満身創痍、疲労困憊――今の2人を端的に表現するならそれ以外の言葉は無いだろう。
もし、この2人が並の、凡百な拳闘士だったらこの時点で終っていただろう。
だが、この2人――ネギと小太郎の闘志は未だ消えず、それどころかこの状態にあって尚強くなっている。
「馬鹿な…立ったとてジリ貧であろう!!」
「いや……ありゃあ追い詰められた奴の目じゃねぇな…」
カゲタロウは驚くが、ラカンは冷静に2人の状態を見抜いていた。
背水の陣ではない。
ギリギリの状態でありながらネギと小太郎の瞳からは『勝つ意志』が消えていない。
――オイオイ本気か坊主?さっきの雷速瞬動は俺様から見ても『本物』だったぜ?
未だそれ以上の『策』があるってのか?……こいつぁ、楽しみだ!!
ラカンも其れを見て、恐らく無自覚だろうが笑みを浮かべる。
そう、『強者を目の前にした闘士の笑み』を…
ネギま Story Of XX 82時間目
『Q:限界って何の事?』
「約45秒か…」
「は?なにが?」
「ナギがジャックを倒すための準備をする時間だ。」
客席では稼津斗が冷静に状況を分析していた。
如何に闘志が消えずとも、状況はネギ達の方が絶対不利は明白だ。
となれば自分達が動ける間にラカンとカゲタロウを戦闘不能にしなければ敗北は必至。
そんな状況で、ネギが何をするかは大凡予想がついていたようだ。
「倒す準備って…いや、ナギ君は凄いと思うけど状況キツイよねサイ兄?」
「確かにコレがタイマン勝負だったらナギは負けだったろうが……此れはタッグマッチだ。
ナギが全ての準備を完了するまでの時間は小次郎が稼ぐことが出来る闘いだ。
全てはこの――約45秒を小次郎が護りきれるかだ。」
「つまり小次郎が護れればナギ殿達の勝ち、出来なければ負けということでござるか?」
「分りやすく言うとな。」
端的だが、状況を分り易く纏めた稼津斗の説明を聞きながらも視線は闘技場から外さない。
「つっても英雄ラカンの無敵ぷりは見たとおり。同じ戦法じゃジリ貧だよねぇ?」
「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」
「うい〜っす。何か大変な事になってるねアンタ等も。」
更に何処から現れたか『謎のシスター』こと春日美空も会場に来ていた。
加えて高音と愛衣のコンビも一緒。
美空の契約主であるココネは言わずもがなだ。
「…春日…来てたのか?」
「観光だけどね〜……ゲートポート壊されて帰れねぇんですけど如何したモンすかねぇ!!」
「…以降俺達と共に来ることを進める。」
「マジ頼んます!!!」
謎のシスターも色々大変らしい。
とは言え今は試合に集中。
闘技場では、ネギと小太郎がいよいよ反撃に入ろうとしていた。
――――――
「コジロー君…43秒間、頼める?」
「43秒でいいんか?其れやったら余裕綽々やで!」
闘技場ではネギと小太郎が反撃の作戦会議を終えていた。
約45秒との稼津斗の予想通り、ネギが必要としている時間は43秒。
この43秒を護れるかどうかが試合の勝敗に直結する。
たかが43秒だが、相手はラカンとカゲタロウという超一流、護りきるのも至難の業だろう。
だが、小太郎に迷いは無い。
強大な2人の相手を見据え、それどころか闘気全開の『メンチギリ』を返す始末。
犬狼の眷属よろしく、手を出したら噛み付かんばかりの勢いだ。
「…捨て駒役スマナイ!」
「ハッ、裏家業でなぁ…こう言うのは馴れっこや!!」
ネギの一言を合図に、小太郎はカゲタロウに突貫!
勿論カゲタロウとて、この馬鹿正直な突貫を真正面から受けたりはしない。
「む…来るか!!よかろう!ならば全力でお相手いたそう!!千の影精で編まれた千の槍!逃げ場は無いぞコジロー殿!」
千の影槍を放ち、小太郎を止めんとする。
寸分違わずその影槍は小太郎を捕らえるが……その身には届いていない。
全てが小太郎の身体に触れる前に消えている。
小太郎が発した闘気に消されているのだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そしてその闘気の発生源である小太郎は見た目が変わっていた。
黒髪は腰の辺りまで長く伸び、身体は胸や腹の一部を除いて全てが黒い体毛で覆われている。
「我流獣化奥義『人狼黒影装』!」
コレまでの獣化とは一線を隔す新たな獣化。
其れの闘気でカゲタロウの影槍を吹き飛ばしたのだ。
「馬鹿な…!く…」
「遅ぇ!!」
慌てて障壁を張ろうとするカゲタロウに、小太郎は一足飛びで接近。
新たな魔法詠唱をさせまいとクロスレンジに持ち込み、猛ラッシュ。
――先ずはカゲを押さえこまなオッサンの相手は出来へん。……兄ちゃんからの切り札その一を切るんは此処や!!
そのラッシュの最中に、小太郎は突然ラッシュをやめ『正拳突き』の構えを取る。
そして…
「兄ちゃん直伝破壊の奥義!『剛爆拳』!!」
――ドガァァァァァン!!
まるで爆弾でも爆発したかのような轟音が鳴り響き、会場を揺らす。
此れは明らかに小太郎の一撃が原因。
其れを喰らったカゲタロウは闘技場の壁にめり込み、大凡戦える状況では無さそうだ。
「グハ…!こ、此れは…」
「…人間の間接言うのは一種のクッション材で、どんな打撃も少なからず間接の可動性で威力が落ちるらしいんや。
やけど全身の間接を、拳が相手に触れる瞬間に完全に固定できれば、俺の体重を全て拳に乗せることができる!」
コレが小太郎が稼津斗から教わった『切り札その一』だ。
稼津斗が教えた2つの打撃のうちの1つがこの『剛爆拳』。
人体における関節というアブソーバーを全て固定して全体重を乗せることにより、自らの体を同重量の鉄球と化す技。
打撃の反動や負荷もダイレクトに身体に伝わる為、使用者への負担も大きいが、決まれば一撃で相手を戦闘不能にする拳だ。
「大人の俺の体重が大体50kg位やが……お前は言うなれば、時速100kmで飛んできた重さ50kgの鉄球を受けたよなモンや!」
更にもう1発!
影装で防いでも威力を殺しきるなどは到底不可能――と言うよりも防げるはずが無い。
一撃必倒の拳を2発も喰らったカゲタロウはコレで戦闘不能だろう。
だが、此れはタッグマッチ。
相方が健在ならば、どちらかがKO状態でも負けには成らない。
「やるじゃねぇか…だが、詠唱中の坊主ががら空きだぜぇ!?」
カゲタロウはKOしてもまだラカンは健在なのだ。
当然ネギを狙って攻撃を仕掛けようとするが、小太郎が其れをさせるはずもない。
「させへんわ!!」
無数の気弾を放ってラカンの進行を止め、更に渾身のタックルで闘技場の残骸(今までの戦闘で破損した部分)に叩きつける。
――後の事はどうでもえぇ!準備完了までの43秒、このオッサン抑えて可能な限りダメージ叩き込んだる!!
縄状にした狗神で拘束し更に気弾を放つ。
だが、相手はかのジャック・ラカン。
「フン!!」
「な、片手で相殺やと!?」
その気弾も片手の拳一発で粉砕相殺――のみならず、自身を拘束している影を引っ張って強引に小太郎を引き寄せ…
――ドゴォォォォ!!
右拳一閃!
「アガ…!!」
――な…只の右がなんちゅう威力…出鱈目にも程が有るやろ!…やけど!!
「ほう?コイツを耐えるとはマジで見事だぜコジロー?
だが、残念だったな……魔獣退治は俺の専門領域でな。…アデアット!」
其れを耐える小太郎を評価しつつ、己のアーティファクトを展開。
完全に此処で小太郎を沈める気だろう。
――まだや!後15秒!!
「オラァァ!!!」
負けじと小太郎も振り下ろされた剣を弾き飛ばした――拳で。
「お?」
「せやぁ!!」
新たな剣を使っても又弾き飛ばされる。
それだけならば何もおかしくは無い。
おかしいのは小太郎の動き――明らかにラカンが『攻撃態勢』に入ったのを確認してから拳を打ち出しているのだ。
「オイオイ…なんだその異常に速い拳は?威力はカゲタロウを倒した奴の1割にも満たないが、俺の攻撃を見てから迎撃たぁ…」
「へっ、言うならカゲぶちのめしたのとは真逆の攻撃や。
さっきのは全身の関節を固定したが、こっちは全身の間接を同時に加速させとるんや!
相手の攻撃を見てからカウンターを打ち込める…コレが兄ちゃん直伝速の奥義『音速拳』!!」
さっきの剛爆拳とは反対に、一撃の威力を捨て代わりに速度を追及した拳打がこれ。
全身の間接を固定せずに、加速装置のバネとする事で目視不可とも言える超高速の拳を繰り出す技だ。
其れを使ってドンドン撃ち落していく。
が、物量が違う。
如何に速かろうと両の拳では撃ち落せる限界がある。
徐々に小太郎の身体には傷が増えていく。
それでも未だ倒れない。
――あと、8秒!
根性で拳を振るい続けるが、遂に一本がその身体を貫く。
「ぐ…!!!…あと3秒!!!」
それでも最後まで諦めずに拳を振るい――
「左腕解放固定『千の雷』!右腕解放固定『千の雷』!」
――ゴォォォォ!!
遂にネギの準備が完了した。
「双腕掌握!!」
両の腕を使った二重装填。
暴力的なまでの力を其の身に取り込み、稲妻を纏いながらラカンに向かってゆっくりと歩を進めて行く。
「ぬ?」
其れと略同時に、奮闘していた小太郎が此処でエネルギー切れ。
無数の剣を受けて気が剥ぎ取られ、獣化も解けてダウン。
だが、カゲタロウを戦闘不能にし更にラカンとやりあったのだ、寧ろ誇っていい。
いや、誇るべきだろう――最大の好敵手にして友であるネギから頼まれた『43秒』を護りきったのだから。
「……0秒。時間ピッタシやな?ま、ライバルの役目は大体こんなもんやろ?
こっからは主役の役目――バトンタッチやナギ!」
「うん、ありがとうコジロー君。」
完全に地に服す前にバトンタッチ。
小太郎が死力を尽くして護りきった43秒――お膳立てしてもらった手前、此れはもう負けられないだろう。
友からの思いを受け取ったネギはそのままラカンの前に。
其の姿は先程の雷天大壮とは似て異なる。
纏う力が桁違いであるだけでなく、余剰エネルギーが後ろ髪から放出され其れが伸びきった髪の様に見える。
何よりも此処まで歩いてきた跡がネギが放出したエネルギーで抉れているのだ、其の力は推して知るべきだろう。
「ほう?二重装填なんて事が出来るとは…ソイツが最後の切り札か?」
「さぁ、如何でしょうか?雷天大壮U……『雷天双壮』とでも呼んでください。」
闘技場の略中央で睨み合う。
どちらも視線は外さない、闘気も萎えない――指一本でも動かせば即座にバトル開始の状態だ。
『さぁ、闘技場中央で睨み合う、ナギ・ラカン両雄!
両チームともパートナーが事実上脱落した今、勝敗はこの2人の正面対決に絞られたか!?
カゲタロウ選手はコジロー選手の波動砲の如き拳打を2発喰らって行動不能!
其のコジロー選手もラカンの猛攻の前に獣化を解かれてダウン!!さぁ、どうなるこの戦い〜〜!!』
実況もこの戦いを盛り上げる。
観客も声援も大きくなっている。
観客の興奮が高まる中で、先に動いたのはネギだった。
「鶴打頂肘!!」
雷速の肘打ちで先制攻撃。
其れが見事にヒットした、ラカンに反応されずに。
「!!」
――ぬ…こいつぁ…!
考える間を与えずに、前蹴り、横蹴り、足払い!
「破ッ!!」
中国式拳打で殴り飛ばし、其れを追いかけて肘、膝、拳、蹴りの猛ラッシュ!
同じラッシュでもさっきのラッシュとは比べ物にならないほどに速い。
ラカンも裏拳でカウンターを狙うが、逆に其の拳を止められカウンターのカウンターで蹴りが入る。
明らかに『雷天大壮』を大きく上回っているのは間違いないだろう。
「…成程『常時雷化』とは考えたな?アレなら『雷天大壮』の弱点其の1『出掛りを潰される』を克服出来る。
おまけに今度はさっきとは違って距離を開けていない、徹底的にジャックに喰らいついている。」
客席でも稼津斗が感心し驚いていた。
雷天大壮の弱点を見切ったラカンは確かに凄い。
だが、ネギは1度破られただけで其の弱点を克服した技を持ち出してきたのだ。
稼津斗のみならず、全員がそれには驚きだろう。
「今の戦い方が弱点其の2『秒速150kmなのにカウンターされる』への答え――インファイトにござるか!」
「そっか!ノーリスクのヒット&アウェイを捨てて、アクセル頼りの近距離フルボッコ!」
「ナギ君頑張ってーーー!!」
自然と応援にも熱が入る。
其れに押されるように殴る、殴る!
息つく暇さえなく殴る、反撃すら許さずに殴り続ける。
『おぉぉぉぉ!!ラッシュラッシュラッシュ!!正に不死鳥の如く蘇ったナギ選手、怒涛の猛ラッシュ!!
英雄の速射攻撃を尽くかいくぐり、更に上行く不可視不可避の連続攻撃!!』
止まらない連撃にラカンの体もぐらつく……が倒れない!
確りと踏ん張っての仁王立ちだ。
『だが倒れない!!幾十、幾百の打撃雷撃を其の身に浴びて、英雄未だ倒れず!
『死なない男』『不死身馬鹿』『つかあのオッサン剣が刺さんねーんだけどマジで』の異名は厳然たる真実とでも言うのか〜!?』
此処でラカンの鋼の肉体が壁となった。
如何に究極的なスピードで撃とうとも、ネギの拳ではラカンに決定打を与えるには至らないのだ。
まして、大人状態でもネギの体重はラカンの半分ほど……ウェイトの差は如何ともしがたいものがある。
「はぁ…はぁ…」
「流石に限界か坊主?お前は良くやった…よくやったが、ソイツが最後の切り札なら俺には勝てんぜ?」
確かに、スピード頼りのラッシュもネギのスタミナと言う限界がある。
如何に10歳としては異常なスタミナを有しているとはいえ、ラカンと比べればずっと低い。
「フー…あれ?僕はコレが最後の切り札って言いましたっけ?」
だが、ネギは焦らない。
「へへっ、罠に掛かりましたねラカンさん?」
「なに?」
それどころか悪戯が成功した悪ガキの様な笑みを浮かべて見せた。
と、同時にラカンの足元を何かが拘束。
「ぐお…コイツは…コジローか!!」
「へっ!」
其れは小太郎の狗神を使った拘束術。
倒れたものの、ネギの攻撃の間にこの一発を放つだけの体力を回復したのだろう。
このタイミングの良さを見る限り、或いはネギの笑みはサインだったのかもしれない。
そのまま充分な距離をとり、新たな術式を解放する。
「双腕解放!右腕固定『千の雷』!左腕固定『雷の投擲』!……術式統合!!
オリジナル合成スペル、雷神槍『巨神ころし』!!」
新たな術式は、目玉が飛び出るほど巨大な雷の槍を造り出した!
しかもこけ脅しでは無いほどのエネルギーを内包している――これがオリジナル呪文とは恐ろしい。
「鋼の肉体と言っても不滅では無い。現にさっき『ゼロ距離雷の暴風』をヒット直前に芯をずらして避けましたよね?
此れはつまり限界を超えるダメージなら彼方にキッチリと届くと言う証明だ――いきますよラカンさん?」
おまけにこの局面で『力比べ』を挑発!
コレだけの魔力とラカンのパワーが激突したらどうなるかなど想像するだけでも恐ろしい。
「融合オリジナル呪文て、ドンだけ器用なんだテメェはよ?てゆーか…
結局の所力比べってんならよ、態々罠で固めずとも喜んで付き合ってやるぜ!?」
しかも相手はラカン。
千雨曰く『超究極脳筋男』たるラカンが力比べときて応えぬはずがない。
ネギの槍に集中する魔力。
ラカンの拳に集中する気。
それらは共に高まり、実況も『コレが決着の一撃か!?』と言う位に、エネルギーのハリケーンは闘技場を吹き荒れている。
――悪いな坊主…力比べなら、手加減しねぇぜ!!
「ラカン…インパクトォォォォォォ!!」
先に放ったのはラカン。
宇宙戦艦の主砲の如き一発を惜しげもなくぶっ放し、其れは地面を抉りながらネギに向かう。
…放ってから、ふと違和感を覚えた。
ネギは自身のアーティファクトで、アスナの『天魔の剣』を使う事が出来る。
其れはつまり純粋物理攻撃以外はラカンの攻撃とて無意味であり、この力比べの必要も無い。
加えて、有ろう事かネギは其の一撃を前にして槍を投げずに下げたのだ。
――何故槍を投げねぇ?死ぬぞ!?
ラカンもネギが何を考えているか分らない。
だが、其の攻撃が当たる瞬間、ネギの目が見開かれた。
「術式解凍!!」
「!!」
「ネギ流闇の魔法!敵弾吸収陣!!!」
現れた巨大な魔法陣!
更に自身の前にも魔法陣を展開し――ラカンの一撃をとめた!
――敵弾吸収!つまり力比べ自体が俺に本気の一発を打たせるための罠!
だがあんな巨大な魔法陣を何時………まさか、最初のヒット&アウェイのラッシュの時か!?
「つー事は、まさかハナッから狙いはコレ…!!」
「おぉぉぉぉぉ!!!!」
――ラカンさん、確かに今の僕の力では彼方に届かないかもしれない…
強大な力は少しずつだが確実にネギが吸収していく。
「掌握!!」
重低音と共にネギの姿もラカンの放った一撃も消えた。
いや、ネギは何時の間にかラカンの懐に潜り込んでいた。
――ですが、僕の力にあなた自身の力を上乗せしたら如何です!?
そのまま左の拳をボディに炸裂。
「ぐふ!!」
確実に入った、そして『効いて』いる。
つまり今のネギの一撃はラカンに有効なのだ。
コレを逃す手は無い。
今この時が、最初にして最後の好機!逃したら次は無い勝機だ。
「そのままブチかませナギィィィ!!!」
「言われなくても!!」
小太郎からの声援も受けて、間髪入れずに右腕を振りぬく。
「…太陰道。即ち、気弾・呪文に関わらず、相手の力を我が物にする闇の魔法の究極闘法…
私ですら完成形を思い描きながら費用対効果を考え開発を断念した幻の技法だ…
よもや其れを完成してくれるとは……マッタク大した奴だよお前は…」
コピーエヴァもネギのまさかの技に驚きを隠せず、しかし感心し嬉しいようだ。
――術式解放・完全雷化!
「千磐破雷!!」
完全雷化からの突進攻撃で追撃!
そのまま闘技場の端、安全の為に防壁が張られている地点まで押し込み、掌打、拳打、肘打ちの連続攻撃。
其のラッシュもコレで終わりでは無い。
――右腕解放・魔法の射手・雷の千一矢&加算羅漢力!!
「雷華崩拳!!」
追撃は体術の師である古菲から太鼓判を押された必殺の拳打。
「マダマダぁ!!!」
それでもラカンを倒すには未だ足りない。
更に術式を展開して行く
――右腕解放!
「巨神ころしぃ!!!」
さっき作った槍を撃ち出しラカンを串刺しに!
――解放!雷神槍!!
「千雷招来!!」
超絶猛攻の〆は特大の雷魔法!
合成魔法の槍から直に発生した其れは闘技場の防壁内部を荒れ狂う。
――バリィィィィン!
其の威力耐え切れず、防壁が崩壊!
「…観客のセーフティの為の防壁を破壊するとは…遂にナギも人間止めたか?いや、ジャックを倒すためには其れもやむ無しか?」
「取り合えずアンタが言っても説得力の欠片もねぇからな?」
観客席は、矢張り稼津斗の半径5mは安全地帯だった。
其れは兎も角、全ての攻撃が終ったフィールドの粉塵も晴れ詳細が明らかに。
ネギと小太郎は健在で、カゲタロウは壁にめり込んだまま。
そしてラカンは――槍が突き刺さった状態で完全KO!
『こ、此れは…!し、勝利ナギチーム!!伝説の英雄を打ち倒し完・全・勝利ーーーッ!!』
其れを見た実況がネギと小太郎のチームの勝利を宣言!
この大会の実況は同時にレフェリーも兼ねている。
其れが『勝利』を宣言したと言う事は=ラカンチームへのTKO負け通告に他ならない。
今からラカンが起きたとて其れは覆らない。
ネギと小太郎は、見事伝説の英雄を打ち倒したのだ。
「やったなナギィ!!」
「うん!でも、勝てたのは君のおかげだよコジロー君!!」
小太郎が駆け寄りハイタッチ。
激戦に相応しい決着だっただろう。
「ふふふ…ふっふっふ…はっはっはっはっは!!」
が、
「見事だ!実に見事だぜ坊主共ぉ!!!」
高笑いと共にラカン復活!!
あっちこちから血が噴出してるが、それ以外はピンピンだ。
『はぁぁぁ!?何でピンピンしてんのこの人ぉ!!?』
「うおぉぉぉい、出鱈目にも程があんだろあのオッサン!マジでオリハルコン搭載してんじゃねぇのか!?
つーかバグだろ!?この世のバランスぶっ壊すウィルスバクじゃねぇのかあのオッサンはよぉ!?」
「いや、其れは無いと思う…多分、きっと…」
余りの事に実況も千雨の突っ込みが追いつかない。
稼津斗ですらラカンがオリハルコンを有している事をキッチリ否定できないようだ。
「嘘やろナギ!なんであのオッサン起きてんねん!!」
「知らないよ!魔神すら倒す一撃を内側から受けて健在だなんて理論上不可能だ!!」
ネギと小太郎も大混乱。
ただ1つだけハッキリしている事がある。
ラカンは人間じゃない!!
この一点はネギと小太郎が共通して思ったことだ。
己の師が人間でないことを差し引いても、ラカンの異常っぷりは逸脱しているのだ。
「ま、TKO宣言されたんじゃ俺様も負けを認めるしかねぇな。
TKO宣言したってこたぁ、少なくとも第3者の目からみりゃ俺はやられちまったって事だからな。」
槍を引き抜き、満ち足りた笑顔でラカンはネギ達に向き直り歩を進める。
「俺の予想を2段3段上回ったナギ、ナギが全てを進められるように俺とカゲタロウを抑えたコジロー…
いいねぇ…最高だぜ!負けても満足ってのは初めての気分だ!実に気持ちがいいぜ!!」
「ラカンさん…」
「おっちゃん…」
そのまま2人に近づき、夫々の腕を掴む。
「紅き翼が1人、ジャック・ラカンが太鼓判を押してやる!
今この時よりお前ら2人は『一人前』だ!誇れ、胸を張れ!」
掴んだ腕を掲げて2人の勝利を称える。
更に…
「うむ…実に見事であった…我等の完敗だな。」
カゲタロウもヨロヨロながら2人の元に来て其の勝利を称える。
「ラカンさん、カゲタロウさん…」
「オッサン…カゲ…」
己の勝利を称えてくれるラカンとカゲタロウに、ネギと小太郎も姿勢を正して向き直る。
「「ありがとうございました!!」」
全力を出してくれた事への礼。
激闘の終りは互いに礼を持ってだ。
「ウム、機会があれば何れ…」
「明日の決勝も頑張れや!」
「「はい!!」」
ナギ・スプリングフィールド杯準決勝第1試合はネギと小太郎が勝利を収めた。
この戦いは後に『拳闘大会屈指のベストバウト』として永く語り継がれることになるが其れは又別の話。
で、
「…何をしているんだ絡繰?」
「いえ、麻帆良に残ったマスターへのお土産に今の試合を録画してまして…」
「オメーは又…まぁ、それくらいなら良いか?」
茶々丸はエヴァの為に試合の全てを録画しているのだった♪
To Be Continued… 