「稼津斗殿達とネギ坊主達は問題なく決勝までコマを進められそうでござるな。」

 「あの4人なら大丈夫だろう。行方不明者も3人は合流できたから順調と見ていいと思う。」

 闘技場の外で、楓、刹那、アスナは現状を再確認していた。
 稼津斗達の大会突破は最早何一つ不安はない、必ず頂点を極めるだろう。

 行方不明者にしても裕奈、まき絵、千草の3名が合流した事で無事は確認できた。
 後何人居るかは分らないとは言え、1組でも合流できたという事は少なくとも全国放送を使ったメッセージは届いているだろう。

 「後はこのまま何も起こらないといいんだけど…」

 「そうは問屋が卸さないのが世の常でござるからなぁ…」

 マッタクである。
 序でに起こって欲しくないと思うことほど起こるもので…

 「ん?アレは稼津斗先生とネギ先生?」

 刹那が視界の先に稼津斗とネギを見つける。

 が、様子がおかしい。
 2人ともある一点を見たまま動かない。

 「!!この気配は!!」

 いち早く気付いたのは楓。
 稼津斗達の視線の先に居る者の気配を感じ取ったのだろう。

 アスナと刹那も又同様に感じ取ったようだ…

 「アイツは!!」

 「如何しても現れるのね…テルティウム…」

 何かが起きることは間違い無さそうだ。











 ネギま Story Of XX 75時間目
 『その思惑の真相は…』











 「…ご苦労なことだなアーウェルンクス、態々俺達を探していたのか?」

 「少し違うかな?君達の方から来てくれたんだよ、僕達のホームグラウンドにね。」

 喧騒の中現れたフェイトとセクスドゥム。
 互いの姿が見えるや否や、急接近し今に至る。

 100歩譲っても穏やかとは無縁の空気。
 ともすればどちらかが仕掛けてもおかしくはない。


 「稼津…エックス殿!」
 「ナギ!!」
 「ナギさん!!」



 更に其処に楓達が加わる。
 自分達がこんな状況になっている元凶が現れたとなっては黙ってなど居られないだろう。

 「早いな楓…」

 「近くに居たからでござるが…彼奴の気は極めて濃密で重い故、戦いに身を置くものならば分るでござる。
  一応ルイン殿達には念話で今は待機していて欲しいと伝えた次第でござる。」

 「良い判断だ、余り人が多くても目立つ。」

 楓からの報告を聞き、再度フェイト達を睨みつける。
 ネギも又然りだ。

 「やる気かいネギ君?止めた方が良いと思うよ……ここで暴れたら市民だって無事では済まない。
  まぁ、僕達にとって彼等がどうなろうと、それこそ『如何でも良い』事ではあるけど…君達は違うだろう?」

 「あぁ、勿論だ。だから敢えて聞いてやるぞフェイト…『何の用だ?』」

 フェイトの挑発じみたセリフにも揺るがない。
 麻帆良でエヴァンジェリンから『愛情たっぷりのスパルタ訓練』を受けているネギの精神は鋼の如く堅い。
 安い挑発程度では全く効果は無いのだ。

 「強気だねネギ君…僕に勝てると思ってるのかな?」

 「君こそ僕に勝つつもり?今の君からは京都の時に感じた凄さや怖さは全く感じないぞ?」

 一触即発。
 ネギとフェイトの間には見えない火花がバチバチと散っているようだ。

 「ふ、言うねネギ君…まぁ良いか、今日は争いに来た訳じゃない平和的な話し合いだよ。」

 「話し合い?」

 「少なくとも君達にとっては破格の話だと思うよ?聞いた方が良いと思うけどね…」

 だが、フェイトの目的は『話し合い』だと言う。
 セクスドゥムもまた同じと見ていいだろう。

 尤も、そのセクスドゥムは稼津斗を値踏みするように見ているのだが…


 「良いだろう、その話に乗ってやろうアーウェルンクス。」

 「へぇ…良いのかしら?」

 「お前達の話の内容が、俺達にとって受け入れられないものならどの道やる事になる。
  だが、話を聞くだけならばタダだからな。」

 決定したのは稼津斗。
 話は聞くだけならタダなのだから聞くだけ聞くとのことだ。

 ネギに異論はない。
 楓とアスナ、刹那も勿論異論はない。


 「良い返事だね…それじゃあ少し場所を移そうか?落ち着いて話せる場所にね…」








 ――――――








 フェイトに連れられる形で一行が訪れたのは野外のカフェ。
 今の時間帯は人も少なく何かを話すには持って来いの場所だ。

 「…取り合えず彼はどんな感覚してるか聞いてもいいかなネギ君?」

 「言うだけ無駄だフェイト。」

 「…いや、けどアレは流石に…」

 「突っ込んだら負けだ。」

 「時間が夜だったら僕もこんなことは言わないよ?」

 「もう一度だけ言うぞフェイト…言うだけ無駄だ。」

 フェイトが珍しく(顔には出さないが)驚いていた。
 その原因は…

 「昼間から飲むというのは如何なものでござろうか…」

 「別にいいだろう、酔わないし誰にも迷惑はかけないんだから。」

 稼津斗である。
 まぁ、注文した品が『この店で一番強い酒』となれば当然かもしれない。

 ネギ達はすっかり馴れたものだ。
 一応突っ込む楓も稼津斗の酒好き&異常アルコール分解能力は知っているので形式的なものだ。


 「でだ、話とは何だアーウェルンクス。
  俺達の方が乗り込んだとは言っても、コンタクトをしてきたのはお前達だ――大事な話なんだろう?」

 注文の品を飲み干しながら稼津斗は問う。
 あくまで冷静に問うがその身からは凄まじいまでの闘気が溢れ出している。

 其れすなわち『下らない話ならば事を構える』の意思表示。
 只の脅しではない。

 絶対的実力を持つ稼津斗だからこその説得力のある威圧だ。

 更にネギも追従する。


 「結局君達の目的は何なの?京都のときといい今回のゲートポートといい目的が見えない。
  けど君達のやっている事が大凡容認できる事じゃないのは確かだ…敵と認識するには充分すぎるくらいに。」

 ネギもまた魔力を迸らせる。
 カフェの一角は気と魔力が逆巻く異様な空間になっているようだ。


 「僕達の目的か…まぁ、詳細は語れないよ。
  けど此れだけは言える、京都もゲートポートもそもそもにして君達は相手として入っていなかった。」

 「なに?」

 「まさか、あの戦いは偶発的なものとでも言うつもりでござるのか?」


 その空気に押されたわけでもないだろうがフェイトの一言は意外だった。
 相手には入っていなかったという事は、偶発的にその場に稼津斗達が居たと言うことになる。

 「その通りよ女忍者さん。
  ゲートポートでの襲撃も『たまたま』彼方達がその場に居たから襲うことになった…其れだけの事よ。」

 「貴様抜け抜けと…!」

 余りにも見え透いた言い分だ。
 『偶々』『偶然』『其処にいたから』……トンでもない言い分だろう。

 刹那も聞き捨てならないとばかりに夕凪に手をかけ今にも切り出しそうだ。


 「落ち着け桜咲。」

 「しかし!!」

 「良いから落ち着け…こいつ等は、未だ大事なことは何一つ言っていない。」

 その刹那を治め、稼津斗はフェイトを見やる。
 『其れで何が言いたい』とばかりに。


 「まぁ、信じろというのが無理があるとは思うけれどね…取り合えず順序だてていこうか?
  先ず氷薙稼津斗とネギ君、君達の立場は元々僕達と対立するものじゃない。
  夏休みの生徒の引率――それを行う麻帆良学園の教師だ。」

 「其れは否定しない。僕達の目的は現実世界への帰還だ…其れを邪魔するなら戦うだけだ。」

 「其処だよネギ君…その大前提が間違ってるんだ。」

 「?」

 現実世界への帰還は目下最大の目的である。
 其れの障害となるものは何であろうと排除するは目的達成の為の道理とも言えるが、其れが間違っているとは…?

 「さっきも言ったが僕達と君達が戦ったのは、君達が僕達の作戦域に偶々居たからに過ぎない。
  君達の邪魔をする気はない…寧ろ無事に帰って欲しいとさえ思っているんだ。」

 「なに!?」

 更に思いがけない一言。
 無事に帰って欲しいとは…俄には信じられない。
 信じられる筈がない。

 ゲートポートでの襲撃は明らかに『ヤル気』だった。
 もしフェイト達の言う事が本当だとしても、あれだけの襲撃をかけておきながら無事にとは白々しいにも程がある。


 「其処で取引よ。彼方達の現実への無事の帰還を約束するわ、エスコートもつける。行方知れずの仲間の捜索だってしてあげるわ。」

 「随分破格な条件だ……だが、見返りは高そうだが?」

 「そうでもないわよ?見返りはただ1つ…其処の『黄昏の姫巫女』を此方に渡してくれればいいんだから。」

 「「な!?」」

 破格の条件の裏には矢張りトンでもない見返りがあった。
 確かに現実世界への帰還がアスナ1人の見返りで済むなら『安い』と取れるだろう。
 1を切り捨て大勢を救うならその選択もまたアリかもしれない。

 アリかもしれないが…この場の誰もが、否3−Aのメンバーだったら誰もそんな方法は選ばない。
 トンでも集団の3−Aだが、その結束力は何処の何よりも強く強固だ。
 誰か1人を犠牲にして自分が助かる選択肢はそもそもありえない。

 当然稼津斗とネギも同じだ。
 こんなふざけ腐った取引など受ける気は無い。


 「ふざけるな…!聞くまでもないぞフェイト!!そんなのはお断りだ!」

 「阿呆な取引も此処まで来ると勲章モノだな……『帰りたければ仲間を差し出せ』?馬鹿も休み休み言え。」

 彼等のテーブルの周囲の地面に亀裂が入ったのはきっと見間違いではない。
 稼津斗の気とネギの魔力の強さに耐えられなくなったのだ。
 更に楓と刹那の気もそこに加わっているはずだ。


 「…テルティウム…20年前の悲劇を又繰り返すの?」

 アスナもまた問う。
 記憶を取り戻した彼女にとって20年前にフェイト達の組織が起こした事は容認できる事ではない。
 まして、その中核を担わされていたのは他でもない自分自身なのだ。

 「記憶が戻ったの?…意外だね。」

 「でも、安心していいわお姫様。今の私達の目的は『この世界を救うこと』だから。」

 「この世界を…救う?」

 だがその目的は20年前とは違うらしい。
 違うらしいが…

 「まぁ、君にしてもらう事は同じさ…救いでも滅びでも君は魔力を喰らう事しか出来ないんだからね。
  まったく笑い話だとは思わないかネギ君?彼女の麻帆良での偽りの8年間は薄っぺらい人生だ。」

 「それに記憶を取り戻しても平穏なんてある筈がないのにね…全く馬鹿馬鹿し…」



 ――ガァァァン!!!



 余りにも不愉快な物言い。
 其れを全て言い終える前にテーブルが上空高く舞い上がった。

 稼津斗とネギが蹴り上げたのだ。


 同時に!!


 ――ドガァァ!!

 ――ミシィィ!!



 稼津斗の膝がセクスドゥムに、ネギの拳がフェイトに夫々突き刺さった。
 正に瞬撃、残像すら残さないほどの超高速攻撃だ。


 「聞くに堪えんな…御前達のセリフには反吐が出る。」

 「その口を閉じろ…フェイト・アーウェルンクス!!」


 普通なら必倒の攻撃だが、相手は普通じゃない。
 20年前の大戦の原因である組織の構成員たる2人もその戦闘力は高いのだ。

 「クールに見えて意外と…ふふ、矢張り彼方は面白そうだわ氷薙稼津斗…」

 「小利口な子供かと思ったけど…血の気が多いね、ネギ・スプリングフィールド。」

 その一撃をガードしニヤリと嗤う。



 交渉は決裂だ。
 本よりあんなふざけた取引では交渉の余地もない。

 何よりもフェイトとセクスドゥムは、アスナを…仲間を嘲った。
 それだけで充分ブッ飛ばすには値するのだ。


 「小を切り捨てて大を救うなど俺もナギもゴメンだな…この世界の全ては無理でも最低自分の仲間は全て救う。
  其れが俺の…俺達の、引いては麻帆良学園女子中等部3−A全員の意思だ。」

 「その大前提が有る以上…君達の案は飲まない!!」

 其処に更に力を篭めてガードごと吹き飛ばす。

 「交渉決裂みたいよフェイト?」

 「だね…まぁこんなチャチな作戦で退かれてもつまらない…。
  けど此れで正真正銘、僕達は敵同士になった訳だ…僕の、僕達の望みはかなったよ。」

 吹き飛ばされながらも体勢は崩れず、それどころか魔力が漲る。
 どうやら、さっきまでの交渉も所詮は茶番だったらしい。


 「此れは…やるしか無さそうでござるな?…本よりアスナ殿を差し出せという時点で滅殺モノでござるが…」

 「加減は必要無い…潰せ、全力で…!」

 「御意!!」


 ――轟!!


 「先生…」

 「今此処でやつを倒します刹那さん。アスナさんも…良いですよね?」

 「うん…やっちゃって。」

 「分りました……術式固定…掌握!!!」


 ――バチィ!!!



 稼津斗と楓はXXに変身し、ネギも闇の魔法を発動。
 其れは闘いの始まりのゴング。



 真昼間の静かなカフェは、一転して『戦場』へとその姿を変える


 きっと『被害0』という訳には行かないだろう。














  To Be Continued…