地獄絵図と言う言葉があるが、裏ミッション組の眼前に広がった光景は、正しく地獄絵図その物であると言って過言ではないだろう。

円筒形の部屋に吊るされた、無数の人の亡骸と、其れを貪る巨大なナマケモノをベースとしたであろうバイオミュータントと言うのは。


もしも、この部屋が視界が利かない程に暗い場所であったならば、強烈な腐臭に当てられても、其れだけで済んだかもしれない。
だが、この部屋はLED証明で明るく照らされ、否が応でも嫌悪感120%の地獄絵図が視界に入ってきてしまう状態……此れは1−Aでも参るだろう。


「此れは……」

「人の命をなんだと思ってんのや……!!」

「外道だね……」


のどか、亜子、クスハの3人を除いてだが。
無論、この3人とて、この部屋の余りの光景に生理的嫌悪感を抱いたのは間違いないが、それ以上に『怒り』が感情の大多数を占めていたのだ。

稼津斗と契約し、不死となったが、其れだけに命の重みは誰よりも知っている。一度は『異常な未来』で愛する者を喪った経験をしているだけに。
だからこそ、この光景は到底受け入れる事が出来なかったのだろう。

死者を晒し物にし、更にはミュータントの餌とする下法で外道で鬼畜な所業には。


「浄化せよ……フェニックス!!!


そして、次の瞬間、亜子が精霊と融合し、金色の炎で部屋内の亡骸を、全て浄化したうえで灰にした。
せめてもの手向けと言うか、これ以上辱められないようにとの事だろう――亜子が放った浄化の炎は、腐臭すらもこの部屋から完全に消し去った。


「このサル公が……覚悟しときや!!」

「貴方が貪った命の代償、払ってもらいます。」

そして、亜子とのどかはXXに変身!
地獄絵図を作り出していた、愚者との対決に準備は万端整っていた。











ネギま Story Of XX 174時間目
『愚者を砕き、魔術師を制せよ』











が、面白くないのは、ナマケモノ型ミュータントのザ・フールだ。
ザ・フールからしてみれば、自分の食事を邪魔され、更には餌を全て取り上げられた状態でしかないのだから、此れは怒るのもまた当然であろう。


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!」


憤怒の表情で、裏ミッション組の前に降り立ち、渾身の威嚇!!
差し詰め『食事の邪魔をするな!早急に立ち去れ、去らねば殺す!!』と言ったところだろうが、其れに怯んで従う、亜子とのどかとクスハではない。


「ナマケモノっちゅーか、どっちかって言うと太古に絶滅した『メガテリウム』やろ此れ?
 適当に半殺しにして、動物の研究しとるところに売り付けたら、高く売れるんと違う?『生きた化石』や言うて。」

「如何でしょうか?……良い所二束三文で、稼津斗さんの飲み代にすらならないと思いますよ?」

「てか、生かしとく理由もないから、先に進むために滅殺推奨。」


5m近い巨躯を前にしても、全然怯まないどころか、マッタク持って余裕綽々。
まぁ、この態度のお蔭で、他の裏ミッション組の緊張も解れたのは事実なのだが――バトルの本番は此処からだ。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


食事の邪魔をされたフールは、その巨大な爪を振って襲い掛かってくる。
本来、ナマケモノの爪は木に引っ掛けて身体を支えるための物だが、ミュータント化でその爪は鋭い『鎌』と化し、対象を両断する刃になって居る。
更に、ミュータント化で全身の筋肉が異常に強化され、まるでゴリラの様に肥大化した二の腕が、その一撃を強化する。


現実にフールの一撃は、室内に張り巡らされた鉄パイプを、まるで蒲鉾の様に斬り裂いてみせたのだから。
不死である亜子やのどか、クスハは兎も角、多の裏ミッション組が喰らえば、其れはその瞬間にお陀仏のDeadendで有るのは間違いないだろう。

だからこそ、自然と稼津斗組以外の面々は、戦闘の邪魔にならない様にフールと距離を取って居た。
本能的に理解したのだ、こう言う戦いになった場合には自分達は寧ろ足手纏いにしかならないと――故に前線から身を退いたのだ。


そしてその判断は正しかった。


「穿て……ブダッディダガー!

「燃やせ…狐火!

「精霊融合ドラゴン!!喰らいや……ドラゴンインパルス!!


クラスメイトが退いたのを見るや否や、のどかがイクサからコピーした魔法を放ち、クスハは火炎弾を展開。
亜子に至っては、最強とされるドラゴンの精霊とアーティファクトを使って融合し、不可視の衝撃波攻撃をブチかます!!何とも凄まじい一撃だろう。

此れだけの攻撃を喰らえば、如何にミュータントと言えども無事では済まないだろうが、其処は場所が場所だけにそう簡単には行かない。
この、上下に長く伸びた円筒形の部屋には、あちこちに鉄パイプが張り巡らされ、まるで樹木が入り組んだかのような構造になって居るのだ。
そして其れは、ナマケモノがベースであるフールにとっては最高の戦場――この構造を利用して、素早い動きで全ての攻撃を完全回避して見せた。


「グギャギャギャギャギャ!!!」


更に、躱しただけではなく、鉄パイプにぶら下がって激しく揺らし、死骸を吊るしていたワイヤーやら金属パーツやらを振り落として攻撃してくる。
見た目は異常に成長したナマケモノであっても、敵を攻撃する為には知恵が回るようだ。

確かに、如何にのどか達が強いと言えど、無数に降り注ぐ落下物を全て回避するのは不可能と言えるだろう。
また、迎撃するのだって楽ではないし、下手に迎撃すれば、その隙をフールに突かれる事にもなりかねない――が、そうはさせないのが1−Aだ。


「ホイッとな!!」


――シュルン!!


落下物の幾つかを、まき絵がアーティファクトの一つであるリボンで絡めとり、回収する。
加えて、桜子がアーティファクトの能力でのどか達の『幸運値』を上昇させ、のどか達に『落下物が当たり辛い』状態にしたのだ。


「フール……成程、攻撃方法も愚者その物だね。」

「てか、ナマケモノを素体にバイオコントロールって……もっと良い素体はなかったのかしら?
 ナマケモノよりも、キツネザルとかを素体にした方が、もっと良いミュータントが生み出せたと思うんだけどね……」

極めつけはフェイトとディズ。
フェイトが砂嵐で落下物を吹き飛ばせば、ディズは落下物を中空で凍らせて、其のまま氷のオブジェとして鉄パイプに氷結接着。

何と言うか、マッタク持って隙が無かった。



だが、相手は獣の闘争本能が全開になった危険生物なのは変わらない。
攻撃を防がれたフールは、その巨体からは想像も出来ないような機敏な動きで壁面を下り、一番近くに居た亜子に対し、凶器の爪を一閃!!


普通なら一撃死だが――



――ガキィィィン!!




「鉄パイプは斬り裂ても、龍の鱗は斬り裂けへんみたいやね。」


亜子は無傷!
最強精霊であるドラゴンと融合した事で、亜子の身体そのものがドラゴンに近くなり、全身はダイヤモンドの如き硬質の鱗で覆われていたのである。

その鱗が、凶器の爪による一閃を防いで見せたのだ。



だが、堪らないのはフールの方だ。
殺す心算で放った一撃は弾かれ、それどころか己の爪が欠け、更には堅いモノを思いきり打ん殴った反動の痺れが全身に回って居たのだ。

そして其れは、同時に数秒ではあるが完全に動きが止まった事を意味している。


時間にすれば、精々2〜3秒と言うところだろうが、戦場に於いて3カウントも完全に動きを止めてしまうと言うのは自殺に等しい行為としか言えない。
何故なら、3秒間も動きを止めてくれたのならば、其れは絶好の攻撃の機会でしかないのだから。


「此れで……決める!!太陽系惑星十字(グランド・クロス)!!

「九尾の力を舐めないでね……妖狐炎術最大奥義、炎殺黒龍波!!!


その絶好の機会に、のどかの宇宙魔法と、クスハの妖狐炎術の最大奥義が炸裂し、フールに大ダメージを与える。
尤も、この一撃を受けて尚も生きているフールの生命力には脱帽モノだが――終幕を齎す一発が残っていると言う事を忘れてはならない。


「Die Staube werden die Staube, die Asche wird die Asche!(塵は塵に、灰は灰に!)
 此れで終わりや愚者!貪り食って来た者達にあの世で詫びや!龍族奥義…The Explosive Gale Lump of Ruin!(滅びの爆裂疾風弾!)


ドラゴンの精霊と融合した亜子が、全てを焼き尽くすであろう一撃をフールに放って一撃掃滅!!
精霊の中でも最強とされるドラゴンと融合した亜子の最大の一撃に、ナマケモノを素体にバイオコントロールされたミュータントが敵う筈がないのだ。



――シュゥゥゥン……



凄まじい魔力放出の後で残ったのは、鉄パイプやら何やらが綺麗サッパリなくなった円筒状の部屋のみ。
要するに、亜子の一発が決定打となり、フール共々この部屋を『綺麗に掃除』するに至ったのだろう――精霊との融合は侮れないモノだ。


「精々地獄で鬼と喧嘩しとると良いわ……ミュータントに魂があればの話やけどな。」

「もし地獄に堕ちたら……己の不遇さを呪ってください。
 全ての責は、貴方を改造した始まりの魔法使いにあります……ですが、その力で無実の人を屠ったのは紛れもない事実ですから。
 せめて、地獄の責苦でその罪を清算してください――」


そして亜子とのどかは、何もなくなった円筒形の部屋に対して、夫々の言葉を紡ぎ、胸元で十字を切った、
人の亡骸を食すと言う外道を許した訳ではないが、フールもまた望まずにミュータントにされた……その事実を知ったが故の事だろう。

他の裏ミッション組も、其れにつられるかの様に胸元で十字を切り、そして合掌――死者を悼む気持ちの現れは、誰も同じと言う事かもしれないが。


何れにしても、この悪夢のような空間は浄化し、そして突破するに至った。


ならば進むのみだ。
裏ミッション組は、改めて気合を入れなおすと、この部屋を後にし、本来の目的である場所を目指して、更に邁進していくのであった。








――――――







一方の突入組だが……


「流石に、オンリーワンとして生み出されたお前の堅さは相当だな?……嫌味とか皮肉じゃなくて、本気で心の底からそう思うよマジシャン。」


マジシャン以外のミュータントは、アキラの放った『蒼龍』で全滅させられていたのだ。
如何に強化改造がされているミュータントと言えど、海水を究極レベルに圧縮して作り上げた『水の龍』の攻撃を喰らえば只では済まない!


現実に、蒼龍の一発で、マジシャン以外に生き残って居る者はいない。

そのマジシャンも、左腕と右足の膝から下が吹き飛び、大凡戦闘を継続出来る状態ではないが……其れでもミュータントは兵器ゆえに退かない。


「貴様……貴様ぁぁあぁぁぁ!!!!」


其れが更にマジシャンの苛立ちを募らせ、遂に爆発!
正に『憤怒の化身』とでも言うべき、恐ろしげな顔をしたマジシャンは、空高く飛び上がりバリアを展開しながら、エネルギーを集中!!

恐らくは此れで決める心算なのだろうが――



「そうはさせんぞ……斬魔剣・弐之太刀!!



虚空に飛びあがった、マジシャンに対して、何処からともなく不死鳥が現れ、チャージ中のマジシャンを強襲!
如何にマジシャンが極めて高い魔力と身体能力を有して居たところで、不意打ちの一発に対処しろとかは流石に無理だろう。


故に、現れた不死鳥の一撃は、マジシャンの障壁を貫いて大ダメージを与える
其れを喰らったマジシャンは錐揉み回転しながら地面に激突して、事実上の戦闘不能だろう。


「面倒事は、徹底的に潰すに限る。
 動く事も出来ない相手にとも思うだろうが、これが命のやり取りをする者の覚悟だと知れ!!消え失せろ……覇王翔哮拳ーーーーー!!


其処にトドメとなるであろう、覇王翔哮拳をブチかましマジシャンは完全消滅。



「今回も、俺の勝ちだったなマジシャン。」


右腕を高々と掲げて勝利宣言をする、稼津斗は正に『最強』の格闘家であったようだ。


と、同時にマジシャンの最大の攻撃を打ち崩した『不死鳥』のその目を向ける。
そして、その姿を確認すると、稼津斗も仲間達も安堵の笑みを浮かべていた……早い話、不死鳥の正体は稼津斗達にとっては見知った相手だった。



「随分と派手な登場じゃないか?
 いや……其れよりも其の見た目に敬意を表して『レッドアイズ・ホワイトウィング・ナイト』との二つ名で呼んだ方が敬意が示せるか?桜咲刹那…!」


そう、マジシャンを打ち据えた真紅の不死鳥の正体は、朱雀と融合した刹那。
月詠との一戦の後で、刹那は一目散にこの場を目指していたのだ――そして、護るべき者を護る事は出来た――刹那の顔は満足そうだった。








――――――







――麻帆良学園・学園長室



麻帆良学園都市の最高峰とも言える、この学園長室には、近右衛門とタカミチ、刀子、瀬流彦にシスター・シャークティが集まって居た。
何れも『正義の魔法使い』が謳う『立派な魔法使い』の概念に『異』を唱える者達だ。(その意識改革には稼津斗が一枚かんでいるのだが。)


「諸君らに集まって貰ったのは他でもない……始まりの魔法使いが、本格的に行動を起こし始めたらしい。
 今は未だ、魔法世界で留めておけるが、其れも何時まで持つかは分からず、剛力の生物が力押しでゲートを開きかねん……其れを防いでくれ!」


「「「「了解!!」」」」


そして、近右衛門の口から直々に言い渡された事に、一瞬驚くも、其処は直ぐに『戦う者』の顔へと変貌される。
確立的には五分五分だが、もしも此方のゲートを超えて異形のミュータントが現れた場合には、タカミチ達で切り抜けるしかないのだ。


状況だけを見れば圧倒的に不利だろうが、だがしかし、近右衛門はこの布陣ならば行けると判断したからこそ呼び出したのだろう。



しかし乍ら、近右衛門であっても、今この時に火星の人造異界『魔法世界』で凄まじい戦闘が行われているなどと言う事は想像すらしていなかった…













 To Be Continued…