さて、突入組及び、裏ミッション組が頑張って居る裏で、待機組は何もしてないのかと言うと、其れは断じて否である。
寧ろ待機組には待機組の忙しさと言う物があるのだ。
「OK、宮崎達の方はミッションコンプリートって所みたいだぜ。
んで、非戦闘員を一度こっちに戻して、其の後で宮崎と和泉と狐は稼津斗先生達の所に向かうらしい……稼津斗組全員集合とかマジで負けが見えねぇぜ。
こっちは、大丈夫だろうが、外の様子は如何だい茶々丸さん?」
「連合艦隊は多少の苦戦はしているモノの、的確に召喚魔を撃滅して最終防衛ラインは突破させていません。
加えて補給艦による補給も行っているので、現在の戦況を維持できればあと36時間は戦闘が可能でしょう――尤も、其れよりも前に決着が付くでしょうが。」
「確かにな。」
神殿に突入した面子の現状に、連合艦隊の戦況をも具に精査しているのだから。
其れも此れも、限界突破した情報処理能力を持つ千雨と茶々丸、そして必要な情報のみを拾い上げる和美のジャーナリストとしての能力があればこそだろう。
「まぁ、稼津斗先生が本気を出せば大抵は何とかなるだろうけどよ。
時に朝倉……テメェは行かなくて良いのか?」
「私は此処でやる事が有るからね……稼津兄の所に行くのはのどか達に任せるよ――第一に、自分の仕事ほっぽってったら大目玉は間違いないじゃんよ~?
だから、私は私の仕事をこなすだけさね!――其れに、稼津兄が負けるだなんて微塵も思ってないからさ♪」
「そう来たか………私が思ってた以上に、お前は良い女だぜ朝倉!」
「お褒めの言葉をどうも!!」
そして軽口を叩きながらも、己の成すべき事を成していく。
待機組は待機組で、決して日の目を見る事は無いが、大切な役割が有ったのだ――裏方として、彼女達は動いていた……この戦いに勝つために――
ネギま Story Of XX 178時間目
『Letzte entscheidende Kampfrunde』
社長室のドアを蹴破って中に入った稼津斗達の目の前に現れたのは、『如何にも』な高級椅子に坐して頬杖をつくナギの姿だった。
無論このナギは、現在始まりの魔法使いに乗っ取られているのは言うまでもない事だ――口元に浮かんだ、歪んだ笑みが其れを証明していると言えるだろう。
「此処まで来たか……見事と褒めておいてやろう。」
「貴様に褒められたところで嬉しくもなんともないがな。」
あくまでも余裕な態度の始まりの魔法使いではあるが、其れと対峙した稼津斗達もまた冷静沈着だ。
確りと『此れから戦う相手』を見据え、一切の隙を見せないように始まりの魔法使いを見やり、そして睨みつける――相手は、マッタク動じないようだが。
「時に……お前、此処をそのまま再現しただろ?この部屋のプレートが『社長室』のままだったぜ?」
「!?……此れはうっかり……『終末の部屋』と改めておこう。」
そうであっても、稼津斗と始まりの魔法使いは何のその――まるで世間話をしているかのような気軽さだ。
傍からすれば、この会話はなんだ?と思うだろうが、互いに睨みを利かせて殺気を叩きつけている辺り、此れが単純な軽口の応酬でない事は分かるであろう。
現実に、稼津斗の殺気と、始まりの魔法使いの発する殺気は、空間でぶつかり合い、ぶつかり合った地点で火花放電が起きているのだから。
「しかし……もう少し『警備兵』は強い方が良いんじゃないのか?こう言っちゃなんだが、全然食い足りない――準備運動にすらならなかったぜ?
ビル内のミュータント共を倒すよりも、エレベーターホールのあるフロアまで階段で上って来た方が良い運動になったくらいだからな。」
「ククク………上等上等、アレ位でやられては興醒めと言う物だからな。
しかし、マジシャンは可成り気合いを入れて復活させてやったのだが、所詮貴様の相手ではなかったか……まぁ、良い。
こうして貴様等は、私の元に辿り着いたのだからな?――相応の持て成しをしなくてはなるまいな……まして『息子』と『娘』まで居るのだからな。」
言葉の応酬は続き、その火の粉はネギとエヴァンジェリンにも飛び火して来た。
ナギの姿でネギを『息子』と呼び、始まりの魔法使いとしてエヴァンジェリンを『娘』と呼ぶ、この人の神経を逆撫でするような行為に対し――
「精々持て成してください『父さん』。」
「だが、やる以上は満足させてくれるのだろう『父上』?」
逆にネギとエヴァンジェリンは、皮肉たっぷりにカウンターを返して見せた。
この2人にとって、始まりの魔法使いがナギを乗っ取っていようとも、だからと言って心に波風が立つ事ではない――心は非常に『クリアー』な状態なのだ。
勿論思うところがない訳ではないのだろうが、そんなモノはとっくに意識の外に蹴り飛ばしているのだろう。戦う為の精神状態は既に構築済みであるらしい。
そんな2人に、始まりの魔法使いは鼻を鳴らすと、手元の端末を弄る。
同時に、部屋が揺れ、天井が開いて部屋そのものが上昇していく。――そして、部屋ごとビルの屋上に出てきてしまったのだ。
「此れはまた、随分と見晴らしの良い事で……」
「決戦の舞台は最高の眺めと言うのも悪くあるまい?
其れに、貴様等の墓標を此処に刻んでやると言うのもまた一興だからな……此処で、散って貰おうか?」
「誰が散るか馬鹿野郎。――貴様こそ、負けた時の言い訳位は考えておけよな?
まぁ、俺との戦いの果てに待つのは、今度こそ『完全消滅』以外にはあり得ない事だけれど――差し当たり、先ずはナギの身体を返して貰うとしようか?」
恐らくは此処が最終決戦の舞台なのだろう。
始まりの魔法使いも、その心算で此処を選んだようだ――尤も稼津斗にどぎつい事を言われてしまったのだが。
「この身体……取り返せるかな?」
「取り返す……父さんは返して貰う!!」
「不滅だか何だか知らんが、この面子に喧嘩を売った事を後悔するんだな、始まりの魔法使い。」
其れでも、歪んだ笑みを浮かべる始まりの魔法使いに対し、ネギとエヴァンジェリンが交戦の意思を示す。
ネギは纏っていた黒いローブを投げ捨て、同時に魔力を集中して『雷天双壮』を展開し、エヴァンジェリンもまた術式兵装『氷の女王』を展開し戦闘準備万端!!
「やる気は充分か……第1ラウンドは任せる――親父さんを解放してやりな。」
「言われなくてもその心算だよカヅト。」
「貴様は来るべき『第2ラウンド』の為に気を高めておくが良い。」
そんなネギ達に、稼津斗は薄く笑みを浮かべると『此処は任せる』と軽く肩を叩いて、屋上の隅に移動し腰を下ろす。稼津斗組も其れに倣って観戦するようだ。
尤もアスナは、観戦には回らずネギ達と共に戦う気満々である。
『二代目サウザントマスター』『闇の福音』『黄昏の姫巫女』が組むとは、何とも豪華なチームと言っても過言ではない筈だ。
と言うか、この3人が力を合わせれば一両日中に魔法世界で『天下統一』を成し得る事だって可能な筈――其れだけの力が、この3人にはあるのだ。
「先ずはお前達か……どれ、準備運動に付き合って貰うとしようか?」
「フン、精々確りと準備運動をしておくが良い――第2ラウンドでの完全敗北の理由にならない位に確りとな。」
そして、口ではエヴァンジェリンの方が始まりの魔法使いよりもずっと上である。
如何に始まりの魔法使いが挑発的な事を言おうと、エヴァンジェリンは即刻それ以上の挑発的な事を言ってカウンターを決めているのだ。
もしもエヴァンジェリンが、リミッターを解除して本気で毒舌を解放したその時は、ドレだけの罵詈雑言と『言葉の毒』が其の口から放たれるのか想像も出来ない。
「口の悪い娘にはお仕置きが必要だな?……タップリとお仕置きをしてやろうじゃないかエヴァンジェリン。」
「やってみろ、ラスボス未満が。
私とネギ、そしてアスナが力を合わせれば、貴様如きを屠るのは訳ない事だと知るが良い!!」
其れが戦闘開始の合図だった。
「覇ぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!」
「むぅ!」
先手必勝とばかりに、アスナが一足飛びで始まりの魔法使いに肉薄して、渾身の横薙ぎを一閃!
始まりの魔法使いも、シールドを展開して防ごうとするが、完全魔法無効化能力を持つアスナの前では、魔力のシールドなど『紙の盾』にもなりはしない。
――パリィィィィン!!
いとも簡単に、シールドを粉砕して、アスナの一撃は始まりの魔法使いのどてッ腹に炸裂!
並の人間ならば、この一撃で肋骨の数本が逝っているだろう――其れほどまでにアスナの一閃は重く、鋭く、強烈だったのだ。
「雷華崩拳!!」
「散れ、クズが。」
更に其処に、ネギとエヴァンジェリンの格闘技が炸裂!!
雷速をも超えるネギの拳打の直後に、その勢いを利用したエヴァンジェリンの『合気投げ』が炸裂するコンビネーションは見事と言う他ないだろう。
「クハハハハハ!!見事、実に見事だ!!
せめて此れ位の実力は有して居て貰わねば、楽しむ事は出来ん……メインディッシュ前の前菜を、堪能させて貰うとしようか!!」
其れでも、始まりの魔法使いは余裕綽々――恐らくは自分の勝利を信じて疑って居ないのだろう。
最終決戦の第1ラウンドが、今此処にゴングが打ち鳴らされて試合が始まった――
――――――
その頃、グレートパル様号では、待機組が己の仕事をこなしていた。
如何に負けが見えない戦いであるとは言っても、慢心したらその瞬間に『勝利の女神』は掌から零れてしまう――故に、慢心せずに裏方の仕事を熟して居る。
まぁ、バックアップメンバーとしても優秀な和美と千雨、そして茶々丸が此処に居る以上は情報戦で後れを取る事は先ず無いと言っても良いだろう。
だが―――
「!?」
「ん?どうかしたか朝倉?」
「い、いや何でもないよ千雨ちゃん……」
――行き成り靴紐が切れた……何とも不吉だわね此れは……負けるとは思えないけど、無事でいてよ稼津兄……
あくまで平静を保つ事で悟らせなかったが、和美の靴の紐が、何の前触れもなく突如『ブツン』と切れたのだ――其れもマッタク摩耗する事が無い部分でだ。
流石に此れは、如何に図太い神経を持つ和美と言えど、不安を感じずには居られなかった。
そして、この時感じた不安が、まさか現実のモノになるとは――きっとこの時は和美のみならず、誰も予想する事が出来なかっただろう――
To Be Continued… 
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