さて、最終防衛ラインの上空での戦いだが、此れはもう言うまでも無く連合艦隊が圧倒していた。
より正確に言うならば、途中参戦したグレートパル様号リペア・戦闘艇モードが、一騎当千――否、一騎当兆とも言うべき、圧倒的な強さを発揮しているのだ。


「弾薬の補充を怠るな!マルチロックオンは常に作動させとけよ!
 幽霊、テメェは一瞬たりとも機銃のトリガーから手を離すんじゃねぇぞ!此処が突破されたら、魔法世界の人達が消されちまう…絶対死守するぜテメェ等!」

「「「「「「おーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」


其れもまた、この船の指揮官と化して居る千雨の的確な指示と、士気を高揚させるセリフがあればこそだろう。(本人にその自覚は無いが。)
事実、此の戦闘艇が戦線に加わってからは、召喚魔は現れた端から撃滅・消滅・滅殺されているのである。グレートパル様号様様と言っても良いだろう。


――だが……


「!!此れは……召喚魔の数が突然増えました。しかも、能力値が今までよりも大幅にアップして居ます!」

「んだとぉ!?マジかよ茶々丸さんよぉ!?召喚の増加にパワーアップって……そいつ等の操り主が強くなったって言う事だよな?
 まさかとは思うが、稼津斗先生がやられた?――いや、そんな筈はねぇ!あのチートバグをも超越した最強キャラがやられるなんて言う事は絶対にねぇ!!
 朝倉、テメェのカードで稼津斗先生がどうなったか分かるだろ!?」


突如召喚魔の数が爆増し、更にはステータスも底上げされたとの事。
其れを考えると、操り主がパワーアップしたと考えるのは普通であり、更に稼津斗がやられたという考えも浮かんでくるだろう――が、誰が如何考えても、あの
稼津斗が早々簡単にやられるとは、どうしても思えないと言うのが1−Aの共通認識とも言える。

なので、千雨は和美に真契約カードでの稼津斗の生存の有無を確認するように言ったのだが……


「え?」


カードを見た和美は言葉を失った。


何故ならば、そのカードには、特性やら何やらが浮かんでは消え、消えては浮かぶを繰り返していたから――









ネギま Story Of XX 185時間目
『選ばれた最悪のシナリオ』











「ち、千雨ちゃん、此れって如何言う事!?
 特性やら何やらが、メッチャ点滅状態で、稼津斗兄がどうなっちゃったのかさっぱり分からないんだけど!!生きてんの、其れとも死んじゃったの!?」

「知るかボケ!取り敢えず落ち着け、此のスットコドッコイが!!」


――スパーン!!


状況が状況だけに、混乱の極みに陥ってしまった和美の脳天を、何処から取り出したのかハリセンで一閃し、千雨は暴走しかけた空気を落ち着ける。
こんな事が出来るのも、何処か一歩引いた姿勢で居る千雨だからこそだと言えるだろう。


「いった〜〜〜い!!……少しは手加減してよ千雨ちゃん!死んだらどうするのさ!」

「あぁ?オリハルコンの心臓もってる分際でなにほざいてんだテメェは?この程度じゃ、ダメージにすらなってねぇだろ、弩アホタレ。
 まぁ、其れはこの際捨て置くが、そのカードの状態を見る限りだと、如何にも稼津斗先生が生きてんのか死んでるのか判別しかねるって感じがするんだが…
 お前は如何思う朝倉?もしもやられちまったら、そのカードは『死んだカード』のままだと思うんだけどよ?」


で、其処から本題に持って行くのは流石である。



確かに千雨の言う通り、もしも稼津斗が死んでしまったのならば、カードは死んだカードの状態で居るしかない――だが、和美のカードは(恐らく他の稼津斗組
のカードも)『死んだカード』と『生きたカード』の状態が目まぐるしく入れ替わっている状態であるのだ。

其れを見ると、千雨の言う『生きているのか死んでいるのか判別しかねている』という仮説も、あながち間違いではないのかもしれない。


「言われてみればそうだけど……でも……」

「………ったく、存外乙女だなテメェも――心配なら行けよ。
 こっちは、もうオペレーターとかが必要な状況でもねぇからな……此処は私等に任せて、テメェは稼津斗先生の所に行ってやれよ?――そうしたいんだろ?」


だが、和美としては心配でも、自分の持ち場を離れると言う事は出来ない――此れが自分の仕事だからだ。
しかし、千雨はそんな和美の背中を押す事にしたようだ。


確かに、消耗戦の様相を呈してきたこの場に於いては、正確な情報は取り立てて必要な物ではなく、必要なのは迅速に弾薬等を補充する為の伝達体系だ。


「千雨ちゃん……」

「行けよ、テメェの愛した人がピンチかも知れねぇ……なら行くしかねぇだろ?つーか、さっさと行ってこい!!」

「……ありがと、千雨ちゃん!!アンタも、最高に『良い女』だよ!」

「テメェに言われると、嫌味にしか聞こえねぇが、褒め言葉と取っとくぜ。
 なぁ茶々丸さん、この艦には疑似転送魔法を発動できる装置が搭載されてたよな?そいつで、朝倉の事を最終決戦のフィールドに送る事は出来るか?」

「可能です千雨さん。
 超が造ったこの装置なら、例え特殊な結界の内部であろうとも、対象を送り込む事が可能です。」

「つ〜訳で、速攻で送ってやっから、その目で何が起きてるか確かめてこいよ?
 もしも、寝ちまってるみたいだったら100tハンマーかなんかでぶっ叩いて、目を覚ましてやれ。」

「……此処までお膳立てされちゃ、やるしかねーさね!
 悪いね皆、ちょ〜〜〜〜〜っと、稼津兄達の様子見て来るわ!――こっち、任せるよ?」

「任せときな!最終防衛ラインは、絶対に超えさせねぇからよ?」


――パァン!


任せた、任されたの証の様に、千雨と和美はハイタッチを交わし、和美は其のまま転送装置で最終決戦の地へ――多分、もう到着しただろう。


「さてと、こっちも頑張らねぇとな!!……っておい、早乙女、テメェ何してんだ?」

「いや、敵の数が爆増して火力が追い付かなくなりそうだから、簡易ゴーレムとして『フリーダム・ガンダム』を大量召喚しようかなと。」

「アホ、其処は最大13本のビームを放てる『ストライク・フリーダム』を召喚すべきだろう!!
 いやいっその事『青眼の究極竜』とか、『巨神兵』とか、『ゴジラ』とか召喚しても良いだろ?もしもの時は『超サイヤ人』呼びだしゃ、大概何とかなる!!」

「そ・れ・だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


そして、艦内では新たな戦力の投入に関して、ちょいとカオスな状態になりかけたが、結果的には超強化状態になったので問題なかっただろう。


尤も、行き成り現れた人型機械やら、ドラゴンやら、化け物やら、怪獣に、連合艦隊のクルトが冷や汗を垂らしたのは言うまでもないかもしれないが。








――――――








一方、最終決戦の地に降り立った和美の目に飛び込んできたのは、見るからに異様な光景だった。


「此れは一体、何がどうなってんのよ!?」

「和美、来たのか!」


目の前に広がるのは、全長10mは有ろうかという巨大な『銀色の繭』。
其れだけでも充分異質であると言うのに、その繭は鈍く明滅し、そして脈打っているのだ――不気味な事この上ないだろう。


「契約カードが妙な事になっててね――多分皆のカードも同じ様な状態になってるだろうけど、稼津兄が生きてるのか死んでるのか分からない状態なんさね。
 だから、一体何が起きてるのか確かめに来たんだけど、行き成り此れって、何がどうなってるのよ!?」

「稼津斗が……一瞬の隙を突かれて奴に吸収されたんだ。
 そしてその直後に、あの繭の姿になった――なんとか破壊しようと試みたが、あの繭は此方の攻撃を全て吸収してしまった!!」

「マジですかい、イクサさん!?」


其れでも何がどうなってるのかを探ろうとした和美に対して、イクサから返って来たのは『稼津斗がラスボスに吸収された』と言う認めたくもない現実だった。
だが、同時に其れは今のカードの状態を納得するには充分なモノであったとも言えるだろう。


吸収されたのならば、確かに生きているのか死んでしまったのかは分からないのだから、カードが判別しかねるのにも納得と言う物だ。
そして、相手が稼津斗を取り込んだと言う事は、つまり自身の力に、更に稼津斗の力を上乗せした状態になるであろうことは間違いなく、其れは最強の敵――



「アホか。」



の筈なのだが、其れを聞いた和美は一刀両断に切って捨てた。


「稼津兄の力を取り込んだところで、オリハルコンと殺意の波動と暗黒パワーのハイブリットを使いこなせるのは、稼津兄だからでしょ?
 取り込んだ程度じゃ、その力の半分が出せれば良い方だし、何よりも稼津君が只取り込まれて大人しくしてる筈がないさね……だったら、私達は稼津君が帰
 還するその時まで、あの繭の中に居るクソッ垂れを抑えればいいんでしょ?
 稼津斗組のみならず、ネギ君とエヴァちゃん、其れにラカンさんにトレジャーハンター御一行様が揃ってるんだから、勝てなくとも稼津兄が帰還するまでの時間
 位を稼ぐのは余裕でしょ?――最終的に勝利するのは、私等っしょ?」

「言われてみりゃ、其れもそうだなぁ?んじゃあまぁ、兄ちゃんが帰還するまで精々頑張るとすっか!!
 けどよぉ、嬢ちゃん、時間を稼ぐって事だったが、倒せるなら別に倒しちまっても構わねぇんだろ?」

「倒せば稼津斗兄も戻ってくるから、寧ろやっちまえ。」



ラカンと何やらやってくれたが、和美の言う事は的を射ているだろう。
ドレだけ強い力であろうとも、その真の力を引き出す事が出来るのは力の所持者のみであり、其れを踏まえれば稼津斗を取り込んだ者が相手であっても、苦戦
はすれど、脅威ではないし、稼津斗が目を覚ませば其れでお終いだ。

ならば、自分達は稼津斗が目を覚ますまで全力で頑張れば良いだけの事なのだから。



「言われてみれば、確かにそうだな……此処は、一つ派手に行こうか?」

「そうでござるなぁ?……稼津斗殿が、やられる筈もないでござるからな……目を覚ますまで、拙者等が頑張らないのは嘘でござるからなぁ?」

「んじまぁ、弩派手にぶちかますとしますか!稼津君が目を覚ました時に驚く位にね!!」


そして、稼津斗組の誰もが、不安定なカードを見ても『稼津斗が死んだ』等とは思って居なかった。
カードが生死の判別が付かない状態であっても、稼津斗は取り込まれながらも絶対に生きているという確信が、彼女達にはあるのだろう。








だが、そんな彼女達の思いをよそ目に、繭には亀裂が入って行く――完全体の羽化が近いのであろう。






――ピキ、パキ……パリィィィィィイィィィィィィン!!!









そんな中、巨大な繭に罅が入り、そして弾け飛ぶ!!



「羽化したってところやろか?……ったく、もう少し真面な見てくれには成らなへんのかったんやろうか?」

「其れは期待するだけ無駄って言うモノかも知れないよ亜子………本気で、もっと別な姿で羽化してほしかったよ……まさか、こんな姿になるとはね……」



羽化した存在を見た亜子とアキラのセリフは、この場に居る全員の総意であると言っても過言ではないだろう。







何故ならば、繭を突き破って現れたのは、透明とも銀ともつかない不可思議な身体を持った、全長15m以上の稼津斗であったのだから……













 To Be Continued…