拳闘大会決勝戦を稼津斗とリインフォースのタッグが制した日の夜、街の酒場や盛り場は大いに賑わっていた。
老若男女問わず、話題は拳闘大会の事で持ちきり。
特に、準決勝でラカンを倒したナギコジペア、そして其のナギコジペアを決勝で沈めたエックスルインペアの話題が殆どだ。
「いや〜〜、決勝のあれは試合に勝ったのはエックス達だが勝負勝ったのはナギ達だろ?
エックス組を超強化状態にさせたんだからな。」
「ふん、何を言うか…アレはエックス組が早期決着を目して変身しただけの事。
あのまま戦っていてもエックス組の勝ちは動かぬ。」
「あ?んだとぉ!やんのかコラ!」
「事実を述べたまで!だが、売られた喧嘩は買ってしんぜよう!」
で、其の2チームの話題で対立もちらほら。
まぁ、だ〜〜れも気にしてない、此れくらいは拳闘大会期間中は日常茶飯事であるし慣れているのだ。
喧嘩のゴングが鳴った場所では『おぉ、エックス組とナギ組の代理戦争か?』とか『いいぞ、もっとやれ!』とか聞こえてくる。
自分が当事者でないと、存外無責任な事が言えるのは何処でも変わらないらしい。
「コラ其処!無許可での決闘は処罰対象に!!」
「委員長、其れは職権乱用!」
警備係の騎士団は大変そうではあるのだが…
少なくとも此度の拳闘大会は誰が如何見ても『大盛り上がりの大成功』であっただろう。
ネギま Story Of XX 86時間目
『奴隷解放万々歳!』
其の決勝戦を戦った2チームは、蒼き翼+3−Aの面々と共に拳闘士に割り当てられた宿泊施設の部屋に居た。
因みに此処はネギと小太郎の部屋である。
「いや〜、正直言ってネギ君とコタには驚いたよ!」
「稼津君とリインを変身させるなんて思わなかったね!」
稼津斗の従者達は一様に、ネギと小太郎の成長ぶりに驚いていた。
まぁ、変身したとは言っても最後の一撃の時のみであり、その時まで無変身状態だったのだからマダマダ実力差はあるのだが。
だが、それでも未変身状態の全力と互角に戦っていた以上、ネギと小太郎の実力は相当に上がっているのは間違いない。
褒められたネギと小太郎も満更では無さそうだ。
「しかし、ネギ坊主達のこの成長…拙者等もうかうかして居られぬでござるな。」
「そうですね…追い抜かれないように頑張りましょう!」
其の成長は他にも影響を与えているようだ。
「だが、本当に強くなったなネギも小太郎も。
マダマダ経験は足りないが、其れを補って有り余るほどの成長速度だ…正直に驚いた。」
「おうよ、俺様もまさかTKO喰らうとは思わなかったからな!」
稼津斗とラカンも太鼓判。
コピーエヴァも何処か満足そうだ。
「んじゃあ、まぁ拳闘大会も無事終わった所で久々にコイツを行ってみるか!
久々の…ラカン特製強さ表!今回の拳闘大会の結果を踏まえて、改めて戦闘力を整理してみっか!」
で、恐らくはノリであろうが、何処から取り出したか巨大な黒板出現!
ネギがラカンを訪ねた際に作った『強さ表』を新たに創るらしい。
実は、超が新たに『戦闘力測定器』を製作中だが、まだ完成していないのだ。
なので、今回はラカンの『観察眼』+大会の結果その他の集計数値といった所だろう。
「さて、魔法世界に来た頃にはカゲタロウよりも下だったお前だが…
闇の魔法を会得し、更に修行を重ね、オリジナルのスペルまで作り出して……
フェイトとか言う白髪坊主が本気の本気を出せば此れくらいだろうが…まぁ、大体こんなもんだ!」
そして完成した最新版強さ表!
其れにでのネギの強さは…なんと小太郎共々15000!
此れは前の表に於ける稼津斗を上回る。
其れほどまでに成長しているのだ。
なお、他の強さを簡潔に言うと…
・稼津斗→15万(更に上がる可能性あり)
・ラカン→14万(バグとチートで更に倍、テンション如何で更に倍:千雨談)
・リインフォース→13万5000(更に上がる可能性あり)
・楓→9万(更に上がる可能性あり)
・裕奈→8万5000(更に上がる可能性あり)
・和美、のどか→8万(更に上がる可能性あり)
・アスナ、刹那、古菲、超→6000
・千雨、アクア→100
・桜子→2
以上。
…此れだけ見ても蒼き翼は異常戦闘力と言えるだろう。
……果たしてこの集団に勝てる連中が居るのか?甚だ疑問である。
だが、其れよりも気になるのは
・フェイト、セクスドゥム→12万
と言うこの数値。
今のネギの10倍近いと言うのは流石に解せないだろう。
「ジャック、あいつ等が12万と言うのは?」
「ん?あぁ、まぁ表面的な強さ、戦闘力だけ見りゃ其れくらいには簡単に上昇出来ちまうんだあいつ等は。
言うなら能力、技、強さを自分に取り込むんだよ――記録媒体に書き込むみてーにな。」
「インストールかよ!ったく何でもありだな。いや、稼津斗先生とネギ先生とオッサンが一緒のこっちが言えた義理じゃねーか…」
が、ラカンはフェイト達の特性を知っている。
要するに厳しい修行や何やらをしなくても、簡単に強さを手に入れる事が出来ると言うのだ。
そう、パソコンのOSをアップデートするかのように…
其れを踏まえ、更にこの間の街中での戦闘結果を加味し『此れくらいになってるだろう』と言う予測数値だったのだ。
「即座に強さを手に入れる……それなら俺達に負けはない。
自らの鍛錬なくして得た強さなど所詮は紛い物だ、厳しい修行を何度も重ねて得た強さには到底及ばないさ。」
だが、ハッキリ言って『だから如何した』状態。
確かに瞬間的に強くなるのは凄まじいが、其れは所詮下地無し。
何度も修行を繰り返し、確固たる基盤のある稼津斗やネギ、蒼き翼の面々とは強さの基礎が違うのだ。
ネギと小太郎もこの12万と言う数値にさほど驚いた様子は無い。
「まぁ、あいつ等が何を如何しようと、敵対し俺達の帰還の障害となるなら取り除くまでだ。
其れよりも今は、此処での目的を果たすとしようか?」
当面、フェイト達は『遭遇したら其の都度対処、戦う時は叩き潰す』で全会一致。
今は目下最大の目的である、亜子達の解放が最優先。
「あぁ〜〜、漸く解放されるんやなウチ等…」
「き、きつかった〜〜〜…」
「まぁ、でも充実していた言えば充実してたのかな?劣悪環境でもなかったし…」
亜子、夏美、アキラもホッと一息。
決して劣悪環境で無かったとは言え、『拘束具+爆弾』な首輪とおさらば出来るのだから当然だ。
既に優勝賞金100万ドラクマは手に入れてある。
後は正式な手続きをすれば其れでお終いだ。
今まで時間が掛かったのは、大会後の優勝者インタビューやら、俄ファン等が控え室に押しかけたりで余裕が無かったのだ。
「それじゃあ、一息付いた所で行こうか?」
「「「賛成〜〜!!」」」
魔法世界に来て数ヶ月、漸く解放される時が来たらしい。
――――――
「はい、100万ドラクマ確かに受領いたしました。
首輪の鍵は、テオドラ様が管理していらっしゃるので、奥の間で直接お受け取り下さい。」
奴隷なんかの管理をしている部門に、3人の契約書と100万ドラクマ渡して10分ほど。
金額と契約書の確認が終って、いよいよ首輪が外される。
手続きを終えた一行は、案内されて受付の奥の部屋に。
其の部屋の中では既にテオドラが待っていた。
まぁ、ラカンから奴隷解放の云々を聞いて待っていたのだろう。
「では、規定に従い鍵を渡そう――主等には、思いがけない体験をさせてしまったな…
この世界は20年前の大戦から完全に復興していない故に、奴隷のような制度も中々なくせぬのじゃ…
何も知らない御主等には、大変な思いをさせたな…」
鍵を出しながら、申し訳無いと言う。
一国の皇女と言う立場上、此れが最大限出来る『謝罪』なのだろう。
其れは分るので誰も何も言わない。
ただ、軽く一礼するのみだ。
「首輪の南京錠の番号と同じ数番号の鍵で解除が可能じゃ。」
「あぁ、分った。」
其の鍵を受け取り……何故か夏美の番号の鍵を小太郎に投げて寄越した。
亜子とアキラの鍵はちゃんと持っているのに…
「兄ちゃん?」
「村上の鍵はお前が外してやれ、俺が外すよりもそっちの方が村上も喜ぶ。」
「ちょ!稼津斗先生!?///」
如何やら稼津斗的な気遣いらしい。
夏美の小太郎への思いは――まぁ、そう言う事なのだろう。
「?なんやよう分らんけど、夏美姉ちゃんが喜ぶんなら良いけどな?」
小太郎はマッタク分ってないが。
いや、普通の10歳の男子としてはこっちが正常反応だろう――ネギがそっち方面で成熟しすぎているだけだ。
ともあれ此れで鍵は解除できる。
「ほな、失礼すんで夏美姉ちゃん。」
「あ、コタ君…///」
――カチャ
先ずは小太郎が夏見の鍵を解除。
続いて、
「よく頑張ったな亜子。」
「稼津さん…うん、大丈夫や。稼津さんならきっと何とかしてくれる思ってたから。」
――カチャリ
稼津斗が亜子の鍵を解除。
残るは1人。
「大河内も、よく頑張ったな。」
「稼津斗先生……うん、ありがとう///」
アキラの鍵も無事解除。
此れにて奴隷身分の3人は晴れて自由の身だ。
解除される時にアキラの顔が紅かったのは、まぁそう言う事だ。
さて、此れで『3人の奴隷解放』はなされたわけだが――当然それだけで終らない!
何故か?
集まった面子が3−Aだからだ!
この面子が仲間が自由の身になったと言う状況で黙っているだろうか?
…断じて否!
騒ぐ理由があれば即座に乗っかるが3−A!
其れが固い絆で結ばれた仲間の解放となれば当然!
稼津斗達の部屋で即刻『祝・解放記念』の宴会開催だ。
「ガッハッハッ!オラオラ、今日は無礼講だ!二十歳未満だろうが関係ねぇ!
俺様が許す!嬢ちゃん達も飲め飲め〜〜〜!!」
「お〜〜、さっすがはラカンさん!」
「ちょ、駄目ですよ和美さん〜〜!!」
「な〜に硬い事言ってんの!のどか、アンタも飲め〜〜!!」
「はう、裕奈さ〜〜ん!!」
「…先ずは一献如何かな亜子殿?」
「ほな少しだけ♪」
「あ、亜子!?」
で、宴は大騒ぎに発展!
まあ、何時もの事である。
そんな宴の最中で…
「…取り敢えずは一区切りかな?」
ネギはバルコニーで1人夜景を眺めていた。
が…
――ズズ…
「!!!」
言い様の無い重苦しい感覚に襲われる。
まるで暗い何かに支配されるような……
「ネギ。」
「如何したネギ?」
「…っ!稼津斗、エヴァンジェリンさん…!」
其の不気味な感覚も、稼津斗とコピーエヴァが来た事で取り敢えずは霧散した。
だが、ネギにとってはなんとも不気味な感覚だっただろう。
「近衛嬢のアーティファクトでも完璧には治ってないだろう?」
「ラカンの奴が医者を呼んでくれたそうだ、診て貰うが良い。」
「あ、はい…」
2人に言われネギは室内に。
此れでバルコニーには稼津斗とコピーエヴァだけだ。
「…ネギのあの症状、試合での怪我や疲労なんかじゃないな?」
「うむ…闇の魔法の侵食だ。
如何に適性があるとは言えど、人間が其れを会得した場合には闇の侵食は避けられんよ…」
「矢張りか…」
ネギを襲った謎の感覚は、どうやら闇の魔法を会得した『代償』の様だ。
今はまだ其の真実を伝えるときでは無いと判断したのか、何も言わなかったが…
「まぁ、ネギならば侵食を乗り越えるだろうよ。
そうでなければ我が本体も、闇の魔法の体得を前提にした鍛え方などはせんさ。」
「だろうな。」
だからと言って危機感を感じているわけでは無い。
ネギならば乗り越えるだろうと信じているのだ。
だが、其れとは別に…
「貴様は大丈夫なのか?」
「ん?」
「私が引き込んだとは言え、お前も闇の魔法の巻物に入り込んだのだ……侵食は無いのか?」
コピーエヴァ的には稼津斗の事が気になった。
自分で引き込んだとは言え、稼津斗もまた闇の魔法の巻物に入り込んだのだ。
或いは浸食を受けていてもなんら不思議は無い。
「いや、俺は大丈夫だ――俺は闇の魔法を体得した訳じゃないからな。」
「そうか…」
「まぁ、仮に侵食されてもオリハルコンで押さえ込む事は出来るから心配は無用だ。」
でも、侵食は無いらしい。
いざとなればオリハルコンで押さえ込む事も出来るというのだから大丈夫だろう。
「だから心配するな――今はこの宴会を楽しもうじゃないか。
なんなら治療が終ったネギを夜景観覧にでも連れ行けばいいんじゃないか?」
「良いかもしれんが…其れは我が本体に譲るとするさ、まぁせめて酒に付き合ってもらう位はしてもらうがな。」
コピーエヴァはそのまま室内に。
そして残された稼津斗は…
「まぁ、確かに闇の魔法の侵食は無いんだが…」
――ドクン…!
「く…!!」
――足リヌ…血ガ足リヌ、チカラガ足リヌ…モットダ、モット戦エ…!
「少し…大人しくしていろ…!」
闇の侵食とは又違う何かの影響を受けていた。
「…武に身を置くものは時として『鬼』と化すか……なんだって今更――爺さんに勝ったせいなのか?」
其れの正体を如何やら知っているらしいが、途轍もなく厄介な代物のようだ…
「或いは元々俺にはその素質が有ったのか――何れにせよ面倒な事になったな…
『殺意の波動』、か……厄介な暴れ馬を手に入れたものだ…俺の意志とオリハルコンの力で、果たして飼いならせるか…」
其の呟きへの答えは無い。
今は、まだ…
To Be Continued… 