――西暦2010年4月某日、麻帆良学園都市


魔法の存在が世界に知らしめられてから早6年、流石に多少の混乱は有ったが、世界は魔法の存在を認め、受け入れ、そして更なる発展を遂げていた。
特にその影響が大きいのが此の麻帆良だろう。

魔法が世界に知らしめられてから3年が経った頃には、日本の魔法の総本山と言う事で、日本政府が麻帆良を第二首都と認定した位だ――それ程までに、魔法
と言う存在は大きかったと言う事なのだろう。(現実に、魔法が知れ渡ってから世界の技術レベルは一気に100年加速したと言われているのだ。)


とは言え、市民の生活が劇的に変わったかと言えば、実は其れほどでもなかったりする。
まぁ、生活のエネルギーの一部が電気エネルギーから魔法エネルギーに変わったと言う事はあるのだが、それ以外に大げさな変化があったかと問われると、其れ
は率直に否と言えるだろう。



っと、其れは其れとして、そんな風に魔法が受け入れられた世界にて――


「本当に出たのかよそんな奴が?」

「嘘じゃないよ!!いきなり後ろから襲われて、それでその……下着も剥がされて持ってかれちゃったから……」

「ワリィ、流石にデリカシーなかったわ。
 にしても、行き成り襲い掛かって来て下着をひん剥くって、犯人は間違いなく変態か、それに準ずる異常者だろ!!」


中学生ぐらいの男女が何やら話していた。
話題は如何やら、最近麻帆良の界隈に現れると言う変質者についてらしい――確かに、自身が被害に有ったとなれば、誰かに相談したくもなるだろう。

だが、相談された男子の方は此れと言っていい策は浮かばないらしい。



尤も、2人とも最初から己の手で解決できるとは思って居なかったのだろう――だからこそ此処を訪れたのだろう。

『萬魔法便利屋』の札が下げられた、雑居ビル1階に陣取っている便利屋の事務所に……










ネギま Story Of XX 198時間目
『Advance in the future』











「え〜っと、ごめんくださ〜い……」

「お、お邪魔しま〜す。」


さて、意を決して事務所内部に踏み込んだ2人だが、先ずは事務所内の綺麗さに驚いてしまった。
テレビドラマや漫画なんかで、探偵の自室は小汚いと言う先入観を持っていた2人にとって、きちっと整理整頓され、そして埃一つない部屋の様子は、文字通りに
驚愕至極だっただろう。

加えて、棚や壁を彩るアンティークや絵画のセンスも実に素晴らしく、ともすれば超小型のギャラリーとしても使えるんじゃないかと言うレベルだ。



とは言え、目的は内装の素晴らしさを知る為ではなく、あくまでも仕事の依頼で来ているのである。



「……いらっしゃい、少し待たせたかな?」

「「!?」」


そんな中、店の奥から1人の女性が姿を現した。
美しい黒髪をサイドテールに纏め、これまた黒を基調とした女性物のカジュアルスーツを来た1人の女性――この便利屋の経営者である明石裕奈が現れたのだ。


「貴女が此処の?」

「そ、所長って訳――つってもメンバー同士のくじ引きで、登記上の経営者に選ばれただけの話なんだけどさ。
 まぁ、それはいいや――君が、この前メールをくれた依頼人て言う事でいいのかな?」

「あ、はい!!」


やや眠そうなのは、寝起きだからだろうが、其れでもだらしのない格好はしないで、きちっと仕事着に着替えて来る辺りは、大人としての自覚があるからだろう。
現実に、頭を仕事モードに切り替えた裕奈は、表情が引き締まって『仕事人』の顔つきになる。

依頼人の少年の名を聞き、依頼内容を聞いて行く。


「佐々木影久……そっか、まき絵の弟君だったね君は。
 ――で、依頼って言うのは最近よく聞く、この界隈に出没する変態を如何にかしてほしいと……まぁ、確かに被害数も多いし、化け物を見たって言う所からしても
 只の下着泥棒や痴漢行為にしては仕掛けが大げさすぎる感じはするからね。
 OK、この依頼は受けましょう!他ならぬ親友の弟君からの依頼だし、その弟君の彼女さんが被害に有ったとなれば見過ごすのもアレだしね。」


そして話を聞いて行きながら、裕奈は最近耳にする痴漢や下着泥棒の話と照らし合わせ、これ以上野放しには出来ないと判断したようだ。
本音を言うならば、警察や機動隊で制圧できればとも思っていたのだが、如何やら其れで如何にかなる相手ではない可能性が大きいと言うのもあるのだろうが。


「ありがとうございます!!――って、真琴は彼女じゃないっすよ!!」

「そんな、彼女だなんて!!」

「あっはっは、初々しい反応をどうも♪ま、今の青春は大事にね少年少女達よ♪
 まぁ、取り敢えずは現場検証と行こうか?――昨日被害に有ったって言う現場に案内してくれるかな、影久君?」

「う、うっす!!」


で、適当にからかいつつも、捜査の基本である現場検証に。


影久少年に案内されて到着した場所が、嘗てエヴァンジェリンが吸血鬼騒動を起こした際にまき絵が襲われた桜通りであったと言うのは何とも奇妙な符合だが、
其れに触れる事はせずに、現着した裕奈は早速証拠物がないかと物色を始める。

この場に僅かな魔力の残滓は感じるのだが、出来れば物的な証拠が欲しいと言う事なのだろう。
だが其れでも――


「稼津君直伝の同調を使って――……この魔力の感じは魔獣……否、蟲使いって所か。」

「ムシですか!?」


犯人がどんな系統の力を使うのかは解析できたらしい。
まぁ、あの弩チート上等の稼津斗のパートナーの1人として彼是7年も経てば、此れ位は容易な事なのだろう。


「あり?裕奈さん、此れって?」

「ん?」


更に影久が何かを発見し、裕奈を呼ぶ。


其れは長い銀髪であり、恐らくは犯人の毛髪と見て間違いないだろう。
そして此れは、非常に重要な物的証拠となる。

たかが毛髪、されど毛髪、抜け落ちた毛や剥がれた皮膚の一部から、其れの持ち主がどのような存在であるのかを特定するのは難しくないのだ。


「長い銀髪……一日を経てこの魔力の残留量って事は、犯人は魔族の線が濃厚だね。
 ……此れは思った以上に厄介な相手かも知れないから、こっちも本腰を入れて掛かる事にするよ――先ずは、この事件の情報を徹底的に集めてだね。」


其処から得た情報から、相手は只の魔法使いではなく魔族だと判断した裕奈は、早期解決の為に、先ずは徹底的に情報を集める事にしたようだ。
で、情報収集ともなれば仲間にエキスパートが居る訳で、おもむろに携帯を取り出すと何処かに電話。


「あ、和美?私だけど、ちょーっと調べて欲しい事があるんだよね。うん、仕事関係で。
 最近桜通りの周辺で来てる事件に関してなんだけど、出来れば今日の夜までに可能な限りの情報を集めてもらえっかい?大変だとは思うんだけど、頼むわ。
 ……って、余裕ですと!?……流石は、超一流ジャーナリスト、情報収集に関しては誰も敵わねぇ気がするわ。
 まぁ、宜しく頼むよ。結果はメールで事務所のパソコンに送っといてくれればいいからさ……うん、分かってるって。
 だ〜れにもの言ってんの?今や私は稼津君のパートナー達の中では楓や真名と肩を並べる武闘派第2位だぜ?……下着泥棒なんぞに負けるかっての。」


連絡した相手は和美。
事務所のメンバーの中でも情報収集能力に長け、またフリーのジャーナリストとして世界中を飛び回っている女性である。

彼女の腕を見込んで、情報の収集を依頼したところ如何やら如何にかなりそうである。――因みに和美も何でも屋のメンバーの1人である。









――そしてその夜


「此れはまた思った以上に情報が集まったね〜〜?
 和美の情報収集力も然る事ながら、影久君達も独自に情報を集めて来たとは驚きだよ。しかも、結構な量だからね〜〜〜?」

「せやけど、此れだけの数の情報……ウチ等が考えてた以上に大規模な事件みたいやね。」


事務所では、和美が集めた情報と、影久少年が独自に集めた情報から、犯人像が絞り込まれようとしていた。

更に嬉しい誤算として、女子サッカーのアジアカップに日本代表として参加していた亜子が帰国し、事件の捜査と解決に加わってくれたのだ。(因みに、アキラは世
界競泳に日本代表として出場し、楓と真名とイクサは魔法世界での小規模紛争鎮圧に出向いている。)

で、亜子がいると言う事はクスハも一緒な訳で、一気に戦力は3倍になったのだ。


「だけどまぁ、こんだけの情報のおかげで行動を予測するのはたやすいって感じかね?――こりゃ明日にでも解決できるわ。」

「ふあ、凄い!!」


明日にでも解決できると言うのは実に心強い事だろう。
何よりも、煙草をふかしながら余裕の笑みを浮かべる裕奈の『大人の女性の余裕』には、有無を言わさぬ説得力が備わっているのであるから。


「もー、煙草はアカンよ裕奈?」

「分かっちゃいるけど、一度知っちまうと止めらんねー♪」


そして、親友同士の軽口もまた、余裕の表れであるのだろう。
傍から見れば『緊張感のない奴等』と映るかも知れないが、裕奈と亜子にとっては此れ位が丁度良いのである――親友以上の真友であるからこそ。


「姉ちゃんから聞いてたけど、仲良いっすね裕奈さんと亜子さんは。
 ……って、此れ裕奈さんの写真?あ、姉ちゃんも一緒に写ってる――裕奈さんと亜子さんの中学時代の写真すか此れ?」

「なんか、この大柄の男の人と一緒の写真が多いような気が……」


そんな中で、影久少年と真琴は、事務所内に点在する写真に注目していた。
コルクボードや写真立てに収められた写真は、所謂『稼津斗組』の写真が大半で、裕奈と稼津斗、亜子と稼津斗のツーショットも多く存在している――此れ等の写
真が、多感な女子中学生の琴線に触れるのは当然であり――


「この人って若しかして、裕奈さんや亜子さんの思い人だったりするんですか〜?」

「……正解!てか、私と亜子と他7名の大事な人だよ。」

「氷薙稼津斗、世界最強の存在――そして、ウチ等の旦那様や♪」

「まさかのハーレムエンド!?」


聞いてみたが、答えはまさかのハーレム!!
いや、まだ籍は入れていないが、稼津斗組は全員が稼津斗と婚約を交わしているのである――そう言う意味ではハーレムだと言っても間違いではないだろう。


「ま、運命の人ってのは何時何処で現れるか分からないもんだから、貴女も今の時間を大切にするといいよ。」


だが其れも、ニヒルに『大人の女性の笑み』を浮かべた裕奈の前では突っ込む事すら出来なくなってしまうのだ。
如何やら裕奈は――と言うよりも、稼津斗組の面々は、この6年間の間に『女としての魅力』も磨き上げてきた様であった。








――――――








でもって翌日。場所は世界樹前の公園。


「こんな真昼間からでいいんすか?」

「大丈夫、学園長に頼んでこの辺一帯を立ち入り禁止にして貰ったからね。
 大体にして、犯人は昼夜関係ないみたいだから、昼間に張ったとしても掛かる可能性は大いにある訳よ?
 ――其れに、此れまでの行動から、今日は此処に現れる可能性は9割8分以上だから、此処で張ってるのは正解の筈だからね。」

「人様に迷惑をかける人は、確実に捕まえなければですからね。」


一行は真昼間から張っていた。
まぁ、昨日の集めた情報から、犯人は昼夜関係なしに犯行に及んでいるのだから、真昼間から張った所で問題も何もないだろう。

何よりも嬉しい誤算として、魔法世界で遺跡探索に出向いていたのどかが朝一番で帰国し、捜査に加わってくれたと言うのはとても大きな事だろう。


「さてと……行きますか。」


裕奈もまた、煙草を覚えてから愛飲している『マルボロ』を咥え、何時何が起きても大丈夫な様にアーティファクトを展開する。


同時に、のどかが展開していた結界に反応が!!


「来やがったか下着泥棒にして痴漢の変態が――のどかの結界から逃れられると思うなよ?」

「むほほほ、活きのいいお嬢さんね――しかもその豊潤なおっぱいはやりがいがあるよ。」

「大体予想はしてたけど、ホンマモンの変態かアンタ……だけど、早々やられてたまるかっての。」


そして現れたのは、変態発言上等乍ら、多数の魔蟲を従え、全身をフルスキンタイプのコートに身を包んだ謎の存在。
間違いなく変態だろうが、銃数体にも及ぶ魔蟲を従えるその魔力は侮る事は出来ないだろう。


「ったく、下着泥棒や痴漢の類にしては演出が派手すぎるっての。
 てっきり、麻帆良のセキュリティを狙って来たどこぞのスパイかとも思ったんだけど、蓋を開けてみれば筋金入りの変態さんて、流石に笑えねぇわ。」

「むほほほ、スパイとは買い被り過ぎね。
 私は只『乳揉み』に命をかける者、下着は単なる戦利品ね。」

「余計に悪いわタコ。つーか普通に女の敵じゃんアンタ。――判決は有罪、大人しくお縄に着く事を勧めるぜ?」

「ほっほっほ、お断りだね♪」


そして、其れだけの相手ならば確かに警察組織ではどうにもならないだろう。

だが、其れでも裕奈には迷いも何もない。
只静かにアーティファクトの切っ先を相手に向け、そして宣言する。


「だったら力尽くでお縄にするだけだ。
 ――覚悟は出来てるわよね変態野郎?……アンタ程度の相手なら、煙草一本吸い終わるまでに倒す事が出来るからね……精々お祈りでもしとくと良いよ!!」


その覇気と闘気は正に一流の証!!
XXに変身し、アーティファクトを展開した裕奈の姿は、正に『絶架の戦乙女』とも言うべき迫力に満ち満ちていた――












 To Be Continued…