稼津斗を取り込んだザ・ワールドが、繭に包まれ、そしてその繭を破って現れたのは稼津斗の形をした異形の巨人。

銀とも透明ともつかぬその身体は、奇妙な光沢を放ち、背から生えた10枚の翼はまるで『神』を連想させるが、この巨人の本質は紛れもない『闇』と『悪』である
事は間違いないだろう――その身から発せられるオーラは邪悪そのモノであるのだから。


「お〜〜〜〜、孵化した直後に羽が生えたよアレ!?」

「稼津斗にぃを模したようだが、ハッキリ言って悪趣味なデザインと言わざるを得ないね。」


だが、稼津斗組の面々は其れを見ても恐れも焦りも無い。

確かにカードの状態を見れば、稼津斗が生きているのか死んでしまったのかは判別が出来ないだろうが、其れだけに彼女達は『稼津斗は生きている』と信じる
事が出来たのだ。――取り込まれた程度で、稼津斗が死ぬはずがないと確信しているのかも知れない。



『ククククク……よもや此処まで巧く行くとは思わなんだが、此れで私は真に何物をも寄せ付けぬ最強の存在となった!!
 見よ、此の神々しい姿を!!――此れこそ、この世界の新たな神の姿として相応しいだろう!!』



が、孵化したザ・ワールドは、己の計画が成功した事と、圧倒的な力を得た事に酔いしれ、厨二病全開ともとられかねないセリフを吐いて勝ち誇っている。
確かに、稼津斗を取り込み、その力を吸収したのならば、成程最強かも知れないが――


「アホも此処まで来ると救えねぇわ。つーか、私にアホとか言われたら終わりだってーの。」

「ならば奴は始まる前からゲームオーバーと言う事か?
 大層な登場をしてくれたが、所詮はラスボス(笑)でしかないと言う事か……ならば、速攻で撃滅して稼津斗を取り出すとしよう。」


裕奈とイクサが、真正面からザ・ワールドの自信を一刀両断完全否定!!
稼津斗を心の底から信じ、そして愛している彼女達だからこそ、一切の迷いも何もなくそんな事が出来たのだろう――









ネギま Story Of XX 186時間目
『Ruler's name is the world』











だが、其れを言われて面白くないのはザ・ワールドだ。
最強を取り込み、そして最強の存在となった己を否定する事を、認められるはずもないのである。


『小娘、何故そう思う?貴様の信じる氷薙稼津斗は我が取り込んだ……ならばその力は我の物だろう?』

「本気でそう思ってんなら、アンタは救いようのないアホンダラだね、ザ・ワールド。
 確かに稼津君は天下無敵で、絶対最強の存在だけどさ、その力って言うのは、稼津君だからこそ発揮できるんだぜ?――アンタじゃ発揮しきれないよ!!」

「加えて、他者の力を吸収して其れに頼る時点で貴様は三流だ。
 他者を見本にするのは良いが、あくまでも其れを自分の中に取り込み、そして自分の中で研磨して昇華しなければ所詮は『体の良いコピー』にしかならない。
 稼津斗を取り込んだところで、貴様は精々1000が1001になった程度の強さでしかないと言う事さ。」

「と言うか、取り込まれた稼津さんが内部で大暴れしたら、其れでゲームエンドやない?」

「相手を自身に取り込むと言うのは、一種の死亡フラグでござるからなぁ?」


そんなザ・ワールドの問いかけに、稼津斗組は言いたい放題だが、的確にザ・ワールドの行った事の穴を突いて行く。
確かに、強者を吸収したところで、その力を100%使えるとは限らないし、吸収した対象が体内で目を覚ましたら、其れこそ内部から破壊されかねないのだ。


だが―――


『クハハハハハハハハハハ!!何を言い出すかと思えば、そんな下らない事か!!』


ザ・ワールドは余裕の態度を崩さず、稼津斗組の言った事を完全否定!!
恐らくは、其れを否定できるだけの材料があるのだろうが、其れは一体何であると言うのだろうか?


『良いだろう、冥土の土産に教えてやる……確かに、氷薙稼津斗を取り込んだだけでは、その力を使いこなす事は難しいだろう。
 だが、我が身に取り込んだ氷薙稼津斗と、この私の遺伝子が99・99%同じだとしたら如何だ?』



ザ・ワールドは両腕を広げて、演説めいたセリフを発する……同時に、なぞかけの様なセリフも出て来たが……


「99.99%同じ遺伝子を持って居るだと!?」

「まさか……そんな事って!!」


その中の『稼津斗と99.99%遺伝子が同じ』だと言う事には誰もが驚いた。
遺伝子とは1%違えば赤の他人になり、5%違うだけの別の種となるモノなのだが、似ても似つかない稼津斗とザ・ワールドの遺伝子の差異が、僅か0.01%
であるとは一体如何言う事なのか?


「………クローン人間、と言うやつでござるか……?」


その答えの可能性に、真っ先に辿り着いたのは楓だった。
薄く眼を開き、疑問形乍らも何処か確信めいた声色で、ザ・ワールドに問いかける。


『ほう?バカレンジャーブラックと言う、何とも不名誉な称号を持っていると去年あたりにテルティウムから聞いていたが、中々に頭が回るではないか?』

「忍び故にござるよ、今回の事は。
 忍びとは、時として外法の術を使う事もせねばならないのでござるが、甲賀の忍びの外法の業の中に、人の複製術が記されていたのでござったのでな?」

「ちょっと待った!其れって何か?少なくとも裏技とは言え、戦国時代には日本はクローン技術を確立してたって事!?」

「何や其れ!?普通に歴史が変わってまうわそんなモン!!」

「なので、今の拙者の言った事は他言無用で頼むでござる♪」


ザ・ワールドは間接的に其れを肯定したが、其れよりも楓が放った一言の方が遥かに衝撃だった。

当然だ、『実は戦国時代には日本はクローン技術を確立してました』なんて事を聞けば驚くのが普通であり、寧ろ驚かずに如何しろと言う事なのだから。


「しかし、クローンとは……稼津斗にぃの事を考えれば、ある意味で当然とも言えるかも知れないね?」

「寧ろ、今までその可能性を考えてなかった事が、ある意味で異常であると言えるかもしれないからな。」


それでも、真名とイクサは冷静に情報を分析し、ザ・ワールド=稼津斗のクローン説に納得もしていた。

そんな2人に、裕奈達は『いったいどゆ事?』と言った感じで聞いて来る。因みにネギとエヴァンジェリンなんかは『成程そう言う事か』と納得していたのだが。


「稼津斗にぃがどんな存在だったか思い出してみろ?
 稼津斗にぃは元の世界で行われた『最強の兵士を作る』と言う狂った計画の被験者の中で、唯一オリハルコンと適合した『成功例』――研究者達が、その遺
 伝子情報のサンプルを確保して居ない筈がないだろう?」

「改造手術云々は別としても、髪の毛や皮膚に血液……ありとあらゆる遺伝子のサンプルを採取していた筈だ、最強兵士量産の為にね。
 そして、稼津斗が施設を脱走した事で、其のサンプルを使ってのクローニングに踏み切ったのだろう……だが、思った以上にクローニングは困難を極め、真面
 な形になったのは数体で、しかも稼津斗本来の強さを宿したクローンは居なかった……其処で、出来の良いクローンをバイオコントロールしたんだろうさ。
 その最高傑作として誕生したのが、恐らくはお前と言ったところかな?――当たらずとも遠からずだろう、ザ・ワールドよ?」


真名とイクサは、己が思い至った可能性を口にしていく。
確かに、稼津斗を人非ざる存在に変えた組織ならば、其れ位の事はしていたとしても、何ら不思議はないだろう。


『Bravo!実に見事な洞察力だ。』


その真名とイクサの推測を聞いたザ・ワールドは心底感心したと言った感じで手を叩き、その予測が真実であると告げる。
因みに、15m以上も有る巨人の拍手は実に五月蠅い事この上ない。ぶっちゃけ、只の騒音公害でしかないだろう。


『そう、私は氷薙稼津斗のクローンをバイオコントロールする事で誕生したミュータントだ。
 生まれた頃は氷薙稼津斗そのモノだったのだが、バイオコントロールを繰り返すうちに姿が変わってしまってね……運命の輪の姿になったと言う訳だ。
 だが、バイオコントロールを繰り返される中で、私には私としての自我が芽生えたのが、奴等にとっての最大の誤算だっただろう――結果として奴等は死に、
 そして、私と言う絶対支配者を世に生み出してしまったのだからなぁ?
 もしも、バイオコントロールを始める前に、私の脳に『絶対服従コード』を刻み込んでおいたならこんな事にはならなかったのだろうがなぁ?
 まぁ、其れは良い……つまり私と氷薙稼津斗は限りなく同じ存在なのだ――故に取り込んだ奴の力は99.99%私の力となって発揮されるのだ!!
 此の意味が分かるか?つまり、貴様等は氷薙稼津斗の力が上乗せされた私を相手にしなくてはならないと言う事だ!!』



其れは兎も角、ザ・ワールドは稼津斗のクローンをバイオコントロールした末に生まれたミュータントであり、それ故に遺伝子は99・99%同じであると言うのだ。
確かに、此処まで同じならば取り込んでも問題は無いし、その力も十二分に使う事が出来るだろう。


『序に良い事を教えてやろう。
 我が体内は、倒すべき敵も居なく、壊せば脱出できるような壁も無い虚無の空間だ――其処に閉じこめられて、奴は何処まで自我を保てるか…楽しみだ。』



更に、ザ・ワールドは稼津斗が自力で脱出するのは不可能だと告げる。

確かに倒す相手も居なく、脱出も望めない空間に閉じこめられて、ドレだけ正気で居られるかと問われれば、精々1ヶ月持つ事が出来れば上出来だろう。


『如何に、奴の精神が鋼の強さを有して居ようとも、此の虚無空間で心を摩耗させずに居る事など不可能よ。
 そして、心が摩耗したアイツに、貴様等が死んだことを教えてやればどうなるかな?……奴の心は壊れて完全に私の一部となる!其れこそが我が望みだ!』



用意周到と言えば其れまでだが、此れはまた何たる外道か。
いや、一般的な外道、悪党でも、此処までの悪意を見せつけられたら、逆に吐き気を催すかもしれない――其れほどにザ・ワールドの目的は腐れ外道だった。

其れこそ稼津斗のクローン体がベースであるのを疑ってしまう程に。


だが―――



「アホかアンタ?……稼津君の心がそんなモンで摩耗すると思ってんの?」

「だとしたら、君は稼津斗さんを甘く見過ぎてるよ。」

「稼津斗さんは絶対に戻ってきます……絶対に!!」


『何言ってんのコイツ?』とばかりに、裕奈が挑発めいたセリフと共に親指を首筋に当て、アキラが稼津斗を甘く見過ぎだと言って首を掻っ切るポーズをし、極め
付けに、のどかが『稼津斗は絶対に戻って来る』と言いながら(普段からは絶対に想像出来ないが)親指を下に向けてサムズダウン!


「口だけは達者だなオイ?此れだけの戦力を相手にして勝つ心算で居るのか貴様?」

「僕達をあまり甘く見ない方が良いよ?」


加えて、エヴァンジェリンが中指を立てたポーズで挑発めいたセリフを吐けば、ネギもシンプルながら挑発と嘲笑をはらんだ一言をブチかます。

更に


「あの最強無敵の兄ちゃんを取り込んで良い気になってるみたいだが、こっちの戦力が超絶状態なのを忘れんなよテメェよぉ?」


千雨曰く、チート無限のバグキャラことラカンが絶対不敗を思わせるセリフを吐き、当然の如く闘気はMAX120%状態なのだ、此れは頼りになるだろう。


『ジャック・ラカン……貴様、20年前に私には勝てぬと思いながら、今また私と相見えると言うのか!!』


無論、ザ・ワールドは其れに『異』を唱える。
確かに20年前の大戦期、ラカンは最終決戦の際に『始まりの魔法使い』に畏怖し、己の力を発揮する事が出来なかった。(腕切断の影響も大きいが。)

其れを知っているザ・ワールドからすれば、ラカンが此処までやる気なのは解せない事だろう。



「アホかテメェは?アンときゃ『魔法世界の住人は始まりの魔法使いには勝てない』って言う、トンでもないディスアドバンテージがあった事を忘れんじゃねぇ。
 だが、今は姫子ちゃんのおかげで、こっちの攻撃はテメェに通じるし、テメェの力で俺達を消す事は出来ねぇと来てるから、条件は対等だろオイ?
 あの兄ちゃんもそうだろうが、俺様は殴って倒せるもの相手なら怖いモンは何もねぇんだ――アン時の借りやら何やらを纏めて清算させて貰うぞオラァ!!」


――バリィィィィィィィ!!



だが、伝説の英雄にして『剣が刺さらないオッサン』と言う、謎の称号を得ているラカンからすれば、条件が対等になったのならば始まりの魔法使いであるザ・ワ
ールドが相手であっても大した問題にはならないらしい。流石は無限チートのバグキャラだろう。

高められた闘気が上着を消し飛ばし、筋骨隆々たるその姿は、正に『伝説の傭兵』の名に恥じない威風堂々たるものであり、文字通りの『生きた伝説』だ。


「つーかだな、兄ちゃんを取り込んだから最強ってのは、俺様から見ても短絡的過ぎるぜ?
 如何にテメェが兄ちゃんの複製体だとは言え、その力にゃ雲泥の差があるんだ、兄ちゃんを取り込んだところで、良いとこ互角レベルだろ?
 だったら、俺達がテメェに負ける道理は何処にもねぇし、兄ちゃんの契約者たる嬢ちゃん達だってやる気は充分なんだ、正直負けが見えねぇんだよボケが!」

「生死不明でもアーティファクトは使えるみたいさね……其れが分かっただけでも充分だよ。
 そして、ザ・ワールド、不滅の存在も今此処で滅される……精々辞世の句でも考えときな?……つーか、敢えて言おう『ハイクを読め』!!
 稼津斗兄を助け出して、そんでアンタの身体は宇宙の藻屑にしてやるから覚悟しときな?始まりの魔法使いの伝説は、今此処で終焉させるからね!!」


更には、稼津斗組の和美が吼えた直後に、稼津斗組の闘気が大幅にアップ!!
XXVに覚醒した訳ではないが、全員がより激しく闘気が逆巻き、纏う稲妻オーラも派手になっている!――差し詰めXX2.5と言ったところだろう。


『ククク……怒りによって力が昇華したか?……其れ位でなくては面白くはないがな。
 だが、その程度で私に勝てるなどとは思うなよ?どんな策を講じたところで、私の勝利は絶対!!貴様等は、神誕生の為の生贄に過ぎんのだ!!!』


「其れが何でござるか?
 稼津斗殿は生きている……なれば、拙者達は命尽きるその時まで足掻くだけにござるよ?……人間の意地を甘く見ると痛い目を見るでござるよ?」

「つーか、元よりアンタは私等に撃滅される事が確定してんだから、大人しくやられちまえよザ・ワールド。
 稼津君は絶対に戻って来る!!――アンタの計画やらなにやらは、始まる前から破綻してたって事だぜ!!」

「ククク……不滅の存在を抹消するもまた一興だな?」

「撃滅確定ですからね。」


否、稼津斗組以外の闘気も極めて充実している。
ザ・ワールドに対して、絶対勝利を言う楓と裕奈だけでなく、エヴァンジェリンとネギも、自分達が負ける事だけは絶対に無いと確信しているようだ。


『其処まで吼えるか……良かろう、ならばその自信を、全て絶望に変えてくれる!!!』


だが、同時にザ・ワールドも力を解放し、その身に蒼銀のオーラを纏う。


『神に刃向う愚か者が……その身の程を知るが良い!!』

「その言葉、そっくりそのまま貴方に返すよ……稼津斗さんの力に頼った貴方では、私達には勝てない!
 よしんば、私達に勝つ事が出来たところで、戻って来た稼津斗さんに倒されるのがオチ………貴方が勝つ事だけは有り得ないよ、絶対にね。」


その力は絶大だろうが、相対するアキラ達には恐れも何もない。
如何にザ・ワールドが稼津斗のクローン体をベースにしたミュータントであっても、そんなモノは恐れる理由にすらならないのだ。


最強を取り込んだ自称神と、最強クラスの力を宿したチームの戦の火蓋が、今此処に切って落とされた。








――――――








一方で取り込まれた稼津斗は………


「何処までも見渡す限りの白い空間で、壁は見当たらない上に、エネルギー的攻撃は無効になると来た……マッタク、イカレタ空間だなコイツは。」


一種異様な空間に閉じこめられても、其処には焦りの色は見て取れなかった。
それどころか、逆に落ち着いて居るようにすら見える。


「脱出不可の超空間……普通なら此処に閉じこめられる事で、短期間で精神が摩耗するんだろうが、生憎と相手が悪すぎたぜザ・ワールドよ?
 生憎と俺は、自分以外の全てが敵って言う異常な世界で500年も生きて来たんだ、今更何もない虚無空間で精神を侵される事は有り得ないよ、絶対にな。
 もし、コイツで俺の精神を殺す事が出来ると思ってるなら、お前の目は節穴だと言わざるを得ないぜザ・ワールドよ。
 確かに、俺が内部から出る事は不可能に近いが、中がダメなら外からってのは王道だからな?……裕奈達が俺を、そっちに引っ張り出すだろうよ。」


なんたるその精神力。
この以上空間に捕らわれて尚、稼津斗の精神は微塵の揺らぎも見せず、自分の従者たちの事を信じていたのだ。

此れが、異常な世界で500年も戦い続けて来た『絶対強者』の精神力なのだろう。


「しかしまぁ、まさかコイツが俺のクローンだったとはな……其れだけに、気に入らねぇな。
 俺はこんな選択は絶対にしない……テメェは所詮紛い物だぜザ・ワールド。――今度は、血の一滴、細胞の一欠けらも残さずに撃滅してやるぜ!!」


――轟!!!


迸る闘気は、正に稲妻の如し!



最強の戦士は、静かに、しかし激しく『世界』の体内で、新たな覚醒の時が来るのを待っているのだった。
















 To Be Continued…