海上に架かったハイウェイに、その先に見える高層ビル……其れは如何考えてもこの魔法世界には似つかわしくない物だ。
いや、似つかわしくないどころか、高層ビルは兎も角、海上ハイウェイは魔法世界に於いては『無用の長物』であると言わざるを得ない代物だと言える。

魔法世界には普通に空を飛行する手段が幾つも開発されている。
其れを踏まえると、如何に海上に建てられた高層ビルであろうとも、其処までの道を態々海上ハイウェイで作る必要は全く無いのだ。

恐らく此処は始まりの魔法使いが作り出した『結界』の内部なのだろうが、其れにしたって魔法世界の景観としては余りにも不似合だろう。


「あそこに始まりの魔法使いが……」

「そう見て間違いないだろうけど、此処からあそこまでは、目測で2〜3qは下らないわ……出来るだけ力は温存しておきたいってのが本音よね。」


だが、其処に行くには2〜3q以上の距離を詰めなばならない。
如何にこの連中が強いとは言っても、其れだけの距離を飛行、或は走破すれば少しばかり疲れは出る。
ラストステージに向けて出来るだけ消費は抑えたいと思っていたところで……


「あのトラック、エンジンを直結させればまだ動きそうだな?」

稼津斗が撃ち捨てられたトラックを発見。
フロントガラスこそ粉々に飛び散って役を成していないが、それ以外には目立った機能不全はないし、何よりも此処からの『足』になるのは大きい。

早速稼津斗は、キーの下の部分を破壊し、ロックされたハンドルを無理矢理動かし、最後のキーボックスをエンジンと直結させて準備完了!
直ぐにエンジンが唸りを上げ、何時でも走り出せる状態になったようだ。


「モノスゴ〜〜く、鮮やかだったけど、何処で習ったのよ稼津君?」

「其れは企業秘密って事にしておこうぜ裕奈。
 大体此れで動いたんだから面倒事は無しだろ?――だったら俺達は、ラスボスの居る場所へ一直線に突っ込むだけだ……行くぞ!!」

恐らく稼津斗は海外修業中に車やバイクを直結させて動かした経験が豊富なのだろう。
兎も角、一行はラストダンジョンに向かうために、稼津斗の運転する大型トラックへと乗り込んで待機する。

其れを確認した稼津斗は、トラックのエンジンを噴かせ、目的地に向かって邁進!そして驀進!!――いざ、ラストステージへ!!!











ネギま Story Of XX 170時間目
『The last decisive battle place』











さて、トラックでの席順を簡単に言うなれば、運転席に稼津斗が座り、助手席には真名。(此れは公平な阿弥陀で決められた。)
その他の面子は、トラックの荷台で過ごしてる……だが、運転を始めてから稼津斗は、何か物思いにふけっているらしく運転しながら外を見ていた。


「考え事かい稼津斗にぃ?」

「少しばかりな……」

其れを真名が聞いてみても、稼津斗はそっけなく返すだけ。
運転はこなしているので危険はないが、如何にも稼津斗の態度が気になって仕方なかったのだ。


「元の世界かな?」

「……その勘の鋭さには脱帽するよ。」


其れを真っ先に看破したのは真名。
稼津斗の態度から、『若しかしたらこの景色は、稼津斗にぃが元居た世界にあった景色なのかもしれない』と考えて問えば、見事に大当たりであった。


「だが似ているだけで、それ以上は何も言えないと言うのが正直な所だ。
 此れ位はこっちの地球にもあるモンだしな……まぁ、始まりの魔法使いが何を思ってこんな物を結界内に作ったのかは分からないがな。」

「似ているだけで、その物だと言う確信はないって所か……」

「現場につけば……分からないか。
 俺の居た世界では、海上ハイウェイの先にあったのは只の廃墟以下の場所だったからな――あんな立派なビルがあったかどうかは不明だぜ。」


だが、其れでもやはり不明な部分の方が大きいらしい。
尤も其処まで何か知りたかったわけでもないし、現場に到着するまでの雑談として振った話なので、真名もあまり深くは突っ込んでは来ないようだが。


しかし、ラストステージへの道程と言うのは得てしてスンナリ行かないのが世の常だ。
或は世界の法則か、其れは分からないが、兎に角絶対にストレートに到着とだけは行かないのだ!此れはもう世界の仕様と言っても過言ではない。


「稼津斗殿、後方から人型の何かが運転する車が多数接近中でござる!」

「俺は、運転で手が開かないから迎撃の方は任せる!」

「あいあい、了解にござる!!」

「ったく、車に乗りながら敵と戦闘だなんて、まるでガンコン使用のガンシューティングをやってる気分ヨ!」

「ですが、此処で止まる訳には行きません!!」

「消え失せるが良い三下が!!」


現れたのは、人型の異形――分かり易く言えば『ミュータント戦士』が乗り込んだ小型のトラックが10台以上!
1台に乗っているのが運転手を除いて約6体なので、単純な戦力比は1:4以上な訳だが、その程度の戦力差等この面子の前には全く意味がない。

すぐさま迎撃態勢になり、魔法や気が飛び交い追ってくるトラックを撃滅していく。
稼津斗組やネギ組にラカンは言うに及ばずだが、トレジャーハンター達もクレイグを筆頭に魔法ボウガンやらを使って的確に追手を殲滅している。

にも拘らず、次から次へと現れてくる辺り、改めて此処がラストステージなのだと実感させてくれるようだ。


尤も止まらず進むだけなのだが――


「道路が寸断されてるだと!?」

その先の道路が陥没し、向こう側とは10m近く離れてしまっていたのだ。
如何に、現在時速100q以上で走行しているとは言っても、その助走で巨大なトラックが10mもの距離を飛ぶのは絶対に不可能な事でしかない。




と、そう考えるだろう普通は。
だが、生憎とこの連中は普通ではない。


「スピード落とさず、其のまま突っ込みなはれ稼津斗はん!
 式神符、妖の参拾四式………ウチ等の進む道をその身で繋いでおくれやす!」

『ヌリカベ〜〜〜〜!!!』


なんと、千草が『妖怪ヌリカベ』を式神符から呼び出し、その巨体を『懸け橋』にする形で切れた道を繋いで見せたのだ。
そのヌリカベの橋を超高速で通過し、稼津斗達は無事に対岸に辿り着く事が出来た。超一流の陰陽師で呪術師である千草ならではの発想だろう。


「アンタ達は渡らせませんえ?」


更に自分達が渡りきったらヌリカベを札に戻すおまけつき。
其れはつまり地面が消える訳で、ヌリカベを渡っていた、或はこれから渡ろうとしていた追手は、憐れ海に真っ逆さま!完全に千草の作戦勝ちだった。








――――――








一方で裏ミッション組だが……


「あ、此処通り抜けるの5秒だけ待って。」


――ドドドドドドドドドドドドドドッドドドッドドドド!!!


「……このまま突っ込んでたら全身蜂の巣……流石は桜子大明神!!」

「ありがたや〜〜〜〜!!」


夏美のアーティファクトで見つかる事だけは絶対に無いが、宮殿内部に仕掛けられているトラップを尽く回避できたのは桜子の功績と言えるだろう。
アーティファクトによって強化された天性の強運と第六感が最大レベルで発揮され、有る時は吊り天井を、有る時は硫酸の溜まった落とし穴を回避!
そして今し方は定期的に『魔力の矢』を発射する罠を回避!『桜子大明神』に柏手を打って、賽銭を備えても罰は当たらないだろう、絶対に。


何れにしても、最強クラスのステルスと、最強クラスの強運の組み合わせならば、目的地にはスンナリ辿り着けるだろう。



否、実際辿り着ける予定だったのだ―――


「分かれ道?」


この分かれ道に差し掛かるまでは。


無論只の分岐点ならば、桜子のチート強運で『正解』を選ぶ事は出来るだろう。
だが、こんな状況で頼りになる筈の桜子が分岐点で何か考え込んでいる――何時もなら、己の強運にモノを言わせて即決即断の桜子がだ。


「どったの椎名?」

「亜子ちゃん……んとね、私の勘では正解は右の道なんだけど、左の道は正解じゃない代わりに『重大な事』を知る事が出来るかも知れないんだよ。
 普通なら、最短距離を行く所なんだけど――こっちの左の道は避けちゃいけないって、私の勘がそう告げてるんだよ……だから迷ってんの。」

「なら迷う事はない、左に行こう。」

其れは選ぶに選べない事だったからだが、其れを後押ししたのは何とフェイト。
流石に旧3−A時代から、1年近く付き合って居れば現1−Aがドレだけトンでもない集団であるかは分かる――故に桜子の運と勘に任せたのだろう。

何だかんだ言って、フェイトもスッカリ1−Aのメンバーとして馴染んでいるようだ。


「戦いに於いて何より大事になるのは『情報』だ……その『大事な事』は絶対に知っておくべきだと、僕は思うよ?」

「ん〜〜〜……だよねぇ?私の勘もそう言ってるし。
 ……よし、じゃあ少し遠回りになるけど先ずは左の道に進みまっしょい!!大事な事の正体を突き止めてから裏ミッション再開だよ〜〜!!」


フェイトの後押しもあり、一行は『左の道』を選び進んで行く。



だが、この時点では予想もしていなかっただろう。
進んだ先で『始まりの魔法使い』の正体を特定する『手記』を目にする事になる等と言う事は………








――――――








場所は再び突入組。
千草の咄嗟の機転で追手を完全にシャットアウトした一行は、更にスピードを上げてゴールである高層ビルのエントランスにゴールイン!!

突入する直前に数体のミュータント戦士を轢き殺した気がしなくもないが、其れについては突っ込む事自体が意味を成さない。


ともあれ、ラストステージに降り立った一行は、ビルの内部に突入せんとするが――



――バガァァァァァアァン!!



「「「「「「「「「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」


突如ビルの最上階付近で爆発が起き、其れと同時に稼津斗達の前に1体の異形の存在が現れていた。
形そのものは人型だが、頭部には『角』と呼んで差し支えないモノが2本生え、身体の一部で剥き出しになって居る筋肉は力強く脈を刻んでいる。


「まさか……貴様は!!」

「Here you've arrived……. You are admirable. But……, here is your end. (よくぞここまで辿り着いたものだが……其れも此処で終わりだ。)
 You are knocked down by me here, or you are knocked down by him.(此処で私に倒されるか、或は奴に倒されるか。)
 Anyway, that's your destiny…, it's impossible to change it.(何れにしても其れが貴様等の運命だ…変える事は出来ない。)」


其れに何よりも驚いたのは稼津斗だ。


何故なら、目の前に現れた異形の存在、其れは―――


「マジシャン……!!」


己が元居た世界に於いて『運命の輪』に次ぐ、実質ナンバー2の座に居た最強クラスのミュータント『マジシャン』その物だったのだから………















 To Be Continued…