「どったの本屋ちゃん?其れに何が書いてあったのよ?」

桜子の勘を信じて辿り着いた書斎で、のどかが見つけた一冊の手記……だが、其れを手にした途端、驚愕の表情を浮かべたのは如何言う事か?
此れは、1−Aのメンバーでなくとも気になるだろう。普段、『哀』『喜』以外の感情をあまり現さないのどかが驚くとはよほどの事態であるのだから。


「……桜子さん、ある意味で此れは最大級の幸運を発揮してくれました。
 このダイアリーノートは古代のラテン文字で書かれていますが、私に掛かればこの程度を解析するのは訳ない事です……内容も解析出来ましたよ。」

「マジで!?」

だが、その驚愕の表情は、始まりの魔法使いのダイアリーを解読できた故の事だったらしい。


此れの内容が分かったと言うのは相当に大きな収穫だろう。
個人の手記や日記から得られる情報と言うのは、決して小さくない――場合によっては金以上に価値のある物になる事だってあるのだ。


そしてのどかが解析したこの手記は……


「で、なにが書いてあったんやのどか?」

「単純明快な事だよ亜子……始まりの魔法使いは――稼津斗さんと同じ世界からやって来た者だから……」


如何やら、5kgの純金のインゴット以上の価値があるモノだったようである。











ネギま Story Of XX 172時間目
『暴かれたラスボスの正体』











始まりの魔法使いは稼津斗と同じ世界からやって来た存在――其れは確かに驚くべき事実だが、手記を解析したのどか以外には理解し難いだろう。
だって、手記の内容が読めない訳なのだから。


「で、何が書かれてるのその手記には?」

「其れを今から読みますので、確りと聞いていて下さい。」


なので、のどかは多少面倒ではあるが、手記の内容を自ら読み上げる事で皆に伝える事にしたのだ。


しかし、眼鏡をかけた美少女が本を片手に佇む様は何とも絵になって居るモノだ――では無く、兎に角のどかによる手記の内容暴露が始まった。




14XX年○月□日

まさか、細胞レベルで次元を超えるとは思って居なかったが、私は生き延びたようだ。
流石に飛ばされたのが一欠けらの細胞なので時間が掛かったが、やっとこの身体の主導権を手に入れた……矢張り私は不滅の存在なのだな。



同年△月○日


私の能力で何かできないかと思い、手始めに宿主の娘にオリハルコンの欠片と魔物のコアを融合してみた。
結果は上々であり、此の娘は『真祖の吸血鬼』として覚醒したらしい――一時的に、この私を行動不能にしたのだから、その力は絶大だろう。
此れを私の制御可能な兵として量産できれば、其れは間違いなく最強の軍隊が出来るかも知れん!




無論、手記の全ての内容を話す訳ではない。
自分達に関係のありそうな事柄だけを、掻い摘んで話しているようだ。尤も、そうでなければ莫大な量の文章になるだろう。
因みに、今の一文はエヴァンジェリンが吸血鬼化した時の事を書いたものであると見て、先ず間違いないだろう。




198X年□年△日


復活してからおよそ580年、随分と力が戻って来た事を実感できる。
その力を使い、火星の人造異界に紛争の種をばら撒いてやったが、まさか其れと真正面からぶつかり合う男達が居るとは……目障りな。
だが、幾ら強くとも所詮は人間に過ぎぬ……全人類をむしゃぶりつくしてくれよう……楽しみだ



198△年○月○日


激戦の末、何とかナギ・スプリングフィールドの身体を乗っ取ってやったが、アリカとか言う小娘のせいで自我を完全に奪うには至らなかったようだ。
だが、此れで私は最強の身体を手に入れた!!此れなら、私は絶対に負けぬ!!絶対にな!!



2003年6月×日


こうして日記を記すのも随分と久しぶりだ……20年近く時が経って居た訳か。
だが、こうして手記に記すのは只の気まぐれではない――地球の京都に派遣したテルティウムから気になる事を聞いたからだ。
何でも封印の解かれたリョウメンスクナを調伏したのはたった一人の男だと言う。
しかもその男は銀髪蒼眼で、蒼雷を纏っていたと言う……よもやとは思うが、そいつは若しかして我が仇敵『氷薙稼津斗』ではないのだろうか?
余計な手出しは不要とだけ言って、暫くはテルティウムとセクスドゥムに件の男を監視させよう……真贋を見極めるためにな。



2003年8月○日


如何やら、件の男は矢張り奴で間違いないようだ。
テルティウムとセクスドゥムの集めた情報もさることながら、オスティアの格闘大会で無双をしているアイツは氷薙稼津斗で間違いない。
次元転送機の暴走で、私の細胞の欠片と同様に、奴も此方の世界に来たようだが、飛ばされた時代が異なっていたらしいな。
矢張り貴様もこの世界に来ていたようだな……あの時の屈辱を注ぐのもまた面白い。



2003年8月△日


まさか、あの土壇場で姫巫女と共に覚醒するなど、流石は英雄の息子と言ったところだろうなあの少年は。
最も今回の事で、氷薙稼津斗には私の正体の予測が付いたかもしれんが……其れは別に大した問題ではない。何ればれる事だからな。
問題は、奴のあの強さだ……嘗て、私を一方的に倒した時よりも明らかに強くなって居る――私とて強くなったが、今のままでは敵わないだろう。
だが、1年もトレーニングをすれば奴を超える事も可能な筈だ……私は戦えば戦うだけ強くなるように作られた『生物兵器』なのだからな。



2004年7月☆日


氷薙稼津斗とネギ・スプリングフィールドが、何やらこの人造異界を救う為の彼是をしているようだが、其れも直に徒労に終わる。
新たな下僕を作るのと同時に、私自身を鍛え抜いた……此れならば勝てる!奴を滅し、そして魔法世界と地球を支配し、今度こそ私は支配者になる。
さぁ来い、氷薙稼津斗。運命の輪が、貴様に『敗北と死の運命』をくれてやる。





「と、まぁ、掻い摘んで読みましたがこんな感じです。
 内容に関しては、彼是突っ込みたい所が満載ですが、以前に聞いた稼津斗さんの過去と照らし合わせて考えると、此れは疑いようがありません。
 私達の敵である『始まりの魔法使い』はイコール『運命の輪』……ホイール・オブ・フェイトです。」

手記を読み終えたのどかは、改めて始まりの魔法使いが、稼津斗と同じ世界の出身者――しかも因縁の深い相手だと断言する。
手記の内容から察するに、稼津斗の極大気功波で跡形もなく吹き飛んだ筈の運命の輪の、飛び散った血の一部が次元転送に巻き込まれたのだろう。
そして、これまた偶然にエヴァンジェリンの父であった人物の体内に入り込み、数年を掛けて身体を支配し『始まりの魔法使い』となったのだ。


「ホイール・オブ・フェイト……まさか、彼の真名の一部を偶然にも名乗るとはね……或は、僕がそう名乗る事すら計算していたのかもしれないけど。
 だけど、改めて思う――ネギ君の案に乗って良かったってね。
 表向きは滅びゆく魔法世界の救済を謳っていたけど、本音は魔法世界と地球の支配とは呆れて物が言えない……マッタク騙された気分だよ。」

「本当にね……稼津斗達について正解だったわ。
 其れに、ドレだけ強くなろうとも稼津斗に勝つのは不可能だと思うわよ?アイツは、現在進行形で戦ってる状態でも強くなるみたいだからね。
 大体にして、稼津斗の『強さ』に対する拘りは半端じゃないわ――アレだけの強さを持ちながら、尚も更に上を目指してる……正に限界なしよ。」

「てかさ、運命の輪って意外とおバカさん?寧ろ重度の厨二病患者じゃない?
 魔法世界と地球の支配者になるとか、今時どんな悪のラスボスだって口にしないと思うんだけど、ぶっちゃけ此れ小悪党のセリフだよ?」

「何て言うか全然負けが見えないわね?
 仮に、カヅッチが一時追い込まれても、土壇場で更なるパワーアップをして、反撃と同時に粉砕!玉砕!!大喝采!!!確定だしね?」

「そうそう、超○イヤ人3でも無理だったけど、土壇場で超サイ○人ゴッドに覚醒したみたいな〜〜?
 よーするに負ける要素が何もない訳で、つまり稼津先生は天下無双で、強靭!無敵!!最強!!って事でしょ?
 更に、ネギ君とエヴァちゃんも居るんだから、天地がひっくり返ったって絶対負けねーですよ!なので、私等は私等のすべき事をするのみ!!!」


その驚愕の情報も何のその。
フェイトとディズは多少思うところがあるようだが、1−Aの面子からすれば、始まりの魔法使いは『痛い厨二病患者』でしかなかったらしい。


何と言うか言いたい放題だ。
稼津斗とネギとエヴァンジェリンの強さを知っているが故かも知れないが、言いたい放題だ。始まりの魔法使いも、完全に雑魚ボス扱いである。


或は、これも1−Aと言うクラスの特異性なのかもしれない。
個性が強いだけでなく、旧3−A時代から、兎に角彼女達は物怖じすると言う事がない。口では色々言い乍らも、千雨もまた物怖じするタイプではない。

最大限ぶっちゃけて言うなら、彼女達は全員が『壁があるなら殴って壊せ』を地で行く少女達であるのだ。
故に、魔法世界の救済にどんな壁が立ち塞がろうとも、退く事だけは絶対に有り得ない!常に前進あるのみなのだから。


「そう言う事や!稼津さんは絶対に負けへん!やからウチ等は、装置の破壊を最優先に行うだけや!!
 最終決戦も、此処からがクライマックスや――気張って行くで、皆!!私等の手で、魔法世界を護るんや!!!」

「「「「「「「「「「おーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」


そして、何かを成すためにテンションを上げるのも、最早お約束と言えるだろう。
亜子の号令に全員が同調し、裏ミッション組のテンションは、Max振りきれての測定不能状態!!間違いなく、無敵にして最強のテンションだろう。








――――――








場所は変わって、稼津斗達の戦闘現場。


「此の蜘蛛やろう……何つ〜堅さやねん!俺の剛爆拳が効かへんとは……」

「如何やら彼奴は、堅い外骨格で身体を覆っているようでござるなぁ?
 尤も節足動物ベースなせいで関節は弱いやもしれぬが、其処をピンポイントで狙うとなると、些か難易度が高くなるでござるよ。」

ミュータント軍団と、稼津斗達の戦いは熾烈を極めていた。
稼津斗は、現在進行形でマジシャンを圧倒しているが、他のメンバーが必ずしも圧倒しているから有利と言う訳でもないだろう。

だとしても、負ける事は無いのだが。


「多少は強くなったみたいだが、この程度で俺に勝とうなどおこがましいにも程があるぜマジシャン。」

「貴様ぁぁ!!」

特に特筆すべきは稼津斗だろう。
嘗ては、互角程度の実力だったが、今は稼津斗の方が、圧倒的に強いのだから――如何あっても負ける事は無いと言って過言ではない。


「如何した、動きが止まって見えるぜ?
 残像を残す高速移動は見事かも知れないが、ネギの雷速瞬動を受けた俺からすれば、この程度のスピードは止まって見える!!」

「ガボアァァ!?……そんな、まさか!」


蹴り飛ばされたマジシャンは、訳が分からないだろう。
嘗ては互角だった相手が、既に自分では手の届かない次元の力を手にしたとは考えたくもないと言うのが正直な所だろうが、稼津斗は容赦しない。

怯んだ相手に対して、更に正拳突き一閃!!

その拳打の凄まじさに、マジシャンはまたしてもエントランスの壁にぶつかり大ダメージ!!


「来いよマジシャン……まさか、俺の準備体操で終わる訳じゃないだろ?
 お前如きは、ラスボス前の前菜に過ぎないが、前菜は前菜として俺の糧になってくれよ?――せめて其れ位じゃないと興醒めだからな。」

「ふざけるなあぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


尤も、マジシャンは直ぐに復活して戦闘体勢を取るが、されど稼津斗は余裕綽々。
両手を組んだまま宙に浮き、あからさまに挑発的な視線をマジシャンにぶつけている――俺を殺せるなら殺してみろと言わんばかりに。


如何やら、エントランスでのバトルも大分熱を帯びて来たようだ――その結果は神のみぞ知ると言うところだろう。








――――――








同刻、幻想空間内の高層ビルの最上階では、実に奇妙な光景が繰り広げられていた。


人骨を合わせて作られたと思われる不気味な窯から、赤い液体が溢れ出し、それが室内の床やら壁やらに刻まれた溝を通って進んで行く。

その進んだ先には、身体にチューブが繋がれた黒いローブの男――始まりの魔法使い。


赤い液体は、チューブによって吸い上げられ、其れを始まりの魔法使いに注入していく――何ともおぞましい光景だ。


だが、其れが注入されて行くにしたがって、始まりの魔法使いの魔力は膨れ上がって行き――






――ブチィィィィィ!!





遂には、自らチューブを引き千切り完全復活!!


ラスボス戦開始まで、あと少し―――多分そう言っても間違いではないだろう



何れにしても、最強最悪の存在が新たな力を得て蘇った――其れは、激戦になる事は間違いないだろう。




氷薙稼津斗と運命の輪……因縁深い二人が再会するまで――あと15分……













 To Be Continued…