――12月某所・麻帆良学園都市『世界樹』前の公園


この日、この場所には多くの人が詰めかけていた。

其れは当然だろう、今日この場から、宇宙に飛び出すための『軌道エレベーター』の建設が、世界に先駆けて始まると言うのだから注目されるのは当たり前だ。


尤も、この情報をマスコミにリークしたのは、麻帆良学園学園長の近衛近右衛門なのだが……本人はリークした事は正解だったと思っている事だろう。


――軌道エレベーターの建設発表と同じくして、魔法を世界に知らしめることが出来るのだから。


普通に考えるなら――否『世間に知られている正義の魔法使い』ならば、絶対に禁忌とすべき魔法の存在の解放だが、近右衛門は世間一般に知られている正
義の存在ではなく、寧ろ己の中に在る正義を重んじる真の正義の魔法使いなのだ。

だからこそ、此れを承認したのだ。


「ふむ……いよいよじゃな高畑君?」

「えぇ、僕達『紅き翼』が成し得なかった事を、彼等は為そうとしている……そして、其れは成功を見ると僕は確信して居ますよ学園長。
 ――まぁ、僅か1年足らずで、次世代の若者に抜かれたと言う事に関しては、若干の悔しさがあるって言うのは、流石に否定はし切れませんけれども………」

「フォフォフォ、其れで良いんじゃよ高畑君。
 如何なる時でも、先人は己の知恵を後塵に伝え、そして次の世代への礎となるもんじゃ――一線を退いたワシ等は、そう言う存在にならないとダメじゃよ。」

「至言ですね、学園長。」


そしてタカミチもまた、世代交代の風を肌で感じていたようだ。
尤も、世代交代に対しては一抹の寂しさも有ったようだが、其れすらも振り払い、此度の一大イベントに集中する事にしたらしい。


そんな中、いよいよ一大イベントが始まろうとしていた………










ネギま Story Of XX 197時間目
『絆が紡ぎし未来への道』











『其れでは此れより、麻帆良学園都市から宇宙に向けて建設される、軌道エレベータの着工式を執り行います!!
 司会は、私『朝倉和美』が担当させて頂きます!!皆、宜しくね〜〜〜♪』



其れから数分後、司会を務める和美のマイクパフォーマンスから、軌道エレベータの着工式がスタート!!


『其れではまず、軌道エレベーターの建設責任者である『超鈴音』と、設計責任者の『葉加瀬聡美』より、詳細なデータを提示させて頂きます!!
 多少の粗は有るかも知れませんが、其処はご愛敬と言う事で♪』



そしてすぐさま、超と葉加瀬をステージに呼び出し、そして呼び出しておきながら資料に目を向けさせる。

まるで『超と葉加瀬がステージに上がるのを目撃させない』様に。


そして、其れこそが最大の狙いであり、最強の牽制でもあったのだ。


集まった連中が手元の資料を確認してステージに視線を戻した瞬間に、超と葉加瀬は既にステージに上がっていた――まるで、一瞬で其処に現れたかの様に。

配布された資料を、その場で熟読する者は先ず居ないと言っても良い。精々、資料の表題と見出しを流し見する程度であり、ステージから目を離した時間など数
秒程度であるにも関わらず、超と葉加瀬は『ステージのど真ん中』に居たのだ。

特設ステージは割と大きく、ステージ上に上がり、そして中央まで歩いてくのは数秒ではやや無理がある。
かと言って、走ればステージ特有の音がする筈であるが、其れもしなかった――何よりも、この2人がそんな登場をする筈がないのだ。


ならばどうやって?――答えは簡単、転移魔法を使ってステージ上に現れたのだ。



「え……一体何時の間に!?『有り得ない』だろ、ドンだけ早く移動したってこれは!?」

「え?手品、イリュージョン!?」



だが、この2人の登場方法はさほど問題ではない。
問題は、この2人の登場の仕方に、会場の麻帆良の住人が『疑問』を抱いたと言う事だ。



元来、麻帆良学園都市には魔法の存在の秘匿の為に『麻帆良学園都市内で起きた事に対して疑問を持たない』ように設定された、ある種の認識障害魔法が施
されており、普段であったならば、超と葉加瀬の此の登場だって『おぉ、スゲェ!!』程度で受け入れられていた筈だ。

しかし今は『疑問』を抱いている。




――が、会場の反応を見た和美は、誰にも分からない程度に笑みを浮かべた……『巧く行った』とばかりに。


そして、それは超と葉加瀬も同様だ。





そう、軌道エレベータの着工式が始まるその瞬間に、別の場所で待機して居た稼津斗が『同調・解』で麻帆良全土に掛かっていた認識障害を解除したのだ。
此れにより、此れまでとは違って、麻帆良でも異常が異常と認識されるようになった訳だが、此れこそが最大の狙いだ。


些細な事でも疑問を持てば、今度はより大きな事に疑問を持つ。
当然、会場に在る『有り得ない大きさの世界樹』にだって……否、麻帆良と言う場所その物に疑問を持つのは火を見るよりも明らかだ。


だが、だからこそ魔法の存在を知らしめることが出来るのだ。

認識障害の影響とは別に、麻帆良の住人は非常に頭が柔らかい連中が多く、彼等の疑問を『魔法』で説明すれば、恐らく其れで納得するのは間違いない。
そして、納得すれば今度は其れが人伝にドンドン伝わって行く――ネットが普及した現在では、あっという間に魔法の存在は世界に知れ渡るだろう。



『はいはい落ち着いて〜〜〜!
 この2人が何処から現れたのか気になるみたいだけど……この2人は魔法ってもんで此処に現れた訳なんだよね〜〜♪
 でもって、もっと言うなら此度建設される軌道エレベーターにも魔法の技術が使われていて、宇宙空間のステーションは、何と魔法の世界への直通エレベータ
 ーまで繋がる予定なんだから、此れはもう驚きでしょ!?
 皆がファンタジーや御伽噺の世界の事だと思っていた魔法は、確かにこの世に存在するって事なんだよね〜〜♪』


「マジか!?」

「でも、魔法なら確かに一瞬でステージ上に現れる事も、机上の空論に過ぎなかった軌道エレベーターの建設も可能になるのかも知れない……」



そして反応は上々。
大体の予想通り、麻帆良の住民は大して混乱する事も無く、魔法の存在を受け入れているようだ。――まぁ、ある意味で此れまでの耐性が有ったが故だろう。



此処から、会場に集まった麻帆良の住民に対して、改めて軌道エレベータの着工が宣言されたのだった。








――――――








ほぼ時を同じくして、麻帆良の図書館島の奥深く――世界樹の根元の最深部には、稼津斗と和美を除く稼津斗組の面々と、アルビレオが集まっていた。

裕奈、亜子、のどか、真名、楓、アキラ、クスハが手を繋いで円を作り、其の円の中心はイクサが立って魔力を集中させている。
アルビレオもまた、全神経を集中して静かに、しかし確実に術式を構築していく――其れこそ普段の人をおちょくるような雰囲気は微塵も見せずにだ。



「術式完成、何時でも行けますよ皆さん!!」

「OK!来た此れ!!!――行くぜ、皆!!……この大仕事、成し遂げてやろうじゃないの!!!」



そして、準備が整い、アルビレオからの号令が飛んだその瞬間に、裕奈が叫び、稼津斗組は全員がXXを解放!!
その凄まじいまでのエネルギーは、円陣の中央の居るイクサに向かい、それがイクサに取り込まれて凄まじいまでのスパークが発生する。

尤も、このスパークは飽和状態になった魔力が弾けただけ故に危険はないが――仲間の力をその身に宿したイクサは、相当に力を増しているようだ。


「凄い力だな……だが、此れならば行ける!!
 ――世界に知らしめよう、魔法と言う存在を!!輝ける未来を構築する為にもな。」


その力を、略真下から『何か』と共に、世界樹の根に打ち込んで行く。


「では、僕も……!!」


アルビレオもまた、何らかの魔法を世界樹の根に打ち込んで行く――そして……!!


――カッ!!


根が一瞬大きく光ったと思うと、凄まじい勢いで撃ち込まれた魔力を吸い上げ、そして『冬でも枯れない枝の葉っぱ』から次々と放出され、地上では去年の麻帆良
祭もかくと言う勢いで、世界樹が発光しているのだ。


無論、此の発光は伊達ではない。
地下でアルビレオが使ったのは、嘗て超が行おうとした『魔法の強制認識』を行う為の術式であり、其れを加減算不可能な数値にまで高めたイクサの魔力でブー
ストさせて、世界樹に送り込んで、其処から世界中にばら撒く為に光ったのだから。

皮肉にも、1年前に止められた魔法の強制認識が、こうして行われたと言う事に関しては、超にとっては少々複雑であるのかも知れないが。


ともあれ、こんな事が出来たのもSSS級の力を持った稼津斗組の面々が居たからだろう。
オリハルコンの心臓から供給される無限のエネルギーを高め、昇華し、ブーストすれば世界樹が内包する魔力を上回る事は難しくはないのだから。


何れにしても、今日この瞬間に、魔法の存在は世界に発信されたのだった。








――――――








無論、此れに慌てたのは独善的な正義の形を示す『魔法使い』の連中――ある意味で、カルト的な思想に染まり切った連中だ。


魔法の存在が世界に知れ渡ったその瞬間に、大地震と大津波が一緒に来たかのような恐慌状態となり、その中から『麻帆良撃滅』と言う案が出て来たのは、あ
る意味で自然の流れであったのかも知れない。



「魔法を世界に知らしめるなど……余計な事をしてくれたものだ!!
 こうなっては仕方がない……麻帆良に乗り込んで、要人を全て殺し、その上で新たな認識障害を張り、住民の記憶操作も行わねばならんからな……!!
 何れにしても、麻帆良は落とさねばならん!!正義の秩序を乱す者に、真なる正義の鉄槌を!!!」


最早完全に危険思考でしかないが――



「振り下ろさせると思うのか?――この俺が!!」

「ったく、此れだから頭でっかちの連中は好きになれねぇってんだ……まぁ、俺は暴れられれば良いんだけどよ!!」


「「「「「「「「「「!!!!?」」」」」」」」」」


突如聞こえて来た声に、一同は騒然!!

しかし、其れもまた仕方ないだろう――彼等の視線の先に居たのは、無敵にして最強である『氷薙稼津斗』と『ジャック・ラカン』だったのだから。


「人の思想は千差万別故に、貴様等の思考形態を否定する気はないが、テメェの考えを力尽くで押し通そうって言うなら話は別だ。
 そう言う思想は、遠からず暴走し、厄災の火種になりかねん――故に、此処で滅するだけのことだ!!!」

「まぁ、身分不相応な事はするもんじゃねぇとも言えるがな――邪魔立てすんなら容赦しないぜ?」


「「「「「「「「「「うっそだぁ……」」」」」」」」」」


迫力満点の物言いで、魔法使い軍団を委縮させた次の瞬間、稼津斗とラカンによる文字通りの『殲滅戦』――と言うよりも一方的な『撃滅戦』が始まった。


まぁ、如何に精鋭を揃えたところで、生きるチートバグである稼津斗とラカンには敵う筈もなく―――



「消し飛べ……覇王翔哮拳!!!

「ぶっ飛びやがれ!!――全力全壊の……ラカンインパクトォ!!!!


始まりからほんの数分で、正義の魔法使いを謳う連中の戦力は完全に壊滅!!――世の中には、絶対に敵に回してはいけない存在が居るのである。



ともあれ、稼津斗とラカンのおかげで、魔法の公開には余計な横槍が入る事も無く、滞りなく事が進んで行ったようだ。




そして、その結果として、麻帆良での魔法バラシも大した混乱も無く無事に済んだらしい。




当然、其れを皮切りに地球の技術は魔法世界に回り、反対に魔法世界の技術もまた地球へと持ち込まれたのだった。






そして時は進み――あっと言う間に6年もの歳月が経過するのだった。












 To Be Continued…