稼津斗が力尽くでこじ開けた扉の先に待っていたのは、何と言うかどうにも表現し辛い空間だった。
一切の装飾も調度品も何もなく、有るのは只々どどっ広い部屋であり、その部屋の床面や壁面は周期的に色彩を変えて、不気味さを漂わせている。


「何なんだ此れは?」

「分からないけど……只の大部屋じゃないとは思う。」


詳細は不明だが、ならば尚の事警戒するに越した事はないだろう。
稼津斗、ネギ、ラカン、エヴァは勿論、稼津斗組の裕奈、アキラ、真名、楓、イクサ。ネギ組のアスナと古菲と超に、千草と小太郎とクレイグ達も然りだ。


「……来るなこりゃ。」


暫し警戒体制のままで居たが、ラカンの呟きと共にそれは起きた。



――ボトボトボトボトボトボトボト!!


「「「「「「「「「「「「「「「「「「!!!!????」」」」」」」」」」」」」」」」」」


突如天井から降り注いだ『何か』――決して少量ではなく、ともすればこの部屋を覆い尽くさんばかりの凄まじい量が、一気にこの部屋に現れたのだ。
此れには流石の稼津斗とエヴァも驚く。と言うか驚くなと言うのが無理な話だろう。


何故なら、部屋を覆い尽くさんばかりに降り注いだそれは、大小様々かつ毒の有無もあるが、極めて攻撃性の高い無数の蛇であったのだから――











ネギま Story Of XX 167時間目
『剣士の共演。否、剣士の狂宴!』











「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……斬岩剣!!

「いやぁぁぁぁあ〜〜〜〜〜ん♪くふふ、見事な一撃ですわ先輩〜〜〜〜♪」

「あくまでも殺し合いを楽しむか……狂人め。」

場所は変わって、刹那と月詠の闘う場は色々と凄い事になって居た。
正邪の違いはあれど、共に一流と言って過言ではない二人の剣戟はすさまじく、その剣戟の余波で、柱は切り倒され、壁には無数の刀傷が見える。

時間にしたら10分にも満たないが、其れだけの短時間に、どれ程の戦いが繰り広げられていたのかと言うのを推し量る事は出来るだろう。


「尤も、如何に狂おうとも貴様では私に勝つ事は出来ん――勝てない理由があるからな。」

「?」

そして、一見すれば互角に見える戦いも、真の達人が見れば『刹那優勢』である事を見抜けただろう。

其れを証明するように、刹那は夕凪を一度鞘に納めると、同時に今度は抜刀一閃!
刹那ほどの使い手ともなれば、抜刀の際に発生する風圧や衝撃すら武器として使用する事が出来る――其れで不可視の攻撃を月詠に撃ったのだ。


そして其れだけでは止まらない。
抜刀の衝撃波を盾にする形で月詠に肉薄し、夕凪と鞘を使った『疑似二刀流』での猛ラッシュを繰り出し、其れの締めとばかりに眉間に一閃炸裂!!

最低でも脳震盪を引き起こすだろう一撃を喰らえば月詠とて無事では済まない筈だ――――


「クフ……クフフフ……この一撃、ホンマに見事ですわぁ………死の寸前のこの何とも言えぬ快感……アハッ、ホンマにエクスタシーや。」


が無傷。
いや、それ以前に此れだけの攻撃を目一杯喰らっても尚、とろけた表情を浮かべる月詠は、とっくの昔に壊れているのだろう。


だが、そんな『異常の塊』とも言える月詠と相対しながら、しかし刹那の精神は一切の揺れはなかった。寧ろ月詠を観察する余裕すら見せていた。

「成程、心の底から狂っていたか――何とも面倒な相手だが、私の敵ではないな。
 強さを求め、狂の道を選んだようだが、貴様には信念が感じられない!強さを求めて狂うのを悪いとは言わんが――護るべき者なくては無意味!」


言うが早いか、再び高速居合いを一閃!!
『抜刀斬り上げ』とでも言うべき其れは、月詠の身体を逆袈裟に切り裂き血飛沫が舞う。身体を両断された訳ではないが、大ダメージは間違いない。






――相手が普通の人間であったならば。






「ん〜〜〜……先輩の本気の一閃は効きますなぁ?其れこそ、今の一撃でイってしまわんかったウチ自身を褒めたいくらいに。
 しかも、刀剣類では大型に入る野太刀で目にも映らない程の高速居合いとは免許皆伝もんや――せやけど、相手が悪すぎましたなぁ?」


――シュゥゥゥゥン……


普通なら戦闘不能が確実となるような傷が瞬時に塞がったのだ。


「人である事を捨てたと思ってはいたが、その超再生能力はエヴァンジェリンさんや稼津斗先生にも通じるモノがあるな?
 更に総督府での貴様の肉体的変化を考えると――月詠、貴様何処で手に入れたかは知らんが『オリハルコン』の力をその身に宿しているな?」

「正解ですえ〜〜〜〜♪そして此れがウチの本気――戦闘力は50倍!
 更に………術式装填『殺刃天獄』!!オリハルコン+闇の魔法の最強の組み合わせ……この力の前には敵など有りまへんわぁ。」


同時に其れが、刹那に総督府で感じた疑問の答えを出してくれた。
何処で、どうやって手に入れたかは知らないが、月詠は間違いなくオリハルコンの力を――XXの能力をその身に宿していたのだ。
しかも、其れのみならずオリジナルスペルによる闇の魔法まで体得して『鬼』となり果てた……強さのみを追い求めた者の末路とも言うべき狂気の姿。


だが、其れを前にしても刹那は驚かない。


「私とお前では価値観も何もかもが違う故に、貴様がどんな手を使おうと其れをとやかく言う気はない。
 其れで強くなれると言うのならば、考え得るあらゆる手段を講じると良い。――だが、外道で邪道な剣では私を倒す事は絶対に出来んと知れ。」

驚かないどころか、夕凪を鞘に納めると髪を解いて烏族としての力を完全開放!
解かれた髪は純白に輝き、その背に現れた翼も同様の純白であり、瞳は燃え盛る闘気を現したような深く、しかし済んだ紅色。

更に夕凪とは別に、建御雷がその手に握られ、己の周囲には匕首・十六串呂が展開されている。


お嬢様、お願いできますか?

うん、任せといてやせっちゃん!契約執行!!


其れのみならず、念話で待機組として残った木乃香に魔力供給を頼み、自身の力を大幅に高めて行く。


「此れは……思った以上に、楽しめそうですなぁ……」

「貴様を楽しませる心算など毛頭ない……それに、未だだ!!」


高まった力を持ってしても未だだと言いながら、刹那は木乃香から供給された魔力を建御雷に送り込み、そして其れを凝縮させていく。
闇の魔法の其れとは違うが、刹那は魔力を凝縮させ、そして建御雷までもを凝縮して1つの超高濃度魔力球を作り上げ――


「建御雷in夕凪!!!」


其れを夕凪に融合!!
瞬間、凄まじい魔力が弾け、其れが治まったその時、刹那の得物はその姿を大きく変えていた。

白木作りであった夕凪が武骨な鉄拵えの大太刀へと変貌し、しかしその刀身はまるでクリスタルの様に透き通り、神々しい輝きを纏っているのだ。


「其れは!!」

「夕凪と建御雷の融合剣――如何なる妖をも調伏する伝説の妖刀『村雨』……此れが私の最高の剣だ!!受けられるか月詠!!」

「うふ……うふふふ……。あっはぁ〜〜♪こんな隠し玉を持ってるとはお見事ですえ先輩〜〜〜……其れでこそ斬り殺す甲斐もありますわ〜〜〜♪」

「黙れ、異常性癖の快楽殺人者が。」



――ガキィィィィン!!!



だからと言って戦いが止まるかと言われれば其れは否!
共に本気状態になった刹那と月詠は、再び目では追えない程の超絶高速戦闘を開始――此処からが本番の第2ラウンドと言うところだろう。









――――――








さて、再び稼津斗達だが、流石に此れだけの蛇を避けて進むのは難しかったらしい。
稼津斗組は兎も角、ネギ組の数人がこの光景に生理的嫌悪感を催し、僅かながら精神的ダメージを喰らってしまったのは仕方ないと言えるだろう。

流石に百畳を超えるであろうフロアを埋め尽くすまでの蛇の大軍は想像すらしていなかった事なのだから。


「一番楽なのは、オレの覇王翔哮拳でブッ飛ばす事なんだが…そうも問屋が卸さないんだろうな。」

「その際の問屋が何であるのか、おもっくそ聞かせて貰いたいもんやな。」


確かに、一番面倒が無いのは稼津斗の極大気功波で邪魔な物を吹き飛ばして貰う事だと言えるだろう。


だがしかし、現れた蛇達は動こうとしないが――その蛇達の中から何かが現れた。





其れは身の丈2mを軽く超すであろう、浴衣を纏った大男!
口から除く先割れした舌が人有らざる者だと言う事を証明しているが、そんな事は関係ないとばかりに男は稼津斗達の前に現れたのだ。


「お前がこの場の主か?」

「如何にも……俺は蟒蛇ってんだ。
 俺の雇主の命令で、お前さん達と戦わないといけないらしいが、ドンパチやら何やらは得意じゃねぇんだ……だからよう、飲み比べしないか?」


だが、この大男――蟒蛇が提案して来た勝負はなんと『飲み比べ』!
直接的な戦闘は苦手故に取った戦術だったのか、或はただ単純に酒を飲みたかったのか、その真意の程は定かではないが……


「よし、出番だ稼津斗にぃ。」

「思い切り潰してやると良いでござる。」

「お前等、俺を何だと思ってるんだ?」


呑み比べとなれば稼津斗が出るより他に手はないだろう。
なんたって、40度のラムと、40.7度のジンと、50度のウォッカを夫々瓶ごと空けても全然平気な稼津斗なら、呑み比べで負ける事は先ず無い。



「ちょい待ち、この勝負はウチがやらせて貰います?」

だが千草が、割って入る形で参戦!
千草とて、稼津斗の異常を超えた『超絶アルコール分解能力』は知るところであり、其れを踏まえれば稼津斗に任せた方が良いとも思うだろうが……


「天ヶ崎……分かった、任せる!」

その稼津斗がバトンタッチ!!
500年以上も戦いの中で生きて来た者の勘が『此処は千草に任せた方が良い』と告げたのだろう。


「だけど、酒は残しといてくれ。あの樽酒は、気合入れの意味を秘めて全部飲み干す心算だから。」

「ホンマに酒好きおすなぁ稼津斗はんは……まぁ、ウチがアイツを退治したら好きなだけ飲めばえぇわ。」


稼津斗の酒好きに溜息を吐きつつ、千草は蟒蛇の待つテーブルに。
其処には、大量の徳利と一つのぐい飲みが――つまりは此れで飲み比べをするのだろう。


「アンタが俺の相手かぁ?クヒヒヒヒ、此れはまた何ともいい女だねぇ?
 マダマダ年若いにも関わらず『大人の女』の色香を宿した黒髪の美女――俺の好みだ……俺が勝ったら、付き合って貰うぜ?」

「あんさんが勝てたら一晩中付き合ってあげますえ?……勝てればの話ですがなぁ?」


合図などない。
千草が席に着いたその瞬間に、適当に話ながら己のぐい飲みに酒を手酌で注いで飲み干していく。ペースとしては蟒蛇の方がずっと上だが。



「ガハハハハハハハ!此れは俺の勝ちだな!!」

「飲むペースならそうでしょうが……ちょいと一服させて貰いましょか?」

「!!て、テメェ、なんてもん出しやがる!!」

千草が『一服』と称して、胸元から取り出した煙管を見た途端、蟒蛇は目に見えて慌てだした。
其れこそ、その煙管が己の天敵であると言うかの如くに……


「何がなんてモンおすか?酒の席で煙草の一つや二つは普通でっしゃろ?――其れとも、アンタに煙草の煙は肌に合わんかったんかな〜〜?
 せやったら、悪い事しましたけど、煙管で吸う煙草はウチの好物でしてなぁ?……まぁ、飲み比べに勝つための気付けと思っておくれやす〜〜。」

「ふ、ふざけんな!俺は、煙草に含まれるニコチンが大嫌いなんだ!
 そいつを吸うと、俺は……人間の姿を………保つ事が………出来なく……なるんだぞ!!」

「えぇ………知っとりましたよ。」


――ふぅ……


だが、そんな蟒蛇に対し、千草は無情にも煙草の煙を吹きかける。
自ら『煙草に含まれるニコチンが大嫌いだ』と言った蟒蛇に対して、これは強烈極まりない。正に一撃死レベルの劇薬であったと言えるだろう。



「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



――ヴォシュゥゥゥゥゥゥゥ!!!



耳障りな断末魔と共に蟒蛇の身体は崩壊し、其処に残るのは痙攣する一匹の蛇……


「アンタも始まりの魔法使いの手下やろうけど、ウチの事を甘く見すぎましたなぁ?
 ウチは陰陽師にして呪術師……この世界の誰よりも妖の類については詳しいって自負しとる――故に、アンタ程度の妖は敵にもなりまへんえ?」


――グシャァァアア!!


千草は、其れをまるでゴミ屑を見るかのような冷たい目で見やると、躊躇なくその頭を踏みつぶす――蟒蛇は間違いなく此れで絶命だろう。
同時に、部屋を覆い尽くさんばかりの蛇もその姿を消す……何の事はない、全てが蟒蛇の眷属であり、蟒蛇が死ねば其処までの存在だったのだ。


「お前なら巧くやるだろうとは思って居たが、まさか敵方の弱点を知っているとはね……流石は熟練の陰陽師だな天ヶ崎?見直したよ。」

「稼津斗さんにそう言って貰えると嬉しいおすぁ?
 まぁ、蟒蛇はメジャーな妖故にその弱点は割と知られてますから、古今東西の妖を知るウチにとっては大した相手やあらへん。
 せやけど、アイツが此処に現れたって事は――」

「始まりの魔法使いは形振り構わずに戦力を掻き集めた可能性は否定できませんね。」


それでも、始まりの魔法使いが日本の妖怪を配下に於いていたと言うのは大きな収穫だった。
其れはつまり、使える物は何でも使えの如く、ネギの言うようになりふり構わず戦力を掻き集めた事の証明であるのだから。

掻き集めの戦力と言うと場当たり的な戦力をも思うだろうが、其れだけに統一感がなく意外と対処はし辛いと言う側面がある――面倒な相手なのだ。


「掻き集めの戦力でも何でも使いたければ使えばいい。――何が来ようとも、最終的に勝つのは俺達だ。
 寧ろ妖怪だろうと悪魔だろうと、来るなら来ればいいさ。来る先から叩きのめして、最後には始まりの魔法使いを撃滅する事に変わりはないからな。」

「ヘッ、精々暴れさせて貰うぜ?……この世界を滅ぼされる訳にゃ行かねぇからなぁ!!」


尤も其れは其れに相対する者が『並』であった場合に限られる。
突入組は、稼津斗とネギが代表格であるとは言え、全員が一流を凌駕した『超一流』である事は否めない――だからこそ恐れる事は何もない。



『若しかしたらコイツ等だけで世界征服できんじゃない?』と思われるほどの凄まじい戦力に迷いなどはない。


「さて、行くぞ!!」

呑み比べのテーブルに残った酒を一気に煽ると、稼津斗はこの部屋の扉をいとも簡単に蹴り破る!――突入組が止まる事は、先ず有り得ないだろう。














 To Be Continued…