「……妙だな。」

「え、何が?」


祭壇を破壊し、しかし封鎖結界によって分断された一行だが、この状況に置いて、フェイトは何とも言えない違和感を感じていた。恐らくはディズも感じて居る筈だ。


「妙なのよ……のどか達と戦ってるエンペラーは、本来ならば此処の番人である筈なのに、装置の防衛は一切行わずにのどか達との戦闘に臨んだ。
 更に、この装置を破壊した瞬間に封鎖結界での分断がされるなんて『装置が壊される事を前提に作られていた』としか言いようがないの……分かるでしょ?」


それは、エンペラーと装置の異様さだ。
ディズの言う通り、番人である筈のエンペラーは一切装置を護ろうとはせずに、装置も破壊された後で罠が発動した――まるで破壊してくれと言わんばかりだ。

だが、もしもそうであるとしたならば、この装置は偽物であったと言う事になる。
だとしたら、裏ミッション組は骨折り損のくたびれもうけとなってしまう訳だが――


「何れにしても、真実は彼女達がエンペラーを下さない限りは分からないか……」

「まぁ、のどか達が負けるとは露ほども思って居ないけれど……」

「頑張れ本屋ちゃ〜〜ん!!」


何で如何してそうなったのか、結界内で戦うのどか達を応援兼観戦する為に、何時の間にやらレジャーシートが広げられ、観戦する気バリバリである。

一つ言っておくが、決してふざけているのではない。
のどかと亜子とクスハを信じているからこそ、自分達は見て待って居ると言う選択が出来るのだ――見た目はアレでも、観戦組も割とガチなのが1−Aなのだ。

最強の仲間が結界の外からエールを送っている以上、のどか達に敗北は無い筈だ。











ネギま Story Of XX 177時間目
『The opening in the last chapter』











だがしかし、最終形態っぽい形になったエンペラーを簡単に葬る事が出来るかと問われれば、其れは些か難しいと言わざるを得ないだろう。
ラスト・エンペラー(仮称)の弱点が、中央部分の赤いコアである事は間違いないが、その周囲を菱形の物質が超高速旋回して居るために容易には近づけない。

おまけにコア以外の部分を攻撃したところでダメージは皆無……何ともやり辛い相手である事だろう。



が、実は同じ事がラスト・エンペラーにも言えるのだ。
コアの周囲を菱形を高速旋回させる事で攻防一体の戦いが出来るようにはなったが、複雑な動きが出来なくなってしまったのだ。

分かり易く言えば、ラスト・エンペラーの攻撃は体当たりと、他のミュータントに変身しての一撃のみに限定される――限定されてしまうのだ。


とは言え、普通の人間や、並の魔法使いであったら、ラスト・エンペラーが現れた時点でお陀仏は間違いない。

にも拘らず、其れと互角以上に戦って居る、のどか、亜子、クスハの3人の強さはトンでもない物だと言うのは、想像に難くないだろう。

或は、この3人を相手取って互角のエンペラーが凄いのか……其れは分からないが、完全に膠着状態であるのは間違いない。


このまま持久戦と言う訳にも行かないだろう。
如何にオリハルコンのお蔭で、無限の魔力をその身に宿しているとは言えども、精神的な疲労を其れでカバー出来る訳ではない。集中力の限界はあるのだ。

完全なる異形になってしまったエンペラーならば兎も角、のどか達には『集中力』と言う名のタイムリミットが存在している訳だ。
無論そんな事はのどか達だって分かっているが故に、何とか状況を打開せんとしているのだが、如何せん有効打を与えられていないのが現実である。


「ったく、ウザったいわホンマに〜〜。
 あの菱形の物体、こっちの攻撃を弾く盾であると同時に、触れるモノを斬り裂くチェーンソーやから迂闊な事は出来へん。
 まぁ、ウチ等やったらアレで斬られたところで再生できるけど、皆にあんましショッキング且つスプラッタな光景を披露するのも気が知れるしなぁ……ドナイしよ?」

「アレごと吹き飛ばせればいいんですけど……クスハさん『炎殺黒龍波』で吹き飛ばせませんか?」

「炎殺黒龍波の破壊力なら出来るかもだけど、アレだけ動き回る相手に狙いを絞るのは、ちょっと難しい。」

「ホンマに空中を適当にランダム飛行しよってからに……的が絞りにくいったらないわ!」


更に、ラスト・エンペラーの飛行軌道はマッタク規則性が無く、上下左右に動き回って的が絞り辛いのだ。
こうなると、大技を決めるのは極めて難しく、結果として確実に当てる事の出来る小技が中心になってしまうのである――ある意味で八方塞がりだろう。


「せめて、動きを完全に止めるか、動きを遅くすることが出来れば……」

「!!」


が、戦場では、何気ない一言が状況打開の為の切り口となる事は珍しくない。
のどかが、何気なく呟いた一言に、亜子が猛烈に反応したのだ。


「のどか、今なんて言うた?」

「え?『動きを完全に止めるか、動きを遅くする事が出来れば』って……」

「それや!!」


如何やら亜子は、この状況を打開する策を思いついたようだ。他ならぬ、のどかの『何気ない一言』から。


「何でもっと早く気付かなかったんやろ……思いの他テンパってたのかも知れへんな。
 せやけど、のどかのお蔭で打開策が見つかった……見せたるで、ウチの精霊と融合する力の最高峰を!!精霊融合『時の精霊』!!」

亜子が行ったのは、新たなる精霊との融合だ。
そして融合が完了したその瞬間――



――ドォォォッォォォッォォォォォン!!




ラスト・エンペラーが吹っ飛ばされていた。
それも、只吹き飛ばされただけではなく、確実に有効打が入ったとしか思えない吹き飛ばされ方であり、同時に亜子が拳を振り抜いた状態で其処に存在してる。

「アコ、その姿は……」

「新たな精霊との融合……!!」

「この子と融合するのは初めてやけど、意外と相性は良いみたいや♪」

その亜子の姿は、新たなる精霊との融合により大きく変わって居た。
髪は眩いばかりのハニーブロンドだが、肌はまるで石像の様なライトグレーで、赤かった相貌は金と銀のオッドアイに変化している。

其れだけでも驚きだが、それ以上にのどかとクスハが(恐らくは結界の外の面々も)驚いたのは、行き成りラスト・エンペラーが吹っ飛ばされたことだろう。
一体どんな手品を使ったのか?


――バガァァァァァァァァァァァァン!!


考えてる最中に、またしてもラスト・エンペラーは亜子にブッ飛ばされていた。
攻撃の予備動作すら見えなかった、気が付いたらブッ飛ばしていた――そうとしか言いようのない光景が、目の前で現実に起こっていたのだ。


「今の攻撃……見えましたかクスハさん?」

「ぜ、全然見えなかった……い、今目の前で起きた事をありのままに言うわ。
 瞬きすらしてないのに、気が付いたらエンペラーが亜子にふっとばされてた、しかも一切の攻撃の気配とかそんなモノは感じなかったにも拘わらず一瞬で!!
 な、何を言ってるのか分からないかもしれないけど、脅威とかそんなちゃちなモンじゃない、もっと凄まじいモノの片鱗を味わったわ……!!」

「ポ○ナレ○乙です――が、そのネタに走ると言う事はつまり……」

「新たな精霊と融合した亜子の力は、多分『時を操る』能力だと思う。
 私達が、何も分からなかったのは、多分亜子が僅か数秒であっても『時を止めてエンペラーを攻撃したから』だと思うんだ。」

「大正解やでクスハ!」


それらの事から推測した亜子の力は『時の支配』――反則極まりない能力だった。
そして、其れは亜子自らが肯定。


「時の精霊『クロノス』と融合したウチは時を操る事が出来る。時間にしたら僅か5秒やけど、時の完全停止が出来るんや。
 たった5秒って思うかも知れへんけど、戦いの中で5秒間動きが止まる言うのは実は結構大きな事でな――」


――バゴォォォォォォォォン!!


「一方的に攻撃するには充分過ぎる時間なんやで?」

今度は、オリジナルの属性合成魔法でエンペラーを吹き飛ばす――又しても全く攻撃動作が見えなかった故に、時を止められるのは間違いないだろう。
時の支配者と化した亜子は、正に無敵にして最強だった。


「さて、此れで終わりや!!ザ・ワールド『時よ止まれ』!!」


終幕を宣言し、そして再度亜子は時を停止。
そして――


「時は再び動き出す。」


――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!


時が動き始めたその瞬間に、数えるのが面倒になりそうなほどの魔力の剣がラスト・エンペラーに降り注ぎ、真紅のコアを容赦なく貫いて行く。
二度の時の停止で喰らったダメージは大きく、コアの周囲を旋回していた菱形の物体の動きが鈍り、魔力の剣を弾き返す事が出来なかったのだ。

弱点であるコアを貫かれたラスト・エンペラーは、姿を変え元の姿に戻る……戦闘不能になったと言う事だろう。


「と、時を操るとは……マッタク持って予想して居なかったぞ……」

「人の可能性は無限大や……ウチ等の戦力データ位は持っとったんやろうけど、何でもデータ通りになるて思ったら大間違いやからな?」


エンペラーが倒れると同時に結界も解除され、装置破壊に向かっていた面々も集まって来る。


「すっごいじゃん!やっぱ強いね皆!!」

「殆ど亜子が持って行きましたけどね……時の停止は、流石に反則級の能力ですよ……」

美砂をはじめ、非戦闘員の面々はのどか達の活躍を称賛する。
確かに、この祭壇の番人を倒したとなれば称賛されても当然だろう――だが……


「話して貰おうか?始まりの魔法使いは、一体何が目的なのかな?」

「知らないとは言わせないわよ?」

瀕死のエンペラーに対し、フェイトが石の槍を、ディズが己の右腕に展開した氷の剣を突き付け、尋問開始。
『言い逃れも詭弁も許さない』と言わんばかりのフェイトとディズの『絶対零度の視線』は、一般人なら其れだけで卒倒してしまう程の恐ろしさが内包されている。

尤も、其れに怯えるエンペラーではないが――


「良かろう……黄泉路に渡る前に教えてやるのも一興だ。」


己の死を悟り、戯れに話す事にしたようだ。――此れが貴重な情報であるのは、多分間違いではないだろう。


「先ず、始まるの魔法使いの目的はリライトによるこの世界の救済ではなく、力でこの世界を支配し、己がその頂点に立つ事に有る。
 故に、貴様等が破壊した装置は張りぼての偽物に過ぎん……要は、囮だったのだよ此処は。
 貴様等の戦力を分散させるのが目的だったが、思いのほか巧く行ったようだ………尤も、私が討たれるとは露ほども思って居なかったがな。
 だが、私を含め、倒されたミュータントの力は、全て始まりの魔法使いが吸収して己の力とする!!この私もまた、糧となる!!!」


「な!!そんな事が!!」


明かされた真実に、口が塞がらないとはこの事だろう。
要約すれば、今の自分達の行動もまた『無駄であった』と言う事になるのだから。


「全ては計画通りに進んだ!!氷薙稼津斗を倒す必要もない……奴を取り込む事が出来れば、目的は成就する。
 始まりの魔法使いの野望を止められるならば止めてみるが良い……何れにしても、貴様等が味わうのは絶対的な『絶望』である事に変わりはないけれどな。」


――シュゥゥゥゥゥ


言いたい事だけを言い、エンペラーは完全消滅!つまりは1−Aの大勝利と言う事だろう。
だが、エンペラーの言う通りであるならば、エンペラーの力は始まりの魔法使いに吸収されたと言う事に他ならない

だとしたら始まりの魔法使いは一体どれほどに強くなって居るのか?――想像すら出来ない事だろう。


「他者の力を吸収する……やけど、それがドナイしたん?
 稼津さんもネギ君も絶対に負けへん!!アンタ等の腐れ切った野望は『無敵にして最強の武闘家』と『二代目サウザントマスター』がブチ砕いたるわ!!」

「って言うか、カヅっちとネギ君の前に敵はないと思うよ〜〜?
 更に其処にエヴァちゃんとかも居る訳でしょ?――如何考えたって、負けるのが想像出来ませ〜〜ん♪絶対勝つよ、カヅっち達がね!」


だが、そうであっても1−Aの面々は稼津斗とネギの勝利を信じて疑わない。

勿論簡単に終わる等とは思っていないが、其れでも『敗北』のビジョンは不思議と浮かんでこなかった……其れほどまでに信頼していると言う事なのだろう。



「今度こそ、己の運命に決着を付けて下さい……貴方の勝利を信じていますから、稼津斗さん――」


故に望むのは、己の愛する人の勝利のみ。
ミッションをコンプリートした裏Mission組は、突入組の勝利を、只祈っていた。








――――――








「ベェクショイ!!」

「うわ!大丈夫カヅト!?」

「大丈夫だ……たっく、誰かが噂してるのかもな。」


一方で、突入組は10階辺りからエレベーターを利用しての移動を行っていた。(因みに10階からしかエレベーターは運用されていない。)
一行は、そのエレベーターに乗り込み、一気に最上階めがけて進んでいる真最中である。

因みに10階に辿り着くまでに現れたミュータントは問答無用で撃滅し、3桁では足りない数を撃滅しているのは間違いない

尤も、倒した数がドレだけであるかはあまり意味のない事だ――殆ど稼津斗とネギで無双していたのだから。



「此処か……」

其れは兎も角として、一行は最上階に到達していた。
更に其処から螺旋階段を上って『社長室』なる場所に辿り着く――この先に、始まりの魔法使いが居る事は間違いないだろう。


「今度こそ、完全に消してやる……覚悟は良いな『運命の輪』!!」



――バガァァァァァァァァァァァァァァァン!!


その扉を蹴破り、稼津斗達一行は社長室に突入成功!



魔法世界でのラストバトルは此処からが真のクライマックスである。そう言っても罰は当たらないだろう。















 To Be Continued…