「稼津斗さん、状況は?」

「のどか……亜子とクスハも一緒か。
 状況はと聞かれれば見ての通りだ、最終決戦の第1ラウンドのゴングが鳴らされたって言うところだな――まぁ、要するに始まったばっかりだと言う所だ。」


最終決戦の火蓋が切って落とされた戦場に、瞬間移動で現れたのどか達は、即座に現在どのような状況であるのかを問う…まぁ、当然の事だろう。
戦いに於いて、正確な情報を得ていないのは致命傷になりかねないのだから。

だからこそのどかに対し、問われた稼津斗もまた、装飾も誇張も無しに只事実のみを伝えるにとどまる。


いや、それは思いのほか必要な事なのだろう――正確な事実を伝える事が出来れば、其れは間違いなく必要な情報であるのだから。


「戦ってるのはネギせんせーと、エヴァンジェリンさんとアスナさんですか……確かにこの布陣なら、負ける事だけは在り得ませんね?」

「てか普通に勝てるやろ?
 ネギ君と、エヴァちゃんが全力全開状態で、更にアスナまで居るんやから、普通に考えて、稼津さんが相手じゃない限りは、勝利は絶対と違うんとちゃう?」


そして、正確な情報を聞いたのどか達は、逆にネギ達の勝利は絶対であると確信したらしい。

確かに、今のネギとエヴァンジェリンから発せられる魔力は、SSSクラスのモノであると見て間違いない。此れならば、大概の相手に後れを取る事はない筈だ。

無論稼津斗とて、此の『第1ラウンド』でネギ達が不覚を取るなどと言う事は微塵にも考えてはなかった――だからこそ、第1ラウンドを全面的に任せたのだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


そして、その思いに呼応するかのように、戦場ではネギの拳が、始まりの魔法使いの顔面を捕らえていた……











ネギま Story Of XX 179時間目
『Final Battle Round1!』











ネギ・スプリングフィールドと言う少年は、良くも悪くも『素直で実直』であるのは誰もが認める事だろう。
だが、この少年は、己が卒業試験の場として赴任した学校で、此れまでは出来なかった経験をし、そして一般的には『悪』とされる力をその身に宿すに至った。

其れは。ネギが幼い頃から抱いていた憧れとの決別を意味するのだが、其れが逆にネギの成長には良い刺激になった。
『闇の福音』と称されるエヴァンジェリンに師事し、何時の間にか互いに惹かれあい、そして結ばれたその瞬間に、ネギの力は完全なる覚醒を果たしたのだ。


「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「……馬鹿な!!……如何に闇の魔法を使ったとはいえ、これ程のパワーをその身に宿すなどと言う事が……」

「あり得る筈がない…か?」

「!!!」


ネギの予想以上の強さに困惑する始まりの魔法使いの背後には、何時の間にやらエヴァンジェリンの姿が!
ネギの超高速雷速攻撃に気を取られた始まりの魔法使いに気付かれないように身体を霧に変え、瞬間移動の如く現れて強烈な一撃を喰らわせたのだ。


「貴様……!!」


其れに反応した始まりの魔法使いは、即座にエヴァンジェリンを捕らえようと腕を伸ばすが――一瞬の後に、始まりの魔法使いの視界は反転していた。
目に映るのは曇った空……己が横たわるのは冷たいコンクリートの地面――早い話、エヴァンジェリンは一瞬の刹那で、始まりの魔法使いを投げ倒したのだ。

此れもまた、格闘に於いては『後の先』を取るのが基本の格闘技を身に着けているエヴァンジェリンだけに、この程度の事は造作もない事だったのだろう。
その性格から誤解されやすいが、エヴァンジェリンの格闘スタイルは己の力で押し切る『剛の拳』ではなく、相手の力を利用する『柔の拳』なのである。
元々力が今よりもずっと弱かった時代に『大東流合気柔術』を学んだ事が影響しているのだろうが、最強クラスの力を身に付けた今であっても、その『柔の拳』
は、エヴァンジェリンの格闘の根幹をなし、そして絶対の自信を寄せるモノなのだ。


勿論、柔の拳だけで始まりの魔法使いを倒しきれるかと問われれば、其れは可成り難しいと言わざるを得ないだろう。


翻身伏虎!!」

「!!!」


だが、其れはあくまでも柔の拳のみでと言う事であればの話だ。
エヴァンジェリンの格闘技は柔の拳であっても、共に戦うネギの格闘技はバリバリの『剛の拳』故に、剛柔織り交ぜた多彩な攻撃が可能なのである。

更に言うのであれば、ネギの格闘技は剛の拳ではあるが、その基本は剛柔緩急自在の中国拳法――状況に応じて、如何なる対応も出来る万能格闘だ。
そんな格闘技に、雷天双壮での雷速瞬動が加われば其れはもうトンでもない威力であると言えるだろう。


身体を捻る事で、何とか必殺の一撃を回避した始まりの魔法使いであるが、ネギの拳が突き刺さった場所はコンクリートが抉れて罅が入っているのを見ると、
雷速瞬動+体重が加わった拳打は、コンクリート粉砕機並の破壊力があると見て間違いないだろう。


「余所見をしてる暇があるのかしら?」

「貴様!!」


何とか間合いを取った始まりの魔法使いに対し、今度はアスナが地面を滑るように移動して天馬の剣を横薙ぎに一閃!!
黄昏の姫巫女が放つ、魔法効果を無効にする一撃は凄まじく、此の一閃で空間の一部が斬り裂かれた位だ。――流石に、即修復されはしたのだが。


とは言え、其処は始まりの魔法使い。
此の一閃もギリギリで回避し、ネギ、エヴァンジェリン、アスナの3人と十分な間合いを取ってみせた。


つまりは仕切り直しなのだが、此れまでの戦闘を見る限りでは、絶対的にネギ達の方が有利であるのは間違いないだろう。
剛柔のコンビ―ネーションに、完全魔法無効の一撃と言う反則級の組み合わせが相手では、如何に始まりの魔法使いであっても分が悪い、悪すぎるのだ。



「いやはや……よもやこれ程とは……正直驚いているぞ貴様等には。
 最強の魔法使いは『ナギ・スプリングフィールド』と思って居たが、中々如何して……その息子は既に父親を超えているようだ。
 加えて、姫巫女は兎も角として、エヴァンジェリンもまた、嘗て私を殺した時よりも相当に強くなったらしい……ククク……矢張り、こうでなくては面白くない。」


そうであっても、始まりの魔法使いの顔には笑みが浮かんでいた。
其れは実に不気味な笑みであるが、そんなモノで怯むこの面子ではない。


「フン……確かにナギは最強と言って過言ではなかろうが、奴は元々の才能が凄まじかったに過ぎんだろう――アンチョコなしでは魔法も使えんしな。
 だがネギは違う。コイツはナギ以上の才能をその身に秘めながらも努力と研鑽を怠らなかったのだからな。
 溢れんばかりの才能を持つ者が、慢心せずに努力と研鑽を積んだらどうなるか――言うまでも無い、真なる最強が誕生するだけの事だ。
 そして、私もまた生きるために出来る事は何でもやったからなぁ?貴様が思っている以上に強くなるのは当然だろう。そんな事も分からんのかクズが。」


取り分け、エヴァンジェリンは冷めた目で始まりの魔法使いを見やる。
その目に浮かぶのは、紛れもない『落胆』と『侮蔑』――エヴァンジェリンの思っていたよりも、始まりの魔法使いの実力は低かったと言う事なのかもしれない。



だが――



「ククク………フハハハハハハ………ハァ〜ッハッハッハッハッハ!!
 馬鹿め、今のが私の本気だと思ったか!?……ならばお前の目はトンでもない節穴だなエヴァンジェリンよ………今までのは、ホンの小手調べに過ぎん!」

「誰の目が節穴だ厨二病が。
 この程度が貴様の全力ならば落胆したところだが、矢張り全力ではなかったのだな?……ならば、さっさと本気を出せ、私達が其れを微塵に砕いてやる。」


始まりの魔法使いは、本気ではなかったらしい。
まぁ、此れで押し切れる程度の相手ならば最初から苦労はしないだろうが――ともあれ此処からが本番と言う事だろう。



そして次の瞬間、始まりの魔法使いの姿は変わって居た。


外見はナギのままだが、全身が磨き上げた金属の様なメタリックなモノになり、その身から放たれる魔力は先程の数倍に膨れ上がっていたのだ。


「!!此れは……!!」

「貴様――!!」


予想外の強化に驚くネギとエヴァンジェリンをよそに――



――バキィィィィィィ!!!




「うわぁぁぁぁあぁっぁあぁぁぁぁあ!!」

「ネギ!!!」



軌道すら見えなかった拳が、ネギを捕らえて吹き飛ばす!!雷天双壮状態のネギですら反応できないとは、凄まじい速度であるのは間違いないだろう。
だが、其れはつまり、始まりの魔法使いは雷速瞬動をも上回るスピードで動けると言う事の証明に他ならない。


「貴様………な、馬鹿な!?」

「ククク………動きが止まって見えるぞ?」


柔の拳を持ってして後の先を取ろうとしたエヴァンジェリンに対しても、カウンターが炸裂する刹那に体を入れ替え、それを無効化して一撃を叩き込んでのだ。
格闘の常識の一切が通用しないと言えばいいのか、力を解放した始まりの魔法使いは、相当にトンでもない存在であるようだ。


「でも、其れで勝った気にならない方が良いわ。」


だが、其れであってもアスナが天敵なのは間違いないだろう。
如何にすさまじい力を宿したところで、アスナの前では如何なる魔法効果であっても、全てが無効になるのだから。

始まりの魔法使いに対して、渾身の力を込めた縦一文字斬りを炸裂させるが――


「フン……無駄だな。」

「嘘……!!」


在ろう事か、その一撃を始まりの魔法使いは片手で白刃取り!
しかも、完全魔法無力効果が付与された一撃を白刃取りしたと言うのは、マッタク持ってトンでもない事と言えるだろう。


「貴様の役目ももう終わりだ……消えろ、黄昏の姫巫女!!」

「え?あ……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁぁあぁ!!!」


其のまま武器を制して、アスナのボディに強烈無比な一撃が炸裂!!
それを受けたアスナも、ネギとエヴァンジェリンと同様に吹き飛び、屋上の壁に激突して粉塵が舞い上がる。


「此れで終わりだ……消えろ、千の雷!!


そして、更に其処に追撃の極大魔法が炸裂!!

荒れ狂う雷鳴は、敵を容赦なく食い散らかす事だろう――ともすれば欠片すら残らないかもしれない。


その一撃が炸裂した場所はネギとエヴァンジェリンとアスナが吹き飛ばされた場所――本気で、ネギ達を抹消する心算なのだろう。


放たれた雷は、無慈悲に世界を焼き……その文化をも焼き尽くす。

それが炸裂した場所からは、白煙が立ち上り何が起きてるか説明する事は出来ないが――


「ククク………此れで、先ずは邪魔な奴等を殲滅したな。」


自信満々の始まりの魔法使いの姿が有った。
或は、乗っ取った肉体のチートスペックに対応しているのかもしれないが、何れにしてもコイツがトンでもない力を手にしたのは間違いない事だろう。


「さぁて、次は貴様だ氷薙稼津斗!!」

「俺が相手だと?……馬鹿も休み休み言え……大体にして、お前はマダマダ勝ってはいないぞ。」


其れでも尚、稼津斗は冷静そのものであり、しかも、始まりの魔法使いを挑発する


「と言うか、此れで勝った気になって居るとは、呆れて物が言えんぞ始まりの魔法使い。」

「相変わらず、虫唾が走るな貴様は……今度こそ完全に殺してやろうか?」

「やってみろよ、お前なら出来るかも知れないぜ――と思ったんだが、如何やら俺の出番はまだまだ先みたいだぜ?」


「なんだと!?」

「此処からが、第1ラウンドの醍醐味だ……精々楽しむと良いさ。」


稼津斗が拳を下ろしたその先の視線に、其れは居た。


「ギリギリだけど……何とか巧く行ったみたいだね。」

「舞踏会に出るには、些か物足りないかも知れないがな。」


その先にいたのは、大人モードの状態で黒き雷を纏ったネギと、氷のドレスで身を包んだエヴァンジェリンと、天魔の剣の力を解放したアスナが!!


「馬鹿な!!!」

「第1ラウンドはまだ終わらないぜ……精々やれるだけの事をやってみるんだな。」


そして其れがゴング!!――最終決戦第1ラウンドの本気の戦いは、寧ろ此れからであったのかもしれない。














 To Be Continued…