「……と言う訳で、今回の件は俺1人で解決できたものじゃない――頼れる仲間が居たからこそ、如何にかする事が出来た。
 そして、その仲間がネギをはじめとする、麻帆良学園女子高等部1−Aの面々だ………やっぱり俺に演説は無理だから、この辺で助太刀してくれ。
 後は、お前達の好きなようにやってくれていいぜ?……やっぱりこう言うのは、俺のキャラじゃあないみたいだからな。」


オスティアの宮殿にて、今回の一件を解決した『英雄』として紹介された稼津斗だが、如何にも誇張抜きで『演説』が苦手だったらしく、事件の概要と、自分がラス
ボスにトドメを刺したという事をざっくりと説明した後は、自分一人の力じゃないと言う事を言い、其処から何とネギを含む1−A+αを宮殿バルコニーに召喚!!


普通なら、宮殿のバルコニーに呼び出されたら緊張をする物だが、1−Aの面々に限ってはその限りではない――寧ろノリノリでバルコニーに登場なのだ。
尤も其れも、稼津斗の事前の説明が有ったおかげで『1−Aの面々もまた、世界を救った英雄』と認識されたらしく、拍手喝采が鳴りやむ事は無い。


とは言え、面子が面子故に、演説で等と言う事にはならず、夫々が好き勝手に今回の事件に関する事を喋りまくり、宮殿のバルコニーは一転して、トークショーの
様な状態を醸し出して来たが、此れもまた特に咎める事ではないのだろう。


寧ろ、客受けは滅茶苦茶良かったので、このまま続ける事に。


まぁ、この様な事が小一時間続いたのちに、ネギが演説で締め、魔法世界を巡る一連の戦いは、真の意味で終焉の幕を下ろしたのだった。



因みに数年の後、この事件は『イレイズ・オブ・ザ・ワールド』として有名になり、教科書や関連書籍も発売されるのだが、其れはまた別の話である。











ネギま Story Of XX 192時間目
『決戦終わって其の後で』











「あ〜〜〜〜……幾ら端折ったとは言え、大観衆を前に演説するってのは、やっぱり肌にあわないな……」

「まぁ、今回ばっかりは仕方ないんじゃないかな?
 誰が何と言おうとも、ザ・ワールドにトドメを刺して撃滅したのは、稼津斗にぃなんだから――此処は、素直に評価された事を喜ぼうじゃないか?」

「其れは分かってるんだが、肌にあわないのは如何しようもないさ。」


そしてその夜、1−Aの面々は、各々思い思いにテキトーに過ごしていた。
ネギ組と一部の生徒は、総督府主催の『祝勝祭』に繰り出し、適当に出店やら何やらを周って楽しみ、稼津斗組と残りの生徒は、クルトが1−Aの為に借り切った
オスティアの最高級ホテルの、最上階展望ルームでマッタリと過ごしていた。


「大体にして、表舞台での演説ってのは、ネギのような奴だからこそ映えるモンでな?
 俺みたいな奴は、例えラスボスにトドメを刺したのだとしても、裏に引っ込んで一杯やってるのが性に合うってもんだ――うん、此の酒も中々美味いな。」

「此れは……魔法世界のみで作られている、アルコール度数60%の代物……それを飲み干すとは、流石は稼津斗殿でござるな――」


で、その稼津斗は何処から持って来たのか、多種多様な酒類を、手当たり次第にラッパ飲みして、今ので丁度5本目を飲み干したらしい。其れも強いのばかり。
今更、アルコール分解酵素云々を言うつもりはないが、それでもオーバー50度の酒を5本も飲み干して素面だと言うのは、恐ろしい事この上ないだろう。


「マダマダ全然平気だぜ?……次は此れを行くか。」

「稼津斗さん、ルームサービスで何かおつまみ頼みますか?」

「其れも良いな?何を頼むかは任せるから、人数分適当に頼んでくれアキラ。」


祭りに繰り出している面々とは違うが、こっちもこっちで小宴会と言う感じになり、オスティアの夜景を眺めながらゆったりと過ごしているようだ。
此れもまた、あの最終決戦に勝利したからこそ出来る事なのだろう――そう考えると、見える夜景もより特別なモノに見えて来る様な感じがしてくるものだろう。


「さてと……それで?俺に何か聞きたい事があるんだろ?」


だが、稼津斗のこの一言で、少し空気が変わった。と言うよりも、稼津斗組の面々の表情が、今までよりも引き締まったと言う所か。

そう、稼津斗組の面々には稼津斗に聞きたい事が有ったのだ。
大戦後の彼是や、昼間の演説(と言う名のトークショー的何か)の事も有り、今の今まで聞く事が出来なかったのだが、如何しても知りたかったのだ――今回の
一件の黒幕である『ザ・ワールド』とは、一体何者であったのかを。

無論、のどかが見つけた手記から得られるモノは有るが、其れは始まりの魔法使い=ザ・ワールドであると言う事であり、ザ・ワールドその物に付いては謎な部
分が多く、稼津斗の遺伝子をクローニングして生まれたミュータントと言う事しか分かってはいないのだ。


「まぁね……んじゃあ、単刀直入に聞くけど、ザ・ワールドってばマジで何モンなの!?
 稼津兄のクローンだって言うのは分かったし、普通の魔法使いとかだったら勝てない位の奴ってのも分かったんだけど、如何してアイツは『オリハルコン』を?
 アイツが稼津兄のクローンだって言うのが分かった時、稼津兄言ってたよね?『唯一の成功例の遺伝子サンプルを……』って。
 其れを考えると、幾らアイツが稼津兄のクローン体だとしても、オリハルコンに適合してたとは考え辛いんだけど――その辺てどうなってのさね稼津兄や?」


そして、斬り込むのは勿論和美。
プロ顔負けのジャーナリストとしての腕を持つ彼女らしく、疑問を明確に投げかけ、その答えを求める。

別にオリハルコンを持ってようと如何でも良いだろうと思うかもしれないが、稼津斗組の面々にとってオリハルコンは稼津斗との絆そのものであるが故に、ラスボ
ス的相手に持っていて欲しくなかったという感情が如何しても有るのだ――乙女心とは中々に複雑なのである。


「確かに、オリハルコンと適合したのは俺だけだが、俺を改造した連中は、俺のクローンの中でも優秀な個体にはオリハルコンを埋め込んだんだろうな。
 だが、其れは俺の中のオリハルコンとは似て非なるモノだぜ?俺に埋め込まれてるのは、純度100%の天然のオリハルコンだが、アイツに埋め込まれてたオ
 リハルコンは、限りなく天然物に近付けて生み出された『人工オリハルコン』だ。」


皆の注目が集まる中、稼津斗は自分の推測を交えて話していく。
優秀な個体にと言うのは推測だが、ザ・ワールドの中にオリハルコンが有った事、そして其れが人工物であったことは稼津斗が実際に確認した事だ。


「人工オリハルコン?人工やったの?」

「そもそも、俺の居た世界では天然のオリハルコンてのは純金やダイヤモンド以上の希少鉱石で、『ビー玉サイズが取れれば1年間遊んで暮らせる』って言われ
 る位のモンで、天然物を見つけるのは極めて困難な訳だ。
 俺を改造した組織は、鉱山での略奪やら何やらを行って50個程度を確保してたらしいが、其れでも適合者は俺1人だった。
 ならそのクローンに天然物を使うのはコスト面で問題がある――多分、そう言う理由から人工的に質を落としたオリハルコンを開発したんじゃないかと思う。」

「コストが問題でござったか……確かに、金やダイヤモンド以上の希少鉱石を使うとなると、略奪するにしても効率が悪すぎでござるからなぁ?
 最初に改造対象としてとらえた稼津斗殿達の分は兎も角、それ以降のクローンの分まで用意するのは困難であったと……そう言う事でござるか。」

「そう言う事だ。」


更なる説明で、一同納得。
確かに人工のオリハルコンであるならば、埋め込む相手に適合するように調整も利くだろうし、大量生産も可能だろうからザ・ワールドが持っていても不思議じゃ
ないだろう。


「因みに、天然物と人工物の差ってのはドレくらいなの稼津君?」

「勝ったのは俺、其れが答えだ。」

「成程、この上なく分かり易い答えですね。」


そして、人工物と天然物の差も、これまた実に分かり易い回答であった。
勝ったのは稼津斗……確かに、これ以上の答えはないだろう。詰まる所、どんな予想を立てたところで結果に勝る答えはないと言う事だ。


「とは言え、アイツの能力が中々だったのは間違いない事だ。
 もしも下らない支配欲に捕らわれずに、己を高める事を目的として居たら、案外俺とアイツは良いライバルに成れたのかも知れないな――あくまでifの話だが。」


其れでも、完勝したとは言え、もしもザ・ワールドが絶対悪でなかったらと思うところも、稼津斗には有るようだ。
生粋の武道家故に、本能的に強敵を求める性分なのだろう――其れからすると、少々残念に思うところもあるのかも知れない。


「けどまぁ、此の世界には何れ俺を超えるかも知れない逸材が2人も居るからな?ネギと小太郎が俺に追いつき、追い越すのを気長に待つとするさ。
 あと10年も経てば、俺と互角以上に戦えるようにはなるだろうからな。」


だが、この世界にはネギと小太郎と言う将来有望な逸材が居るので、其方の成長に期待をするらしい。


「ま、此の件に関しては此れで良いだろ?
 今日はたっぷり楽しんで、明日からは残りの夏休みを魔法世界観光に使うから、覚悟しておけよ?生涯忘れられない夏休みにしてやるからな!!!」

「寧ろ望むところだ稼津斗……目一杯楽しませて貰うとしようか!!」


其れは兎も角、1−Aの面々は夏休みの残りを魔法世界の観光に使う事は決定事項のようだ。
だが、確かに此れならば生涯忘れる事の出来ない夏休みにもなるだろう――実際に、この夏休みは、彼女達にとって特別なモノになるのは確定なのだから。








――――――








一方で、祭りに繰り出した面々は、本当に夫々が好きなよ〜〜〜〜〜に過ごしていた。
ある者は屋台巡りをし、ある者は射的や金魚すくいで屋台潰し的な事を行い、ある者は適当に屋台を冷やかし半分で回って楽しんでいる――ある意味で、夫々
正しい祭りの楽しみ方をしていると言えよう。




そんな中でネギは、実の両親であるナギとアリカ、そして自身の恋人にして従者のエヴァンジェリンと共に祭りを巡っていた。
最初はエヴァンジェリンも『家族水入らずの時を過ごすと良い』と言って居たのだが、ネギが『エヴァには居て欲しい』と言う事で、この輪の中に居るのである。

まぁ、アリカは最初からネギの思い人と言う事で歓迎しているし、ナギもまた旧知の仲と言う事で気を許せる相手なので、悪い気分ではないようだ。


「しっかし……エヴァの呪いは、ありったけの魔力を使って適当にかましたから、誰も解けないと思ってたんだが、其れを解いちまうとはな……やったの誰だよ?」

「貴様やラカン以上の力を持つ、天下無敵のチートバグこと『氷薙稼津斗』だ。
 もっとも、此れは解いたというよりも、外部から破壊したと言うのが正しいのかも知れんが、いずれにせよ奴が私を解き放ったのには変わりはないな。」

「マジで!?……アレをぶっ壊すって、ドンだけだあの兄ちゃんは?――こりゃ、アイツにだけは喧嘩売らねぇ方が良いかもしれないな…まだ、死にたくねぇし。」

「本気の稼津斗と戦ったら、多分父さんとラカンさんが組んでも秒殺は間違いないと思うよ……」

「マジかおい!?」

「ナギとラカンが組んでも敵わんとは、相当じゃなアイツは……」

「まぁ、アイツは突っ込むのが面倒になる位の、チートバグだからな……恐らく全てのステータスが成長限界を突破してバグっているだろうからな。」


そして、此の団欒も楽しい物であるのは間違いないようだ。
だって、ネギもエヴァンジェリンも、ナギもアリカも終始笑顔が絶えないのだから。


「時に父さん、あの射的の出店で勝負しませんか?同額の持ち弾で、何方が多くの景品を取れるか。」

「俺に挑むとはいい度胸してるじゃねぇかネギ?……良いぜ、見せてやるよ『サウザントマスター』と謳われた、俺様の実力ってモノをな!」

「やるのか?……うむ、頑張れよネギ。妾は応援しておるからな♪」

「見せてやれネギ、お前の成長と言うモノをな――と言うか、二代目にして真の『千の呪文の男』となったお前の力、とくと味わわせてやるが良いネギ!!」

「あるぇ!?エヴァは兎も角、姫さんまでネギの応援!?
 ……妻にとっての夫より、母親にとっての息子って事か……親父は肩身が狭いなぁオイ!!――こうなったら、絶対に手加減しねぇからなネギ!!」

「望むところですよ父さん!!」


取り敢えず、この一団は此れで良いのだろう。

実際に、ネギとナギは、此れまでの時を埋めるかの様に、祭りを大いに楽しんで居たらしい。

そして余談だが、エヴァンジェリンがアリカから恋愛の彼是を享受されていたらしく、夏休み終了後、ネギとエヴァンジェリンの仲は更に深まったとかなんとか……


何れにしても、ネギにとっても今年の夏休みは特別なモノになっただろう。








――――――








――略同刻・麻帆良学園学園長室


「稼津斗君とネギ君が出張っとるなら大丈夫だと思うじゃが、何とかなったら何とかなったで一報入れてくれんかのう……」


同じころ、麻帆良学園の学園長室では、近右衛門が魔法世界での事がどうなっているのか、どうなったのかの報を心待ちにしていたが、今のところ報告は0!!


「若しかして、ワシ忘れられとる?」


さもありなん。――結局、近右衛門に連絡が入ったのは、更にここから三日後の事であったのだから。



尤も、此れもまた魔法世界が真の意味で平和になったのだと言う事で、近右衛門も特に咎める事は無かったのだ。





そして、夏休みの残り日程を消化した面々が麻帆良に帰還し、新たに2学期が始まろうとしていた――













 To Be Continued…