オスティアの闘技場は、今日も今日とて大盛況!
理由は言わずもがな、今大会のダークホースたる2組のルーキー拳闘士コンビ!
「オラァ!行ったでナギ!!」
「ナイスだよコジロー君!はぁぁ…雷華崩拳!!」
――ドガァァン!!
『Winnerナギ&コジローペア!此れが本当にルーキーか!?去年のベスト8を2分で料理だ〜!』
ナギコジは磐石。
更に…
「畳掛ける…せいや!…おぉりゃ!!…終りだ、頼むぞルイン!」
「闇に沈め…デアボリックエミッション!」
――ゴォォォン!!
『Winnerエックス&ルインペア!何処まで強いこのコンビ!果たして1分持つ相手は居るのか!?』
と、この様に大活躍。
拳闘大会マニアの間でこの2組のオッズがうなぎ上りに大上昇しているのはある意味当然だろう。
そして、観客の多くが今大会の決勝戦はこの2組の直接対決だろうと予想していた。
ネギま Story Of XX 79時間目
『これぞ怒涛の日々也』
さて、その大人気コンビの1組、ナギコジペアの片割れであるナギ、もといネギは飛行艇の一室で船の主であるハルナと向かい合っていた。
2人の足元には契約の魔法陣。
言わずもがな、ネギとハルナはこれから『仮契約』を交わすのだ。
此れはハルナの方からネギに申し出た事だ。
如何にハルナと言えど魔法世界に放り出されたからというもの、古菲達と合流するまでは大変だった事は想像に難くない。
持ち前の要領の良さと機転で旅費を稼ぎながら彼方此方を転々とし、こんな船一隻まで購入したのは見事の一言。
が、しかし道中全てが順風満々だったかと言うと其れは間違いなく『否』。
野生のドラゴンに襲われる事数回、野生生物の縄張り争いに巻き込まれる事数回。
路銀稼ぎの為にBL本売りまくって『風俗を乱した』として追われる事数回…尤も此れは自業自得だが。
盗賊やガラの悪いチンピラに出くわすなんて数え切れない程。
其れをそのつど切り抜けられたのは、単に立ち回りの上手さと麻帆良での修行と初歩ながら身につけた『召喚魔法』があったから。
とは言え何時までも其れに頼ってもいられない。
ましてフェイト一味が出てきたとなれば尚の事――1人で居る時に連中と出くわす可能性とて0ではない。
そんな時に最低限その場を切り抜けるだけの力がないと拙い。
元々、興味本位で関わったハルナだが実は至極真面目に修行しており初歩の召喚魔法ながらエヴァが『中々』と言うレベルである。
なので、その力強化の為に『仮契約』と相成ったのだ。
ネギもネギで、魔法に関わる事になった時とは違うハルナの真剣な申し出を断る理由も無かった。
因みに巻き込まれただけの、桜子、まき絵、夏美には千草が護身用(と言うには滅茶苦茶強力だが)の呪符を渡してあるから無問題である。
閑話休題
「では、いいですねハルナさん?」
「ん、OKよネギ君。」
魔法陣は光を増し、いよいよ仮契約。
ハルナも何時ものおちゃらけた表情ではなく真剣そのものだ。
「早乙女ハルナ、汝をこれよりネギ・スプリングフィールドの従者とする。汝が機転で我等が道を照らせ…仮契約!」
ネギの詠唱と共に光が室内を満たし仮契約が成る。
光が治まれば1枚のカード…仮契約の証である『仮契約カード』が姿を現す。
仮契約は無事成功の様だ。
「仮とは言え此れで一応主従だね…宜しくご主人様!」
「えぇ!?」
「なはは、冗談冗談♪」
悪乗りは何時もの事だ。
だが、悪乗りしながらも軽薄さは無い。
ネギ組に又1人頼もしい従者が誕生した瞬間だった。
――――――
オスティアの旧市街地。
大戦で朽ち果て、今は廃墟が連なるだけの場所。
此処に廃墟とは言え未だにその姿を残している城がある。
旧ウェスペリア皇族の城だった場所だ。
その廃城の一室で1人の少女が…
「離してってば!トイレくらい行かせてよ!!」
結構切羽詰っていた。
その少女はネギの幼馴染のアーニャ。
「…五月蝿いな…」
そのアーニャを見やるはフェイトの従者である焔。
如何やらアーニャは魔法世界に弾き出されて程なくして彼等に捕まってしまったらしい。
桜子とは真逆の悪運と言えるだろう。
「五月蝿いって…正当な権利でしょうが!!それとも漏らして恥辱を曝せっての!?」
「ごちゃごちゃと五月蝿い…生かされていると言う事を忘れるなよ貴様。」
ハッキリ言ってアーニャの言っている事は至極正当なのだが焔には只五月蝿いだけのようだ。
手に炎を揺らめかせアーニャに近づき警告する。
「自分の立場をわきまえろ…お前なんかその気になれば一瞬で消し炭に出来るんだぞ?」
「く…何よ!トイレ位いいでしょ!?」
「本気で五月蝿いな…少し痛い目をm「止めなさい。」…む…」
その焔を別の少女の声が制した。
「アスナ!」
其れはアスナ。
ネギ達と一緒に居る筈のアスナが焔を止めたのだ。
「命令?お前立場分ってるのか?」
「貴女こそ分っているの?言葉を返すようだけど、私がその気になれば貴女を消せるのよ?文字通りね。」
「く…」
アスナに凄まれ思わずたじろぐ。
今のアスナは明日菜の時とは違い、冷静で頭が切れる。
何よりも『元王族』の威厳すら滲み出ている感じだ。
そのアスナに冷笑と共に凄まれては何も言えないだろう。
「それと…私に成り代わってネギと一緒に居るあの子…栞と言ったかしら?
あの子、一体何時まで『アスナ』で居る事が出来るかしらね?」
「なに!?」
そう、アスナが此処に居るのは単にフェイトの襲撃時に一瞬の隙を衝かれて攫われたからに他ならない。
あの時アスナと対峙していた少女――栞が煙幕で目晦ましを使い、其れに乗じてアスナの唇を奪って眠らせたのだ。
更に、栞は自身のアーティファクトでアスナに成りすましている。
只姿を真似るだけではない。
強力な自己暗示で性格や行動パターン、果ては気配までも完全に本人に成りすます反則技だ。
其れ使って、栞は今この時も『アスナ』としてネギ達と共に居るのだ。
あの襲撃がアスナの誘拐が真の目的だとしたら、成程其れは成功だ。
だが、唯一の誤算はアスナが眠らされる瞬間に栞のやる事を感付いた事だが…
「強力な自己暗示で私に成りすます…其れは良いわ。
でも、あの子の心が乱れて暗示が薄れたらどうなるのかしら?ネギと一緒に居て何時まで『私』を演じられるかしらね。」
「何が言いたい?」
「ネギは子供の癖に常に英国紳士たろうとして、女性には優しく接するわ。
私の親友のキティ――闇の福音ですら虜にしたあの子の魅力に耐性の無い子がドレだけ堪えられるかしら?」
「あ、其れ多分無理だわ。ネギの無自覚タラシは犯罪級だし。」
そしてネギの標準装備スキルが栞を蝕むと考えているようだ。
アーニャーも其れには同意のご様子。
余りにもきっかりばっさり言われたせいで焔も思わず言葉に詰まってしまう。
「何にせよ皆を余り甘く見ない方がいいわ…特に稼津斗と、『私の弟』のネギにはね。」
「「弟ぉ!?」」
サラッととんでもない事を言ってくれた。
だが、記憶を取り戻したアスナが言うなら或いは本当なのだろう。
アーニャと焔は驚愕で開いた口が塞がらないようだが…
数分後、戻ってきたフェイト達が同じ事を聞かされて、同じように驚いたのは想像に難くないだろう。(フェイトとセクスドゥムの表情は変わらなかったが)
尚、フェイトの命でアーニャは無事にトイレに行く事が出来た事を一応追記しておく。
――――――
「ふ〜〜〜…一戦交えた後の風呂は最高だな。」
「マジやな。せや、兄ちゃん一杯如何や?」
「お、気が効くな小次郎。」
ネギとハルナが仮契約した翌日も、エックスルインペアとナギコジペアは磐石の勝利。
只今、試合後に街の温泉施設で一風呂浴びてる所だ。
「ちょ、コジロー君お酒なんて持ち込んで良いの!?」
「なんやナギ、温泉言うたら大人は盆に酒浮かべて一杯やるもんやで?」
「それ多分違うと思う!!」
まぁ、楽しみ方は人夫々だろう。
「しかし…流石に魔法世界全土から腕のある連中が集まってくるだけある。
まさか、予選だけで10試合以上やる事になるとは思わなかったな流石に。更に10試合以上予選があるんだが…」
で、話題は大会の事に。
大規模大会は、本当に大規模で今までの試合は何と全部が予選!
既に10試合以上を消化しているが、更に同じ位の試合をこなしやっと上位16組での決勝トーナメントになるのだ。
尤もこの面子の障害になる相手が居るかと言われれば否であるのだが。
「誰が相手でも優勝するだけや!気合入れてこや!」
「うん、そうだね。」
目標は本より優勝のみ。
それ以外は考えていないのだ。
「優勝か〜…君達なら出来るかもしれないねぇ?」
「「「ん?」」」
「やぁ。」
突然会話に入ってきたのは何時ぞやの賞金稼ぎ集団。
フレンドリーに話しかけてきたのはその中の魔族の青年。
恐ろしげな外見とは裏腹に意外と気さくな人物(?)であるようだ。
「お前達か…」
「いや、奇遇だな…おっと、ヤル気は無い。
アンタ1人にアレだけの完敗だ、こっちもプロだから金にならん事はしないさ。負けたのに見逃してくれたからね。」
その他の面子もリーダーのちこt…もといザイツェフもヤル気はない。
本当に偶然バッタリと言う事のようだ。
「まぁ良い、俺とて無用な争いは好まないからな。」
敵意が無ければ争う理由も無い。
稼津斗がこの調子だからネギと小太郎も臨戦態勢は取っていない状態だ。
「此処で会ったのも何かの縁だ。如何だ、一杯?」
「む、じゃあありがたく。」
で、早速飲む。
此れも親交を深める一つの手段だろう。
「時にもう1人居た仲間は今日は居ないのか?」
「ん?」
「のどかを剥いてたアノ変態。」
「パオイ・ツゥの事か?…アイツ女だよ?今は女湯。」
「…ダウト。」
「俺もそう思う、部下ながら…」
アノ変態に関する驚愕の真実!
男でも全然ダメな種類だが、女であるなら致命傷――寧ろもっと悪い。
今頃は堂々と女湯で不埒を働いているかもしれない。
「まぁ、楓達に手を出したら返り討ちに遭うだけだろうがな。」
「あ〜〜〜…楓姉ちゃん達に手ぇ出したらアカンわ…」
「ご愁傷様だね…」
相手が普通だったらであるが。
反対の女湯には『蒼き翼』の女性メンバーが入浴中。
この時点でパイオ・ツゥ終了のお知らせである。
数分後、予想通りに楓達に手を出したパイオ・ツゥが捕縛され、賞金稼ぎメンバーが取下げに行く事になるのだった。
尚、和美、裕奈、亜子、のどか、楓、リインフォースは全力で自分の身体を死守したとか。
愛する人が居る女性はいつ何時でも強かった。(謎)
――――――
更に数日後。
予選トーナメントもいよいよ今日で最終日!
今日の全試合を持ってベスト16が決定し、明日からの決勝トーナメントと成るのだ。
そのせいも有ってか、会場は今まで以上の人・人・人!
会場のレストランも大忙しで、亜子もアキラも夏美も息つく暇も無くフロアを縦横無尽に駆け回っている。
余りの忙しさに亜子がXX状態に成って仕事効率上げてるのはご愛嬌だ。
そして闘技場の熱気は更に凄い!
『先程のナギ選手同様、此方も話題のエックス選手、異形の魔族コンビを圧倒中!相方のルイン選手は高みの見物か〜〜!?』
既にナギコジペアが決勝進出を決め、今度はエックスルインペアの試合。
試合展開は言うまでも無く余裕そのもの、稼津斗1人で魔族相手に無双状態。
リインフォースも稼津斗から声が掛かるまでは待機の様子。
「く…他の試合で強いとは分っていたがこれ程とは…」
「出鱈目にも程があるだろうに…!」
対戦相手の魔族2人も驚いている。
今までの試合で相当な手練だと言う事は分っていても実際に立ち会うと矢張り違うのだろう。
まぁ、稼津斗が今までよりも力を出しているせいも有るのだが。
「試合中に考え事とは余裕だな?」
「「!?」」
だから、少しの考え事でも致命的な隙になる。
一瞬で懐に入り込まれ、先ずは6本腕の剣士の方に肘打ち一閃!
そのまま強引に背負い投げで投げ飛ばし、地面に落ちる前に回し蹴りで闘技場の端まで吹き飛ばす。
途中にあった石柱が勢いで壊れたのを見るに相当な威力だろう。
「おのれ…!」
その攻撃の終りを狙ってもう1人の蜘蛛の様な魔導師が水の魔法を稼津斗の頭上に展開。
「水精大瀑布!!」
水圧で押し潰さんと、凄まじい量の水を叩きつける。
「やったか!?」
一瞬期待するが相手が悪い。
「…亜子の水属性魔法に比べると遥かに温いな…」
気を纏った稼津斗には全く効果なし!
折角の水も気のバリアに弾かれ、完全に霧散してしまっているのだ。
「嘘!?く…水流障壁!」
「遅い。」
新たな魔法を発動するも遅い。
一瞬で姿が掻き消え、背後に!
「終りだ!」
アッパー掌打で打ち上げ、更に瞬間移動で追撃!
「覇ぁぁ…波導掌!!」
今度は気を篭めた掌打で地面に叩き落す。
そして…
「此れで決まりだ、轟け…サンダーレイジ!」
〆にリインフォースが闘技場全体を雷攻撃!
態々カウントするまでも無く、相手は此れで完全KOだ。
『エックス選手圧勝!ルイン選手は仕上げに回り、これで決勝トーナメント進出決定〜〜!!』
余りの強さに会場も静まり返り、
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!すげえぇぇ!!」」」」」」
直ぐに大歓声。
勝った2人はハイタッチをしてそのまま引き上げていった。
で、本日の試合を高みの見物をしている人物が。
「ほ〜〜…坊主も良い感じだし、兄ちゃんは相変わらず飛んでもねぇ強さだな。今のでも2割程度だなありゃ。」
ラカンだ。
貴賓席とでも言うべき場所で観戦しているが、こんな所に入れるのも『英雄』故だろう。
「今ので2割じゃと!?呆れかえる強さじゃ。」
そして1人ではない。
共に観戦しているのはヘラス帝国の第三皇女テオドラ。
此れだけでも凄い事だが、更にはメガロの元老院議員リカードにアリアドネー魔法騎士団総長のセラスと凄い面子が揃い踏み。
如何やらこの4人は旧知の仲であるようだ。
…知らない人間が見たらブッタマゲル光景だろうが…
「確かにとんでもねぇ強さだな。さっきの奴もだけどな?」
「あぁ、ナギの物真似とか言われておる色物拳闘士じゃな?妾も注目しているぞ?」
大会の話で盛り上がっている。
お偉いさんも大会の話題には目がないのだろう。
「あ〜〜、盛り上がってるとこ悪いけどな、そいつはナギの実子だぜ?で、今の兄ちゃんはそいつのダチで同僚だ。」
「「なにぃ!?」」
「!」
盛り上がった所で爆弾投下!
驚く他3人…当然だが。
「何だよ知らなかったのか?意外だな。」
「いや、だってお前ナギの息子ってまだ10歳くらい…あ、変装か!!」
然る後に大騒ぎ。
よもやナギの実子が出てくるとは思わなかったのだろう。
「まぁ、アノ伝説の賞金首『闇の福音』直伝の変装術だ、見破れなくても無理はねぇ。」
「な…闇の…」
続けて更に投下。
かの英雄の息子が、伝説の賞金首から魔法を習っているとなれば此れも当然の反応だ。
だが、テオドラだけは違う。
「なんじゃ、ナギの息子か〜〜。あのバグキャラの血を継いでいるのならばあの強さも納得じゃ。母親もアレじゃからな。
じゃが、だからと言ってあいつが優勝すると断言も出来ぬがな…」
ナギの強さに納得しつつも、エックスの事もあり優勝は判らないと言う。
見る目は有るようだ。
更に、
「そうだな…少なくともあの2組が準決勝まで上がるこたぁ間違いねぇ。」
ラカンも其れを肯定する。
するが、何処か含んだ言い方だ。
「だが、優勝はどうなるかな?
如何にも坊主と兄ちゃんの試合見てたら血が滾ってきてなぁ…さっきこの大会にエントリーしてきたぜ!俺が優勝した場合でも奴隷になっちまってる3人は解放してやるがな。」
トンでもない事をしていたようだ。
如何やらこの拳闘大会はスンナリ無事に終わるという事は無さそうである。
To Be Continued… 