稼津斗がセクスドゥムを圧倒していた頃、ネギもまたフェイトを相手に互角以上の戦いを展開していた。
 闇の魔法の運用が、まだ荒削りであるが故に『一方的に圧倒』とは行かないが、それでもネギが僅かに押している。

 「1つ聞いて良いかフェイト?」

 「何だい、ネギ君?」

 「君のその動き…八極拳だよね?何時の間に身につけたの?とても付け焼刃な動きには見えないんだけど?」

 唐突にネギは問う。
 当然だろう、自らがダイオラマの時間延長を使って身につけた中国拳法を使っているのだから。

 少なくとも京都の時には使えていなかった筈だ。
 いや、ゲートポート襲撃時にだって使っていなかった。

 『使わなかった』と言う事はないだろう。
 使えるのならば、使った方がネギと小太郎の攻撃だってもっと楽に捌けたはずだ。

 其れを踏まえると此の短期間で習得した事になる。
 例えダイオラマを使ったにしても、日数から勘案するとネギの修行の1割の時間にも満たない。
 一朝一夕で身に付くものではない事を知っているネギからすれば解せない。

 「ついさっきさ…僕には修行は必要無いからね。」

 「つまり、修行無しで力のみを手に入れる事が出来るって事?…さっきの言葉をそのまま返すぞフェイト…期待ハズレだ!
  修行無しで力だけを手に入れるようじゃ…僕には勝てない!!雷華崩拳!!

 その答えを聞き、はっきりと『勝てない』と宣言した上で必殺の魔力付与拳打を叩き込む。
 修行もしないで、強くなるという行為は矢張り言語道断だった様だ。











 ネギま Story Of XX 77時間目
 『結果は一応優勢勝ち』











 建物の屋根の上、調を取り囲むように陣を取っているのどか、裕奈、小太郎、千草。
 調からすれば分が悪いどころか圧倒的に不利。

 だが、焦っている気配が無いのを見ると、己の実力に可也の自身があるのだろう。

 「4人相手は些かきつい…ですが…」

 「『木精を最大使役すれば対処できる』ですか?」

 尤も狙っている作戦は全てのどかに筒抜け。
 既に本名が割れている調の考えを詳細にリアルタイムで読むなど、今ののどかには造作も無い事だ。

 「…矢張り厄介ですね貴女の能力は…ばれているなら隠す必要は有りませんね。
  では望みどおりに……木精最大使役――樹龍招来!」

 だからと言って調も慌てない。
 冷静に木精を使役し、中型の竜を3体召喚。
 此の3体と自分の、計4人(4体)で挑む心算なのだろう。

 「…そちらの銃剣装備のお嬢さんにはもう2体位必要でしょうか…」

 先程の音波攻撃を止められたせいだろうか?
 更に『裕奈用』に2体召喚――裕奈にはご丁寧にも合計3体の樹龍が用意された。

 「うっわ〜〜、私だけ特別扱い?」

 「自分の得意攻撃を掻き消した相手って事で警戒しているんだと思います。」

 「そりゃ、光栄。けどさ、あいつ自身はのどか狙いみたいだよ?モテモテ?」

 「嬉しくないですねぇ……まぁ、私の読心能力は敵に回すと厄介でしょうから、直接叩くって事だと思いますけど…」

 だが、当の裕奈は余裕綽綽。
 のどかも、調自身が直に来ると分っても冷静そのものだ。

 もしも此れが、本当に『安穏の平和を享受していた女子中学生』だったらこうは行かなかっただろう。
 だが、此の2人もまた京都にヘルマン襲撃に学園祭と修羅場を潜っている。
 裕奈に至っては一度死に掛けているのだから、この位では驚きもしない。

 「なんや、裕奈姉ちゃんとのどか姉ちゃんだけ特別扱いか?
  俺と千草姉ちゃんは召喚したこいつらで何とかなる思ってんのか?…ちと舐めすぎやで、デカ角姉ちゃん!」

 「木の精霊使役…召喚勝負やったらまけませんえ?」

 小太郎と千草も余裕の表情。
 だが…

 「つーか、別に相手のやり方に付き合う必要はねーよね?」

 「ありませんよ?」

 「なら、纏めてブッ飛ばしてもまるで問題ねーわけだ。」

 「はい、全く問題無しです。」

 裕奈とのどかがなにやら言っている。
 と言うか裕奈は、いや、のどかもヤル気バリバリ!
 その証拠に纏った稲妻が猛っている。

 「?なにを…」

 「答える義理はありまっせ〜〜ん!ぶっ飛べ、スクリーンディバイド!!」

 言うが早いか斬撃一閃!
 殆ど不意打ちに近い一撃に、樹龍は何も出来ずに全て消滅!
 あまりにも力が違いすぎる。

 「な…最大使役した木精が…!」

 此れには調も驚く。
 よもや最大使役した木精5体が、一撃の下に葬られるとは思いもしなかったのだろう。

 「く…!」

 其れを見て、調はやっと理解した――力が違うと。

 素早くその場から飛び上がると、そのまま飛び去ろうとする…形勢不利と見て逃げる心算だろう。


 ――まさか、これ程とは…フェイト様から変身の事は聞いていたが…ですが読心術士だけは…


 「私がなんですか?」

 「!!!」

 だが、追いつかれていた。
 思考を読んだのどかの前には奇襲離脱も意味をなさない。

 「逃がしません…!太陽系惑星十字!」

 無詠唱の宇宙魔法を略ゼロ距離で放つ。

 凄まじい爆発音と共に粉塵が舞い、調の姿は何処にも無い。

 「凄いなぁのどか姉ちゃん…」

 「今のでやりましたの?」

 「…いえ、逃げられました。尤も直撃は避けたとは言え大ダメージは変わりませんけど…」

 どうやら、直撃を避けギリギリで転移魔法を使って逃げたようだ。
 とは言ってものどかの魔法は直撃しなくとも威力は絶大だ、恐らく調は戦闘不能に陥ってることだろう。

 「のどかのアレをギリギリとは言え避けるか………追いかける?」

 「いえ、読心で考えは読めましたから放って置いて良いと思います。」

 「確かに…んじゃ、次はあのフェイトだね?」

 「はい、あの人の思考が読めれば、結構有利になるはずです。」

 調が戦闘不能と考えるが否や次の一手の為に動き出す。
 フェイトの思考が読めれば、其れはこの先の強烈なアドバンテージになるだろう。

 調を退けたのどか達は、今度はフェイトを目指して動き始めた。








 ――――――








 「自慢の火炎もその程度でござるか?此の程度の炎ではレアステーキも作れないでござる!」

 「ほざくな!!」

 又別の場所では楓と焔の戦いもすっかりヒートアップしている。

 更に、

 「楽しいですわぁ先輩…。こんな素敵な先輩と切りあえるなんてウチ如何にかなってしまいそう…」

 「く…狂人が!」

 何処からともなく現れた月詠が刹那を強襲し今に至る。

 アスナと栞は今だ見合ったままだ。
 どちらかと言うと相手の出方を伺っているのだろう。

 「来ないの?」

 「まさか…行きます!」

 即時に栞はアスナに!
 アスナも其れを迎撃するように天魔の剣を横に薙いだ。








 「あまりにも温いでござるよ焔殿…その程度では拙者の身体には傷一つ付かぬ!」

 「く…馬鹿な…!」

 「確かにお主は一般には強いでござろう。
  だが、拙者等はお主等のさらに上を行くでござる!受けてみよ絶技・紅蓮八双拳!!」

 アスナの一閃と略同時に、楓も必殺技を焔に叩き込んでいた。
 元々圧倒的な対格差がある上に、懐に入り込んでの超速8発の重撃炸裂!
 そのまま地面に蹴り落す――本気を出した楓の相手ではなかったのだろう。



 「何処までも異常だな貴様は、月詠!そんなに己の剣で人の命を奪うのが楽しいか!」

 「はぁ、はぁ其れはもう…特に今の先輩くらいやと…ウチ興奮して達してまいそうです…」

 「気違いめ…悪いが私はお前に興味は無い!消え失せろ…神鳴流斬岩剣!!

 顔を上気させ、熱っぽく言う月詠に対して、刹那は必殺の一撃を炸裂!
 だが…

 「あはぁ♪いいですわぁ…素晴らしいですわぁ先輩…もっと、もっと切り合いましょ…殺しあいましょ♪」

 恍惚とした表情で現れた月詠はボロボロながらも楽しそうだ。

 その姿に、刹那も思わず身震いする。
 あまりにも異常なのだ月詠は……刹那の一撃を受け、或いは絶頂に達したのか…
 いずれにしてもマトモな思考回路を持っては居ないだろう。

 「月詠…貴様…」

 「ねぇお願いです〜…もっとウチと切り合って…殺し合いしましょ…先輩の断末魔の声…あぁ想像しただけで…」

 余りにもおぞましい。
 月詠は既に人間として終っているようだ。

 「悪いけど変態はお呼びじゃないの。」

 其れをぶち壊したのはアスナ。
 栞を倒したのだろうか?一足飛びで月詠の前に現れての一閃。

 流石に不意打ちの一発だったせいか、月詠も其れを避ける…狂気の笑みを浮かべたまま。

 「あらあらお姫様も美味しそうおすなぁ…いっそ先輩と一緒に…「引き上げだ月詠!」…焔さん?」

 だが其処までだった。
 更に何かをしようとする月詠を止めたのは焔――引き上げる心算だろう。

 「不満は分るが今のお前はフェイト様に雇われの身…報酬を払っているんだから従って貰う。」

 「あらあら…其れは契約やから仕方ありませんなぁ…こんなに美味しそうな2人を目の目にして残念やわぁ…」

 既に転移魔法が発動し、逃げる準備は万端。
 転移魔法発動が成立している以上、外部からの不可だ。

 「待て月詠!!」

 「其処まででござる刹那!」

 なおも追撃しようとした刹那を止めたのは楓。
 深追いは禁物と言うところだろう。

 「楓…」

 「深追いは禁物にござる。少なくともあの2人は戦闘は困難でござるよ。
  特に月詠は、異常な快楽殺人者と言えどあれだけのダメージは後から来るはずでござる。」

 「確かにそうか…」

 刹那もクールダウンし事なきを得る。
 焔と月詠は離脱したようだ。


 「そう言えばアスナ殿…もう1人は?」

 「天魔の剣の腹の部分で叩きのめした。」

 アスナはアスナでキッチリと栞を倒していたようだった。








 ――――――








 環と暦に襲われたリインフォース、和美、ラカンの3名(木乃香とアクアも居ます)は焦ってなど居なかった。
 2、3度攻撃したところで、相手が実体ではないと見抜いていた。


 「時間と空間のコンボか?普通ならコイツで終わりだろうが…ワリィが俺様は1人じゃねぇ!
  こいつらの居場所は分ったかい、和美嬢ちゃん!」

 「楽勝!やっぱそいつ等は立体映像で本体は別に居るさね!」

 その上で速攻で今の空間を把握しているラカンと、術者の特定をしていた和美。
 即興ながら此のチームも相当だ。

 と言うか、英雄ジャック・ラカンとオリハルコンの戦士のチームに負けは無い。

 環と暦が引いたのはあまりにも貧乏籤過ぎた。

 「だが、此の空間はメンドクセーなおい?…頼んで良いかリイン嬢ちゃん?」

 「空間攻撃は私の十八番だ。…深き闇に沈め…デアボリックエミッション!」

 空間攻撃と分るや否や、リインフォースが更に超広域の空間攻撃で、此の無限回廊を破壊!
 そして現れたのは環と暦…一様に驚いている。

 まさか結界内部から空間を破壊するなど想像も出来ない。
 それでも其れは起きたのだ…リインフォースの手で。

 そもそもの地力に差が有る故に、空間攻撃はリインフォースに分がある。
 無限空間だろうとなんだろうと、超広域攻撃の前には意味をなさなかった。


 「暦…」

 「て、撤収!」

 その圧倒的な力を見せられ、あっという間に光速離脱!…命は惜しいのだろう。
 転移跡には何もない――転移したのだろう。


 なんにせよ勝ったのは和美達だろう。
 もっともラカンは『物足りねぇ…』と言った感じでは有ったが








 ――――――








 「…存外堅いな…障壁1つだけ残ったか。」

 セクスドゥムを必殺の気功波で吹き飛ばした稼津斗だが…余裕だった。
 何とか多重障壁で防いだセクスドゥムは誰が見ても満身創痍だ。

 「多重障壁が無かったらやられてたわ…本当に凄い力。」

 首の皮一枚繋がった状態だが、それでも尚戦おうとする。





 無謀だ。

 幾らなんでも尋常じゃないダメージを受けている状態でこれ以上の戦闘は勇敢ではなく蛮勇だ。
 全くダメージ無しで挑んでも敵わなかった相手に消耗状態で挑むとは…

 「時に、余計なお世話かもしれないが……上には注意した方がいいぞ?」

 「なに?って…馬鹿な!?」

 尤も其れも如何だって良い。
 立ち上がろうとしたセクスドゥムを浮遊物体が直撃!


 「…多重障壁で防いだのか…!」

 「あぁ、君の一撃は重そうだからね…」

 その正体はネギとフェイト!
 ネギの雷華崩拳を喰らったまま、此処まで来たようだ…恐るべし。


 尤もセクスドゥムは障壁のおかげで潰れてないが…


 「ナギ!」

 「エックス!!」

 稼津斗とネギも互いを確認する。


 此の状況下での合流は大きい。



 「フェイト…どいて。」

 「…すまないね。」

 だが同じ事は相手にも言える。
 フェイトがセクスドゥムを立ち上がらせているのだ。



 「…どうやら状況は僕達の不利のようだね…お姫様だけじゃなく他の従者も集まってきたか…」

 そんな中でフェイトは状況を把握し自らの不利を知る。
 ネギ1人なら多重障壁を武器に戦える。

 だが此の場には稼津斗が居る。
 更に他の場所で戦っていた者もここに集まっている。
 そうなっては分が悪いどころではない。

 既に自分達の従者が戦闘不能ならば尚のことだ。


 「此処での勝負は預けるよネギ君。」

 「不本意だけど…退かせて貰うわ氷薙稼津斗。」


 瞬間、転移魔法。


 「待て!」

 勿論ネギは止めようとするが既に遅い。
 更に…

 「深追いするなナギ!
それに警備隊が出てきたみたいだ…俺達も此処に居るのは良くない。」

 稼津斗が其れを止める。
 フェイト達の転送は止められないし、警備隊も近くまで来ている。

 これから先の試合の事を考えると、警備隊の厄介になるのはよろしくない。
 故に止めたのだ。


 その間にフェイト達は離脱。
 まんまと逃げられてしまった。


 「取り合えず場所を移そう…警備隊につかまると面倒だからな。」

 「其れが良いと思います…其れに今の時間で…」

 稼津斗達も離脱準備。



 結局此処でフェイト達を倒すには至らなかったが、どうやらのどかが何か重要な情報をフェイトから引き出したようだ。


 一行は稼津斗の瞬間移動でラカンの元へ。
 のどかの引き出した情報は、果たして……




 何れにせよ今回の一件は稼津斗達の優勢勝ちと言ったところだろう。














  To Be Continued…