「フェイト、ディズ、アンタ等が居れば大概の敵は大丈夫だと思うが、一応は気を付けてくれよ?
 相手は『始まりの魔法使い』って言う、ある意味での最強クラスのチートキャラだからな…ぶっちゃけどんな仕込みをしてるか想像出来ねぇからよ。」

「まぁそうよね……だけど、嘗てはアイツの部下だっただけに、アイツがどんな罠を仕掛けてるかは大凡の予想が付くから大丈夫よ千雨。」

「いざとなったら装置ごと吹き飛ばせば良いだけだし、まぁ何とかなるさ。」


魔法世界破壊装置を破壊する為のメンバーは、宮殿内部に突入する準備は万端整っているようだ。
この突入は隠密行動が要故に、夏美のアーティファクトが必須であり――突入メンバーの手首には、夏美が精製した『魔力の鎖』が巻き付いている。

此れは『手を繋がずともステルス機能を共有する策』として、夏美が一年かけて編み出したモノだ。
後は此れで夏美がアーティファクトを起動すれば、最強レベルの『ステルス軍団』の完成である。桜子の強運も有り、見破られる事は先ず無いだろう。


「まぁ、巧く行くと信じてるけどよ……何かあったら直ぐに連絡しろよ?
 こっちで対応できる事態なら、私と茶々丸さんで何とかしてやるからよ……死ぬんじゃねぇぞテメェ等………!!」

「死ぬ筈ないやろ長谷川……必ず生きて戻るわ!
 大体にして、稼津さんとネギ君達が頑張っとるんや……此処でウチ等がへま出来るかい!!ウチ等はウチ等の使命を果たす……其れだけや!!」

「だったな……おっしゃ、頼むぜお前等!
 魔法世界をぶっ壊すなんて、ふざけた事を成さんとする装置を粉々にぶっ壊しちまえ!!出来るだろ、アンタ等ならさ!!」

「確認不要ですよ千雨さん……装置は必ずや私達で!!」


本音を言うならば千雨と茶々丸も同行したいが、其れではバックアップメンバーが一切居なくなってしまう……故に千雨達は艦に残る事にしたのだ。
そして、其れを知ってか知らずか――ともあれ内部突入を敢行する面子の気合は充分であり、此れならば失敗は有り得ないとすら思わせてくれる。


最終決戦の裏Missionが、此処に開始された。











ネギま Story Of XX 169時間目
『凶刃を制するは無敵の剣聖』











場所は変わって、刹那が戦って居た場所。


「…………」


刹那の目の前には、匕首・十六串呂で全身を貫かれた月詠が横たわっている。
普通なら、胸の中央と左右と首と腹を貫かれたならば、其れで絶命は間違いないだろう。――が、刹那は屍と化して居る筈の月詠を睨みつけていた。


「下らん演技は止めろ月詠、動かなくとも貴様の命の鼓動が消えていない事くらいは分かるぞ?」

「………くふ……くふふふふ……やっぱりばれとりましたか先輩〜〜〜。
 気付かんままに背を向けるようなら、その瞬間にさっくりやっとったんですけれど、流石は刹那先輩、感覚の鋭さも見事なモノや……素敵おすなぁ…」


刹那のセリフに呼応するかの如く、絶命していた筈の月詠が起き上がり、恍惚とした表情で刹那に語り掛ける。
アレだけの攻撃を受けて尚生きていると言う事は、月詠が既に人でないのは明白だ。


「貴様に素敵などと言われても悪寒が走るだけだ殺人狂が。
 ……しかし、実際に相手にすると厄介極まりないものだなオリハルコンの齎す不死の能力と言うモノは……」

「くふふふ……自分は死なんで、一方的に殺す事が出来るなんて最高ですわぁ〜〜〜。」


その月詠のセリフに、しかし刹那は応えずに目にも留まらない神速の踏み込みから夕凪を真一文字に一閃!


「己の死す覚悟は無しに、相手の命を奪うか……クズが。
 如何に不死であるとは言え、稼津斗先生もネギ先生も戦場に立つ以上は『奪われる覚悟』を決めている!――其れも無く命を奪う気か貴様は!!」



――バシュン!!



更に踏み込みの速度を上げ、村雨での連続攻撃は激しさを増していく。


「のわぁぁぁぁ?ちょ〜〜っと、激しすぎませんか先輩〜〜〜〜?」

「フン、激しいのが好みなのだろう?
 態々貴様に合わせてやったんだ……精々最後まで楽しんでくれ!」


其処から刹那は、今度は村雨を逆手に持ち、目にも映らない逆手居合いの超速ラッシュで月詠を追い込んでいく。
とは言え、月詠もまた只の人間ではない故に、その超速逆手居合いを辛くも避け続けて致命傷を喰らわないように動いているのだから驚きだろう。


「如何した月詠!護ってばかりでは勝つ事など出来んぞ!!」

「でしょうなぁ?……せやけど先輩、ウチを甘く見すぎですわ〜〜〜♪」

「なに?」

「ウチがオリハルコンと闇の魔法だけで満足すると思ってたんですの〜〜?
 そんな筈ないですやないの〜〜〜?……寧ろウチが宿すに最も相応しい力がある……其れは分かりますやろ〜〜?」

だが、そのラッシュの最中に月詠は何とも不気味な事を言ってくれた。
オリハルコンと闇の魔法だけでも厄介極まりないと言うのに、更には其れとは別の力まで宿していると言うのだから。


「貴様が……まさか、貴様――『殺意の波動』までもその身に宿したと言うのか!?
 強さを得るために、其処まで人間を捨てたと言うのか月詠………この、大馬鹿者が!!!」

「最強の高みに上る為ならば、私は人でなくなっても後悔はありまへん!
 誰よりも強くなり、その力で人を斬り殺す……ウチの望みは其れだけ……其れが叶うなら、人でなくなろうと、魔法世界がどうなろうと知りまへん。」


そして其れはあろう事か『殺意の波動』。
稼津斗であっても制御に苦しんだ狂気の力を月詠は宿していたのだ……しかもその殺戮衝動に完全に身を委ねているらしい。
既に異形の姿となって居た月詠だが、殺意の波動を発動した事で肌が茶褐色になって目が赤く輝き、更にその異形が際立って行き、力も増大する。


「イヒヒヒ……先輩〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「むお!?」



――ガキィィン!!



同時に月詠が反撃の一手を放ち、刹那の攻撃を弾き飛ばす。
オリハルコン、闇の魔法、殺意の波動の3つを同時に発動した状態の月詠の力は、刹那の超速連撃にも対応できるらしい。


が、堪らないのは刹那だ。
此処まで自分が優勢に戦いを進めて居たにも拘らず、此処に来て攻守が逆転してしまったのだから。

3つの力を覚醒した月詠の猛ラッシュに、今度は刹那が防戦一方なのだ。――其れでも村雨で見事に捌いてはいるが、いずれ限界が来るのは明白。


「ほいな♪」

「く……!!」


――カキィィィン!!


そして遂に月詠の斬撃が、刹那の村雨による防御の隙間をこじ開け、一瞬の隙を作り出す。
僅か一瞬、されど一瞬……その一瞬を逃さず、月詠は刹那の左胸を狙って渾身の突きをを繰り出し、凶刃の切っ先が刹那の身体を貫き――


――キィィィン!



はしなかった。
いや、確かに月詠の剣は刹那の心臓を狙っていたのだが、刹那の身体に切っ先が触れた瞬間に弾かれたのだ……恰も鋼鉄に阻まれたかの如くに。


「後一瞬遅かったら、閻魔の前に参上して居たかも知れんな……」

そして、鋼鉄に弾かれたような感覚は決して間違いではなかった。
月詠の凶刃を弾いた刹那の姿は、まるで全身が鋼鉄化したかのような硬質で鈍い金属光沢を放つモノへと変わっていたのだから。


「先輩、その姿……ま、まさか『四神符』を使ったんおすか!?」

「正解だ月詠。だが只使っただけじゃない、私は私自身に四神符を使い、その力と自分を融合させたんだ。
 今のこの姿は、絶対的な防御力を誇る『玄武』の力を使った状態だな?……この身体は、貴様には斬る事は出来んぞ月詠!!」


再び攻守逆転!
四神の力を自らに融合した刹那は、今度は蒼髪蒼眼の姿に変わり、己の周囲に水で作り出した剣を展開して攻撃を行っていく、此れは『青龍』だろう。


「そんな……四神の力は、一流の陰陽師でも扱いきれるモノやあらへんのに、如何して剣士の先輩が其れを!!」

「確かに私は剣士だが、其れとは別に陰陽術や呪術に関しては最高の師が居たんだ……四神を扱う事だって何も不思議はない!
 其れに、四神の扱いが難しいのは心の強さが問われるからだ。――例え私自身は弱くとも、信じる仲間が居るのならば恐れはない!有り得ない!」

今度は烏族解放の状態に戻るが、眩い白髪と白い翼には黒いラインが……お次は『白虎』の出番だ。
白き猛虎の力を宿した刹那の斬撃は、まるでその爪牙を思わせる鋭さを見せ、月詠を追い込んで行く。


――バキィィィィン!!


「そんな……!」

その激しい白き猛虎の攻撃は、遂に月詠の黒い刀を完全に粉砕!
だが、其れでも刹那は止まらない。……理解して居るからだ、戦闘不能になったからと月詠を見逃せば必ずや大きな争いの火種になると言う事を。

そして、散らなくても良い命が散ってしまうと言う事を。


だからこそ止まらない。


「此れで終わりだ月詠!!」


――轟!!


終幕宣言と共に、またしても刹那の姿が変化!
髪と翼が、燃え盛る轟炎を思わせる真紅に染まり、村雨にも紅蓮の炎が纏わりついている――四神最強の『朱雀』の力を宿したのだ刹那は。


「貴様を滅した業は生涯背負おう……だが貴様は、此れまでに理不尽に奪って来た命に詫びながら逝け!!
 神鳴流奥義『斬魔剣・弐之太刀』+烏族剣技+四神符『朱雀』……消えろ月詠ぃ!!此れが我が奥義!!喰らえ……滅鬼鳳凰斬ーーー!!

最大の一撃!
その瞬間、翼は炎の翼となり、村雨の刀身も正に『炎の剣』になってその刀身が刹那の身の丈3倍以上に伸び、全てを斬り捨てる刃と化したのだ。


攻撃モーションそのものは大きいが、だが月詠は防御も回避も出来なかった。
朱雀と融合した刹那の放つ『超一流の剣士の放つ剣気』に押され、己の身を護る為の行動を取る事が出来なかった――それ程までの一撃だった。


――ザシュゥゥゥゥゥゥ!!


「いぎあぁぁぁあぁぁぁぁぁっぁぁあぁぁ!!」

袈裟懸けに斬りつけられた月詠は聞くに堪えない悲鳴を上げる――切り裂かれた部分を同時に焼かれたのだから無理はないだろうが。
しかし乍ら、一般人ならばショック死してもおかしくない一撃を喰らっても月詠はまだ生きている……呆れたしぶとさであると言えるだろう。


「あは……アハハハッハア〜〜〜……こうも簡単にウチを超えるとは、流石は先輩や〜〜〜。
 此れは如何やっても勝てる気がしませんなぁ……せめて、先輩の一撃で私を切り裂いておくれやす〜〜……それがウチの望みや〜〜〜〜♪」

月詠自身、敗北を悟ったのだろう。
最後の願いを口にするが……


「断る。」

刹那から返って来たのは断りの一言だった。


「誰が貴様の様な狂人の願いを受け入れるか。
 それにな、貴様に裁きを下すのは私ではない……貴様に裁きを下し、そして滅するのは、貴様が此れまでに理不尽に奪って来た魂達だ!!」


刹那からすれば、月詠は許しがたい狂人だ。
だが、自分で其れを断罪する心算はなかった……月詠に裁きを下すのは、此れまで月詠が奪ってきた者達の怨念だろうと考えていたから。


「え?……な、なんやこれぇぇぇ!?」

「貴様が此れまで屠って来た者達の怨念だ。
 よもや影に潜んでいるとは思わなかったが、こんなに近くに居たのに気付かないとは、お笑いだな月詠。」


その予感は的中し、膝をついた月詠の影から、如何ともしがたい異形がその姿を現す。
其れも一体ではなく、数えきれないほどの数だ――其れこそ如何に少なく見積もっても300体は下らないだろう。

そして現れた異形は、倒れ伏した月詠の身体を千切り始めた。


『返せ……私の身体を返せ。』

『如何して死ななければならないの?………下賤な剣士……お前は許さない……!!』


無数にある其れは、各々が呪詛の言葉を紡ぎ、月詠の身体を破壊していく。


「いや…いややあぁぁぁあぁぁ!先輩の剣で斬られるなら兎も角、こんな奴等に身体を喰われて何て、そんなの嫌や!
 どうせ終わるんやったら、先輩の刃で終わりたい!……コイツ等に食われる前に、ウチを斬り殺して先輩!先輩にやったらウチは――――!」

「断る。
 其れは貴様の背負う業だ……精々生身のまま食われる恐怖を味わいながら地獄に落ちるが良い!人の心を失った外道には相応しい末路だ!」


其れに堪えかねた月詠の願いも刹那は一蹴する。
人の心を失い、己の享楽の為に命を奪う行為を『是』とする殺戮マシーンに掛ける慈悲はないし、其れの願いを聞き入れてやる義理も義務もない。


「そんな……あ……あ…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!」


数分の後、断末魔の叫びと共に『月詠』と言う名の剣士はこの世から消え去り、後に残ったのはオリハルコンの結晶のみだった。


月詠の末路を見届けた刹那は、無言でオリハルコンの結晶を掴み取り――一瞬の後に朱雀の力を使って焼却。
あまりの高温に、オリハルコンは砕け散り、そして炭と化していく……月詠が再びこの世界に現れる事はもうないだろう


「精々閻魔への言い訳でも考えておけ……地獄への直行ツアーを心の底から楽しむが良さ。」


完全勝利を収めた刹那は、村雨を夕凪と武御雷に分離し、先の部屋へと歩を進めて行った――最強の勝利を胸に抱きながら……








――――――








――バガァァァァァァァァァン!!


一方で稼津斗達だが、此れはもう分かり切って居た事ではあるが、道中に現れた敵など準備運動にすらなって居ないと言うのがまる分かりだった。
現れた召喚魔の数は千体をも超えると言われているが、そんなモノは所詮は練習台に過ぎないのだ。と言うか、稼津斗とネギが出張れば瞬殺確定。

現に今も、稼津斗とネギが殴り飛ばした相手が、勝手に吹っ飛んで次のフロアに至る扉を粉砕してくれたのだ。……何ともアレな事だろう。


「……扉とは手で押し開けたり引き開けたりするものの筈なんだが……その認識が変わりそうだよ、私は…」

「此処に突入してからは『扉は破壊する物』になりつつあるからね……」


エヴァンジェリンとイクサの言う事もさもありなんである。


だがしかし、吹き飛ばされた扉の向こうに現れた光景には全員が息を飲んだ。
扉の先には開けた大海原、其処に掛かる一本の高速道路に、そしてその先にある超高層ビル……幻想空間と言っても過言ではないモノだ。


だからこそ、突入しなくてはならないのだ。
この海上ハイウェイの先にある超高層ビル――其処にラストボスである『始まりの魔法使い』が居るであろうことは先ず間違いないのだから………















 To Be Continued…