「結局は…」

 「極めて楽勝だったな。負ける気がしない。」

 異形の魔族コンビに完勝した稼津斗とリインフォースは闘技場から控え室に。
 如何に楽勝と言えど、戦う事で発生する疲労は溜めておくべきではない。
 後は他の選手の試合を観戦し、終ったら温泉と言う所だろう。

 「稼津さん!リイン!」

 「稼津斗先生!リイン!」


 その2人を出迎えるのは亜子とアキラ。
 仕事が一段落しこっちに来たと言った所か…

 「亜子とアキラか、態々来てくれたのか?」

 「仕事中だろう?抜け出すのは色々拙いんじゃ…」

 「其れは大丈夫や。」

 「丁度、休憩の時間ですから。」

 「そうか。」

 此処に居る理由を聞き、稼津斗もリインフォースも納得。
 休み時間ならば誰も文句は言うまい。

 「もうすぐだ。もうすぐお前達を自由の身にしてやれる…あと少しだけ待っていてくれ。」

 「うん♪ウチは稼津さんの事信じてるから。勿論リインもな」

 「なら、それには応えないとな。」

 奴隷身分の解放は、取り合えず良好な方向に進んでいるようである。











 ネギま Story Of XX 80時間目
 『激震!英雄参戦!!』











 「時に…そろそろカゲタロウの試合じゃないか?」

 「「「カゲタロウ?」」」

 「ネギを襲った影使いの拳闘士だ――確かエントリーしてたはずだが…」

 奴隷解放は最重要課題としても、ネギを街中で襲ったカゲタロウの試合も当然気になる。


 稼津斗はカゲタロウの正体を看破しているが、他のメンバーはそうでは無い。
 特にネギ組の面子は観客席で目を皿のようにしている事だろう。
 勿論ネギ本人も。


 「あ、エントリーしてるで?…次の次の次に出てくるみたいや。」

 「今やってるのを入れて、あと3試合か…観客席で一緒に見るか?」

 稼津斗も稼津斗でカゲタロウの試合は気になるらしい。
 ラカンが手引きした人物となれば其れもまた当然だろう。

 今の今までカゲタロウの試合は稼津斗やネギの試合の直後であった為観戦する事ができなかったのも大きい。
 試合終わって引き上げて、観客席に行くともう試合終了という事ばかりだった。
 それだけカゲタロウの実力が高いと言う事でもあるのだが、矢張り一度くらいは試合を見ておきたいもの。

 丁度休憩中の亜子達と一緒に観戦しようと言うのだろう。

 「あ〜〜…そうしたいのは山々なんやけど、休憩はそないに長くないんや…」

 だが、休憩はそれ程長い時間は取れない。
 精々10分が良い所だろう。
 カゲタロウ登場まで3試合も有るのでは少々時間的にきついものがある。

 「私も稼津斗先生と観戦したいけど…お仕事を放ってはおけn「今日はもう上がって良いぜお前等。」…トサカさん?」

 アキラも断ろうとしたが、其れは意外にもトサカの一言で遮られた。
 本日のお仕事終りの報だ。

 「トサカさん…やけどレストランまだ人が一杯や!」

 「あぁ?今大会の一番人気2組の試合が終っちまったから今日はアレ以上混む事はねぇよ。
  もう1人のソバカスガキもさっき奴隷長(ママ)が上がって良いって言ったからな…門限までに帰ってくりゃかまわねぇ。」

 如何やらそう言う事らしい。
 本日の客は稼津斗達の試合をピークに、後は増える事は無いらしい。
 減っていくだけなら大丈夫なのだろう。

 亜子達も亜子達で、仕事が終って一緒に観戦できるとなれば嬉しい事この上ない。
 亜子は当然としてアキラも嬉しそうだ。

 「本当に良いんですか?」

 「あぁ?かまわねぇてったろうが!」

 口調は荒く刺々しいが、不快な感じはしない。
 トサカもトサカで思う所があるようだ。

 「大体ウチの拳闘団の拳闘士が人気トップ2と来てるんだ…その拳闘団お抱えの奴隷が疲れて仕事できねぇなんぞ洒落にならねぇからな。」

 それだけ言ってトサカは持ち場に戻る。


 「稼津さん…」

 「あぁ…口は悪いが、トサカ自身は悪い奴じゃあ無さそうだな…」

 残された面子の中ではトサカの評価が上方修正されているようだった。








 ――――――








 さて、次なる試合!予選をこれまで単独で勝ち抜いてきたカゲタロウ選手!
  この最終戦に、遂にパートナーを従えての登場です!


 闘技場では遂にカゲタロウの試合が始まろうとしていた。
 アナウンスに沸く会場がカゲタロウの人気の高さを伺わせる。

 実の所、エックス&ルインペアとナギ&コジペアには大きく劣るもののカゲタロウは今大会の人気第3位につけている。
 それだけの実力者ともなれば会場が沸くのも頷ける――観客がこれ以上は増えないが。

 稼津斗組とネギ組の面々もこの試合を観客席で観戦中だ。

 「この大会をパートナー無しで勝ち抜いて来たか……」

 「半端な実力じゃないよ…」

 アナウンスを聞きながら、稼津斗は何処か納得した感じで、ネギは少し緊張した感じで闘技場を見ている。
 が、他の観客の興味はカゲタロウのパートナーに移っていた。


 当然だろう。
 たった1人で此処まで勝ち抜いてきた拳闘士のパートナーが誰なのかに興味を持つなと言う方に無理がある。


 公式の場に姿を現すのは実に10年ぶり!彼こそは伝説の傭兵剣士!
  自由を掴んだ伝説の最強奴隷拳闘士!大戦期平和の立役者……
ジャック・ラカーーーーーン!!


 「「「「「「!!!!」」」」」」

 そしてコールされたパートナーはトンでもないモノだった!
 これには稼津斗も驚く。

 カゲタロウは確かにラカンの差し金の刺客だが、其れと組んで大会に出てくるとは予想外にも程がある。

 「ラカンさん!?」

 「何してんねんあのオッサン!」


 突っ込むのは仕方ない。
 ハッキリ言って何で出て来たのか一切不明!意味が分らないにも程がある。

 では試合開始!!


 無常なるかな、状況を把握するのを待ってくれる筈も無く試合開始。
 対戦相手が緊張して『サインを!!』とか言ってるのは…ある意味仕方ない事かもしれない。

 だが試合は試合!
 開始と同時にラカンは飛び上がり、右拳に力を集中!


 「へ、行くぜぇ?…羅漢適当に右パンチ!!!」

 で、思いつき全開の力任せの右ストレートを上空から一閃!
 その威力は力を籠めた右ストレートとしても大凡人が出せる威力では無い。
 最早『打撃音』など生温い……殆ど爆弾の炸裂音のような攻撃音だ。

 其れを喰らった相手は言うまでもない。
 態々カウントするまでも無く完全KOだ。

 「安心しな寸止めだ。」

 「…寸、止め?」

 直撃させておいて何が『寸止め』と言うなかれ。
 ラカンが全力でブチかましていたら今の相手など木端微塵の芥子粒だ。


 「…おいナギ…」

 「うん、間違いないよ…あのラカンさんは…」

 「「本物だーーー!!!」」

 観客席のネギコタは結構アレだった。
 出てきた時には『名前を語ったそっくりさん』かとも考えたが、試合結果が其れを完全否定!

 「まぁ本物だろうな、気は同じだし。そもそもあの適当な技名とアホさ加減と常識無視の強さは真似出来る物じゃない。

 「常識無視の強さ…お前が言っても説得力に欠けるな。」

 「リインもやけどね。」

 おまけに稼津斗が其れを肯定。
 稼津斗の気の感知で『本物』と断定されたら其れはもう絶対だ。




 試合が終ると同時に一行はラカンの控え室に。
 どう言う事か聞く心算なのだ。


 「ラカンさん!!」

 「おぅ、来たか坊主!!」

 そのラカンは控え室に戻るなりカゲタロウと一杯やっていた。
 強者の余裕を体現したような光景だ。


 「如何して大会に!!」

 そんな事よりもネギにはラカンがエントリーしてきた事の方が大事だ。
 奴隷身分の解放には自分か稼津斗の優勝は必須。

 少なくとも稼津斗が負けることは無いだろうが、それでもラカンの参戦は意味が分らないのだ。


 「如何して?…決まってんだろ、お前や兄ちゃんと戦いたくなっちまったんだよ。
  大会は静観するつもりだったんだが…余りにも良い試合見せてくれるモンで元奴隷拳闘士の血が騒いじまったのさ。
  まぁ、コイツは俺の我侭だ、俺が優勝した場合でもあの3人の嬢ちゃんは解放してやるから安心ろや。」

 「そ、そうですか…って、でも如何してカゲタロウさんと!?」

 参戦の理由は至ってシンプル。
 だが、それでもカゲタロウと組んでる事がネギコタには理解不能!
 特にネギは自分を襲撃した相手が、自分の師と組んでいるのは意味が分らないでは済まないだろう。

 「あぁ、カゲか?…お前がぶっ倒れてる間に飲んだら意外と気が合ってよぉ!」

 「うむ、話してみると此れが以外に気さくな御仁でな?」

 完全嘘だが言い切られたらネギは何も言えない。
 もう納得するしかないのだ。


 「其れにな坊主…コイツはお前が『次のステージ』に進むために突破しなきゃならねぇ関門だ。」

 「え?」

 「俺とナギは略同格、でナギの野郎は大戦期にアーウェルンクスの1人をブッ飛ばしてやがる。
  つー事はだ、最低でも俺と互角の勝負が出来なきゃアイツに勝つなんて事は到底不可能だろうが。」

 「!!!」

 更に、ラカンは考えていた。
 自身との戦いでネギの今の力量を測ろうとしていたらしい。

 「まぁ、お前とやる前に兄ちゃんと当たっちまったら仕方ねぇが、その辺は天の采配に任せようぜ!!」

 「適当だな本当に…」

 けれども当たるかどうかは運任せ。
 途中で稼津斗組と当たったら……如何したって其処でTHE ENDは確定しているのだ。


 だが、このラカンの考えはネギの闘士に火を点ける切欠になった。

 「分りました…決勝トーナメントで当たったら本気でやりましょうラカンさん!」

 恐れるどころか、『本気』でとのたまってくれた。
 決して虚栄や強がりでは無い、ネギは本気でラカンとのぶつかり合いを決めたようだ。

 「へっダチ公が覚悟決めたら、俺かて覚悟決めな格好つかへんな!
  当たるかどうかすらわからへんけど、直接対決のときは手加減無しやでオッサン!」

 そうなれば小太郎も吠える。
 決勝トーナメントの組み合わせすら発表されていないと言うのに既にこの部屋は闘気で満ち満ちている。


 「決勝トーナメント…面白くなりそうだ。」

 「予選のような退屈な試合は、そろそろ飽き飽きしていたからな。」

 稼津斗もまた闘気を無意識に迸らせている。
 いや、リインフォースもまた魔力が知らずに高まっているようだ。


 「其れと坊主…俺を満足させたら良い事を教えてやるぜ?」

 「良いこと…ですか?」

 「お前の母親の事だ。」

 「僕のお母さんの事!?」

 「おうよ!…っと勘違いすんなよ?お前のお袋さんはナギと違ってお前には『会いたくても会う事が許されなかった』んだ。
  育児放棄のあの馬鹿とは違うからな?その辺はちゃ〜〜〜んと理解しとけよ?」

 「あ…はい。」

 ナチュラルに爆弾投下。
 ネギの母の事など余り知る人は居ないだろう。

 ネギとて母親の事は気になっていた。
 だが、ナギと違って名も残っていないため調べようが無かったのだ。

 其れが分る…そう聞けば俄然やる気も出てくる。
 出てくるが…

 「けど、満足なんて寂しい事いわないで下さいよラカンさん…」

 「あん?」

 「満足させただけじゃ僕も小太郎君も満足しない…僕の母さんの事は、僕がラカンさんに勝ったら教えてください!」

 条件には不満が有った。
 満足させるだけでは足りない……ネギは勝ってこそと考えていた。


 「ほう…言うじゃねぇか坊主!
  良いぜ…やっぱ男ならそう来なくちゃよ!最高だぜ……決めた!俺様の『英雄』の名を使うぜ!
  『千の刃のジャック・ラカン』の雷名使えばトーナメントの組み合わせくらい軽〜〜く変えられるからな!
  俺とお前が準決勝で当たる組み合わせにしてやる!…兄ちゃんはトーナメントの反対側で構わねぇか?

 「別に俺は構わないぞ?」

 ラカンも其れを受けて確実に自分とネギが戦えるように裏工作するらしい。
 此れはもうネギvsラカンは確定だ。


 決勝トーナメントに嵐が吹き荒れるのは間違いないだろう。








 ――――――








 
――翌日


 街には決勝トーナメントの組み合わせが発表されていた。


 ラカンの根回し通り、準決勝でナギ&コジペアとラカン&カゲペアがぶつかる組み合わせと相成っている。
 エックス&ルイン組は決勝まではその2チームと当たらない様になって居る辺りも考えたのだろう。

 そしてこの組み合わせは拳闘ファンの間で既にオッズが出来上がっている。

 準決勝の1試合は『ナギコジvsラカンカゲ』。
 決勝は『ナギコジvsラカンカゲの勝者vsエックスルイン』だと。


 まぁ、その予想は当然だろう。






 其れとは別に。


 「千の雷ぃ!!!」

 首都から離れた場所で、ネギは稼津斗や小太郎達に新たな魔法を披露していた。
 己の父であるナギが最も得意とした電撃系の最強呪文『千の雷』。

 ラカンとの修行で完成させる予定だったが、そのラカンと戦う事になった為に独学で9割方の完成までこぎつけたらしい。

 9割とは言えその威力は絶大。
 周辺に浮かぶ岩が今の一撃で溶岩のように溶けだしているのだから…


 「凄まじいな…だが…」

 「うん、これでも全然足りない。だけど…」

 「闇の魔法の術式装填に応用すれば行けるかも知れへん言う事やな!」


 それでもこの魔法単発ではラカンには効かないとは思っていた。
 其処で考えたのが闇の魔法を使っての『術式装填』。

 千の雷を装填すれば恐らく相当な力を得られるだろうと考えたのだ。


 「如何かな?」

 「…行けるな。ダイオラマを使って修行すれば完成できるだろう?」

 如何かと聞けば答えは是。
 ダイオラマ球で修行時間を延ばせば、準決勝までに其れを完成できるだろう。

 ネギの考えた新たな戦術は間違いでは無いようだ。


 「ふむ…千の雷を術式装填に使うか?…面白い考えだ。
  尤もあのチート無限の脳筋バグに挑むのならばそれくらいは有って然るべきだろうがな?」

 「エヴァンジェリンさん!」

 其処にコピーエヴァが登場。
 彼女もまたネギの新アイディアには感心しているらしい。

 「とは言え…勝率は極めて低いぞ?それでもやるのか?」

 「当然です!態々対戦の組み合わせまで操作して貰って…其れを逃げるなんてありえませんよ!」

 「まぁ、当然だろうな。」

 少しばかり意地悪なコピーエヴァの物言いにも動じない、
 逃げない、正面からやると言い切ってくれた。
 稼津斗も当然だと言い切るほどに。


 「そういう事で心配無用やで?…てかなんでアンタ此処に居るんや!」

 「ん?口の悪い犬だな…」

 「いや、コタロー君、この人は本物のエヴァンジェリンさんじゃなくて…」

 ちょっとした混乱発生。


 だが、その混乱は別の声によって静められた。

 「主等の修行の手伝いに来たのじゃ。」

 「…誰だ?」

 聞き覚えの無い声に稼津斗とリインフォースは警戒を強める。

 強めるが其れもすぐに解けた。
 その声の主と思われる人物と一緒に裕奈やアスナが居たから。

 「ヌシがネギか。あやつと違って賢そうな顔をしておるの。

 その人物は女性。
 褐色肌にブロンドの髪が映える美女。


 「お前は…」

 「うむ、一国の歯牙ない皇女じゃ♪」


 ヘラス帝国の第三皇女――テオドラ、その人だった。













  To Be Continued…