それを端的に表現しろと言われたら、大概の人はこう言うだろう――『異様である』と。
何もオカシイ事ではない。
寧ろ、目の前の此れを実際に目にしたならば、そうとしか言えない――それ程までに『異様』な見てくれであるのだ、この『エンペラー』は。
一見すると銀色に見えるその身体は、しかし良く見れば透き通った透明のようにも見えるし、顔立ちや体つきも男とも女とも取れない感じと来ている。
果たして此れを異様で無いと言ったら、何が異様であるのだろうか?
「此れはまた何とも……ラストステージで、トンでもないラスボスが待ってたみたいやな?」
「そうみたいですね……アレの力は、さっきのフールとは比べ物になりません……」
「油断大敵だね……」
裏ミッション組も、エンペラーの異様さには速攻で気が付いたらしい――いや、気付かない方がある意味で大問題だが。
とは言え、一行は現在、夏美のアーティファクトでステルス迷彩状態になって居るので、エンペラーの視界には入って居ないのだが――実はそうでもなかった。
「……そこか……」
エンペラーが腕を一振りするや否や、夏美のステルス迷彩が強制解除された。
「「「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」」」
「見つけた……」
あまりにも唐突!しかし、其れでも慌てふためかないのは1−Aのメンタルの強さゆえだろう。
だがしかし、裏ミッションのラストボスとして現れたエンペラー――『皇帝』の名を冠しているだけに、如何にも簡単に攻略できる相手ではないようである。
ネギま Story Of XX 176時間目
『Hiding duty last decisive battle』
とは言え、戦闘メンバーであるのどかと亜子とクスハが、この異形を相手にして怯むかと言われれば、其れは絶対的に否と言う事になるだろう。
いや、稼津斗と出会う前ののどかと亜子ならば、得体の知れない恐怖に駆られて、足が竦んで動けなくなってしまうのは確実だろうが、今はそうではない。
亜子ものどかも、稼津斗ととの契約を経て精神的に強くなり、その結果として大抵の事に対して『要らない恐怖』を抱かない様になり、心は穏やかなままである。
「コイツは、如何考えても一筋縄でいく相手とはちゃうな?
ウチ等が負けるなんて事はサラサラ考えてへんけど、せやけど一方的なワンサイドゲームで終わりに出来るかと言えば其れはまた否やからなぁ…ドナイする?」
「如何するもこうするも、立ち塞がるなら倒すだけだよ亜子。
それに、相手が1体って言うのはある意味で僥倖――私達がアレに対処してる間に、夏美さん達が装置を停止し破壊する事が可能になる訳ですからね。」
それを示すかの如く、亜子とのどかは速攻で作戦構築!
稼津斗組であるのどか、亜子、クスハの3人がエンペラーに対処し、残りのメンバーは装置の停止と破壊に向かうと言う事にしたらしい。
「村上、装置の破壊、任せてもえぇな?」
「うん!!大丈夫!!皆が一緒だから、きっとできるよ!
其れよりも、亜子ちゃん達の方こそ気を付けてね?――アレは、私でも分かる位に『トンでもない相手』みたいだから。」
その旨を伝えれば、夏美もまた了承した。どうせ戦いでは役に立たないのだから、裏方に徹するとそう言う事なのだろう。
其れでも、友には無事であってほしいと言うのが本音なのだろう――バトル組と、裏方組は無言で互いに拳を突き出し、そして頷く…それで充分なのだ1−Aは。
『任せるよ?』
『任せなさい!』
そう言った物が、今の動作の中に全て詰められ、そしてこの場の全員が其の意味を理解して居るのだ。そう、フェイトとディズでさえ。
だから、此れから戦いが始まると言う状況に置いても、この面子には僅かばかりの笑顔が浮かんでいた――そう、絶対に此処で負けられないと言うが如くに!!
そして、瞬間――空気が爆ぜた。
「「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」」
亜子とのどかがXX2ndを発動したのだ。
大概の相手ならば通常のXXに変身すれば如何にか出来るにも拘わらず、2ndに変身したと言う事は、其れだけの相手であると言う事だろう、此のエンペラーは。
そしてその認識は間違いではない。
「死ね。」
右腕を刀に変形させたエンペラーは、一瞬でのどかに近付きその凶刃を振り下ろす。驚くべきスピードだ。
が、それを喰らうのどかでは無く、紙一重で回避し上着を斬り裂かれるに留まった――のだが、次の瞬間にエンペラーは姿を変え上空から槍で強襲して来た。
のどかは知る由もないが、其れは稼津斗達が戦って居たミュータントの1体である『ハイエロファント』の姿と攻撃方法だった。
詰まる所、エンペラーは如何やら他のミュータントの能力を自在に使う事が出来るのだろう。
まぁ、この突き刺し攻撃は予備動作の大きさから難なく回避されたのだが……着地したエンペラーの側頭部とボディに強烈な衝撃が走った。
「くぅ〜〜……何で出来てんねんこの身体は!!」
「滅茶苦茶堅いですね此れ……ダメージは通るみたいですけど。」
其れは亜子とのどかの攻撃がエンペラーに突き刺さったからだ。
側頭部には亜子の飛び足刀蹴りが、ボディにはのどかのエルボーパンチが突き刺さってる――此れを喰らって平然としているエンペラーは流石と言うところだが。
だが、此れに驚いたのは装置破壊に向かって居た面子だ。
のどかと亜子は、どちらかと言うと魔法主体の戦い方を得意とし、稼津斗組ではクロスレンジにおける格闘戦は最下層なのは間違いない。
その2人が、エンペラーに対して格闘攻撃を仕掛けたと言うのは、驚くなと言う方がある意味で無理な事だろう。
だが、亜子とのどかの格闘能力が低いのは、あくまでも『稼津斗組では』と言う注釈が入る事を忘れてはならない。
確かに稼津斗組の中では、ダントツに格闘能力が低い亜子とのどかだが、その腕は並の格闘家の実力を遥かに凌駕しているのだ。
日々の鍛錬の中で、稼津斗から教えられた空手を主体とした格闘戦技は、確りとこの2人にも刻み込まれている――故に、格闘戦でも戦う事は可能なのである。
とは言え、亜子とのどかの本領が魔法戦であるのは変わりない。
一撃を加えた亜子とのどかは直ぐに距離を取り、己が最も得意とする間合い――魔法主体のミドル〜ロングレンジの間合いを確保する。
だが、エンペラーとて馬鹿ではない。
攻撃を喰らった事で、のどかと亜子がクロスレンジの格闘戦では決定打に欠く事は見抜いただろう……ならば、何が何でも格闘に持ち込もうとするのは当然だ。
片方を誘導弾的な攻撃で牽制しながら、もう1人に格闘戦を仕掛ける事自体はそんなに難しい事ではない。
――相手が2人だけであったならば。
「ちょいさーーーーーー!!」
「!!」
亜子とのどかが間合いを離した瞬間に、エンペラーを強襲したのは人間状態になったクスハ。
九尾の狐であるクスハは、XXに変身する事こそ出来ないが、その能力は稼津斗組の中でも相当に高い部類に入り、特に格闘能力はトップクラスである。
破壊力抜群の拳を、シールドに変形させた左腕で防いだエンペラーだが、此れは如何にも分が悪いのは否めないだろう。
自身に格闘戦を仕掛けて来る相手が居る状態で、更に超一流クラスの魔法戦の出来る相手が2人も居るのだから――勝機は極めて薄い状態としか言えない。
だが、エンペラーに焦りは見えない。
「押し流せ海流……海神の怒り!!」
「吹き飛んでまえ!!滅びのバースト・ストリーーーーーーーム!!!」
――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!
のどかの最上級水魔法と、龍の精霊と融合した亜子の最大の一撃が炸裂したにも拘らず、エンペラーは全く持って無傷!!
攻撃を喰らうその瞬間にバリアを張り、必殺の一撃を完全に防いでみせたのだ。……伊達に『皇帝』の名を冠して居る訳ではないらしい。
「殺す……」
この攻撃に対するカウンターとばかりに、無数のビットを呼び出し、それを亜子とのどかに向かわせ、自身はクスハに向かって刀の右腕を振り下ろす。
「やってみなよ。」
其れに対し、クスハもまた右腕に『黒炎の剣』を展開して剣戟に応じる。
一合、二合、三合……互いに一歩も退かない見事な剣戟は、アクションファンが見たならば歓声を上げる事は間違いないが、此処は戦場ゆえに気は抜けない。
更に、剣戟とは言っても、其れを行って居る者達が無傷で居るだろうか?……其れは有り得ない。
クスハもエンペラーも、皮膚を斬る程度の切り傷を、わずか数分の剣戟の内に体中に負っているのだ――正に一進一退の攻防であると言っても過言ではない。
「思った以上にやるねエンペラー?……だけど、私との剣戟に集中し過ぎたね?」
――ガキィィィィィン!!
「此れは……!!」
その剣戟の最中、クスハは突如黒炎の鎖でエンペラーを拘束した。
其れ自体は悪い攻撃では無いが、黒炎の鎖の末端はクスハが握っているので、其のまま攻撃する事など出来る筈がない。
――ならば、此の拘束は何の為に?
「「破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」」
答えは簡単だ。
クスハが剣戟を行っている間、一切攻撃してこなかった亜子とのどかの最大の一撃を確実にぶちかますためだ。
亜子とのどかは攻撃をしなかったのではなく、必殺の一撃を放つために力をこれでもかと言うほどに溜めていたのだ……一撃で終わらせるために。
「行くでのどか!!」
「うん!此れが私達の全力全壊!!」
――ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
「「ダブル覇王翔哮拳!!!」」
――ドバガァァァァァァァァァァァァァァッァアァァァァァァァァァン!!!
次の瞬間、放たれたのは稼津斗直伝の最強の極大気功波!
左右から挟み込むように放たれた其れは、拘束されて動く事の出来ないエンペラーをいとも簡単に飲み込んでしまった………
――――――
一方で、装置破壊組はエンペラーの注意が亜子達に向かってくれたおかげで、難なく目標に到達する事が出来た。
出来たのだが――
「ぶっちゃけた事聞くけど、此れどうやってぶっ壊すのよ?」
美砂の発した一言は当たり前の事だった。
目の前に有るのはスーパーコンピュータもかくやとと言うほどの巨大装置――其れを破壊しろなど、中々にと言うか相当な無茶振りなのは間違いないのだ。
一応千草から護身用の式神符を貰ってるとは言え、其れで此れを完全に破壊出来るかと問われれば、其れは流石に首を縦に振りかねると言うところだろう。
あくまでも此れは護身用故に、この巨大装置を破壊するに至るまでの力はないと言う事は聞かずとも分かると言うモノである。
ならば如何するか?
「そんな訳で、頼みますフェイト先生、ディズ先生!!」
「まぁ、そう来ると思ったけどね。」
「なら、ちゃっちゃと終わらせましょうか?」
此れを壊せる人に頼んじまえ――つまりは其処に帰結するのだ。ある意味では尤も理に適った選択であると言える。
頼まれたディズとフェイトは装置の前に立つと、先ずはディズが装置を水で包み込み、更に其れを凍結させて装置を完全に氷で包み込む。
其れを確認したディズは、顔に薄く笑みを浮かべると同時に、
――パチン
指を鳴らして氷ごと装置を粉砕!!
「消えて良いよ……君はもう必要ない。」
其処に追撃とばかりに、フェイトが大小様々な岩石を雨の様に降らせ、砕け散った装置を更に潰していく――如何見ても、装置は完全にスクラップになっただろう。
何れにしても、装置の破壊と言う目的は果たした訳だが――
――ヴォン
「な!此れは、封鎖結界!?」
「いぃ!!若しかしなくても閉じこめられた!?」
装置を破壊した瞬間に結界が発生し、装置破壊組を其処に足止めする結果になった。
尤も、此れもまたエンペラーを倒してしまえば強制的に解除されるのだろうが――一行は、思わず目の前の光景に目を疑った。
強烈な爆発音から、エンペラーに対して最大級の一撃が炸裂したのは分かった……ならばエンペラーを倒したとも思った――思い込んでいた。
「何、アレ?」
夏美の口から零れた一言は、ある意味でこの場の全員の心情を代弁してると言っても過言ではない。
だってそう言うしかないのだ、粉塵が晴れたところに現れた異様なモノに対しては――エンペラーであったと思われるモノに対しては。
「………」
其れは、真紅の宝玉を中心に、銀とも透明ともつかない菱形の物質がリング状に3つ現れたモノ。
菱形の物質は、中心部の真紅の宝玉を護るかの様に、その周囲を高速回転し、宛らチェーンソーの如き鋭さを持って旋回を続けていた。恐るべき生命力だろう。
「プライドかなぐり捨てての特攻と来たか……ドナイするのどか?」
「決まってます……倒しきるまで、何度でもブッ飛ばす!只それだけです!!」
「シンプルイズベストだね!!」
其れでものどかも、亜子も、クスハも露ほども揺るぎはしない。
裏ミッション組・ラストバトル第2ラウンドのゴングは諦める事を知らない少女達の手で、今此処に高らかに打ち鳴らされたのだ――
To Be Continued… 
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