麻帆良学園体育祭屈指のイベントとも言える、格闘技大会『ウルティマホラ』。
この大会は、女子高等部1−Aの古菲が圧倒的な強さで勝ち抜き、見事に三連覇を達成してくれたのだが、その偉業すら霞むほどの戦いが、現在リング上で展開
されていた。
「おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ちぇぇぇぇぇっぇぇぇい!!」
――ガァァァァァァァッァン!!
轟音と共に、交錯する空手と中国拳法。
ウルティマホラのエキシビションとして行われている『ウルティマホラ三連覇の猛者・古菲』vs『去年の麻帆良武闘会の覇者・稼津斗』の戦いは、稼津斗が能力の
大半を封印し、戦闘スタイルを空手のみに絞った事もあるとは言え、格闘技ファンには垂涎の試合内容となって居た。
『剛の拳』である空手を使う稼津斗に対し、古菲も剛系の中国拳法を使用しての、文字通りの真っ向からの力と力のぶつかり合いなのだから当然だろう。
「むおぉぉぉぉ……オラオラオラオラオラ!ドラドラドラ……オラオラオラオラオラララララララァ!!」
「ほぉあぁ……ア〜〜〜ッタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!!ホワチャアァ!!」
――ガキィィィン!!ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!ズガガガガガガガガガガガガ!!ズゥン……ドガバァァァァァァッァァァァァァァァァン!!!
その戦いは、最早普通の戦いではないのだが、稼津斗も古菲も、果ては観客までもがそんな事は気にしていない。文字通りの無問題だ。
それ以前に、此れだけの激しい攻防を演じておきながら、稼津斗と古菲の顔に浮かぶのは笑顔――生粋の武道家のみが浮かべる事の出来る『強者との戦いの
歓喜の笑み』を浮かべているのだから、この戦いに口を出すのは余りにも無粋に過ぎるだろう。
何れにしても、この戦いが、来年以降も『ウルティマホラのエキシビション』となるのは、恐らく間違いないだろう――と言うか、略確定だ……此処は麻帆良だから。
ネギま Story Of XX 194時間目
『Blaze&Blaze&MoreBlaze!』
「腕を上げたな古菲……剛系のみで此れまでとは――柔系と剛系の両方を合わせたら、ドレだけのレベルだって言うんだ?
正直な事を言うなら、俺が居た世界でも此処までの中国拳法の使い手は、龍の爺さん以外には見た事が無いぜ?……ったく、お前も末恐ろしいぜ古菲。」
「いやいや、老子に比べればマダマダアル!!私はもっと上を目指すアルよ!!」
「その向上心やよし!!……なら、少しばかりギアを上げるぜ?遅れずについてこい古菲!!」
「上等アル!!」
で、その凄まじい戦いを繰り広げている稼津斗と古菲だが、此処で稼津斗が力を少しばかり解放し、攻勢に出る。
ホンの僅かとは言え、その力を解放したらトンでもないだろう――元より、稼津斗の戦闘力は、ネギをして『タカミチ100人分』と称する位に凄まじいのだ。
其れが、少しばかりとは言え解放されると言うのは、何とも恐ろしいが……
「どぉりゃぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁ!!!」
――轟!!!
稼津斗は本当に、僅かばかりに気を解放するに留まった。(其れでも、その気の解放の余波で、リングの床板は大きく罅が入って破損したのだが……)
「此れは……この肌にビリビリ感じる闘気は……此れこそ、老子アル!!
マダマダ、本気ではないだろうけど、今の私にとっては、最高レベルの相手アル――こっちから行っても、良いアルか老子?」
「良いぜ?……楽しもうぜ古菲、お前の全てを俺にぶつけてこい!!」
「無論アル!!老子に、天地覇王拳か覇王翔哮拳を使わせてみせるアルよ!!」
「そいつはまた、随分と大きく出たな……良いぜ、使わせてみろよ俺に、その技をな。」
「行くアル!!」
その解放された闘気は濃密だが、生粋の武道家である古菲にとっては、稼津斗が相手になってくれる事の証明に他ならない――だからこそ高揚するのだろう。
――ガッ!!!
「此れは……なかなか、良い飛び蹴りを放つじゃないか古菲?」
「そんな涼しい顔で防がれたら説得力は皆無アルが――其れでも防いだという事は、避ける暇が無かったという事アル!!
と言う事は、今の稼津斗老子は避ける暇を与えずに、常時此方が攻めたてれば有利になるのは間違いないね……その首貰うアルよ稼津斗老子!!!」
現実に、古菲もまた意気揚々と飛び蹴りを(防がれたとは言え)繰り出し、戦いの流れを引き寄せようとしているのだ。
もしも、此れが並の体育系部活の部員だったら、始まった瞬間に0.5秒で決着していただろう――稼津斗と古菲の組み合わせであるから『試合』が成り立ってい
ると言っても、過言ではないのである。
「首を貰うって……物騒だなオイ?まぁ、頭切り落とされた位じゃ、俺は死なないけどな……」
「モノの比喩アル!!その心算で、行くって言う事アルよ!!」
そして、再び始まる空手と中国拳法の激しい――否、激しいなどと言うのが生温い位の『最高に激熱なバトル』が展開されて行く!
稼津斗の正拳突きを躱した古菲が、カウンターの肘をブチかまし、更に追撃の水面蹴りを放てば、其れをギリギリジャンプで躱した稼津斗が其のまま落下速度と落
下荷重を加えた手刀を振り下ろして反撃!
其れを何とか点をずらす事でダメージを最小限に留め、古菲は倒立状態から蹴り上げ……た其の足をガッチリと掴んだ稼津斗が、必殺のジャイアントスウィング!
『出たー!大技ジャイアントスウィング!!
稼津斗選手、古菲選手を確り掴んで回る!回る!!回りまくる〜〜〜!!既に回数は10回を超え―――16、17、18、19、20!!此処で投げた〜〜!!』
タップリと20回もぶん回した上で、力任せに投げ飛ばす!
が、しかしジャイアントスウィングは文字通り『諸刃の剣』の大技。
掛けた相手に、遠心力と回転によるダメージを与えるが、自分も大回転をするために目が回ってしまうのである。……如何に稼津斗と言えど其れは避けられない。
「あ〜〜〜……流石に目が回るぜ……」
「す……隙ありアル!!」
そして其処に、何と20回も回されて大ダメージ受けた筈の古菲が強襲!!
完全に目が回っている稼津斗も、その一撃を躱す事は出来ずに、中国拳法式の強烈な双掌打が炸裂し、70kgの身体をリング外にまで吹き飛ばす!!
「く〜〜〜……流石に効いたアル!
けど、前に超の頼みで実験に付き合った『宇宙訓練用遠心力マシン』に比べたら、如何って言う事は無いアル!くらくらしても、立てるアルから!!」
そして、此の復帰の速さは、如何にも以前に超の『トンでも発明』の実験に付き合ったせいで有ったらしい――激しく納得である。
つまり稼津斗のジャイアントスウィングは、期待したほどのダメージを与えなかったどころか、逆に自分の首を絞める結果となっただけだったという訳だ。
「……いいね……最高だぜ古菲――ヤッパリ、格闘ってのはこうじゃなきゃ面白くないぜ。実に強烈な一撃だったが、おかげでサッパリとしたぜ?
さて、楽しい戦いをもっと楽しもうじゃないか?」
「その提案には賛成アルよ老子。
ふふ……こんなに、熱くなったのは何時ぶりアルかな?――今、私は心の底から燃えているよ稼津斗老子!!正に心が燃える闘いアル!!」
「ならぶつけてみな、お前の燃える心が放つ、紅蓮の焔ってモンをな。
そろそろ、試合時間も残り少ないからな――次の一撃でケリを付けるとしようか?」
其れでも、流石と言うか何と言うか、稼津斗は殆ど無傷で復帰!おまけに、今の一撃で目が回っていたのが治ったというのだから呆れるほかないだろう。
少なくとも普通の観客に限れば。
観戦している1−Aの面々と、対戦している古菲からすれば、寧ろ此れ位は当たり前に過ぎない。
特に現在進行形で戦っている古菲にっては、己の闘気を更に燃え上がらせる材料でしかない――生粋の武道家の性分と言うモノなのだろう此れも。
だが、稼津斗の言うように、試合時間は残り2分を切っている――最大の一撃を放つ準備も考えると、次が最後の攻防となるだろう。
「上等アル!!」
――轟!!!
「見せてみろ古菲、お前の最高の一撃ってのをな――!」
――轟!!!!!!
其れを示すかのように、稼津斗も古菲も気を集中!!
其れに呼応して、大気が奮え、その強さにリングに罅が入って行く――だけでなく、実況用のマイクとスピーカーが吹っ飛ぶ事態まで勃発し、正に最終決戦だ!!
「なんじゃこりゃあ!?……ってマイク入ってない!?……へ?スピーカーもマイクも吹っ飛んだって……ウソでしょ〜〜〜〜!!!!」
尤も、実況を行っていた放送部の生徒からしたら笑えないのだが。
其れでも、実況を続けるのは、ある意味でプロ根性と言ってもいいのかも知れない。
「行くアル!!!」
一方のリング上で、先に動いたのは古菲だった。
己の今の極限まで高めた気を、両手に纏って、一足飛びで稼津斗に肉薄し、双掌打を炸裂!!!!
――メキィ!!!
異様な音がしたが、稼津斗は右腕でその双掌打をガードし………
「良い一撃だ……お前の『武』に対する思いが篭った、見事な一撃だったぜ古菲。
精進を続ければ、お前は最強クラスの使い手になるだろう――だが、今この時は、俺を凌駕する存在ではないな……今の一撃を除けばな。
だが、久々に楽しめた――此れが俺の礼だ!!おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……天地覇王拳!!!」
「!!!」
――バキィィィィィィ!!!
カウンター気味の一撃で、古菲を殴り飛ばす!!
その一撃は、凄まじく古菲の身体は場外にまで吹き飛ばされてしまったのだが……
「ぐぅ……本気じゃないとは言え、今のは流石に効いたアルよ稼津斗老子!!!」
驚く事に古菲はまだまだ元気満々!!
如何やらインパクトの瞬間に、自ら後ろに飛ぶ事で、ダメージを最小限に留めたらしい……咄嗟に其れを行うとは、なんとも末恐ろしい事だ。
だが、古菲が健在ならばタイムアップまでバトルする事になるのだが――
「ギリギリで点をずらしたか……見事なもんだ。
ふぅ……この辺が潮時だろうな――オイ審判、この試合俺の負けだ――降参するぜ。」
此処で稼津斗が降参。
と言う事は、古菲の勝ちと言う事になるが、其れで納得できるかと言えば、其れは否だ。
「待つアル!!如何して降参するアルか!老子はマダマダ戦える筈アル!!」
「そう言うなよ……右腕がこんな状態じゃ、流石に戦えないだろ?
直ぐに治せるとは言え、中々そうもいかない上に、お前の渾身の一発を喰らって無傷ってのもアレだからな……まぁ、この場はお前の勝ちだ古菲。」
だが、古菲は稼津斗の右腕を見てそれ以上何も言えなかった。
「マッタク、ありったけの鋼気功を詰めてくれたな……おかげで、右腕はボロ雑巾だ。」
「老子!!」
稼津斗も右腕は腫れあがり、肘から下と五指は夫々が有り得ない方に折れ曲がっている――古菲の一撃が其れほどまでのダメージを稼津斗に与えたのだ。
尤もオリハルコンを持つ稼津斗からしたら、こんな傷はあっと言う間に治るのだが、其処は大会の演出として『古菲の一撃』を印象付ける為に敢えてあの一撃を受
けたと言う事なのだろう――まぁ、大丈夫な筈だ。
『此れはーーーーー!!何と氷薙稼津斗、右手の肘から下と指が曲がっちゃいけない方向に曲がっている〜〜〜!?
つーか大丈夫かそれ!?間違いなく骨バラバラになってるよね!?病院行った方が良くないですか、稼津斗選手ーーーー!!!』
「大丈夫だ気にするな。
俺は異常に回復が早くてね、3日後には元通りになってるから大丈夫だ――俺の回復力はトカゲの再生力を超えるからな。」
『なんか、メッチャ納得した私が居る!?』
実況も流石に驚くが、其処は稼津斗が稼津斗たるところと言うか、それ以上は放送部の生徒も何も言っては来なかった。まぁ、其れは其れで、面倒がなくOKだ。
「マッタク……全力を出してないとは言え、本気になった俺の右腕を、此処までぶっ壊すとは大したモンだぜ古菲。
マダマダ荒があるのは否めないが、お前なら何れ龍の爺さんをも超える中国拳法の使い手に成るかも知れないな――精進を怠るなよ?」
「勿論アル!!武の道に終わりはない……だから進むのみ!!老子が、そう教えてくれたアル!!」
「……そう言えば、そんな事を言ったかもしれないな?――ま、焦らずに頑張れよ?お前はお前の武の道を、一歩一歩確実に踏みしめて行きな――!」
「分かってるアルよ、稼津斗老子!!!」
「ならば良し……久しぶりに楽しい戦いをさせて貰ったぜ!!――押忍!!」
「其れは私の方アル……これ程までに良い闘いが出来たのは老子のおかげヨ……謝謝――!」
そして、当の二人はこの健闘を称え、互いに称賛の辞を送り、稼津斗は空手式の、古菲は中国拳法式の礼をして、激闘は此処に終結したのだった。
で、古菲のウルティマホラ優勝の大量ボーナスが入り、今年の麻帆良学園体育祭は、麻帆良学園女子高等部1−Aがぶっちぎりで総合優勝を決めたのだった。
――――――
其れと時を同じくして――
「地球との中継点となる、ドッグコロニーの建設は如何なっていますか?」
「現在9割超の完成度との事――此れならば彼とネギ少年の言うプランにも遅れは出ませんが――如何いたしますか『クルト総督』?」
「――出来るだけ、早くドッグコロニーの完成を目指してください。其れが重要なファクターになる筈ですからね。」
「御意に。」
オスティアの総督府では、クルトとその部下が『稼津斗とネギのプラン』についての何かを話していた。
「さて、此方の準備は何時でもOKですよ稼津斗君、ネギ君?――そろそろ、新しき世界の幕開けの花火を、上げても良い頃だと思いますよ、私はね――」
一応の対応をしたクルトの顔には、悪役気取りとかではない純粋な笑みが、極薄くではあるが浮かんでいる――其れだけ、思い入れが有ると言う事なのだろう。
地球と魔法世界が繋がるまで、あと6年―――
To Be Continued… 
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