のどかな昼下がりから一転、超過激な戦場へと変貌したカフェ。
 最初の一撃を皮切りに、稼津斗とネギはフェイトとセクスドゥムを相手取って遣り合っている。


 「隠れていないで出てきたら如何でござるか?主等もフェイトの一味でござろう?」

 「ばれていましたか…安穏な平穏を享受していた中学生とは思えない鋭さですね。」

 楓も楓でカフェの直ぐ近くに潜んでいた相手の気配は既に察知していた。
 稼津斗組でも抜群の気配察知力を持つ楓の前では物陰に隠れて様子を伺ってもまるで意味は無い。

 「安穏な平和とはご挨拶にござるなぁ?少なくとも拙者をはじめ此処にいる面子は修羅場を潜り抜けた猛者にござるよ?
  お主等の見当違いな価値観で見ると痛い目を見るでござる……尤も、『だから退け』と言っても聞かぬでござろうが…」

 現れた2人の少女――焔と栞を見据え楓も戦闘体勢。
 刹那とアスナも言うに及ばずだ。
 刹那に至っては『烏族解放状態』と完全にヤル気だ。

 「退く筈がないだろう?…其の修羅場とやらをくぐってきた者の力を見せてもらおうか?…精々焼き殺されないようにするといい。」

 焔もまた炎熱を揺らめかせ戦闘体勢。
 栞は…一歩引き気味だがヤル気であるのには変わりないだろう。

 「其れはご丁寧に…だが、斯様な炎で拙者を丸焼きにするのは少々無理があると思うでござる…よ!」

 挨拶とばかりに一足飛びからの飛び膝蹴りで強襲!
 其れを合図に、此方でも戦闘が始まった。











 ネギま Story Of XX 76時間目
 『バトル!その力の差』











 「ふぅん?確かに京都の時とは比べ物にならないよネギ君…」

 「氷薙稼津斗も、ヘルマン襲撃時よりも更に強くなってるわ…」

 フェイトとセクスドゥムは自分達が相手をしている2人の実力に正直驚いていた。
 稼津斗の常識外の強さは当然として、ネギの異常とも言える急成長は驚く他ないだろう。


 「此れはどうかな?…冥府の石柱!」

 「受けてみなさい、深淵の水柱!!」

 其の強さを確かめるかのように、無数の石柱と水柱を呼び出しての攻撃。
 攻撃範囲と威力が高いこの攻撃は、1発でも街に落ちれば大惨事は必至。

 勿論、稼津斗とネギはそんな事はさせない。

 「牽制の心算か?…小賢しい、覇王…翔哮拳!!

 「吹き飛ばせ…雷の暴風!!」

 極大気功波と魔法で全てを消し去る。
 更に、

 「疾!!」

 「覇ぁあ!!」


 其の攻撃に乗るように、追撃の肉弾戦。
 あまりにも速くて重い其の攻撃は、フェイトとセクスドゥムでもガードが精一杯だ。

 だが、セクスドゥムは兎も角として、フェイトは何処か余裕の表情だ。
 いや、余裕所か何か『ガッカリ』した感じだ。

 「成程…マギア・エレベア…かの闇の福音の禁術か。まさか継ぐ者がいるとはね…驚きだよ。
  だけど、つまらないものに手を出したねネギ君。
  確かにマギア・エレベアは強力だが所詮は魔力による超ブーストに過ぎない…只の身体強化さ。」

 ネギの矢継ぎ早の攻撃を捌きながらそんな事をのたまう。
 其れで的確に捌いているのだから、矢張り底が知れない。

 「只の出力アップ如きで僕に並ぼうとはね…『千の刃』のジャック・ラカンの元に居ると聞いたから期待したけどこんなものか。
  確かに京都のときとは比べ物にならないけど、あまりにも馬鹿げてる…期待ハズレだよ…ネギくんんん!?」

 だが其の余裕のセリフも最後まで言うには至らず。
 ネギの中国拳法式肘撃ちがフェイトに炸裂し、その身を吹き飛ばしたのだ。

 早い話、今までの攻撃は此れを確実に決める為の『見せ技』。
 厳しい修行を続けるうちにこういう戦術も実にネギは巧くなっている。

 「何か言ったかフェイト?僕に言わせれば君こそ修練が足りなんじゃないか?
  元々持ってる巨大な力に頼りきっているようじゃ、僕やエックスには勝てないぞ。」

 逆に今度はネギがフェイトを挑発。
 最強の魔法使いと最強の拳闘士を師に持つネギにとって、フェイトは既に手の届かない強敵ではない。
 闇の魔法の発展運用にまだ課題が山積している故に『圧勝』とは行かないだろうが、それでも遅れをとるレベルでは無い。

 「…今の一撃は『闇の魔法』の力だけではない?」

 吹き飛ばされたフェイトもフェイトで驚いていた。
 自分が知る『闇の魔法』は只の『ドーピング』であったはずだ。

 だが、今のネギの一撃は其れで済ますにはあまりにも強かった。
 正に予想の範囲外の強さだったのだ。


 「何処を見ているんだフェイト?随分余裕だね君も…」

 「!!」

 考えを纏める間も無く、ネギが目の前に現れその凶器の如き拳を振り下ろしてくる。


 其れをギリギリで避け、対応するフェイトだがネギの猛攻を前に防戦一方。
 此れだけでもネギの力が如何程か分るだろう。

 「『闇の魔法』を只のドーピングと思ってたの?だとしたら君は思った以上の大馬鹿者だぞフェイト。
  かの『闇の福音』たるエヴァンジェリンさんが編み出した究極技法が只の出力アップであるはずが…無いだろ!」

 更に力を篭めての、腰が入った『ワンインチパンチ』が再度フェイトを吹き飛ばす。
 ネギは発展運用は兎も角『闇の魔法』の基本運用は略出来ているようだ。








 ――――――








 一方で、セクスドゥムを相手取った稼津斗は余裕そのもの。
 攻撃を尽く捌き、防ぎ有効打を入れさせない。

 「フェイトは地属性で、お前は水属性か……これは少々厄介だな?」

 確りと相手の戦い方を観察する余裕まである。
 『少々厄介』と言いながらも、その顔には笑みが浮かんでいる。

 「とてもそうは見えないけれどね?」

 「お前も本気を出していないからだろうが、この程度なら攻撃を『見てから』でも対処できる。
  まぁ、其れを抜きにしても水属性が厄介なのには違いない。
  他の属性と比べると最大出力で劣るが、反対に変幻自在で多種多様な運用が出来るのが水属性だ。
  細く放てば鋭い槍に、広く展開すれば柔軟なクッションに、敵を包み込めば檻として使う事だって出来る。
  正直に言って、正面から押す戦い方をする相手には…あまり嬉しくない相手だ。」

 放たれた水の槍を鬼魂刃で切りとばし、その勢いのまま突進。
 クロスレンジに持ち込む心算だ。

 無論セクスドゥムも懐には入り込ませんとする。
 以前のヘルマンの一件から、稼津斗が近接戦闘を得意としているのは分っている。

 態々得意な土俵に上げる事はない。

 そう考え、距離を離そうと膨大な水流を撃ち出す。



 が、其れが当たる瞬間に稼津斗の姿が消えた。

 「!?」

 「だが、それも俺には当てはまらないがな。」

 そして背後からの強烈な蹴り。
 無影・月詠で背後を取り無防備な背中に強烈な一撃をお見舞いしたのだ。


 セクスドゥムもギリギリで障壁を張ったため其れほどダメージは大きくない。
 だが、相性では有利なはずの水属性がまるで意味を成さないようだ。

 「自動防御か?相当に『堅い』な、その曼荼羅みたいな多重障壁は…」

 「く…普通なら完全に防げる障壁を貫通してのダメージだなんて…直接喰らってたら終わりだった…」

 本来ならば最上級呪文ですら防ぎきる多重障壁もなんのその。
 上限知らずの戦闘力の前では一切の常識が通用しないのだ。

 「その障壁は厄介だが、俺には其れを抜いて攻撃する術がある…障壁に頼ってるようでは俺には勝てない。
  そもそもにして世界最強の暗殺拳の使い手たる爺さんに力を認めてもらったんだ…お前等程度に負けはしない。」

 そして、絶対の自信。
 『闇の魔法』の試練を受けたことが、更に稼津斗を強化している。

 何よりもこれまで超えられなかった『壁』を越えたことが大きい。
 最大の壁を越えた稼津斗は、正に最強というに相応しい。

 「く…舐めるな!幾ら強かろうが、お前に…」

 「『負けるはず無い』か?阿呆、戦いに身を置くならば相手の力量くらいは…見切れ!」

 障壁を抜く一撃――『同調・断空』でブッ飛ばす。
 力量差は誰の目にも明らかだろう。








 ――――――








 戦いは別の場所でも行われようとしていた。

 其処はカフェから少し離れた路地裏。
 のどか、裕奈、千雨の3人が対峙するのはフェイト一味の調。

 戦闘になった直後、楓から念話通信を受けてこの場に向かっている途中で現れたのだ。

 尤も、千雨は先程の『会談』から見ていたのだが。


 「あの根暗の白髪と変態剣士の他にも居たんだ?」

 「調と申します…以後お見知りおきを。」

 其れは其れとして、戦闘は不可避。
 裕奈とのどかはアーティファクトを展開し、XXに変身。
 この時点で『平和的』にとは行かないだろう。

 「成程…平和に浸っていた者にしては中々…ですが、勝てるとお思いで?」

 「勝てるに決まってるやんそんなの。もちっと周囲に気を配った方がえぇんと違うか?」

 「!?」

 更に、調の背後に小太郎が。
 千雨から連絡を受けて速攻で来たのだ。

 「犬上小太郎…成程、これは少々…ですが矢張り消えていただきます。」

 状況的には戦闘員だけを入れても1vs3。
 だが、調は慌てずに自身のアーティファクトであるバイオリンの弦に弓を走らせる。


 「来た!裕奈さん!」

 「合点だい!う…りゃぁぁぁ!!!」

 同時に、裕奈がアーティファクトのブレードを地面に叩きつける。


 「な!…何故?」

 そして何も起きなかった。
 調も『何故』と言わんばかり……本当なら弓を走らせた時点で音波攻撃が炸裂するはずだったのだ。
 其れなのに何も起きないのだから。

 だが、驚いている暇など無い。
 既に戦いは始まっているのだ。


 「何ボサッとしてんねん?何ぼ女言うても、俺のダチにてぇだすダボには手加減せぇへんど?」

 「つーか、複数人相手に1人で来るとか私以上の馬鹿かアンタ?」

 その隙を逃さず、裕奈と小太郎のダブルアタック!
 其れはギリギリで避けられるが、戦力は未だある。

 「千雨さん!」

 「みなまで言うんじゃねぇ、既に朝倉のアーティファクトとはリンクして、お前のアーティファクトとも連動済みだ。
  私等の情報もアイツの思考も、全部他の面子に届いてるぜ!そうだろ、巫女さんよぉ!?」

 相手の思考を完全に読む事が出来るのどかと情報系アーティファクトを有する千雨と和美の連携。
 この場には居ない和美にも此方の情報は既に分っているだろう。

 そして千雨が呼んだ相手も、これまた頼りになるお方だ。


 「勿論どす、その情報と読心の精度には脱帽おすな。」

 調が裕奈と小太郎の攻撃を避けて飛んだ建物の屋根の上に現れたのは千草。
 その手には既に数枚の式神符が。


 「天ヶ崎千草…!」

 「音を武器におすか…ほな、似たような戦い方するのを呼びまひょか?
  式神符、陰陽の陽 天の七式!出でよ『式神・弁財天』!」

 恐ろしいまでの速さで符を操り、七福神が1体の『弁財天』を召喚。
 陰陽の世界が広いと言えど、神仏を使役する事ができる者など千草以外に居ないだろう。

 「まさか…これほどとは…」

 「平和ボケで鈍ってるとでも思ったんですかなぁ?少し認識甘すぎますえ?」

 「先入観だけで相手を見ると痛い目に遭う…兄ちゃんが何時も言ってる事や。」

 「ま、アンタが弱いとは言わないけどさ…」

 「圧倒的に有利なのは私達の方ですよ?」

 次いで、小太郎、裕奈、のどかも屋根の上に。
 千雨だけは情報処理+情報伝達のバックス作業があるので下にいるままだが、それでも既に場所は移動しているだろう。


 「既に貴女の名前と戦い方は分っていますよ調、もといブリジットさん?」

 「く…!読心術士…!」

 状況はのどか達の方に分があるようだ。








 ――――――








 「2人か…なんでぇ人手不足か?俺と、この嬢ちゃん達をたった2人で相手にしようだなんて無謀そのものだぜ?」

 フェイト一味の面子で残る2人、環と暦はラカンの元に現れていた。
 そして、其処にはリインフォースと和美、非戦闘員だが木乃香とアクアも一緒に居る。

 「つーか、私等にかまけてて良いの?千雨ちゃんからの情報だとアンタ等のお仲間の1人は大ピンチだよ?」

 「そう言ってやるな和美、人手不足らしいから仕方ないだろう。」

 で、ラカンをはじめ和美もリインフォースも余裕綽々。
 ぶっちゃけ余裕通り越して『2人で相手すんの?勝てると思ってんの?馬鹿なの、三流なの?』と言わんばかりだ。


 「環…もしかして馬鹿にされてます?」

 「……確認不要。」

 リインフォースは兎も角としても、ラカンと和美は相手を挑発するのも巧い。
 完全に、少なくとも暦の方はバッチリ其れに乗っかってしまったらしい。

 「因みにラカンさん、変身した私とあの2人だとどっちが強い?」

 「あぁ?聞くまでもねぇだろ、戦闘力50倍になった和美嬢ちゃんの方がどんなに低く見積もっても10倍は強ぇ!」

 「ならイクサだと?」

 「そっちの銀髪嬢ちゃんか?…ハッハッハ、リイン嬢ちゃんなら1000倍はかてぇ。
  序でに俺様も、この2人の500倍は確実にあるぜ?…なんでぇ楽勝だぜこれ♪」

 挑発八丁見事也。
 きっと暦の顔が真っ赤になってプルプル震えているのは見間違いではない。

 「え〜と…大丈夫なん?」

 「大丈夫でしょう?あの3人が負けるとは思えませんので…

 アクアは冷静だった。


 「こ、この馬鹿にして!!吠えずらかかせてやります!」

 相当に『カチン』と来たのだろう。
 暦も環も仮契約カードを取り出し、アーティファクトを展開。

 「ふ、如何有ってもやるってか?いいぜぇ…どうせやるならカワイ子ちゃんは大歓迎だぜ!」

 ラカンもまた自身のアーティファクトを展開し、周囲に無数の刀剣を呼び出す。
 和美とリインフォースもXXに変身して準備完了だ。

 「さてと…リイン嬢ちゃんと和美嬢ちゃん、好きなの使いな。格下相手に態々手の内曝す事もねぇだろ?」

 「…確かにそうだ…ではありがたく使わせてもらうぞジャック。」

 「稼津兄は武器使った戦いも得意だからね〜…こっちも仕込まれたさ♪」

 リインフォースは身の丈以上の大剣を、和美は細身の長剣を手にする。
 此処での戦闘も不可避だろう。


 「つっても俺達も鬼じゃねぇから一応は手加減するが……やられても怨むなよ?先に手を出してきたのはお前さん達なんだからな…」

 そしてラカンからは数多の死線を潜り抜けた者のみが纏う事が出来る『凄み』があふれ出していた。








 ――――――








 一方、カフェ周辺の戦い――稼津斗とセクスウドゥムの戦いは、矢張りというかなんと言うか稼津斗が圧倒していた。

 多重障壁も水魔法もなんのその。
 自身の鍛え上げた空手と気功波、そして龍直伝の暗殺拳で完全にペースを掴んでいた。

 おまけにXXになった稼津斗にセクスドゥムの攻撃など、精々擦り傷を作るのがいい所。
 『段違い』や『格違い』よりも更に凄い実力差が、其処にはあった。


 「く…まさか…」

 「残念だったな…此処までだ。」

 今も稼津斗に蹴り飛ばされ、近くの建物の石壁に激突し追加ダメージ。
 略無傷の稼津斗に対し、セクスドゥムは満身創痍……差は明らかだった。

 「…そろそろ終わりにするか。」

 稼津斗は気を炸裂し、XX2ndに変身。
 吹き荒れる力が逆巻き、否が応でもその力を感じ取ってしまう。


 セクスドゥムの表情も心なしか硬い。

 挑んだ相手は遥かに格上で、しかも『終わり』宣言をされればこうもなるだろう。


 「お前達が何を企んで俺達の前に現れたか…そんなものに興味は無い。
  だが、力量を測り間違えたな?お前達の持っている戦闘情報など役に立たないレベルで俺達は成長している。
  最新の戦闘力数値がヘルマン襲撃時のだって言うんだから正直呆れる。」

 只只管、事実のみを口にしていく。
 こうして見るとずさんな計画もいいところだろう。


 「貴様…!」

 「なんにせよお前等を野放しにするのはあまり良くなさそうだ……覚悟、出来てるな?」

 気は更に高まり、もう止められない。
 既に稼津斗の両手にも莫大な気が練りこまれている。


 「精々あの世で自分の愚かさを呪え…覇王…翔哮拳!!!」


 放たれた一撃は容赦が無い。
 極大の気功波は、セクスドゥムをいとも簡単に飲み込んだのだった…














  To Be Continued…