に移動したほうが良さそうだな。」

 稼津斗の呟きは略全員の総意であった。











 ネギま Story Of XX 88時間目
 『もう1人の黒幕参上』











 生ナギに興奮する委員長を落ち着かせ、夕映にも納得を貰って一行はとあるオープンカフェに。
 街中のカフェならば色々話すのには都合が良い。


 「「「「記憶喪失?」」」」

 で、伝えられたのは『夕映は記憶喪失』と言う事実。
 此れには流石の稼津斗も驚きを隠せない。

 確かにフェイト達のゲートポート襲撃時の飽和魔力は相当だった。
 だが、仮に其れに当てられたとしても記憶喪失にはならないだろう。


 尤も其の原因は別にある。

 「あ〜〜…それって私のせいなんだよね〜…」

 夕映――今はユエだが、其のユエの親友であるコレットである。
 彼女が『忘却魔法』の練習中に狙ったようなバッドタイミングが重なり夕映の記憶は銀河の彼方にさようなら。
 色々有ってユエ・ファランドールの誕生と相成ったのである。


 「成程な……事故じゃあしょうがない。直接的な原因はフェイト達と言うことになるしな。
  しかし、其の様子だと本当に俺達の事は覚えていないんだな綾瀬…」

 「はいです…申し訳ありませんが…。先程から仰っている『アヤセ』と言うのはもしや…」

 「貴女の名前です夕映さん。『綾瀬夕映』…其れが貴女の本当の名前です…」

 「そう、ですか…全然覚えてないのです…」

 現状打つ手がない。
 忘却魔法の効果で記憶をなくしているが、魔法の暗示で記憶が飛んでいるわけでは無いので稼津斗の『同調』系の技でどうにかできるものでは無い。

 同じ理由でアスナの『完全魔力無効化』も意味はなさない。
 で、ネギものどかも『記憶復帰』の魔法は覚えていない。

 結局は何らかのきっかけでユエが自分で思い出すしかないのだ。


 「しかし、ユエさんがゲートポート襲撃現場に居たとは驚きです……運が悪いにも程がありますが。」

 で、委員長ことエミリィもユエの素性を聞いて些か驚いているようだ。
 口では色々言いつつも、ユエの事は大事な仲間だと思っているし、記憶が無い事も多少は気にしてはいるのだが…


 「それにしてもユエさんが巻き込まれる原因になったゲート襲撃…犯人のネギと言う少年は何を考えているでしょう!
  不特定多数が使用するゲートを襲撃して破壊するなど正気の沙汰とは思えません!」

 襲撃事件に関しては、矢張り報道以上の事は知らないようだ。
 あの場に居なかった者に事件の真実など分る筈も無いのは当然の事。

 事件現場に居たユエが記憶喪失では尚の事だ。


 「エックスさんの話ですとフェイトとか言う仲間も居るようですし、もう何がしたいのかさっぱりです!
  …と言うか、ナギ様とエックスさんもその場に居たのでしょう!?なのに何故…」

 「当然俺とナギ…と言うか俺達はフェイト達と一戦交えたが、どこぞの生もののせいで隙を突かれてな。
  暴発した転移魔法に関係ない奴まで巻き込まれたと言う訳だ。
  それと、付け加えるなら――あのニュースの映像は全て捏造だぞ?」

 「「「え?」」」

 「捏造…ですか?」

 そんな彼女達にとって、稼津斗の言う事は衝撃だろう。
 捏造と言う事は、アノ映像は魔法世界の住人全てを騙している事になるのだ。

 「あぁ、捏造だ――と言うよりも気付かないか?…ナギの容姿に。」

 「ちょ、エックス!?」

 更にはハッキリと捏造と言い切り、おまけに大胆不敵な一言。
 ネギは慌てるが、其れはもう遅い。

 頭の回転が速いエミリィとユエのコンビにはこの一言でも充分だ。


 「ナギ様の容姿?……あぁ〜〜〜!!!」

 「アノ映像の少年にソックリです!!」

 「まぁ、ソックリどころか本人だからね。」

 「あ、アスナさんまで!?」

 気付いた所で今度はアスナが乗っかる。
 この際ばらしてしまおうと言う事だろう。

 「ななななな、そんな!う、嘘です!!大体歳が……って変身魔法!?
  では、其の大人の姿は仮の姿で、本当の姿は子供…?」

 「はぁ…そう言う事です。」

 ネギも諦め降参。
 どの道、ユエが記憶を取り戻したら知られてしまう事であり、遅いか早いかなのだ。
 だったら素性を明かして、其の上で色々やる方が後々面倒は少ないだろう。



 勿論、乙女騎士団に所属する彼女等が黙っている筈が無い。

 「ビー、コレットさん、この方達を………!?」

 リーダー格のエミリィが、すぐさま捕縛しようと指示を出そうとするが…出来なかった。

 「…少し落ち着け。先ずは此方の話を聞いてもらおうか?」

 原因は言わずもがな、稼津斗。
 殺気ではないが、その身から発した圧倒的なまでの『気』で彼女達を制したのだ。

 「別にお前達に害を加えたりはしない……只先ずは話を聞いて欲しいだけだが――了承いただけるかな?」

 「…っ!!わ、分りました…先ずは話だけ…」

 「ありがとう。無用な争いはしないに限る。」

 決して大声では無いが、其れが逆に迫力がある。
 実戦経験――こと、命懸けの戦いの経験が皆無の彼女達が従うには充分すぎた。

 「さて、それじゃあ話すとしようか――ゲートポート襲撃事件の真実を…」








 ――――――








 ――略同刻、グレートパル様号内部


 「っつーことで、フェイトって言う極悪野郎が敵さんてわけよ。
  まぁ、ネギ君とナギっち及びそのパートナー連中は大丈夫としても…」

 「桜子殿とまき絵殿と夏美殿は危険極まりないでござるなぁ…」

 飛空挺に残ったメンバーは、巻き込まれ組の3人に状況と敵その他をさらに詳しく説明していた。
 あくまで巻き込まれたのは不幸な事故なのだが、戦闘に関してマッタクの素人であるまき絵、夏美、桜子はこれから先最も危険だろう。

 「ウチの護符も万能やありまへんからなぁ?」

 一応千草が特製の『陰陽護符』と『護衛式神符』を持たせているが其れも絶対では無い。


 …桜子だけは神がかり的な強運で何とかなってしまう気もしなく無いが…


 「其れはやばいかも…」

 「あはは〜〜、大変だね〜〜。」

 「大変だねじゃないよ!?下手したら命の危険が〜〜!!」

 そして巻き込まれ3人組は温度差が凄い。
 リアルに危険を感じていると思われるのが夏美だけと言うのは如何なのだろうか?

 まき絵も其れなりに危機を感じて入るようだが、桜子は能天気すぎる。


 尤も、桜子の場合はネギの『闇魔法習得』に立ち会っていたため『恐怖・危機』の感覚が少々おかしくなったのかも知れないが…


 だが、何れにせよこの3人が現状で最大の『弱点』であるのはまちがいない。

 だからと言って、ダイオラマ球を使ってもフェイト達から身を護れるだけにするには時間は圧倒的に足りない。

 ならば如何するか?


 「つー事で、アンタ等3人とも、『麻帆良に帰るまでの期間限定』でネギ君と仮契約しなさい。
  仮契約すればアーティファクトってマジックアイテム出るから、其れを使えば何とかなるかもだよ?
  其れに、仮契約すれば肉体的耐久力も上がるからちょっとやそっとじゃやられないらしいからね。」

 「ネギ先生は仮契約の重要性を分っていますが、今は状況が状況ですから。
  御三方の身の安全を確保するためとなれば其れが一番でしょう――仮契約は後日解く事も出来るらしいので。」

 仮契約だ。
 現状で身を護る術を持たない3人には、ダイオラマでの修行は当然として仮契約が最も手っ取り早い。

 ハルナと刹那の説明を3人とも真剣に聞いている。
 自分の命に直結する事なので当然だろうが…


 「そだね〜、ネギ君にお願いしてみようか〜?
  やっぱ皆で無事に麻帆良に帰らないといけないし〜〜。」

 「だよね。うん、私もネギ君にお願いしてみる!」

 「えぇっと……」

 「村上はネギ君じゃなくても良いんじゃない?コタともできるよ仮契約…

 「!!!」


 取り合えずこの3人も何とかはなるだろう……多分。








 ――――――








 「…つまりそれで皆さんはチリジリになり、漸く何人か揃った所でネギさんの賞金首手配を知ったと…」

 「更に、奴隷身分となった仲間を解放するために拳闘士に……ご苦労察します…」

 再びオープンカフェ。
 大方の経緯と現状を説明し、意外にもエミリィ達はその話をスンナリ受け入れていた。

 『嘘』『作り話』と断じる証拠が乏しいと言うのもあるだろうが、話のリアリティと何より稼津斗とネギの熱意が伝わったからだろう。

 因みに2人とも本名はちゃんと明かしている。


 「でもです、だとしたら何故ネギさんが賞金首手配をされるのです?
  幾らなんでもオカシイですよ――フェイトとか言う連中が手配されるのが筋だと思うです。」

 そして当然の疑問。
 ユエでなくともそう思うだろう――『何故ネギとその従者達(武闘派オンリー)が手配されるのか』と…


 「政治的に僕を利用しようとしている人が居るんだと稼津斗は言ってたけど、僕もそう思います。
  英雄『ナギ・スプリングフィールド』の息子と言うだけで、僕には相当な利用価値があるでしょうから……不本意ですが。」

 本気で不本意なのだろう。
 表情には出ないが、ネギの身体から溢れる『不機嫌オーラ』が出まくりだ。
 そのオーラからは『見つけ出したら顔面整形手術してやる』と言った感情まで見える気がする。
 少しばかり『闇の魔法』が発動しかかっている辺り相当だろう。

 「…落ち着きなさいネギ。」

 「あ、はい。すいませんアスナさん。」

 其れを抑えるアスナは実に見事である。
 流石は姉といったところか…


 「でも、そうなると一体誰がネギさん利用しようとしてるんだろう?」

 話は戻って、今度はコレットの純粋な疑問。


 確かにネギを政治的な観点から利用するにしても『誰』が『何のため』に利用しようとするのかが分らない。
 大々的に賞金首として手配した以上、其れを理由にネギに取引と言う名の脅迫を迫るは確実だろう。

 だが、その上で何をするのかは余りにも不明確。
 其れは稼津斗達にだって分らない。


 尤も、稼津斗もネギ自身も誰が何の目的でネギを利用しようとしているのかなどには興味は無かった。
 …当然だ、敵対するなら潰して先に進めば良いとさえ思っていたのだから。


 「さぁ?だが、取り合えず帝国の皇女様と、メガロメセンブリア元老院のリカード。
  其れとアリアドネー魔法騎士団の総長様は除外だな。」

 「だね。
  僕を利用するつもりなら、対ラカンさんの修行の手伝いなんてしないで、あの場で拘束した方が良いもん。」

 それでも自然と候補から外れる人物は居る。
 奇しくも今の3人は、修行を手伝ってくれた事と、その際の友好的な態度から除外されたのだ。
 こと、テオドラ皇女とリカードはそう言った搦め手は先ず不得手だろう。


 「だが、どうやらその『犯人』の方からやってきてくれたみたいだぞ?」

 「「「「「「「え?」」」」」」」


 そして、唐突な稼津斗の一言。
 犯人――つまりはネギを賞金首手配した張本人が現れたというのか?

 「隠れてないで出てきたら如何だ?
  そもそも、それだけの『護衛騎士』を引き連れていたら隠れるのも一苦労だろう?」

 自分達の席の略真後ろに向かって声をかける。
 気配察知でとっくに存在は割れているだろう。

 「それとも――のどかの『隔絶結界』で周囲を囲った上で殲滅攻撃でも仕掛けてやれば出てくるか?」

 更に出てくるように言う。
 隔絶結界を使うと言う辺り、関係ない市民を巻き込まないようにする配慮だろう。



 「此れは此れは…よもや察知されるとは…気配は消していたんですがね?」

 「気配は消しても完璧じゃあないな、アレでは気付く奴は気付く。
  特に護衛騎士の何人かは、気持ちが昂ぶって気配を殺すどころか強くなってる…気をつけたほうがいい。」

 「ふむ、ご忠告痛み入ります。」

 ワザとらしい態度で現れたのは銀髪で長身痩躯の眼鏡のイケメン男。
 複数の騎士――兵を引き連れている辺り相当な権力の持ち主だろう。


 「…成程、それだけの兵隊を自由に動かせるとは相当に高い地位に居る権力者…。
  拳闘大会の開会式にも居たと思ったが――なんて名前だったかな、セブンシープ嬢。」

 「へ?え、あぁ…メガロメセンブリア信託統治領オスティアの新総督――クルト・ゲーデルMM元老院議員です…!」

 本当に可也の権力を持った人物だった。
 だが、意外にもエミリィが稼津斗達の前に出て、かの総督に向き合う。

 どうやら、一連の話を聞いて稼津斗達の言う事を『真実』とする事にしたようだ。

 「ゲーデル総督…記念祭期間中、市内での公権力の武装は、我々アリアドネー騎士団にしか許されていないと記憶していますが?」

 「いや、なに…私は幼少より虚弱体質でして、恥ずかしながら何人かの部下を連れないと外出も出来ない有様で。
  まぁ、此れはごくごく私的なボディガードのようなものです――お気になさらずに。」

 明らかに私的ボディガードの量では無い。
 それでもエミリィはおくびにも表情を変えない…奇しくもさっき受けた稼津斗の『気』が彼女の度胸を強化していたらしい。

 「それで…その虚弱体質の総督様が何の御用でしょうか?
  それも、こそこそと隠れるような真似をして――エックス様には気取られたようですが…」

 あくまで退かない。
 相手がワザとらしい態度で来るなら、こちらとてマトモにはやり合う気は無いと言うことだろう。

 「普通に考えて相当に後ろ暗い事なのは容易に想像がつくが…
  例えば……そうだな、此れだけ揃った美少女を武力で制圧して、私的ハーレムの要員として連れ帰るとかか?」

 「或いはそっち系の趣味で、イケメン2人が狙いなのかも…」

 「アスナさん、ハルナが悦びそうな事言わないでください…」

 「単純に、正面切ってくる度胸が無かっただけじゃないかと思いますね。」

 稼津斗、アスナ、のどか、ネギの順で其れに乗っかる。
 挑発心理戦でも稼津斗とネギは相当に強いのだ。


 「此れは此れは…腕っ節だけでなく舌戦も見事なものですねぇ…。
  ふむ、言うなれば有名人に御忍びで会いに来た、と言うのが一番適切ですかねぇ?」

 「ほう?総督様がわざわざとは…此れは丁重に挨拶すべきか、クルト・ゲーデル総督殿?」

 「いえいえ、堅苦しいのは好きではありませんから結構です。
  ですが、挨拶だけはしておきましょうか――大会優勝者サイ・ダブルエックスもとい氷薙稼津斗君。
  そしてナギ・スプリングフィールド…もといネギ・スプリングフィールド君?」

 素性はばれている。
 矢張りネギ達を手配した連中の一派である事は間違いない。
 少なくともなんらかの関係はあるだろう。

 「しかし、私も幸運な男です――かの大戦を終結させた大英雄のご子息とこうしてお会いできるとは。
  いや、この地では大英雄のご子息様ではなく、こう言い換えたほうが適切でしょうか?
  かつて自らの国と民を滅ぼした魔女、災厄の女王…アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの遺児と…」


 そして、どうやら最初からやり合う気満々で有ったらしい。
 嫌味たっぷりに歪んだ笑みは、見ているだけで嫌悪感が募る。



 一触即発。





 真昼のオープンカフェは、異様な雰囲気に包まれたのだった…
















  To Be Continued…