空を埋め尽くさんばかりの召喚魔を相手に、しかしクルトが率いる連合艦隊は、退く事なく戦いを続けていた。
放たれる魔力砲や、各種ミサイルなどは、軍事費で賄える物ではない――だが、其れであってもこの最終防衛ラインを突破させる訳には行かないのである。


この最終防衛ラインを突破されたら、召喚魔の爪牙はあっと言う間に魔法世界の住人を食い破るだろう――そんな事も有り、此処を通す訳にも行かないのだ。


「全砲門開け!1体たりとも、この防衛ラインを突破させるな!!」


クルトの怒号にも似た指示に対し、艦船スタッフもまた意識を集中して、迫りくる相手を迎撃せんとしているが……如何せん物量が違う。
連合艦隊が100機の戦闘艇を有しているなら、相手は万の軍勢だ……多勢に無勢と言う所だろうが、現れる敵は徹底的に此方を潰す心算で居るのだろう。


「このままでは弾薬が心許ないが……だからと言って補給に向かう事も出来ない……相当に嬉しくない状況ですね此れは……」


最悪を考え、クルトの表情は硬くなるが――


「な〜〜に、勝手に諦めてやがんだ、この変態提督!」

「戦いは此処からが本番です!」


寸での所で、グレートパル様号リペア(戦闘艇形態)が戦場に現れ、参戦とばかりに全武装を使ってのフルバーストを敢行!
その効果は言うまでも無く強力で、一瞬にして万の敵を撃滅したのだ――此れは凄い事だろう。

ともあれ、未来の技術まで取り込んだ戦闘艇の参戦は有り難かった事は間違いない。
たった一隻、されど一隻、グレートパル様号リペアの参戦により、状況は逆転とは行かぬとも好転はしたらしい。空での戦いは、まだまだ続くようである。










ネギま Story Of XX 183時間目
『Full strength warm up』











一方最終決戦の舞台では、XXに変身した稼津斗と、新たな力を得た運命の輪が、互いに微動だにせずに睨み合い、相手の出方を覗っていた。


其れだけで大気がスパークしているのだから、2人の闘気の大きさは考えるまでも無いだろう。
特に稼津斗は、嘗ての仇敵を完全滅殺出来ると有って、相当に気合いが入っているようだ――其れだけに油断は禁物だが、稼津斗ならば大丈夫だろう。


「では、此処からが本番の、第2ラウンドと行こうか?」

「第2ラウンド?時間無制限1本勝負で、第2ラウンドもクソもあるか……お前では、俺に勝つ事は出来ん!」



――バガァァァァっァァン!!



其処で巻き起こった爆裂音。
如何にも一瞬で肉薄した両者の拳と蹴りが交錯した事で発生した真空の衝撃波が、此れだけの音を生み出したのかも知れない――其れでも相当に凄いが。


「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」

「グヌオォォォォォォォォォ……」


で、当の本人たちは眼前の相手を倒すために、集中力が相当に高まっているようだ。
目視不能の格闘戦を幾分だけ繰り返し、其処から今度は手四つの力比べ状態に移行!!――腕力に関しては、稼津斗の方が相当に上ではあるが……


「フン!」


運命の輪が力を抜く事で点をずらし、稼津斗の体勢を崩しにかかる。
流石の稼津斗も、行き成り相手が力を抜けばバランスを崩さざるを得ず、そのバランスを崩したところに運命の輪の鋭いミドルキックが炸裂!!


――ガシィィィ!!


しかし、体勢を崩しながらも稼津斗は蹴り足をキャッチし、蹴りの勢いをそのまま利用してカウンターのドラゴンスクリュー!!
相手の蹴りの勢いと、自分の体移動での回転力が加わった一撃は強烈で、運命の輪を弩派手に投げ飛ばし、更に投げ飛ばした先に瞬間移動で先回りして、
今度は稼津斗の強烈な二連続の回し蹴り――旋風脚が炸裂!

此れを皮切りに、ローキック→ハイキック→後ろ回し蹴り→百裂脚と繋ぎ、スウェーバックからの強烈なダッシュストレートをブチかます!


空手が一番のベースであるとは言え、稼津斗の格闘技は古今東西のあらゆる格闘技を自分流にアレンジして空手と融合させた、我流の格闘術だが、完成度
は非常に高く、また永い戦いの日々の中で研磨された其れは、全ての攻撃が必殺の破壊力を持っていると言って良いだろう。

現に今のラッシュだって、運命の輪は最後のダッシュストレート以外には全く反応できなかったのだから。
ダッシュストレートこそ、辛うじて防御したが、其れも稼津斗が勢いを付けるためにスウェーバックで距離を取ったからこそ、反応出来たに過ぎないのだ。


「ち……破壊力重視で助走の為の距離を取ったのは拙かったか。」

「此れで決める心算だったか?……予想外に、進化した私の身体は頑丈なようだ、あの時のままだったらこの拳で粉々にされていただろう。
 尤も、粉々にされたところで私は死なないが、貴様が相手ではそうも行ってられぬから……なぁ!!!」


とは言え、攻撃を防御できたのは運命の輪からすれば僥倖だろう。
打ち込まれた左拳を掴むと、身体を反転させて力任せの一本背負いで稼津斗を叩きつける!

――だけではなく、掴んだ腕は離さずに再び体を反転させて、これまた力任せの逆一本背負い!
更に今度は、頭を掴んでアイアンクローを炸裂させると、身体を一回転させて遠心力を付けて投げ飛ばし、其処に300本超の魔法の矢を追撃で放つ。

しかも此れも只の魔法の矢ではなく、炎、雷、氷、地、水、風と言った属性付与の物と、毒、麻痺、腐食と言った追加効果を付与した物での複合攻撃なのだ。
恐らくは天才のネギであっても、本数は兎も角としても、此れだけの多種多様な魔法の矢を同時に放つ事は不可能だろう。


此れだけの攻撃を喰らえば、如何に無敵にして最強の稼津斗と言えど無事では済まないだろう。


「何とも派手な攻撃だな……だが、甘い!
 拳を極めし者の力を見るが良い!滅殺………ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


稼津斗は空中で体勢を整えると、殺意の波動を解放し、滅殺剛波動で魔法の矢を完全相殺!


「思った以上にやるな運命の輪……瞬殺してやる心算だったんだが、如何やらそうは行かないらしい。」

「貴様こそ相変わらずの見事な強さだ、氷薙稼津斗……此方の世界に来ても、ストイックに己を鍛え続けていたようだな?」

「『人の強さに限界は無い』って言うのが、俺の考えなもんでね。
 恐らく、俺の拳は生涯完成を見る事は無いだろうさ――完成ってのは、ある意味で更なる強さへの道を閉ざす事と同義とも言えるからな。」

「成程、一理ある上に実に貴様らしい。」


攻撃が相殺した事による噴煙が晴れて対峙する稼津斗と運命の輪は、互いに不敵な笑みを浮かべ、適当に言葉を交わす。
何気ない会話ではあるが、それでも二人の闘気は治まる事は無く、逆に高まっているのだ――まるで、更なる戦いを求めるが如くに。


「だが……此れでもまだ喰い足りないぜ運命の輪?
 って言うか、そろそろ『その身体に慣れて来た』んじゃないか?流石に、変身直後じゃ今までとは勝手が違っただろうからな?」

「ほう、気付いていたか?……いや、貴様も変身はしたが加減をしていたようだから当然か。
 確かに私はまだこの身体に慣れてはいなかったが、貴様が加減をしてくれたおかげで漸く馴染んだ――其れに関しては礼を言うぞ氷薙稼津斗?」

「不完全な状態の奴に勝ったところで、完全勝利を宣言する事は出来ないしな。」


事実、稼津斗の指摘を受けた運命の輪の力は『此処からが本番だ』と言わんばかりに巨大になり、稼津斗もXX2ndに変身して更に力を高める。



――ガキィィィィィィ!!



そして、その瞬間に打撃音が響き渡り、稼津斗と運命の輪は再び交戦状態に!

互いに不死でありながら、人の道を選んだ稼津斗と、ミュータントの道を選んだ運命の輪――決して交わらない道を進む二人の戦いは、益々熱を帯びて行く。



だが何れにして、この戦いは『最後に立って居た者が勝者』であるのは間違いない事だろう。








――――――








さて、その超バトルを観戦してる面子とはと言うと――実はナギが誰よりも驚いていた。


稼津斗組は言うまでも無いが、ナギとアリカ以外のメンバーは、全員が稼津斗の実力を知っているが故にさほど驚く事は無いのだが、ナギからしたら驚くのも
無理はないだろう――嘗て、自分が相討ち同然で倒した相手と互角に……否、寧ろ押し気味で戦って居るのだから。


「嘘だろおい………何モンだよアイツは……」

「氷薙稼津斗……僕の同僚にして仲間で友達な、世界最強の人です――多分……と言うか確実に、父さんでもカヅトに勝つ事は出来ませんよ?」

「マジかおい!!」


戦慄と驚愕とは正にこの事だろう。
『千の呪文の男』と呼ばれ、更には『英雄』とまで称されたナギだが、まさか自分を上回る存在が居るとは思わなかったのだろう……ある意味で当然だが。

だが、眼前の戦いはそんなモノを粉々に砕くほどに凄まじい物であったのだ。


気功術に格闘戦――その何方も超一流の稼津斗は、確かに最強クラスであり、下手をすれば神レベルだろう。


ナギは、瞬時に自分と稼津斗の実力差を感じ取ったのかもしれない。
だが、其処で折れないのがナギである!!


「俺を超える本物の世界最強か……アイツとは一度闘ってみたくなったぜ!!!!」


すぐさま口元に笑みを浮かべ、やる気は充分だ!


「だが、今は稼津斗のターンだから、大人しくしているんだな。」


しかし乍ら、今にも飛び出しそうなナギは、稼津斗組のイクサが多重バウンドで拘束!
稼津斗ですら抜けるのに20分近くかかった拘束魔法を、ナギが力任せに解く事が出来る筈もない――ナギはあっさりと拘束されてしまった。


「いや、横槍を入れるとかじゃなく、もっと近くで見ようと思っただけだっての!つーか、堅いな此れ!!」

「稼津斗のお墨付きだからな、貴様では解けんよ。」


「何年経とうとも、主は主なのじゃなナギよ……其れがらしいとも言えるがの。」

「強烈な一撃をありがとうよ姫さん……だが、アイツなら『不滅』を滅する事が出来るかも知れねぇな?
 お前ならそいつを超える事くらい容易いだろ?――手加減なしでブチかませ!」


だが、拘束されようともナギの意思は変わらない。
何処までも馬鹿で、己の道を突き進むナギだからこそ、稼津斗の気持ちが分かったのだろう……深くは追及せずに、ファイナルバトルの全てを一任!!!


「拭き残し押しつけちまって悪いが、アンタならどうにか出来んだろ?……頼んだぜ。」


ナギの静かな願い……其れに呼応するかの如く、稼津斗と運命の輪の戦闘は、激しさを増している様だった。








――――――








とは言え、稼津斗と運命の輪の実力に差があるのは間違いないだろう。


「でぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」

「グボグアァァァァァアァァァアアッァアアァァ!!」


現に今も、圧倒的なラッシュ攻撃をにブチかまし、トドメにジャンピングアッパーカットでKOを狙っていく――いや、完全に殺す気満々である。
其れでも手を緩めずに、無数の拳と蹴りが運命の輪を襲う――文字通りの超絶ラッシュで運命の輪を圧倒していたのだ。



「クハハハハハ……素晴らしい、素晴らしいぞ氷薙稼津斗!!
 此れこそ氷薙稼津斗だ!嘗て私が手も足も出なかった氷薙稼津斗だ……こうでなくては面白くない!!」

「そうかい……だが、貴様が如何思って居るかなど俺には関係ない――此処で死ね、無闇神楽!!


状況から見ると窮地なのは間違いないが、其れでも運命の輪は微動だにせず、相も変わらず軽口を返すのみである。
が、稼津斗の怒りは相当に溜まって居たらしく、速攻で運命の輪との距離を詰め、一撃必殺クラスの掌打を叩き込んで吹き飛ばす!!


普通の人間が相手ならば、此れで間違いなく終わりだろうが、この場合はそうもいかないだろう。



「……………」


現実に、稼津斗は今の一撃で発生した爆炎を、ただじっと見つめているのだから。


――其れが、貴様の最終形態か運命の輪?」

「如何にも――だが、こうなった私は最早運命の輪などではない!――此れからは私の事は『ザ・ワールド』と呼ぶが良い!
 私こそが支配者!この魔法世界の一切を管理する支配者で間違いなのだからな!!」



そして、爆炎と噴煙が晴れた先から現れたのは、見ているだけで嫌悪感を催す異形のクリーチャー。
稼津斗の身長を超える巨大な肉塊に運命の輪の上半身が鎮座し、身体のあちこちから稼津斗や稼津斗組の面子が戦って来たミュータントの四肢やら頭なに
やらが浮き出ていて実にグロテスクとしか言いようがないのだ。


「ザ・ワールド……世界か。
 大層な名前だが、頭に乗るな雑魚が――!」


同時に稼津斗の闘気は此れでもかという位に膨れ上がり、其れを合図とでも言うかの如くXXVに変身して再び運命の輪改め『ザ・ワールド』を睨みつける。


「不死を誇るのならば教えてやろう……ギリギリの命と言う物をな。」

「こうなった私に果たして其れが通じるかな?――精々足掻くが良い、氷薙稼津斗!」

「その言葉、そっくり返すぜ、ザ・ワールド!」


そして言うが早いか、又しても戦闘状態に移行!




最終決戦の真打対決は、此処からがエンジン100%対決であるのは如何やら間違いない事であるようだ――














 To Be Continued…