始まりの魔法使いの一撃を受けて、しかしネギ達は無事だった……其れだけならば『大したものだ』で済んだかもしれない。
だが、粉塵を吹き飛ばすように現れたネギ達は其れでは済ませられない程の力をその身に纏っていた。
エヴァンジェリンは氷の女神を思わせる氷のドレスに身を包み、背に現れた10枚の氷の翼が、その威厳をより大きなものにしている。
アスナは身に纏う衣が白くなり、天魔の剣が身の丈の倍以上の大剣になった事以外は、特に変化は見られないが、その身の発する力は此れまでよりも強い。
だが、エヴァンジェリンとアスナの変化以上に目を引くのはネギだ。
大人モードで雷天双壮状態と言うのは、去年の武闘会でラカンと戦った時の状態と言えるだろうが、今のネギはその時とは決定的に違う部分が存在している
――言うまでもなく、その身に纏う黒き雷だ。
まるで闇より出でし存在であるかのような黒雷をネギはその身に纏っているのだ。
「貴様……その姿は!!」
其れに何よりも驚いたのは、始まりの魔法使いであった。
ネギ達のパワーアップはある程度予測していたのだろうが、如何やらネギ達の成長は、その予測を遥かに上回ったモノであったようだ――恐るべしである。
「此れが、エヴァとの修業の末に辿り着いた、僕の闇の魔法の究極系。
取り込む攻撃魔法を、肉体のみならず魂にまで融合して、その力を300%引き出すと言う、人非ざる存在であるからこそ可能だった究極の荒業、人である事
を捨てながらも、人の心を捨てずに居た者だけが辿り着ける不可侵の境地――その答えが、僕とエヴァのこの姿だ!!
この形態は、雷天大壮V……『黒雷葬送』とでも呼んでいただきましょうか?」
「ふむ…良い名だな?――では、この姿の私は『白氷滅装』とでも呼んでもらおうか?」
加えてネギとエヴァのパワーアップは、闇の魔法の究極系に至ったと言う事だから、其れだけで凄まじいと言う事は想像に難くないと言う物だ。
まして、この最強のコンビに、本気を出したアスナと言う魔法世界に於ける最強の鬼札が加わるとなれば、其処に恐れる物は何もなくなるだろう。
「第一ラウンドは此処からが本番よ……此処からは、私達のターンだからね。」
天魔の剣の切っ先を、始まりの魔法使いに向けてアスナは宣言する。――そして、其れは事実上の勝利宣言に他ならなかった。
ネギま Story Of XX 180時間目
『黒雷と白氷の拳は歪みを砕く』
そして、アスナが宣言した直後、始まりの魔法使いは黒き雷と白き氷で身体を貫かれていた。
奇襲と言えば奇襲に他ならない一撃ではあるが、大事なのは始まりの魔法使いが、この攻撃に対してマッタク反応できなかったと言う事に他ならない。
本気を出した始まりの魔法使いであれば、己に放たれる攻撃位は、周囲の空気の流れや魔力の流れで察する事が可能であるのは想像に難くないが、今の
攻撃は、そう言ったモノを駆使しても察する事が出来なかった、気が付いたら身体を貫かれていたと言う状況だったのだ。
「少し、速過ぎましたかね?」
「ふん、寧ろこの位は普通であろうよ――本物のナギからしたらな。」
そして、其れを行ったネギとエヴァンジェリンは余裕綽々。
ネギは黒雷の剣を手にし、エヴァンジェリンは白氷の杭を自身の周りに展開しながら、しかし其処に油断や隙は全く見られない位に余裕そのモノであった。
確かにパワーアップした始まりの魔法使いの攻撃は、破壊力その他が抜群だったが、だからと言って防ぐ手立てがないわけではない。
ギリギリの刹那に、ネギとエヴァンジェリン、そしてアスナが切り札を切った事で、始まりの魔法使いの切り札は、その効力を失ったと言わざるを得ないのだ。
「撃ち抜け、轟雷!」
「貫け、氷槍!!」
続けざまに、第弐射!
しかも今度のは、先程の倍以上の物量攻撃であるが故に、此れを喰らえば、如何に始まりの魔法使いと言えども間違いなく戦闘不能になるであろう。
「同じ手が二度通じると思うなよ、青二才が!」
しかし相手は始まりの魔法使い、言うなればラスボスとも言うべき存在だ。
ネギとエヴァンジェリンが攻撃を放つより一瞬早く、膨大な魔力波を自身を中心に発生させる事で、黒雷の剣と白氷の杭を放たれる先から相殺していく。
避けられないのならば、着弾より早く相殺すれば良い、つまりはそう言う事なのだろう。
更に、この魔力波は、攻撃を防ぐ盾にもなれば、其のまま相手を攻撃する剣にもなる攻防一体の技であるが故に、基本的に隙は無いのである。
――そう『基本的』には。
「覇ぁぁぁぁぁぁ……!!」
――ズバァァァァァァァァァァァァ!!!
基本的にはと言う事は、絶対ではないと言う事を忘れてはならない――事、戦いの場であれば尚更だ。
確かに、圧倒的高密度での全方位魔力波放出は強力無比だろうが、如何に強力であろうとも、其れが魔法であるならば完全に無効とする事が出来る存在が
居ると言う事を忘れてはならない。
「貴様……此れすら切り裂くか!!」
「私には一切の魔法が無力と化す……忘れた訳じゃないでしょう?」
完全魔法無効体質を持つ黄昏の姫巫女『神楽坂アスナ』が居ると言う事を忘れてはならないのだ。
長大に変化した天馬の剣を携え、己の能力にモノを言わせて魔力波を突っ切って来たアスナは、己の剣の間合いに入ると同時に横薙ぎの一閃!!
真一文字に放たれた其れは、始まりの魔法使いに更なるダメージを与え、同時に魔力波をも消し去ってしまった。
黄昏の姫巫女の一撃は、文字通り『魔法に対する最強のアンチスキル』である事を、まざまざと見せつけたと言っても良いだろう。
「ぐぅああぁ!!……貴様…!!
だが、良いのか?この身体は、ナギ・スプリングフィールドの物だ、余りダメージを与えては、私を倒したところでナギもまた死んでしまうかもしれんぞ?」
だが、それでも始まりの魔法使いは、今の自分の憑代であるナギを盾にする。
ナギの解放も目的ならば、ナギを盾にすれば攻撃の手を緩められると思ったのだろう。―――が、しかしそれは甘いとしか言いようがない!!
「それが……」
「如何した、このボケがぁぁぁぁ!!!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
『其れが何?』と言わんばかりに、ネギとエヴァンジェリンが肉薄!
ネギがアッパー掌打を打ち抜き、仰け反った始まりの魔法使いを、エヴァンジェリンが裏雲落としで投げ落とし、更に雷鳴轟破投げで投げ捨て、間髪入れずに今
度はネギの翻身伏虎と、アスナの上空からの突き刺し攻撃が炸裂!!
この流れるような連続合体攻撃は見事であるとしか言えないだろう。
「貴様等……ナギがどうなっても構わんと言うのか!?殺す気か!?」
「殺しませんよ、死なないギリギリの手加減はしているからね。
其れに、父さんを憑代にしている以上、父さんの身体が使い物にならなくなれば、お前は其処から出て行くしかないだろ、始まりの魔法使い?」
「ナギの奴は瀕死の重傷を被るだろうが、生憎と此方には現代最強と言える治癒魔法使いが居るので、死んで居なければ全然OKと言う訳さ。」
勿論、ナギの奪還は成すが、其れにはナギの身体から始まりの魔法使いを追い出さなければならない。
だが追い出すのは容易ではない――ならば如何するか?
簡単な事だ、寄生者が宿主から出て行かざるを得ない状況を作り出してやれば良い。
つまり、宿主を使い物にならない程にボコボコにしてしまえば良いだけの事――乱暴ではあるが、最も効果的な方法であるのは間違いないだろう。
無論ネギ達だって、ただこの方法を選択した訳ではない。
近衛木乃香と言う、稀代の治癒士が仲間に居るからこそ選択した、フルボッコにしてもナギを解放できるからこそ、この強烈な方法を選択したのである。
「じゃあ、ちょいと近衛を連れて来るわ。」
「あいあい、了解にござる。」
稼津斗も其れを感じ取っていたのだろう。
瞬間移動で待機中のグレートパル様号リペアに移動すると、次の瞬間には木乃香を連れて戻って来た。この間僅か5秒、実に見事である。
「くぬ……ネギ・スプリングフィールド……貴様、よく実の父親を殴れるな!?」
「殴れないと思ったの?育児放棄にエヴァとの約束破綻って言うだけでも、殴る理由には充分だ。
だけど、それ以上に――父さんを解放する為にも、この拳は必要だからね?お前の奸計如きで、僕達の攻撃の手を緩める事なんて出来ないぞ!!」
そして、戦いの方はネギ達が完全に主導権を握っていた。
三対一と言うハンデはあるかも知れないが、それを考慮しても、ネギ達は完全に始まりの魔法使いを圧倒していた。
雷速の剛拳のネギ、凍てつく柔拳のエヴァンジェリン、そして完全魔法無効能力を持つアスナ――チートも大概にしろと言わんばかりの戦力を有するこの三人に
対して、如何に始まりの魔法使いであっても単身で対処しろと言うのは無理難題に他ならないだろう。
だって、殆どの詰め手が封殺されてしまっているのだから。
攻めに回れば、エヴァンジェリンの柔拳で捌かれ、守りに入ればネギの剛拳でこじ開けられ、魔法はアスナに無効にされる――本気で如何しようもないのだ。
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」
「く……このぉぉぉぉぉ!!!」
そして、其れをも上回っているのがネギとエヴァンジェリンのコンビネーション攻撃だ。
柔剛織り交ぜたコンビネーションに隙は無く、黒雷と白氷の格闘は確実に始まりの魔法使いに決定的なダメージを叩き込んで行く!一切の容赦はない!!
「これ以上は!!」
「無駄よ。」
――パリィィィン!!
何とか状況を打開しようと展開したシールドも、敢え無くアスナによって切り砕かれる。
更に、シールドを砕かれた衝撃で、始まりの魔法使いは無防備となってしまう――そして、其れを見逃すネギとエヴァンジェリンではない。
「此処が決め所だ!!行くぞネギ!!」
「うん!此れで決めようエヴァ!!」
此れを最大の好機と見て、最大級に魔力を集中していく。
「僕の拳が光って唸る!!」
「奴を倒せと轟叫ぶ!!」
ネギの右腕には高密度の黒雷が纏わりつき、エヴァンジェリンの左腕には其れに負けるとも劣らない密度の白氷が纏わりつく。
「一撃必殺!!」
「全力全壊!!」
そして、その手は重ねられ、更に強力な魔力を作り出す。
「「氷河雷龍葬!!」」
五指を絡ませた二つの拳から放たれたのは、黒雷を纏った白き氷の龍!!
その龍は、始まりの魔法使いが放った迎撃の一撃をものともせずに、噛み砕く対象を目掛けて一直線に邁進!!此の龍を止める術などありはしないのだ。
「馬鹿な……こんな……こんな事ガァァァァァぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
そして龍は、始まりの魔法使いに特攻して大爆発!!
次の瞬間、空間には『黒いダイヤモンドダスト』が巻き起こって居た――
――――――
――同刻:麻帆良学園図書館島最深部
「如何やら、最終決戦が始まったようですね。
本音を言うならば、僕も参戦したい所ですが、この身体で参戦しても足手纏いにしかならないので、僕は此処で君達の帰還を待ちましょう。」
誰に言うでもなく、この空間の主であるアルビオレ・イマは呟いた。
否、或は此れはネギと稼津斗に向けた己の本心であるのかも知れない。
普段は飄々として掴みどころのない人物ではあるが、その本質は『飄々とした厚情の魔法使い』――仲間の事は気になるのだろう。
「そして、願わくば貴女が解放される事を願いますよ、アリカ女王――」
そんなあるの視線の先には、石膏像の様になったアリカの姿が。
ナギが解放されればアリカもまた解放される――其れを切に願っているのだろう。何時叶うかも分からない願いではあるが、ずっとそれを願い続けていたのだ。
――ピキ……
「え?」
しかし乍ら、人生は何が起こるか分からないのが当たり前の事だ。
突如として、石膏像の様になったアリカの表面に罅が入り、少しずつだが確実に表面が剥がれ落ち始めたのだ。
――ピキ、パキ……ピキピキ、バリバリ……バリィィィィィィン!!!
やがてそれは全身に至り、遂に石膏像のような表面が完全に剥がれ落ち、中から一人の女性がその姿を現した。
「此れは……ナギを解放したのですね、ネギ君?
まさか、本当にやってのけるとは流石としか言いようがありません……大丈夫ですか、アリカ女王!!」
「その声はアルか?……うむ、些か眠り過ぎたが身体の方に異常はないぞ。」
其れは、ネギの母であるアリカ。
10年以上の時を経て、魔法世界最高のカリスマを備えた女王が今、此処に完全復活を果たしたのだった――
To Be Continued… 
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