季節は、夏から秋へと変わり、更に秋深まって来た10月半ばの某日、今日も今日とて麻帆良女子高等部1−Aは賑やかである。
季節の移ろいなど、然して関係ないのかも知れないが、いつ何時でも教室からは談笑やら何やらが絶えないのが1−Aであり、他のクラスからもそう認識されて
いる故に、ホームルーム前の賑やかさなどは、寧ろ日常茶飯事だろう。


「さてと、ホームルームを始めるから、取り敢えず静かにしろ〜。」

「お、おっはよ〜〜稼津君!!」


そして其れは、担任である稼津斗が教室に入って来ても変わらない。
まぁ、稼津斗が『ちゃんと話を聞いて居れば、己の席についてなくとも問題ない』というスタンスだからこそ、こんな事が出来ているのかも知れないのだが。

何れにしても、1−Aの生徒と教師が、他のクラスにはない強固な絆で結ばれているのは間違いないだろう。


「さてと、其れじゃあ出欠を……と言っても、葉加瀬と超、其れと雪広と那波以外は全員居るよな?……なら、態々出欠取るまでも無いか。」

「って、そう言えば其の4人が居ねぇし、ネギ先生の姿も見えねぇな?
 稼津斗先生、ネギ先生を含めた5人は何だって、居ねぇんだ?――まさか、5人とも体調不良で欠席って訳でもないだろ?……てか、病欠は有り得ねぇし。」


だからこそ、欠員が出たと言う事には敏感なのかも知れない。
中でも、洞察力に優れている千雨は、今此処に無いネギ、超、聡美、あやか、千鶴の5名が病欠で休んでいるのではないと言う事を、速攻で看破したらしい。


「その通りだ長谷川。
 ネギを含め、其の5人は暫くの間『公欠』扱いで、こっちには顔を出さない……と言うか、一定のメドが立つまで出せないと言った方が正しいかな?」

「あ?如何言うこったそりゃ?」

「最大限分かり易く言うと、この5人は魔法世界に行ったんだよ――こっちと、魔法世界をゲート以外で繋げる為にな。」


しかし、欠席の理由は、流石に誰も予想もしていなかっただろう。

一瞬の後、1−Aの教室からは、物理的質量を持っているのではないかと錯覚する位の、超重量ヘビー級な大歓声が発せられるのだった。











ネギま Story Of XX 196時間目
『二つの世界を繋ぐ術は……』











さて、麻帆良ではちょっとした混乱(?)が起きていた頃、ネギ達一行は、魔法世界のオスティアの総督府――その技術開発部門に足を運んでいた。

其処は、新しい技術を検討する会議場と、実際に技術を開発する開発室で分かれており、ネギ達一行は会議場にてクルトと意見を交わしている真っ最中――そ
れこそ、まるで大企業の重役会議の如くだ。


「地球から魔法世界までの距離を考えると、途中に最低でも2カ所の補給地点――ドッグコロニーは必要ではないかと考えますわ。
 まぁ、人工の補給用コロニーは其れほど難しくありませんが、最大のネックは、地球からドッグコロニー及び国際宇宙ステーションに繋げる予定の『軌道エレベ
 ーター』ですわ……理論上は可能とは言え、成層圏部分での建造は困難な物が有るかと……」

「エレベーターの部品は超高熱にも耐えられる素材で作れば良いとして、成層圏での作業と言うのは、流石に無理があるとしか言い様がありませんね。
 流石に、エレベーター部品と同じ素材で作業員の防護服を作る訳にも行きませんし、仮に作った所で動きを大きく阻害する可能性がありますから………」

「結界系の魔法を使うとは言っても、術者の魔力と言う制限がありますし……矢張り、地球側の成層圏が最大のネックですか。」


が、その会議は意外と難航しているらしい。
その最たるのが、如何やら軌道エレベーターらしい――確かに、建設は容易じゃないのは事実なのだが、魔法技術と科学技術を駆使しても難易度が最高レベル
なのは間違いないらしい。

元より、魔法世界は火星に再現された『人造異界』なので、存在している成層圏は火星のままであるために、其処まで問題は無い。
問題は、地球側の大気圏・成層圏なのだ。

太陽系の惑星の中でも、地球の大気はある意味で濃く分厚い故に、其処から出るのは容易ではない上に、生物には有害であるオゾンの層があったりと、作業
には、色々と危険も伴うのだ。
加えて、その中で動くとなれば、地球の引力に逆らいながら動くために、相当な馬力と速度を持ってして動かねばならない訳で、その力によって発生する摩擦
熱の問題も生じる等、正直に言って問題は山積みどころではないのだ。


一応、エレベーターの素材には、雪広コンツェルンと那波重工が共同開発した新素材が使われるのだが、此のままでは工事は着工すら出来ないだろう。


「ふむ……ならば、エレベーターに使われる新素材で、作業用の自立型行動型アンドロイドや、人が乗って操作できるロボットを作ると言うのは如何かナ?
 流石に必要数を作るのには、少々時間も必要だが、其れならば地球の大気圏内での作業は問題なく出来る筈ヨ?」

「消耗が激しい関節部分は、最初から消耗品としてスペアを開発して、そんでもってワンタッチでの付け替えが出来るようにしておけば、壊れた場合でも修理の
 手間が省けるし、工事日程を遅延させる事もないと思うわ。
 其れから……宇宙用の田中に、結界魔法のデータを組み込んで、疑似的にエネルギーシールドを発生させる事が出来れば、より耐久性は高まるかも。」


だがしかし、忘れてはいけない、この場には『麻帆良の頭脳』と称される超鈴音と、大天才・葉加瀬聡美が居ると言う事を!!
科学技術と言う観点からしたら、其れこそ世界の名だたる科学者ですら脱帽するような頭脳を持つこの2人に掛かれば、軌道エレベーター建設に関わる問題なん
かは何のその!!

あっと言う間に、解決策を提示してくれたのだ。


「確かに、其れなら行けるかもしれません!!流石ですね、超さん、葉加瀬さん!!」

「ふむ……此れまで何度か、此方で仕事をして貰いましたが、超さんは勿論、葉加瀬さんも相当なモノですね?
 我々魔法世界の住人では、大凡思いつかないような事を、こうも簡単に出してくるとは……いやはや、正に脱帽モノですよ――実に素晴らしい。」


此れには『天才』ネギと、同じく『天才』クルトも脱帽。
魔法に於いては天才的な才能を発揮する彼等であっても、科学となると全くの素人なのは否めない故に、麻帆良の2人の天才の意見には、正直に驚く物が有っ
たらしい。


だが、これである意味最大の問題は解決されたと言っても良いだろう。
少なくとも、超と葉加瀬が開発する作業用ロボットとアンドロイドならば、誇張抜きで『ガ○ダム』や『K○S−M○S』以上の物になるであろうから。


「では、其方の方向でお願いします超さん、葉加瀬さん。」

「建設の方は此れで良いとして、次に何処に建設するかですね?
 魔法世界だと、此のオスティアは絶対として、主要たる都市には設置した方が良いでしょう。」

「其れについては、僕の方も同じ意見ですクルトさん。
 地球側では、日本の麻帆良、イギリスのウェールズは確定として、後はアメリカ、フランス、ロシア、中国、オーストラリア、ブラジルと言った国の首都に建設する
 のが良いんじゃないかと思ってるんですよ。
 尤も、その辺の交渉とかは此れからになりますけど、宇宙進出は何処の国も目指している事なので、軌道エレベーターの建設には賛成してくれるでしょう。」

「成程……まぁ、其方の交渉なんかはお任せしましょう。
 ――して、着工時期ですが……」


で、問題が解決されたとなれば、とんとん拍子に話が進む事進む事。
着工時期から、工事期間、工事による住民への影響及びそのフォローまで、実に事細かに意見が交わされて行く。


「成程………ですが、其れだと此方は………」

「かも知れませんが、そうした場合、逆に今度はこっちがこうなってしまって……」

「となると、此処の数値をこうしてこうすれば、この辺がお互いに落としどころって感じかな?」


其れこそ、傍から見たら『は?そんな細かいところまで?』と言うレベルで綿密に打ち合わせが成されているのだ。

だが其れも当然の事だ――何せどちらの世界にとっても、この計画の成否は夫々の世界の未来に直結するのだから。




「其れでは、作業用アンドロイドにエネルギーシールド発生装置を搭載する為の防御・結界魔法のデータは、此れくらいあれば充分でしょうか葉加瀬さん?」

「寧ろ御釣りが来るわよクルト提督〜〜!もう最高!!
 此れだけのデータが有れば、最高クラスのエネルギーシールドを作る事が出来るわ……流石は提督、持ってくるデータが一級品ですね?」

「此れ位は造作もありませんよ。
 時に、今夜一緒に如何です?オスティアのレストランを予約してあるのですが――宜しければ、今回の件に関しての貴女の個人的見解を聞きたいのですが?」

「其れは其れは……有り難くお呼ばれしようか?
 私個人としても、一度提督とはゆっくりお話ししてみたいと思っていたからさ♪」

「受けて頂き恐悦至極――今夜を楽しみにしていますよ葉加瀬さん……否『聡美さん』。」

「えぇ、楽しみにしていますよ『クルトさん』。」




そんな中で、葉加瀬とクルトは、如何やら互いに気の置けない関係になって居たらしい。
何時からかは分からないが、ちょくちょく触れ合っているうちに何時の間にか――と言う感じなのだろう。多分、きっと、Maybe。



「まさか、葉加瀬さんと提督は……」

「かも知れませんが、あの2人って親子ほども年が離れてるんじゃありませんの!?」

「甘いネ委員長……歳の差など、些細な問題――と言うか、問題にもならないネ。」

「そうですよ?大体にして、僕とエヴァの歳の差なんて590歳超なんですよ?」

「言われて見ればそうでしたわね……」(汗)



ともあれ、オスティアの提督と麻帆良の大天才の仲が良いと言うのは、決してマイナスにはならないだろう。

むしろプラスとなって、此れからの世界に良い影響を与えてくれるに違いない。――何れにしても、此処からいよいよ2つの世界を繋げる計画は本格起動だろう。








――――――








――2日後・麻帆良学園都市・学園長室



「っつー訳で、あっちの方は計画が纏まったらしいんだが……アンタは如何考える爺さん?」

「うむ……まぁ、良い感じじゃと思うよワシも?
 互いの世界の利害も考慮されておるし、自転と公転速度の差異も計算されておるようじゃし、問題は無いじゃろ。
 各国への対応は――其れこそ、建設はじめてから事後報告&事後承諾でも問題なさそうじゃからなぁ♪」

「いや、其れは流石に問題あると思うから、そっちではちゃんとフォローやら何やらをやってくれよな爺さん……この期に及んで、面倒な厄介事はゴメン被るぜ。」

「ホッホッホ、分かっとるよ稼津斗君。ワシも、麻帆良の最高責任者として、全力を尽くさせて貰うわい♪」


学園長室では、稼津斗と近右衛門が将棋を打ちながら今後の事を話しあっていた。
適当に軽口が混ざるが、其れもある意味で『気心の知れた相手』だからこそのなのだろう。


「それで、魔法はどのタイミングで世界に認識させるかの?……ふむ、その角いただきじゃ。」

「アメェよ、角はアンタの飛車を取る為の囮…俺は攻めの飛車が2枚欲しかったんだからな。
 と、魔法の認識か……前にも言ったが、軌道エレベーターの着工と同時で良いんじゃないか?其れの方がインパクトも有るし、軌道エレベーターの建設に魔法
 技術が使われてるってのも、中々に説得力があるだろ?」

「成程のぉ?……では此れで如何じゃ?」

「そう来る事は予想済み……王手だ。
 まぁ、其れについてはマダマダ色々考えないといけないみたいだがな。」

「まぁ、そうじゃろうな、規模が規模じゃし。
 じゃが、君もネギ君も1人で何とかせんとは思わないでくれるかの?――君と比べれば他愛ない相手かも知れんが、儂らだって相応の力は持っておるからな。
 ……と、そう簡単にはやられんぞい!!」

「其れも読んでた。此処で、アンタから奪った飛車を投入して再王手だぜ?――まぁ安心しな爺さん、俺もネギも馬鹿な事だけはしないからな。」

「此処でこう来るとは……やるのぉ稼津斗君?
 まぁ、君達なら大丈夫だと信じとるよ?――よもや、生きているうちに世界が繋がるとは思わなんだな……矢張り長生きはするもんじゃな。
 さて、此れで如何じゃ?」

「と、そう来たか……だがそう来たら、此処に銀を張ってだ。
 まぁ、何れにしても世界は大きく変わるのは間違いないんだ、その先にどんな世界が待ち受けてるのかは未知数だからな――全ては此れからだろ?」

「確かにそうじゃな。――ふむ、ならば此処で銀を進撃じゃい。」

「悪くない手だが、少し遅かったな?
 俺は此処に桂馬を張る――こうなったらアンタの王に逃げ場はないぜ爺さん?……コイツで詰み上がり、チェックメイトだな。」


互いに将棋を指しながら、しかし必要な事だけを伝えているのは、互いに信頼している証なのかも知れないが、何れにしても全く問題ないようだ。



「なんとぉ!?……此処でこう来るとは……流石は稼津斗君、囲碁や将棋も強いのぉ?
 実に大したモンじゃが、負けっぱなしはつまらん!――もう一局如何じゃ、稼津斗君?」

「OK、やってやるよ爺さん――けどな、敢えて言うぜ?……俺に勝てると思ってんのか?」

「ふっふっふ、爺を甘く見ん方が良いぞ稼津斗君?――わしは其れなりに、老獪な戦術を身に付けとるからな?」

「アンタこそ、俺がアンタの10倍は生きてるって事を忘れるなよ爺さん?――本当の老獪ってもんを見せてやるから、掛かってきな爺さん。」

「此れは此れは……何とも楽しい対局になりそうじゃ!!」


ならば言う事は何もない。

次の対局の準備をしつつ、互いにすべき事は分かっているからこそ、こんな事も出来るのだろう。



「はい、王手。此れで詰めあがりだ。」

「うそじゃろぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」





そして此れから進む事2カ月――遂に、軌道エレベーターの建設が世界に発表される日が来た。
裏を返せば、地球の人間すべてに魔法の存在を認知させると言う事も狙いなのだが――ともあれ、新たな扉を開くその日が、遂にやって来たのだった。



そう、2つの世界にとって、これ以上ない『歴史的瞬間』が起こる、その日が――













 To Be Continued…