総督府から脱出した1−A+αの面々は、取り敢えず去年の最終決戦地である『墓守の宮殿』に向かって飛行を続けていた。
1−Aの大半が『グレートパル様号リペア』に搭乗し、そうでない者はジョニーのフライングマンタに搭乗していると言う構図も、去年と略同じと言える。
因みにトレジャーハンターの面々もグレートパル様号リペアの方に搭乗している。

相違点を挙げるとすれば、今年は最初からクルトの配下である武装艦隊が味方に付いていると言う事だろう。
まぁ、去年の彼是は兎も角として、今この場ではクルトと対立する理由は全く持ってないのだから、この戦力増加は素直に喜ばしい事だ。

加えて、アスナの加護を受けた艦隊ならば早々やられてしまう事も有るまい。


だからと言って楽観視する1−Aの面々ではない。
1−Aの面子は一見すると向こう見ずな集団であるように見えるが、実際には本当の危険は察知できるだけの力を持っている者達の集まりである。
まぁ、本当の危険が来たところで、其れを持ち前の行動力やら何やらで『如何にか出来てしまう』連中でもあるのだが……

何れにせよ、其れがまだ序の口と告げている以上、楽観的に物事を見て何かをやっても、絶対に巧く行く筈がないのだ。




――閑話休題




其れは其れとして、グレートパル様号リペアの操縦室には、この船に搭乗している全員が集まり、通信回路を使った光学ディスプレーが展開。
何れにしても現状確認は最優先なのだろう。



「全員揃ったね?
 そんじゃまぁ、最終決戦を目前に少しばかり気合い入れて行こうじゃない!!んじゃ、艇長のハルナ宜しく!!」

「よっしゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


そして、現状確認と言う名の最終決戦前の作戦会議が始まった。











ネギま Story Of XX 164時間目
『最終決戦は目前!覚悟完了!』











グレートパル様号リペアのブリーフィングルームには稼津斗とネギを筆頭に、(光学モニター組も併せ)1−Aの全員が集まって居た。


「さてと、今回の襲撃も去年と同様に、『完全なる世界』――ってか『始まりの魔法使い』が仕掛けて来たと見て間違いねーと思う。
 召喚魔の特徴も、去年の奴と一緒だったし、何体か『鍵』を持ってる奴も居たからさ。」

「それ以外にも、あの時月詠さんは『造物主の鍵』を所持していないにもかかわらず、召喚魔を呼び出した。
 今思うと、あの刀に造物主の鍵の簡易版の効果があったんだろうけど、あの力を生み出す事が出来るのは始まりの魔法使いだけだからね。」


全員が、ハルナとフェイトの説明を聞き、改めて敵は『始まりの魔法使い』であると言う事を認識していた。
更に此度の襲撃の事を考えると、其れはつまり始まりの魔法使い側の戦力が整ったと言う事であり、事実上の最終決戦の開始を意味していた。

普通なら此処で緊張するところだろうが……


「いよぉぉぉっしゃーーーー!最終決戦来た此れ!!てか、優雅なパーティ会場に敵方からの先制攻撃って、ある意味王道じゃん!
 そして、其処から私等がラストダンジョンに向かう!此れはもう、最終決戦地に着いたら10分後には敵さん全滅で、私等の勝ちが確定したぜ!!」

「いやいやいや、幾ら何でも水戸○門や暴○ん坊将○じゃないんだから、到着して10分じゃ勝てないと思うよ?」

「勝つ事は否定しない訳ね……まぁ、負ける気はしないかもだけどさ……」


1−Aの面々に限ってはそんな事はない。
楽観的にならないと言う事と、緊張しないと言う事はまた別である。

彼女達の会話を聞いてると『身の程知らずの小娘の戯言』と聞こえるかもしれないが、彼女達は本気で言っている。
分かっているのだ、自分達が力を合わせれば出来ない事はないと――中等部1年から続いている付き合いで紡がれた結束力は伊達じゃないのだ。

更に其処に最強クラスの稼津斗とネギが担任教師として居る上に、現状では魔法世界の一個艦隊と伝説の傭兵が仲間として一緒に居る。
此れで負けが想像できるか?――否、断じて否であり有り得ない!!

稼津斗やネギのパートナー達だけではなく、未契約の者達も自然と負ける事はないと確信めいたものを感じていた。


「けどちょっと待った。
 襲撃仕掛けて来たのが、その始まりの魔法使いとか言う奴だとして奴等のアジトってばどこにある訳?」

そんな中で疑問を口にしたのは柿崎美砂。
去年の大冒険に参加して居なかった彼女の疑問は、同様の状態である者達全員の疑問でもあるだろう。

「何処って、そんなの墓守の宮殿――じゃねぇ!?」

其れに普通に答えようとしたところで、ハルナは敵の本拠地が実は分からないと言う事に気付いた。


確かに去年は、敵の本拠地は墓守の宮殿だったが、現在あそこはエヴァンジェリンの永久凍結魔法の効果で氷に閉ざされた世界となって居るのだ。
そんな場所がアジトである訳はないし、ましてや始まりの魔法使いの配下である者を問答無用で凍結させる場所など使える筈がない。


「ど、何処にあんだろ奴等のアジトって!?」

「分からねぇのかい!!」


ラストダンジョンを前にしてまさかの事態勃発!



――だが、


「慌てるな、どうせ直ぐに場所は割れる―――向こうから教えてくれるだろうからな。」

「だろうね……父さんを取り込むほどの相手だ、戦力が整ったって言うなら自信満々に自分の居場所くらいは教えて来るかも知れない。」


稼津斗とネギは、始まりの魔法使いの方から居場所を教えて来ると言う。
稼津斗は歴戦の勘から、ネギは持ち前の洞察力の良さから、夫々そう考えていた。



そして、この2人の予想は現実となる。



「!?艇長、通信に割り込みです。それも当艦だけでなく、この空域の全ての艦に対しての同時通信の様です。」

「何ですって!?直ぐにモニターに出して!!」


グレートパル様号リペアで操縦士を務める茶々丸が割り込み通信をキャッチし其れを伝達。
しかも、この割り込み通信はジョニーのフライングマンタや、クルトの艦隊にも及んでいると言うのだから、只の妨害通信ではないだろう。

そしてモニターに映し出されたのは――


『クックック……久しぶり、或は初めましてと言うべきかな?――私こそが始まりの魔法使いだ。』


漆黒のローブを身に纏った『ナギ・スプリングフィールド』――否、ナギの身体を乗っ取った始まりの魔法使いであった。


『先刻の総督府への襲撃を切り抜けたのは実に見事だった。
 其れに敬意を表し、君達に私の居場所を教えてあげよう――私が今いるのは、墓守の宮殿よりも更に50q先の最果ての地にある太古の遺跡だ。
 人呼んで『墓守の神殿』、其処が私のアジトであると教えておこう。
 だが、来るならば覚悟を決めてから来るが良い………此処は魔法世界の最果て、生きて帰れる保証は何処にもないのだからな。』



稼津斗とネギの予想通り、自信満々に己の居場所を伝えて来た。
己の実力に絶対の自信があればこそ出来る、ある意味で最大級の挑発行為と言えるだろう。


「……お前こそ覚悟を決めておけ始まりの魔法使い。」


そんな始まりの魔法使いに誰よりも早く反応したのはネギだった。
普段の柔和な少年の雰囲気は消え去り、鋭い眼差しと、普段と比べると随分と荒っぽい言葉遣いは、つまりネギが本気であると言う事なのだろう。


「お前の事は僕が倒す――お前を倒して父さんを解放する。
 僕達が其処に到着するまで大人しく待っていろ始まりの魔法使い、お前の事は僕が直々にブッ飛ばしてやるからその心算で居ろ!!」


――バチィ!!


更に握りしめられたネギの拳に稲妻が迸り、其れがネギの迫力を増している。

いや、それ以前に齢11歳の少年がこれ程の闘気をその身に宿すとは相当な事だ――其れだけ始まりの魔法使いは許せない存在なのだろう。


『ほう?……お前が出るかネギよ?此れは楽しみだ。
 だが、果たしてお前にこの私を倒す事が出来るかな?』

「出来るかどうかは、あんまり関係ない……大事なのはやるかやらないかだ!!」


モニター越しとは言え、火花が散っていると思うのは間違いではないだろう。
事実、ネギの闘気によって、ブリーフィングルームのあらゆる機材が震えている状態なのだから。


『ククク……良いだろう、待っていてやる。私をがっかりさせてくれるなよネギ・スプリングフィールド?』

「お前こそ、父さんを乗っ取った以上は、僕をガッカリさせないでほしいな。」


ネギと始まりの魔法使い、互いに言い合ったところで通信終了。
だが、今の通信で得られたものは大きい――始まりの魔法使いの居場所が特定できただけでも大きな収穫であると言えるだろう。


「ハルナさん、墓守の神殿に向かって航路を取って下さい――其処が僕達の最終決戦の地になるでしょうから!」

「オーライ、任せときなネギ君!
 とは言っても、今日はもう時間が時間だけに皆休んだ方が良いでしょ?艦の方は、自動操縦にしとけば問題ないし、疲労回復はして然るべきよ!」


とは言え、即座に突入するのは得策ではない。
故にハルナは、ここらで本格的な戦いの前に一息を入れる事を提案したのだ。

まして外はもう真っ暗の夜中になって居るのだから今からの襲撃は有り得ない。


ならば今は休むべきであり寝る時であるだろう。

こと睡眠は体力や気力の回復に大きく作用する――最終決戦に向けて、今は英気を養うに越した事はないのだろう。



突入作戦開始は翌日の早朝――此れだけの時間があれば、少なくとも1−Aの面々は十二分に休む事が出来ると見て良いだろう。








――――――









作戦の概要が決まり、皆が寝静まった頃、稼津斗は1人でグレートパル様号リペアのデッキに出て来ていた。


時折ウィスキーのボトルを口にするが、だからと言って酔いはしない。


「いよいよ最終決戦か……」

「何か不安があるでござるか稼津斗殿?」


そんな稼津斗に声を掛けて来たのは楓。
全くの偶然であるが、楓はデッキに向かう稼津斗を見ていたようで、自分も一緒にデッキに来たと言う事なのだろう。


「楓か……いや、別に不安とかがある訳じゃないが、1年越しの決着を思うと、色々と考える事も有ってな。
 尤も其れで、俺の勘が鈍るなんて事はないが――お前も感じただろう?始まりの魔法使いの底知れぬ力って言うモノを?」

「確かに、彼奴の戦闘力は極めて高いと言わざるを得ないかも知れぬが――だがしかし其れだけにこざる。
 彼奴の力は確かに凄まじいモノであるかも知れぬが、彼奴等の力には魂がこもって居ない――故に拙者達の負けはないでござろう稼津斗殿?」

「だな……何が如何転んでも俺達の勝ちは揺るがない。だったら常に前を向いて進む……其れだけだ。」

「御意に!」


周辺には、すっかり夜の帳が落ちている。
だがしかし、この帳が晴れたその瞬間に、何が襲ってくるかは分からない――が、きっと何が起こっても対処する事は可能だろう。


「頼りにしてるぞ楓?――まぁ、お前でけじゃなく、俺のパートナー全員をだがな。」

「分かってるでござる……拙者等は、いつ何時でも稼津斗殿と共に在るでござるよ!!」

「そう言って貰えるとは男冥利に尽きる――


そして極自然に、稼津斗と楓は唇を重ねていた。


最終決戦を前にした、恋人同士の少しばかり甘い時間――其れは静かに、夜の帳に溶けて行った。








――最終決戦開幕まで、あと9時間。
















 To Be Continued…