運命の輪改め、ザ・ワールドは、言うなればキメラと言うのが妥当な所だろう。

幾多のミュータントが融合したような醜悪な肉塊に、運命の輪の上半身が鎮座した見てくれは、其れだけで見る者の嫌悪感を最大限に引き出してくれる物だ。


だが、如何に醜悪な見た目であろうとも、その身から発せられる力が相当に強い事は間違いないだろう。
其れこそ、その力は『世界』を名乗るに相応しいと思わせるだけの、濃密で強烈な力が溢れ出しているのだ。


「切り札がキメラとは、ある意味で王道でござるが、其れでは稼津斗殿に勝つ事など不可能にござるよ?」

「つーか絶対無理でしょ此れ?
 確かに力はトンでもないし、出力だけなら稼津君のXXVに引けは取らないけど、あの巨体じゃ小回りが来ないし、ぶっちゃけ只の的でしかねぇんじゃない?
 『ザ・ワールド』とか、大層な名前を名乗ってくれたけど、所詮は一度稼津君に負けた奴でしょ?話にもならないっての。」

「確かに強いかもしれないけど、アレなら稼津斗さんの敵じゃないよ……」

「まぁ、兄ちゃんが負ける事だきゃねぇだろうな?
 流石の俺様も、兄ちゃんに勝つのは結構難しいモンがあるだろうからなぁ?ハッハッハッハッハ!!」


だが其れでも、稼津斗組+αからすると、稼津斗の敗北などマッタク持って、考える事すら出来ないようだ。


其れは勿論、稼津斗の無敵・最強振りを知っているからだが、稼津斗組の面々からすれば、同時に稼津斗の事を心の底から信頼し、愛しているからだろう。


信頼し、愛しているからこそ絶対的に信じる事が出来る。勝つ事を信じられるのだから。


「稼津斗にぃなら、世界を相手にしたって勝てるだろう?」

「遠慮など要らん……お前の全力を持ってして、仇敵にトドメを刺してしまえ、稼津斗!!」


そして、真名とイクサの放ったセリフは、稼津斗組の総意と言っても過言ではないだろう――願うのは、愛する人の勝利、只それだけだった。









ネギま Story Of XX 184時間目
『Exceptional wonderful one』











「うおぉぉぉぉぉぉぉ……でりゃぁぁぁぁっぁぁ!!!!」

「ムゥゥゥゥゥン!!!」


そして、稼津斗とザ・ワールドの戦いは、大方の予想通り稼津斗が圧倒――ではなく、意外なほどに拮抗していた。

勿論戦闘力で言うならば稼津斗の方が上であり、巨体のザ・ワールドは良い的であるのだが、ザ・ワールドから伸びた無数の触手がこの上なく邪魔だった。


此の触手は、決して強力な物ではないが、数が凄まじく、一度に30本以上も展開されるので、稼津斗と言えど、如何しても対処に手間取ってしまうのだ。
その結果として、稼津斗とザ・ワールドの戦いは拮抗状態になって居ると言っても過言ではないだろう。


だがしかし、対処に手間取るとは言え、触手如きでやられる稼津斗ではない。


「いい加減ウザったいな……なら、纏めて斬り捨てるだけだ!」


言うが早いか、稼津斗は左手に鬼魂刃を展開し、向かってくる触手を手当たり次第に斬り飛ばしていく。
更に斬り飛ばすだけでなく、左腕を振るう度に鬼魂刃から真空の鎌鼬――蒼月を放ち、斬撃と鎌鼬の同時攻撃でザ・ワールドを攻撃していく。


だが、触手には感覚が無いのか、30本もの触手を切り落とされたザ・ワールドはマッタク持って平気な顔だ。


「此の数に対処するとは、流石は氷薙稼津斗だ!其れでこそ、トレーニングをし、この能力を手に入れた甲斐も有ると言う物だ!!
 だが、その触手が只の触手だと思うなよ?切り落とされた触手は、鋭い槍となって貴様を再度襲う、其れも自動追尾性能を持った状態でな!!
 貴様がどれだけ躱そうとも、槍は貴様を貫くまで追い続ける……其れが30本!さて、何時まで回避が続くかな?」


どうやら、此の触手は切り落とされてからが本領発揮らしく、その能力は自動追尾性能をもった槍だと言う。
何処までも追ってくる槍が30本とは、其れは相当な脅威になるだろう。己を貫くまで追って来ると言う事は、遮蔽物で防ぐ事も不可能な必中攻撃なのだから。






だが、其れはあくまでも狙われたのが一般兵レベルであったならばの話だ。


「だから何だ?」


そんなモノは稼津斗にとっては大した事ではない。
槍に姿を変えた30本の触手が、自分に向かって来ると言うのに眉一つ動かさず、それどころか口元に不敵な笑みを浮かべた稼津斗は、槍がヒットする刹那の
瞬間に、無影・月詠で回避し、同時にその手には膨大な量の『気』が集中している。


「その執念は大したモンだ……ご褒美に、良い物やるぞ!」


その気を一気に触手槍に投げつけると、気は分裂して無数の『羅刹爪』となり、30本の触手槍を一瞬で爆散!!


如何に面倒な性能の槍であろうとも、天下無敵を具現化した存在と言っても過言ではない稼津斗の前では、只の『動く的』にしかならなかったようだ。


「おい、本気でこんな攻撃が、俺に通じると思ってるのかザ・ワールド?確かによく出来た技だろうが、ネギだったらもっと性能の良い技を考えるぞ?
 俺に言わせれば、こんな攻撃は子供だましも良い所だぜ?……それとも、こんな技を使わなきゃならないくらい焦ってるのかお前?」

「まさか、今のはホンの小手調べだ。
 本番は此処から―――ザ・ワールドとなった私の力を骨の髄に刻み込んでやるぞ。」

「はぁ……その手のセリフは『死亡フラグ』だって事も教えてくれなかったのか、お前を作った奴は?
 呆れて物が言えないが……なら、まだまだこの程度じゃないんだろ?――なら来いよ、世界を名乗ろうとも、俺には勝てないって事を教えてやるぜ!!」


再び両者は激突!!
ザ・ワールドが肥大して居るために、此れまでの様な高速戦闘とはいかないが、其れでも近距離での格闘の打ち合いは、凄まじい物があると言って良い。


だが、一つ忘れてはいけない物もある。

其れが、ザ・ワールドの下半身部分の肉塊から生えている、ミュータント達の身体だ。


その内の1体『ストレングス』の身体が、其処から伸びると、激しい打ち合いをしている稼津斗の背後に現れ、手にしたチェーンソーを思い切り振り下ろす!!

如何やら、此のミュータントは独立稼動が出来るらしく、其れを利用して稼津斗に背後から奇襲を掛けたのだろう。



だが、ストレングスが斬りつけた場所に稼津斗の姿は無い。


「お前がキメラ化した時に、此れ位の事をしてくるだろう事は予想済みだザ・ワールド!!
 確かに、修業をしてあの時よりは強くなったようだが、この程度か……正直ガッカリしたぜ。此れなら、ジャックと戦う方が万倍楽しめるってもんだぜオイ?
 もう良い……この辺で逝け!!!そして二度と現れるな!!!」


一瞬でストレングスの背後に移動すると、其れを蹴りで爆砕!
更に、次の瞬間には龍直伝の最強の暗殺拳『瞬滅殺』を発動し、ザ・ワールドに目視不能の攻撃でダメージを与えて行く。


「ぐぬ……此れは!?」

「俺が人間だった頃、一度も勝つ事が出来なかった爺さんの最強奥義だ。
 貴様如きには勿体ない奥義だが、消滅前の手向けとして特別に見せてやったんだ……有り難く思えよな?」

「貴様……殺す!!殺してやる!!!」

「やってみろよ……お前には絶対出来ないぜ、俺を殺すなんて言う事はな!!
 大体にして、キメラ化で肥大したお前の身体は良い的に過ぎない……そう成った瞬間に、既に詰んでたんだよお前は!!吹っ飛べ、天地覇王拳!!


続いて、今度は稼津斗の武道の根幹にして最強の正拳突きが炸裂し、ザ・ワールドの肉塊部分を撃ち抜く!
宇宙最強の左正拳突きは、世界の名を冠する相手であっても全く問題なく、その力を発揮してくれたと言う事なのだろう。


「ぐぼわぁぁぁぁぁ!!………こ、これ程とは……」

「のどかから聞いたが、マクダウェルから人の生を奪ったのはお前らしいな?……全く許し難いぜお前は!!
 俺は、基本的にどんな命でも認めるんだが、お前は生きていてはダメな存在だザ・ワールド!お前の存在は、死と破壊しか齎さないんだからな!!
 だから、此処で終わりにする!!俺の因縁も、お前の狂った目的も、何もかも全て!!穿ち貫け、覇王翔哮拳ーーーーー!!!



――ドガァァァァァァァァァァアァァァァァァアァァァァァァァァン!!!!



其れでも足りないとばかりに放たれたのは、稼津斗の最強気功波『覇王翔哮拳』!!


略零距離から放たれた其れは、ザ・ワールドの肉塊部分を、ミュータントの身体ごと、いとも簡単に吹き飛ばしてしまう。


其れでも生きているザ・ワールドの生命力は大したものだが。



だが、其れも此処までであるかも知れない。



「終わりだザ・ワールド……精々、閻魔への言い訳でも考えているが良い――殺す!


何故ならば、稼津斗が『殺意の波動』を解き放ち、最強無敵の極滅奥義『瞬獄殺』を放ったから。
生者の命を確実に刈り取る狂気の奥義『瞬獄殺』―――如何にザ・ワールドであっても、この『死の奥義』を喰らったら只では済まないだろう。


瞬獄殺が発動した事で発生した閃光が、最終決戦の地を覆い尽くしていた。








――――――








同刻、防衛ラインで戦闘を行っていた連合艦隊+グレートパル様号リペアは、的確に召喚魔を撃滅していた。
普通ならば、補給が必要になるのだろうが、そんなモノは1−A限定で全く問題になって居なかった……何故か!?


「ビーム兵器出力低下!レールガンも弾数が心許ねぇ!」

「補給なら抜かりはないヨ!」


千雨が常に状況を纏め、超が適切な補給を行っていたからに他ならない。
超のカシオペヤの能力を使えば、各種武器を弾切れ&エネルギー切れの前の状態に戻す事は可能になる――其れを利用しての∞弾丸状態なのである。


「ったく、時間操作が味方だと此処まで頼もしいとはな――アンタが味方で良かったよ!!」

「折角この時代に残ったんだ、己に出来る事をやらねば残った意味もないからネ!
 其れよりも千雨さん、敵勢力はどうなってるかな?」

「あぁ?……ったく、雑魚が本気でうざってぇ!!
 新たに1000体も現れやがったが……だが、上等だぜ雑魚共!!テメェ等が誰に喧嘩売ったか、骨の髄に叩き込んでやるぜ!!!!」


其れでも、ひっきりなしに現れる召喚魔にうんざりしながらも、千雨に撤退する気はない。
其れは、当然1−Aの面々全員がだ!――ならば、如何するか?……簡単な事だ、戦って勝てばいいのだ。


「フフフ……そう来なくちゃね?
 さぁ、さよちゃん、弾幕は無限状態だから、遠慮しなくて良いわ――1−Aに喧嘩売った事を後悔する位に、やっておしまい。

「は〜〜〜〜い♪」




――ドバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!




弾薬無限と聞いたハルナは、眼鏡を怪しく光らせさよに攻撃命令を下し、さよもノリノリでトリガーを引き、発動したフルバーストは的確に召喚魔を撃滅し、其れ
は正に『鎧袖一触』と言って過言ではない!!この空域に於いてグレートパル様号リペアは、間違いなくスーパーエース級の活躍を見せてくれていた。


この戦いに勝った暁には、受勲は当然であるかも知れない。



そう、思えるほどにグレートパル様号リペアの活躍は凄まじい物だったのだ……取り敢えず、此れならば防衛ラインが突破される事は無いだろう。








――――――








そして、稼津斗は―――


「恥と知れ屑が……心の臓、止めてくれる。」

「ぐふぁ……」



瞬獄殺で、ザ・ワールドに凄まじいダメージを与えていた。

胴着の背に浮かぶ『滅』一文字を背に、佇むその姿は、正に最強その物の威厳に満ち満ちている!!如何やら、稼津斗の強さは相当であるようだ。


刹那の瞬間に地獄を垣間見る奥義を喰らったザ・ワールドは、相当にボロボロであり、これ以上の戦闘は不可能に見えるが、しかしながらザ・ワールドの顔に
は、不気味とも言える笑みが浮かんでいた――それこそ、敗者が苦し紛れに浮かべる笑みとは全く違う、狂気に満ちた笑みをだ。


「見事…実に見事だ氷薙稼津斗!!
 此れは、私では敵わないだろうが……此処が私の世界だと言う事を忘れるなよ?……世界を作りなおす事など造作もない事だ!」


言った瞬間……




――ズブゥ……



「!?」


突然、稼津斗が立って居た場所が、コンクリートの地面から突然、ドロドロの沼に変わったのだ。
しかも、この沼は『底なし沼』らしく、動けば動くほど身体が沈んで行くと言う、死の沼を、ザ・ワールドは速攻で展開したのだろう。


「だから、小賢しいと言っている!!」


だが、そんな事はどこ吹く風とばかりに稼津斗は気を解放し、無影・月詠でその場を離脱!!
下半身は泥まみれになったが、底なし沼に取り込まれるよりは遥かにましだと言えるだろう。矢張りこの男、天下無敵のチートキャラである。



「苦し紛れの小細工か?……俺を舐めてるのかお前?」

「まさか……此れこそが、私の勝利の為の布石だ!!
 其れが只の泥だと思うか?――私の目的は、最初からその泥を貴様に大量に付着させる事にあったんだよ!!」

「なに?……な、此れは!!!!」


だが、突如として、稼津斗に付着した泥が増殖を初め、稼津斗の身体を覆い始めたのだ。
其れこそ完全に予想外の、カウンターでだ。


「もがけもがけ!もがけばもがくほど、其れは激しく動くのだからな。
 それから、爆閃衝の様な技で吹き飛ばそうとしても無駄だぞ?――その泥は、貴様に密着しているのだから、吹き飛ばす方法などないわ!!」

「ぐ……クソッタレ……が!!
 だが、此れで終わりにはならないぜ?……俺のパートナー達とネギ達が居るからな?……如何頑張っても、お前が最終的な勝者になる事はねぇよボケ。」


身体の殆どを泥に覆われながらも、自分達に負けは無いと言いきる稼津斗の瞳に恐れはない。


「まぁ、精々楽しめよザ・ワールド……死んじまう前の最後の戦いって言うモノをな。」

「ほざけ……貴様は此処で死ぬんだ。」

「誰が死ぬかボケ――精々、一瞬の天下を楽しむんだな……後を任すぜ皆――少しだけ、眠らせて貰うよ。」


最後の抵抗とばかりに、唯一自由に動く左手で、中指を立てた『Fuck You』のポーズを決めると、其のまま稼津斗の身体は完全に泥に覆われ――


「ククク………此処まで巧く行くとはな!!
 此れだ、私は此の力が欲しかったのだ!!!……氷薙稼津斗、貰うぞその力!!!」


ザ・ワールドは、新たな触手を造りだし、泥に覆われた稼津斗を絡めとり―――そして、自分自身に融合!!!





其れは同時に、最終決戦が最悪のシナリオに進んだ事を意味しているのだった……













 To Be Continued…