ラストステージに到着した稼津斗達の前に現れた異形は、しかしこれまで葬って来た異形のモンスターとは明らかに一線を画す相手であろう。

尤も、其れ位の相手は想定の範囲内であるが、現れた『マジシャン』に対しての稼津斗の態度が気になった。


「相変わらず気取り屋だなマジシャン?
 日本語も話せる……寧ろ、日本語の方が標準装備なのに態々英語とは、格好つけ過ぎにも程があるんじゃないか?前にも言った事だけどな。」


其れはまるで、昔から知っている相手と話をするかのようだったのだ。

或は知っている相手なのかもしれない――ならば、マジシャンが現れた時の稼津斗の驚きようも理解できると言うところだろう。


「私からしたら約600年以上経っての再会なのでな……多少は気取っても良いとは思わないか?」

「口を閉じとけクソが。
 気取っていようといまいと、貴様が俺の敵ある事は変わりはないんだ――なら、やる事は一つ……そうは思わないか?」

だが、稼津斗は驚きはしたモノの顔色は一切変えずにマジシャンと対峙し、己の闘気を叩きつける!まるで少し遊んでやると言わんばかりにだ。
それでも、その闘気が大地を揺るがし、大気を震わせたのは間違いない事実であり、マジシャンもその闘気を受けて僅かに後退した事実がある。

「何故、貴様がこの世界に居るのかを聞くのも一興だが、生憎とそんなモノに興味はないんでな。
 だが、こうして俺の前に再び姿を現したと言う事はつまり――俺に再び殺されに来た、そうとっても構わないな?」

そしていうが早いか、稼津斗が指先から放った気功弾がマジシャンの頬をかすめ、其処に一筋の赤い筋を描く――稼津斗の技が皮膚を切ったのだ。

其れに驚くマジシャンと、不敵な身を浮かべる稼津斗――最終決戦の前哨戦が始まった瞬間だった。











ネギま Story Of XX 171時間目
『ラスボス前の中ボス戦也』











「如何やら本当に死にたいらしいな貴様は?……ならば望み通りにしてやる。貴様だけでなく、英雄の息子も諸共滅してくれる。
 来い、『ジャスティス』『ストレングス』『ハイエロファント』『タワー』『チャリオット』『エンプレス』『ハーミット』『ハングドマン』!!!」

だが、驚きながらもマジシャンは激昂するような事はなかったらしい。
頬に付いた血を舐め取ると、己の力を高め、更に配下たる8体のミュータントを呼び出し戦闘部隊を整える。

そして現れた8体のミュータントもまた、此れまで葬って来た妖魔や魔獣とは一線を画す相手であるのは間違いないだろう。

パンクロックのミュージシャンのような風貌の巨人『ジャスティス』。
筋骨隆々の2m以上の体躯を誇り、巨大なチェーンソーを手にした『ストレングス』。
身の丈以上の鉾を携えた半魚人『ハイエロファント』
全長数メートルはあろうかと言う大蛇『タワー』。
全身を鎧で固め、ロボットの様な姿をし、ハルバートを手にしている『チャリオット』。
まるで何処かの潜入工作員の様なボディスーツで身を固め、赤外線ゴーグルとツインブレード型のチェーンソーを装備した『エンプレス』。
乗用車4台分はあろうかと言う、巨大蜘蛛『ハーミット』。
漆黒の翼を広げて空を舞う蝙蝠男『ハングドマン』。

何れの相手も『力』だけならばマジシャンには負けるとも劣らないだろう。
尤も、マジシャンの様な知能は無く、本能のままに破壊行動を行う――故に、マジシャンの配下となって居るのだ。


其れでも、この8体の戦闘力だけを考えるならば、恐らくメガロメセンブリアの正規軍兵士では相手にならない程の強さであるのは間違いないだろう。
若しかしたら、1体倒すのに一個大隊が必要になるかも知れない。

しかし、そんな相手を前に稼津斗もネギ達も冷静そのものだった。


「お前を含めて9体とは、中々大盤振る舞いだと言いたい所だが――此れで足りるのか?」

「僕達を退けるには全然戦力不足ですよ此れ?それとも、始まりの魔法使いとの戦いの前にウォーミングアップの相手でも用意してくれたんですか?」

「まぁ、俺様は最強だから準備運動なんぞ要らねぇが、ラスボス前の退屈しのぎ位にゃなるってか?」

寧ろ、冷静どころか完全に舐めきって挑発している。
慢心ではない、此れは絶対強者と、其処に足を踏み入れつつある者のみに許された『余裕』と言うモノだろう。

其れで居て、何時戦闘が始まっても良いように感覚を研ぎ澄まし、即座に動ける態勢を取っているのだから、マッタク持って本当に隙が無いと言える。


「ほざくなよ矮小な人間共が。
 此処まで辿り着いた事は褒めてやるが、その程度の戦闘力では私達に勝つ事など不可能だ。
 特に、氷薙稼津斗――暫く会わない内に、貴様は随分と弱くなったようだな?今の貴様からは、嘗ての私を倒した時の様な覇気は感じられぬぞ?」

「……やれやれ、稼津斗にぃとは知り合いらしいから、どれ程の相手かと思ったが、正直ガッカリしたよ。
 君は何か?若しかして、今の私達が本気だと思って居るのかな?――だとしたら、あまりにも笑えないぞ?」

「今の私達は、余分な力を使わないように、極端に魔力や気を小さくして居るに過ぎん――私達の本気は、此れだ!!!」


――轟!!


其れでもまだ此方を見下しているマジシャンに対し、真名とイクサが逆挑発気味に返し、XXに変身!
同時に、稼津斗組は全員がXXに変身し、ラカンも気を解放!ネギとエヴァンジェリン、ネギ組とトレジャーハンターも魔力を解放し力の渦が迸る。


「!!!……馬鹿な、人間風情が此れだけの力を!?
 しかも、あの小娘達の姿……アレはまさかXX!!何故その力を!!」

「彼女達は俺のパートナーでね……俺と契約して『オリハルコンの心臓』をその身に宿した、最高にして最強の戦乙女達だ。
 どうだ、中々だろ皆?少なくとも、以前の世界で貴様等が好き勝手に葬り去った人達とは一線を画してるだろ?――此れが、人の持つ強さってね。」

「確かに其れは認めよう。
 だが氷薙稼津斗、貴様は如何なのだ?お前から感じる力は、まだ弱い儘だぞ?……よもや、私に大人しく殺される心算か?」

「そんな筈があるか――お前程度、XXに変身せずとも勝てるからな。
 見せてやるよマジシャン、XX未変身状態で『今』の俺の本気と言うモノを!覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


――バリィィィィン!!!


更に、XXにこそ変身しなかったが、稼津斗が気を解放し、その気が力の渦を大きくし、高層ビルのガラスを1枚残らず粉微塵に粉砕して見せた。


「な……馬鹿な、XXに変身してなくとも此れだけの力を持っているだと?」

「俺と貴様が戦ったのは、俺の感覚で言えば200年前だぞ?
 あの後もずっと戦い続け、そして此方の世界に来てからも日々鍛錬を怠らなかった俺が200年前と同じな筈がないだろう?」


其れに驚いたのはマジシャンだ。
今の稼津斗は、自分が知って居る者ではない――嘗てよりも数十倍強くなった者であると、本能的に理解してしまったのだ……が、退きはしない。


「更なるパワーアップ……だが、私とて力を増して蘇ったのだ!あの時の屈辱を、今此処で雪ぐ!」


言うが早いか、マジシャンは残像が残る程の高速移動で近付き、炎を纏った拳で殴り付けるが、稼津斗は其れを避けてカウンターの横蹴り一閃!
マジシャンが大きく吹き飛ばされ、此れが戦闘開始の合図となった。


「此れだけの戦力なら負ける事は無い!マジシャンは俺がやるが、残りの8体は任せる!
 あ、ハングドマンだけはネギとマクダウェルに任せるけどな――良いだろ?」

「大丈夫だけど、何で僕とエヴァだけ相手指定なの?」

「何でって……飛行タイプには、電気タイプと氷タイプが有効だからな?」

「成程、良く分かった!――行くぞネギ、私達に刃向う愚かさを骨の髄まで……否、細胞の核にまで刻み込んでくれるわぁ!!」


そしてネギとエヴァンジェリンも、稼津斗に指定されたハングドマンと交戦開始!


因みに、対戦表を詳しくしてみると……


・稼津斗vsマジシャン
・ネギ&エヴァンジェリンvsハングドマン
・古菲&クリス&リンvsタワー
・アキラ&裕奈vsエンプレス
・真名&超vsチャリオット
・楓&小太郎vsハーミット
・千草&クレイグ&アイシャvsハイエロファント
・ラカン&アスナvsジャスティス
・イクサvsストレングス


と、こんな感じである。
ネギ・エヴァコンビが多少過剰戦力かもしれないが、それ以外は実力的に考えても妥当な戦力配分であると言えるだろう――矢張り負けが見えない。


「オラ、行くぜぇ!!全力全壊、ラカンインパクトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!


そして『オッサン自重しろ』と言うなかれ!
ラカンの一発は、ジャスティスの5mはあろうかと言う巨体をブッ飛ばし、エントランスの壁に激突させてみせたのだ。バグキャラは矢張りバグキャラだ。


更にラカンだけではない、この場に居る全員が、対峙した相手と見事な戦いを展開していた。





中でも見事なコンビネーションを見せているのが、ネギとエヴァンジェリンのコンビだ。


「その程度の動きは見えていますよ!!」

「落ちろ、蝙蝠男が!」

縦横無尽に飛び回るハングドマンを相手取りながら、しかしネギもエヴァンジェリンも完全に相手を手玉にとっていた。


其れも無理はないだろう。
如何に相手が空を自由に翔けると言っても、雷速をその身に宿したネギからすれば、その動きは止まっているに等しい物であり余裕で視認可能だ。

見えてしまえば如何と言う事は無い。
ハングドマンの動きを完全把握できるネギが、行動制御の為に雷の魔法を放ち、エヴァンジェリンが氷の魔法で本命を撃つ陣形を完成したのである。

味方ならば頼もしい事この上ないが、敵対しているハングドマンからしたら冗談ではないだろう。


空を自由に翔けると言うアドバンテージを得ていた筈なのに、相手は普通に空を飛び、更には当たれば即死級の魔法を使ってくる難敵二人組なのだ。
今は辛うじて直撃を避けているが、もしも翼に電撃か氷撃を喰らったら、その瞬間にお陀仏なのは間違いないだろう。

何よりも最悪なのが、ハングドマンの攻撃がネギとエヴァンジェリンには一切通用しないと言う事だろう。
風の力を使っての光速手刀は簡単に避けられ、魔力で作り出した蝙蝠を飛ばす攻撃は、放った瞬間に全てが魔法の矢で撃滅されているのだ。

メガロメセンブリアノ一個大隊を単体で相手に出来るハングドマンであるが、今回は相手が悪すぎた。
ネギとエヴァンジェリンのコンビ――真正の『千の呪文の男』であるネギと『闇の福音』たるエヴァンジェリンのタッグがこの程度に屈する筈がないのだ。

まして、この二人は互いに心が通じ合っている恋人同士。
其れに敵があるか?――断じて否である!!



――カキィィィィン!!



そして、ついにエヴァンジェリンの氷が、ハングドマンの羽根を凍り付かせてその飛行能力を奪う。
地に落ちた蝙蝠男など、弾薬を失った銃器以上に恐れるに足りない存在だ――そして、此れは最大級のチャンスでもある。狩る側からすれば!!


「この好機は逃さない!行きますよエヴァ!!」

「言われるまでもないぞネギ!!この一撃で葬り去ってくれるわ!!」

此れが好機と、ネギとエヴァンジェリンの魔力は最大級に膨れ上がる――トドメの一撃を放つのは間違いないだろう。
ネギの周囲には雷が迸り、エヴァンジェリンの周囲にはダイヤモンドダストが輝く……如何やら、魔力の充填は既に十分であるらしい。


「此れで終わりにします!!」

「私とネギの一撃で葬られる事を光栄と思え、愚かなる弱者が!!――消え失せろ!!」

「「氷河雷龍葬(アイシクル・ライトニング・ストライク)!!」」


――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァッァァァァァン


ネギの左拳が放った雷撃と、エヴァンジェリンの右拳から放たれた氷撃が一つとなり『雷を纏った氷の龍』を作り出し、ハングドマンを喰らい貫く!



圧倒的な質量の雷氷龍に喰い貫かれたハングドマンは、断末魔の悲鳴を上げる事も出来ずに、一撃撃滅!!


英雄の血を継ぎながらも努力を怠らなかった天才と、600年もの時を生きて来た真祖の姫のコンビは、矢張り無敵レベルに最強だった。








――――――








同時刻、裏ミッション組は、桜子の言う『無視できない場所』に辿り着いていた。


「此処は……書斎やろか?」

「でしょうね……言うまでもなく、始まりの魔法使いが使っていた書斎なんだろうけどね。」


辿り着いた先にあったのは『書斎』。
天上を除く壁面は、全て本棚になって居るような場所であり、活字恐怖症の人間には1秒たりとも居る事の出来ない空間なのは間違いなさそうだ。

尤も、此処に辿り着いた面子には関係ない事だが。


「つーか、此処にそんなに大事な何かがあるの?とてもそうとは思えないんだけどさ?」

「この本は?………うん、全然読めねぇわ。アラビア語の本とか何がしたかったのよ始まりの魔法使いって?」

「………フェイト様に付いていて正解だったとつくづく思いますね…」

それ以前に、関係ないどころか室内の物色を始めていた!……この行動力は、流石1−Aであると褒めるべきなのか非常に迷うところだろう。
尤も咎めたところで焼け石に水なのでフェイトもディズも何も言わないのだが……



だがしかし――


「此れは?……若しかして始まりの魔法使いの手記でしょうか?」


この物色を行った意味は有ったようだ。


のどかが、始まりの魔法使いの手記と思しきダイアリーを書斎から発見したのだ。


この成果は非常に大きい。
もしも始まりの魔法使いに関しての何かが記されていたなら、それを戦術に組み込む事が可能になるのだから。



「え……?」

だが、そのダイアリーをめくったのどかは思わず言葉を失ってしまった。
だが其れも無理はないのだろう――そのダイアリーには、始まりの魔法使いが、稼津斗と同じ世界からやって来たと言う事が記されていたのだから…












 To Be Continued…